ゆきのんは告らせたいーボッチ達の恋愛頭脳戦ー   作:Lチキ

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比企谷八幡の恋愛相談はどこか間違っている。

 雪ノ下と由比ヶ浜が用事があり奉仕部がなくなった。なので、早々に家に帰り、夕方からやる名探偵を見ようとした。なのになぜ俺は、サイゼで無駄に分厚い駄文を読まないといけないのか。

 原因はすべて目の前のこいつである。

 

「して越後屋よ、我が最高の傑作いかほどか!」

 

 うざいテンションの材木座がニヤリと笑うので俺はふっと鼻で笑い返す。

 

「相変わらずの駄文だよ。『エターナルファイナルフィニッシュ』てなんだよ。技名よりも文脈考えろ。あと誰が越後屋だうっかり八兵衛」

 

「げふんぬ!!」

 

 材木座は大袈裟にダメージを受けた。効果はバツグンだ。

 

「それに、どこぞで見たことある様なネタなのに微妙に古いのなんなの? 壁ダアンって壁ドンだろ。微妙に名前変えてる所が腹立つ」

 

「そげぶー! もうやめて、我のライフはゼロよー!」

 

「うるさいよ。お食事処ではもっと静かにしろよ」

 

 店長らしき人がめっちゃこっち見てるから。顔がニコニコしてるのにめっちゃ圧を感じる。

 

「ぐむ……ていうかたまには我にもっと優しい言葉をかけてもいいのではないか? もっと優しくしてよはちまん!」

 

「お前はめんどくさい彼女かよ。付き合ってやってるだけありがたく思えよ」

 

「否定できんな……あ、お姉さんミラノドリア追加で!」

 

「はーいかしこまりました」

 

 席の後ろを通った店員の女の人を呼び止め普通に注文をする材木座。

 

「こいつ全然こたえてねぇな……」

 

 しばらくすると、熱々のドリアがやってくる。

 流石は早くて安くておいしい学生の味方サイゼリヤである。

 

「お待たせしました~ごゆっくりどうぞ」

 

「わーいドリアキタコレ!」

 

「黙って食えよ。つうか俺もう帰っていいか。この後、名探偵見なきゃいけない使命があんだけど――」

 

「がぶがぶがぶ、あちち!」

 

 ドリアを急いで食ったせいで口の中をやけどしたらしい。仕方ないとドリンクバーから氷入りの水を持って行く。

 

「ホレ水」

 

 水を差しだせば両手でコップを持ちごくごくと飲み干す。うん、もう俺帰っていよね?

 

「……ふぅ……すまぬ。それでな本日のメインイベントは新作のお披露目ではなく相談があるのだが」

 

 材木座はもじもじと顔を赤らめそんな事を言ってくる。うん普通にキモイ。ちなみに俺の今日のメインイベントはパスタとピザどちらを頼むか悩んだ所で終わっている。

 

「なんだよ、またゲーム部の奴らに煽られでもしたのか、お前口喧嘩弱いんだからやめとけよ」

 

「違うから。それに奴らに煽られるのはもはや慣れっこだ。相談するまでもなく毎回コテンパンにされておるわ!」

 

 自身満々に胸を張るがそれ駄目じゃね? こいつがそれでいいんなら別にいいけど。何より興味もないしめんどくさい。

 

「そうではなく、実は恋愛相談がしたい! きゃ、いっちゃった我恥ずかしい!」

 

「じゃ、俺帰るから。夢を見るなら布団の中で見ろよ」

 

 自分の分の伝票を持ち俺はそそくさと席を立つ。

 戯言に付き合う暇はないのだ。俺にはコナン君を見るという重大任務がある。

 

「待って待って。これマジの奴だから、冗談とかじゃないから!」

 

 慌てた様子の材木座は、その巨体で道を塞ぎ俺の進行を邪魔する。ここは角の席だから逆方向はそのまま壁だ。ッチ。仕方なく席に座り直す。

 

「お前のマジの恋愛相談とか尚更聞きたくなんだが、というかそんなの俺よりもっといいアドバイザーがいるだろ?」

 

「ふ、我にそんな友達いると思うか?」

 

「……そうだな」

 

 いないよな。知ってる。

 

「それにリア充なんぞに話しかけるなんて自殺行為できるわけないだろ?」

 

