……という事で、前倒しで応援コメントの返事をしたので感想くれませんか?
ほら、今は人と人が助け合う時期ですし、皆さんの応援で私は元気が出ます!
だから、ね! ね? ね!?
ということで本文です。
ある日の放課後。
わたし雪ノ下雪乃はいつも通りに部室で本を読んでいた。しばらくするとドアが音を立てて開き彼がひょこりと顔を出す。
「うーす……今日は1人か?」
「……こんにちは比企谷君。開口一番に皮肉を言ってくるなんて今日を命日にするつもりかしら?」
「怖えよ、あと怖い。って、そうじゃなくて由比ヶ浜は?」
質問の意図はわかるけれど、その質問を彼が私にする事がどうにも腑に落ちない。呆れの表情でため息がでた。
「はぁ……貴方、由比ヶ浜さんと同じ教室でしょうに」
「いや、お前、教室が同じでもそうそう一緒に来るとかないから」
いけしゃあしゃあとどの口がいうのかしらこの男は?
これまで彼と由比ヶ浜さんが一緒に部室に来た回数を指折り数えてあげようかしら。
ジトリとした目で睨みビクリと比企谷君の肩が揺れる。けど、何となく私の抗議は伝わっていない気がする。
何せこの朴念仁はあれほどの好意を向けられて、それを理解したうえで予防線を張り、自虐と自意識の瀬戸際で苦悩する非常にめんどくさい男なのだ。
我ながら難儀な恋をしたものだと思う。
あと、こういう咎め方はただの徒労ね。
「少し遅れるそうよ」
「そうか」
ぶっきら棒に返事をしてそそくさと自分の席につく比企谷君。
仕方なしと、私は本にしおりを挟んで紅茶の準備を始める。
「由比ヶ浜さんもあっちの集まりがあるのでしょう。貴方みたいに放課後暇な高校生って意外と少ないのよ」
蒸らしてる間にニコリと微笑み毒づいた私に、彼はニヤリとにやけて言葉を返す。
「……それそのままブーメランだからね? 俺より早く部室に来てるでしょ?」
なんとも小賢しい男である。
その後も紅茶ができるまで言葉のドッジボールを続ける。彼は足や指先を狙う厭らしい玉を投げ、私は全弾顔面狙いの豪速球だったけれど、概ねいつも通りね。
そう、いつも通りここまではすべて私の計算通り。
今日の目標はただ1つ、彼と今度の休日にデートに行くことよ。その為の下準備はもう終わっているわ。
「そういえば比企谷君貴方映画に興味はある?」
「あん? アニメとかポッターとかならそれなりにあるけど、それがどうかしたのか?」
「少し困ったことがあるのだけど。これなんだけど」
私は眉を下げ鞄の中から目的の物を取り出す。
「チケットか?」
「ええ、父の仕事の関係で取引先からもらったものよ。でも家の人間は誰も映画に興味がなくて私の方までまわってきたの」
「ん? 雪ノ下さんとか見に行きそうなイメージなんだが」
「姉さんも大学のグループとかでは行くそうだけど、この映画は内容的に範疇外だそうよ」
「そうか……て、2枚あるのか」
「ええ、貰い物だし無下にするのも相手に悪いわ。でも1人で見に行くのもちょっと」
同じ映画を一緒に見る行為、つまりは共視効果!
小さな子供が車を指さしぶーぶーといい親がそれを共に見て共感する。同じものに一緒に視線を向ける体験は人と人の関係性の基礎であり親子のような安心感のある関係性を作り出す効果がある。
相手と良好な関係になりたいのなら好きな物を楽しい物を共有する事でいい印象を与えられる。映画館はまさにデートにもってこいの場所なのよ。
「それじゃあ由比ヶ浜と見に行けばいいんじゃね?」
……ええ、これも想定内よ。
彼の性格上、休日に女子と2人で出かけるなんて発想は、小町さん以外にはないのでしょう。精々が、私みたいに出かけた先で偶然会うくらいの物よ。
だからこそ由比ヶ浜さんのいないこの時を狙ったのよ!
