ある日、数ヶ月ぶりに休暇が出た為、俺は武器の新調などをするために月の都へと戻ってきていた。
その際、豊姫のとこの玉兎から彼女が自分の元に訪ねてこいと言っている……との知らせを受けた為、俺は彼女らの居る元へと向かった。
門番に用を伝え、彼女の部屋へと向かう。
訓練兵の時、何度かここに足を運んでいた為か迷ったりすることはなかった。
ノックをすると、中から「入っていいわよ〜」と声がしたため、俺は襖を開けて中に入る。
「急に呼び出してどうした」
「こっちに戻ってきてるなら挨拶くらいと思って…あなたとは滅多に会えないから。」
「まぁ……それもそうだな。」
確かに、俺が前線の仕事に就いてから…………訓練兵以降になるか…
当時の同期全員と顔を合わせたかと言われたらイエスとは答えられない。
同じ部隊に配属されたやつも居たが、地獄の連中にやられて軍を退いたか、そのまま死んだかのどっちかだ。
「あなたの名前は最近じゃ有名よ?何でも穢れを受けても全線で都を守り続ける英雄だとか」
「勝手に言ってるだけだ。それに都の連中は俺の顔を知らない。
顔も知らない奴のことを英雄扱いするなんてどうかしていると思うぜ。」
顔なんて知れ渡ったら、それこそ俺は穢れを持っていると言われてここを出入り出来なくなる訳だが。
「……って、そんなことは別にいいんだ。豊、俺を呼んだ本当の理由をおしえてくれ。お前がこんなくだらない話をするためだけに俺を呼び寄せたとは考えられない。」
「本当なんだけど……まぁいいわ、またの機会に話す予定だったけど…」
そう言いながら、豊姫は何やら大きめの資料を取り出してきて、その中身を俺に見せつけた。
書かれていたのは……何やら穢れの進行ペースなどの事だった。
ステージ…3?一体なんの事なのだろうか
「これは……?」
そう聞くと、豊姫は
「あなたのカルテ。あなたの体に溜まっている穢れよ。」
「そうか……ステージ3…………だったのか…」
「よく持った方よ。普通の玉兎なら既に穢れで崩壊しててもおかしくない。
それもステージ3。あなた以外の玉兎がここまで侵食されたら精神が崩壊しているでしょうね。」
「ふーん…まぁ…なぁーー……」
「どうしたの?実感がないのかしら?」
「いや…さすがに何十年…何百年もあそこで戦い続けていれば体はボロボロになっていても仕方ないと思っていたが…俺自身、まだまだいけると思っていたんだけどな…ステージ3まで来ていたのか。」
実感は殆どない。
だって俺は動けている。
ステージ3になってしまった同胞を見たことはあるが、俺よりももっと酷い状態だった。
俺もそうなるのではと思って覚悟を決めていたが…まさかそんなに変化しないなんて……
「〇〇。」
「なんだ改まって」
「一度長期的にこっちにもどってきて。あなたは治療を受けるべきよ」
「そんなことをすればあそこの連中はどうなる。俺がいない時に攻められれば間違いなく全滅するぞ。」
「新人教育をしていればそうはならないわ。」
「その新人がコロコロ変わっていくんだよ。あそこに俺が任せられる
奴は一人もいない。全員あまちゃんだ」
「それでも、よ。あなたの穴は他で埋める。」
「ならそれをここで証明してくれ。俺と1体1で」
「分かったわ。呼び出すから庭の方に出ておいて。」
そうして俺は庭に移動する。
そこには依姫と彼女の部下たちが居た。
「〇〇!どうしてここに?」
「豊姫に呼ばれたんだ。それで…」
「私の部下と今から決闘するのよ〜。」
どうやら連れてきたらしい。
豊姫の隣には一人の玉兎が立っていた。
「それじゃあ、二人のタイミングで初めていいからね。」
豊姫はそう言うと、そのまま縁側に座って行った。
「なぁ君。」
「なんですか」
「前線に出たいのか?」
「あなたの代わりと言うなら。」
「俺の代わりが務まると?」
「えぇ。それを証明するために呼ばれたのですから」
「そうか……」
「なら、始めよう…!」
即座に構えて、彼の頭に拳を叩き込む。
一瞬で間合いに入って彼の眉間を打ち抜いた……と、思っていたが、
彼は彼でこちらの攻撃をなんなく回避していた。
次は彼の攻撃だった。
繰り出されたチョップを手で弾いて、腹への攻撃。
足と拳がそれぞれの体目掛けて繰り出される。
そんな攻防を続けて…先にスキが生まれたのは俺だった。
一瞬だが、スキが生まれて動きの止まった俺に、彼はなんなく連打を浴びせた。
重たい一撃を体に受けた俺は、そのまま天を仰いだ。
ーーー
ーー
ー
「納得した?」
豊姫はニコニコとしながら俺にそう聞いた。
認める……というのはしたくないが、少なくとも素手での戦いは彼の方が強いのだろう。
スタミナ的に俺では勝てない。
「肉弾戦なら彼の方が強いだろうな。まぁ、安心とは言わないが……」
「負け惜しみは言わないでよ?英雄様が武器なら勝っていた。なんて言い出したらいよいよよ。」
「そこまで俺は頑固じゃない!……今回は素直に負けを認めるよ。
治療も受ける……」
「良かったわ。なら上の方にも話を通しておくから、今日はここに泊まって行ってね」
「あぁ分かった。」
そうして、俺は長期に渡る療養期間に入るのだった…。
続くよ