 材木座は決め顔でそう言った。

 

「ああ、そうだな。お前って本当にどうしようもなくかっこ悪いセリフをかっこつけて言うよな」

 

「いやーそれほどでも~」

 

「ほめてねえよ。で、恋愛相談な。とりあえずまずは平面の嫁じゃなくて3Dに興味を持て。話はそれからだ」

 

 季節ごとに変わる2次元の嫁の話なんてしたくない。だって不毛だし。

 

「二次元嫁の話でもない!? ちゃんと立体の彼女の話だ!」

 

「……ああ、アイドルのおかっけか」

 

「ええい! 真面目に聞かんか!」

 

へいへい。

 

「そうアレは夕日が眩しいさつきの事だった――」

 

 要約すると5月頃からネットで知り合った女子と今度オフ会をする事になったという話だった。

 

「ちょ!? せっかくの回想シーンが!?」

 

 うるせえよ。メタいこと言うな。

 お前のわけわからん言い回しをコピペするのめんどくさいんだよ。

 

「ええ!? 八幡の方がずっとメタい! ていうか、え、ほんとに八幡? 今誰かほかの人がいなかったか!!」

 

 そんな者はいない。

 訳の分からない事を言う材木座は無視をしておく。あとついでにドルチェ頼もう。

 

「大体事情は分かった。でも、なんでそんなの俺に聞くんだよ? 彼女いない歴=人生だぞ」

 

 言葉には出さないがさらに言えば童貞である。女子に嫌われた数は星の数より多いかもしれない奴に恋愛相談なんて人選ミスにもほどがあるだろ。

 そんな内心の俺に対し、材木座はさも分かり切っているだろうという風な自信ありげな顔で言った。

 

「何を言うか八幡よ! 其方普通にモテモテだろうが! 羨ましい!」

 

「何言ってんのお前?」

 

 俺がモテるとか、そんなオカルトありえません。

 

「何を言ってるは、我のセリフだぞ。なにせお主はあの冷酷にして残酷にして非情なる雪の女王を陥落させた勇者ではないか!」

 

 何となく雪ノ下の事を言っているのは分かる。だが、俺は訂正をしないとダメだろう。材木座もたまに奉仕部に来るしもしも奉仕部でそんな事を言えば冷酷で残酷で非情な氷な牙に惨殺されるだろうからな。

 

「ねえよ。雪ノ下が俺を好きとか。むしろ最近では嫌われてるまである……いや、それは初めからか」

 

「?? 我から見ればべたぼれなのだが」

 

 ぼそりと材木座が何か呟いたが小さな声だったので俺には聞こえなかった。

 

「この間も奉仕部3人で映画見に行ったらめっちゃ怒ってたし」

 

「そ、そうなのか? でも、あの御仁は常に怒ってるイメージだが」

 

 確かに材木座の前では不機嫌な事が多いが、アレは何も怒っているのではなく中二病の扱い方が分からず戸惑っているだけだろう……多分。

 

「由比ヶ浜と一緒の時はどちらかというと機嫌いいぞ」

 

「そうなのか。それじゃあ一体何をしでかしたん?」

 

「俺がしでかした確定かよ。別に大した事はしてねえよ。映画館に初めて行ったらしくて券の買い方とか分かってなかったからそれを教えたり、映画のプリクラがあったから由比ヶ浜に誘われて3人で撮ったり、後はポップコーンをめちゃくちゃ甘い奴頼んで食えないから俺の塩味と交換しくらいだ」

 

 いたって普通の事しかやってないが、なぜか雪ノ下はいつもより割増しで怒っていた。

 

「休日に男女で映画に言ってる時点で相当好きだと思うのだが……まぁ深くは追及しないでおこう武士の情けだ」

 

「いや、武士じゃないけどな」

 

「何より他人のモテ話なぞ聞きたくない」

 

「どこにも武士なんていねえな」

 

 なぜか血の涙を流しそうな勢いで拳を握る材木座から頼んでいたドルチェに視線を向ける。うん、うまい。

 

「まぁ参考にはならないだろうけどそれでもいいか?」

 

「もちのろんよ! どうかお願いします」

 

 ペコロと頭を下げる材木座。調子のいい奴である。

 

「それで、最終的にどうなりたいんだよ? 目標とかあんの?」

 