「私もそう思ったのだけど、この映画内容に問題があるのよ。とても由比ヶ浜さんといけないわ」
「なんだよ内容に問題がある映画って」
怪訝そうな視線をチケットに向ける比企谷君に私はフフンと挑発的な笑みを向けた。
「そうね、ではゲームをしましょう」
「ゲーム?」
「ええ、このチケットの映画が何か当てるゲーム」
ふと懐かしい気持ちがこみあげてきた。そう言えば彼と初めて出会った時もこういう事をした記憶がある。
可笑しなものね、まさかあの時のぬぼーとした男とこういう関係になるなんて、あまつさえ私が彼に――。
「……なんか懐かしいなそれ」
どうやら彼も同じ気持ちだったようでクスリと笑みが漏れている。いつもはニヤリとした顔をするのでこういう顔は珍しい。
いつもの顔も愛嬌があっていいのだけど、これはこれでありね。
そんな彼にニコリと微笑めば彼も微笑み返してくれる。
部屋の中が甘い空気なのはきっと紅茶のせいね。
私の顔が赤いのもきっと夕日のせいね。
「雪ノ下はその映画を見たいと思うか?」
表情を甘い笑みから真剣に考える様な顔に変える比企谷君の質問に私は首を振る。
「少し難しいわね。このジャンルは見た事がないから正直自分に合っているのかどうか分からないの」
「ふむ……」
あの時も少ないヒントや私の言動でそこそこいい線の思考ができていた。姉さん曰く勘のいい彼なら今回もいい線までいける気がした。
「ホラーか」
「そのこころは?」
「まず雪ノ下さんが人を連れて見に行かないとこから流行りものじゃないだろ。それに雪ノ下が見た事ないジャンルなら動物系でもない。今やってる映画でその条件を除外すると二番煎じ感が増しマシの呪いのブルーレイかプリ●ュアオールスターズくらいしかやってないからな」
「へぇー……意外ね。比企谷君が最近の映画情報を持っているなんて」
素直に感心して称賛を送ろうとした。すると。
「俺だってCMくらい見るし、この間一色と……いや、なんでもない」
その瞬間、部屋の温度が数度下がる様な気がした。
……ああ、そういえば彼は休日にわざわざ女の子と2人きりでデートをしてたわね。なんだか分からないけど資料にするとかなんとか言って随分と楽しそうだったわね。柄にもなく記念写真を撮ったりして。
いいえ、別に怒っている訳じゃないのよ? あの時だって今だって私と彼はお互いが誰とどこで何をしていても文句を言う間柄じゃないわ。まぁ、それはそれとして時が来たらしっかりと躾けをする必要があるわね。誰の何をとは言わないけど。
「はずれ」
私はフッと馬鹿にしたように嘲笑した。機嫌が悪い訳ではない。ただ、少しお腹の底から熱い何かが湧き上がってくる不快な感じがするだけよ。
「お、おう。それじゃあなんの映画なんだ」
びくびくしてる彼をジーと見て、ため息をつき雰囲気を戻す。
落ち着きなさい雪乃。貴方の今日の目的を思い出すの。
「貴方の推測に出てたもう1つの方よ。惜しかったわね」
そう、私が用意したチケットは彼の好きな児童向けアニメの映画版だった。
恋愛やアクションとジャンルが分かれる映画の中で確実に彼が楽しいと思える作品がこれだった。しかも今回はもらい物のチケットで無料。彼の財布にダメージはない。
何かと言い訳をする比企谷君は逆に言い訳ができる状況ならそこに飛びついていく習性があると私は考えている。そこで親の仕事関係で見なくてはいけないという免罪符を用意したのよ。
流石の彼もこの状況で断ることはしないはず。むしろ下手に意識をして断ってきたら自意識過剰で「お可愛いこと」と鼻で笑う準備もできているわ。
「いや、社長か県議会議員のどっちかは知らんが取引先にプリキュアの映画チケット送るってどんな取引先だよ」
「知らないわ」
そもそもそんな人いないし。細かな設定に文句を言ってないで答えを言いなさい。
「まぁいいけど、それは確かに由比ヶ浜と一緒には行きづらいな」
「ええ、でも1度は見に行かないといけないの。もしも相手側が感想を求めてきて見ていなかったじゃ失礼になるでしょ?」
「ああ、社会人は大変だな。サービス残業だけじゃなくサービス休日出勤もしなくちゃいけないんだから。やっぱり専業主夫が一番だ」
またくだらない事をと思ったけれど、一瞬彼がエプロンをつけて仕事から帰って来た私を出迎える想像をしてみる。
「……悪くないわね」
「なんか言ったか?」
「ゴホン、いいえ。何も。それで、私はこういうの見た事ないからよく分からないの。できれば解説をしてくれる人に教えてもらいたいのだけど」
きゅっと袖口を掴み潤んだ瞳で不安そうな顔を作る。
この計算された表情と声色は正直やっていて恥ずかしいのだけど、彼は意外とこういう感じの子が好きな傾向にある。
しばらくして、比企谷君は手を差し出していった。
「それじゃあ、俺が1枚貰ってもいいか?」
まさに計画通り! 本当はスタンディングオベーションをしたい気分なのをぐっと堪え平静を保ちながらチケットを1枚手渡す。
「ええ勿論」
さぁこれで後は映画館でデートして、親密になった彼から告白を受ければ私の完全勝利だわ。
「それじゃあ、今度の日曜日に――」
「おう、じゃあ俺は土曜にでもいくかな」
その瞬間、私の脳内には稲妻が走った。彼の言葉の意味が一瞬理解できず、それでもできのいい私の頭はその言葉を理解した。
まさかの別行動!?
そ、そんな、完全に計算外よ。彼のボッチスキルを見誤ったというの!
流石ね比企谷君。まさか私の想像をはるかに超えてくるとは、確かに映画館内は私語厳禁。感想を言い合ったり場面の説明をするのは別々に見た後でもできるという事なのね。……もしもここで私が彼と一緒に行きたいと提案すれば――
『比企谷君もしよかったら私と一緒に行かないかしら?』
『おや? 雪ノ下ともあろうものがわざわざ別日を指定した映画に男女一緒に行きたい、休日に待ち合わせをして同じ映画を見に行きたいなんていいだすとは、まるで――』
――そんなのまるで告白みたいじゃない!?
恋愛において告白したら負けの絶対ルール。自ら告白するなど私のプライドが許さない。
けれど、ここで止めなくてはこの男は本気で1人で行ってしまう。そうするとこれまでの下準備が全て無意味になってしまう。
わざわざ昔の伝手を辿り。
『姉さん、葉山くんの連絡先を教えてほしいのだけど』
『へぇー、雪乃ちゃんがそんなもの知りたがるなんて以外だね。浮気するなら比企谷君にいっちゃうぞー?』ニヤニヤ
『教えてくれるのくれないの?』
『別に教えてもいいけど何に使うの?』
『……ちょっと脅しに』
『雪乃ちゃん!?』ビックリ
由比ヶ浜さんの足止めを依頼して。
『――というわけで由比ヶ浜さんの足止めをお願いするわ』
『え!? いきなりなにを、ちょっともっとくわし――』
『貴方に拒否権はないのだけど。もし失敗すれば分かっているわね?』
彼の好みを小町さんから聞き出し。
『やっはろーです雪乃さん! お兄ちゃんならプリキュアの映画って言えば絶対食いつくと思いますよ。この間もテレビの前で泣きながら見てましたし! それじゃあ、頑張ってくださいね雪乃義姉さん!』ニヤニヤ
慣れないパソコンを使ってチケットを入手した完璧な計画が……!
それにここで容認してしまえば映画は別々に見るものと習慣をつけてしまう。捻くれ者の彼の事だから、付き合った後の映画デート好きな物を別々で見ると訳の分からない事を言いだしかねない。
それは乙女的にありえない! そんな選択肢は断固拒否するわ!
もうすでに退路はない。けど、だからといって私にこの窮地を打開できる策もない。
「……まさに八方塞がりね」
呟きながら悔しくて歯がみする。
すると、私の心情とは真逆の底抜けに明るい声が部室のドアを開けた。
「やっはろー! ごめんねちょっと遅くなっちゃって」
由比ヶ浜さん!? なぜ、そんなまだタイミングが悪すぎるわ! あの男は足止め1つ満足にできないというの!
「あれヒッキーなに持ってるの? 映画のチケット、それも幼児向けの奴じゃん」
私が脳内で葉山君に対して罵詈雑言で罵っていると由比ヶ浜さんはひょこひょこと比企谷君の元に駆け寄る。
「ばかちげーよ。プリキュアは小さな友達から大きい友達まで幅広いシュアを誇る総合エンターテイメントなんだよ」
「意味わからないし。それ買ったの?」
「いや、これは雪ノ下の父ちゃんが取引先でもらったらしくてな。本当は由比ヶ浜と行きたかったらしいぞ」
「えー!? そうなのゆきのん!」
ばっと振り向いた由比ヶ浜さんは感動したように瞳を潤ませて、駆け寄るとだきっと抱きしめてきた。
「ゆきのんからのお誘いなんてすっごいレアだよ! とっても嬉しいよゆきのん!」
ぐっ、罪悪感が。も、持ちこたえるのよ。とにかく今は話を合わせておかないと。
「え、ええ。そうなの。でも由比ヶ浜さんこういうの見ないでしょ? 彼ならこういうの好きそうだから上げたのよ」
「ああー確かにヒッキーこういうの好きそうだもんね」
うんうんと同意する由比ヶ浜さん。
「おいお前ら、勝手な想像で人を貶めるのやめろよ。まぁ好きだけど」
「やっぱり好きなんじゃん!」
そんなやり取りを見つめながら私の脳内は処理しきれない案件に思考を巡らせているせいか段々と思考力が落ちてる気がする。
はて? どうしましょう?
「チケット2枚あるんだ! それじゃあ今度の日曜日に3人で見に行こうよ! 1人分は3人で割り勘すればお得だし!」
「え?」
「え?」
私と比企谷君の驚きの声がかぶさった。
私の目的を考えればそれは当然断るのが妥当。でも、由比ヶ浜さんが楽しみにしているし……ああ、頭が、糖分が。
プスプスと頭から煙が出る様な感覚に揺られ私の思考はそこで途絶えた。
「……そうねそうしましょうか」
「雪ノ下さん……!?」
驚く比企谷君の声がした気がしたけどきっと気のせいね。映画館デート楽しみだわ。あれ、でもデートは2人でするもののような……まぁどうでもいいわね。
「ヒッキーも日曜で大丈夫?」
「いや、俺はその日アレがアレで――」
「もしもし小町ちゃん? 突然ごめんねヒッキーて日曜ひま?」
『はいはい、暇ですよ。むしろこれから先もずっと暇です』
「うんうん、ありがとーまた今度遊ぼうね! ……ヒッキー?」
「あ、はい。分りました」
私の意識が戻った時には今度の日曜日に奉仕部3人でプリキュアを見る事になっていた。どうしてこうなったのかしら?
本日の勝敗 雪乃の負け(脳がスパークした為)