「それは勿論お付き合いしたいに決まってるだろ! 初めての彼女を作ってリア充になりたい! ヒット作で興行収益ミリオンセラーをたたき出した我を一生支えてほしいのだ!」

 

 力強く宣言するが重い上に無駄に壮大。しかも展望でもなんでもなくただの妄想だ。

 

「まずはデビューしろよ」

 

 ツッコんでみたが材木座の勢いは止まらない。

 

「その為にもまずは今度のオフ会で告白しようと思うのだが……でも、断られたらメンタル的に死ぬしもっと関係を深めた方がいいとも思うし、なんなら最低限のメアド交換くらいで留めた方がいいかなーと思ってな」

 

 段々と声も体も言ってる事も小さくなっていく。この時点で気弱になってる様じゃ確かにメンタル面で不安があるな。

 少なくとも戸部の時みたいに、もしも告白して振られたらという可能性が限りなく大きな最悪の予想はまだ言わない方がいい。

 とにかく今は判断材料が少なすぎる。情報を集めよう。

 

「ふむ、ちなみに仲の良さはどうなんだ? お前の片思いとかじゃないのか」

 

「両想いかどうかと問われれば甚だ疑問だが、悪感情はないはずだ。少なくともあちらも我とのやり取りを楽しんでいてくれているはずだ。何よりこのオフ会は向こうから提案してきたのだし」

 

 ネット上のやり取りで相手も自分も顔すら分からない交流をどれほど信じていいかは分からないが、相手からの提案なら少しは脈がある可能性もなきにしもあらずといった所か。

 なら、答えは簡単だ。

 

「なるほどな、それじゃあ、今度のオフ会でとりあえず告白しろ」

 

「ええー!? ちょ、八幡、展開早くない!? 最近のジャンプアニメよりも展開早いよ。我もっとこう初めはお友達からみたいな。そんな初めは生ビール感覚で告白なぞ」

 

 俺の提案に見るからに狼狽える材木座は視線を泳がし顔を赤らめている。まるでお前が告白されたようなリアクションに端に海老名さんがいなくてよかったと心から思う。

 

「何言ってやがる。よく聞け、恋愛とは戦なんだ。どんな事にもどんなものにでも勝者と敗者は存在する。恋愛も同じだ、好きになって告白して付き合うまでの過程でその後の力関係が変わるんだ」

 

 こいつの相談はどう仲良くするかではない。女子と仲良くなる会話術なら俺だって知りたい。

 告白をするか否か。その選択肢を、背中を押してもらいたいのだ。

 人が誰かに相談する時には2パターンある。本当に答えが分からない時か、答えを決めているのに踏ん切りがつかない時だ。

 前者の方は置いといて、後者の場合は俺でも対処はできる。飛び降りる事ができないなら突き落とせばいい。

 

・・・

 

 八幡的恋愛観!

 自他ともに認める捻くれ者のボッチである比企谷八幡はその実、中学時代は数多くの女の子に恋をして告白をして振られて来た経歴を持つ。そのどれもが黒歴史と成り果てているがアグレッシブさで言えばそこいらにいるリア充よりも遥かに上なのだ。

 ラブコメなら最終回レベルの大イベントであろうと彼にとって告白そのものに対するハードルは非常に低いのだ!

 

・・・

 

 千尋の谷につき落とすがごとく言葉を続けた。

 

「俺やお前みたいなタイプは仮に付き合うまで行っても高い確率で浮気されたり捨てられたりするだろう」

 

「ゴクリ」

 

 それは想像すら恐ろしいけれど、容易に想像できる未来だった。生唾を飲み込む材木座の顔も青くなる。好きで付き合った相手がやっぱリア充の方がいいと別れを切り出したら俺なら間違いなく泣く。

 

「そんなバットエンドを未然に防ぐためにも恋愛において勝者でいる事は重要だ」

 

「なんという説得力! でも、何を基準に勝者と敗者が決まるのだ? 惚れた方が負けというなら我もう完敗なんだけど」

 

 確かによく惚れた方が負けという言葉を聞くだろう。だが、俺はそれに否を突き付ける。

 

片思いならいざ知れず付き合おう段階まで行けば、お試しに付き合ってみるかみたいなビッチの軽い場合を除き男女の関係は両者両想いであるはずだ。

 

「恋愛での力関係、つまりは搾取される側とする側、尽くす側と尽くされる側、勝者と敗者、この場合の勝者とは当然好きになった方だ」

 

「な、なんだって!?」

 

「よく考えてみろよ。人を好きになって結ばれる。それはとてもすばらしい事だ。ならそんな素晴らしい事の大前提、人を好きになれる奴が勝者じゃない訳がないだろ」

 

「!!」

 

「人を好きになる事は尊い事だ、例え相手に搾取され永遠に尽くしたっていいじゃないか。そもそも俺達に人としての尊厳が必要か? 相手を本当に愛しているなら喜んで泥水を啜ればいい。だからまずは告れ」

 

 戦場において先制攻撃は勝利への第一歩。守っているだけで戦果が転がり込んでくることなんてまずない。少なくとも俺や材木座の様な足軽からのたたき上げは戦って戦って戦い続けるほか道はない。

 

「恋愛は好きになったもん勝ちだ! ……まぁ、好感度がないと普通に振られるけど、本気の告白が翌日には全校生徒が知ってるとかちょっとした地獄だぜ」

 

ソースは俺。本当にあれはきつかった。何がきついってからかわれる事ではなく純情が崩れる音を間近で聞いているのがしんどい。それも一気にパリンとは割れず、徐々に徐々に削るように割ってくるからね。

 

「せっかくいい事言ってたのに最後がめっちゃ不安なんだけども!?」

 

「当たり前だろ。どんなに相手が好きでも相手が自分を好きとは限らない。そもそも好感度アップくらい自力で出来ない様じゃ成功しても遅かれ早かれ別れるだろ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「それにお前の話じゃ向こうもそれなりに好意的なんだろ? もしダメそうなら友達でもメアド交換でも好きにすればいいだろ。告白なんてもんはノリや勢いでどうにかなるもんじゃないからな……」

 

・・・

 

 お互いの会計を済ませ帰路についた俺は沈んでいく夕焼けを見つめながら考える。

 

 恋愛は戦、好きなった方が勝ち、だから告白した奴が勝者。それは嘘偽りない俺の本音だ。

 だが、それを実行するつもりはなかったりする。

 別に材木座をからかったとかではない。曲りなりにも真剣な悩みなら男として真面目に答えるのが礼儀だ。

 けれど、有名なスポーツ選手を育てが監督が実はそのスポーツがド下手であるように有言を実行できる人間なんてそうはいない。

 俺の場合はトラウマだ。折本や中学時代のあれやこれやで下地ができていたのだろうが、修学旅行の偽告白が決定的だった。

 

 俺は好きな相手に告白をするという行為に恐怖を覚える様になったようだ。どうでもいい相手ならいくらでも愛しているとか好きだとか言える。なのにいざ好きな相手の前に立つと過呼吸に襲われる。なんとも困ったものだ。

 

 まぁ、だからと言って日常生活に不便があるかと聞かれると全くない。精々が恋愛においてこれから先、敗北が決まっているというくらいだ。

 それでさえ、俺にとっては足枷にはなりえなかった。

 人生の大半を敗北に塗り固められた俺にとって敗北も挫折も友達なのだ。むしろ、敗北しかしてないと胸を張れる。

 客観的に見れば敗北でも、自分の望んだ目的に対して最善を思考する俺にとって試合に負けて勝負に勝つは常勝の戦法だ。

 

 ならばこそ、俺の結論はこうだ。

 俺は今好きな女の子がいる。でも自分から告白する事はできない。なら、相手に告白させればいいじゃないか!

 本当に好きなものを求めた時に俺に恥じや外聞はないのだ。

 

 彼女の気持ちを理解しているんじゃないかと思う時がある。そんな物はまやかしだ。アニメや漫画でもない限り人の心は言葉にしても通じない。

 けれどもし、この勘違いが勘違いでないのなら、すれ違いの両想い。ああ、やはり対照的なのにどこか似ている俺と彼女の青春ラブコメはどこまでいっても間違えるのだろう。

 




後日。

 あの後、材木座はオフ会で無事に目的の人物と合えたそうだが、相手はネカマだったらしく泣きついてきた。

「うわーん! はちえもん何もかも破壊する道具を出してくれ!!」

「発想が怖えよ」
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