明るい筋肉 作:込山正義
昨日投稿するつもりだったのにこのザマよ。反省します。
執筆速度上げるためにもちゃんと筋トレしなきゃ
無人島生活初日は龍園との交渉と土台固め。
2日目は食料確保のために無人島一周旅行にCクラスのみんなとのタンパク質パーティー。
そして3日目になった今日、ようやく他のクラスの偵察に赴く余裕ができた。
滞在場所はBクラスもDクラスも把握済み。
残りの問題はどちらから先に行くかなのだが……まあ、これは実際のところどうでもいい。どっちから訪問したところで大した違いは生まれない。
違いがないのならあと考えるべきは効率のみ。ということで距離的に近いBクラスから先にお邪魔することに決める。
コソコソする気はないので堂々と。真正面から姿を現す。
この巨体だと、物陰から気づかれずにというのがかなり難しいのだ。
「やっはろー」
ベースキャンプに辿り着いたタイミングでちょうど近くに一之瀬の姿が見えた。なのでこちらから声をかける。
「あ、葛城くんやっはろー! ……え、やっはろーって何?」
気にするな。ただのアホっぽい挨拶だ。
「Bクラスはどうしているのか気になってな。偵察に来た」
「あはは、随分とストレートだね」
朗らかに笑っていた一之瀬だったが、すぐに視線が鋭くなる。
とは言っても龍園や堀北なんかと比べたら怖さは無いに等しい。キリッとしていてカッコ可愛いだけだ。
「──Aクラスは情報を完全に秘匿してるくせに、他のクラスの情報は盗もうとするんだ」
不公平じゃない? と一之瀬は言う。
全くもってその通りなので言い返せない。
Aクラスは洞窟の構造を活かし、入口を垂れ幕で覆い隠すというモラル的にどうなのかという作戦を決行している。しかも見張りと称した生徒でその前を塞ぐ徹底ぶり。他クラスの反感を買うのも無理はない。
「そう、だな……。すまない一之瀬。これだけ渡して俺は帰るとする……」
「わー、ごめん! 冗談、冗談だから! ちょっと言い方が意地悪くなっちゃっただけなの! 戦略としては悪くないと思うよ! うん!」
これ見よがしに肩を落として見せれば必死に弁明してくる一之瀬さんマジ善人。
謝ることで逆に俺の良心へとダメージを与えてくるとはやるじゃないか。
筋肉で軽減してなければ危なかった。
「お、葛城じゃん。なんだ? 遊びに来たのか?」
一之瀬と話していると1人の男子生徒が寄ってくる。
柴田颯。サッカー部所属でコミュニケーション能力が高く、誰とでもすぐに仲良くなれる人当たりの良さを持っている。
俺がBクラスで一番話す機会が多いのもたぶん彼だ。
「近くにスイカ畑を見つけてな。良ければと思って持ってきたんだ」
「マジか! ありがとな!」
Bクラスも探索を続けているのだろうが、まだ島の全てを把握しているわけではないみたいだ。
「どうだ、立派なスイカだろう?」
「うん! すっごく大っきいと思う! ね、柴田くん」
「おう、そうだな! ……いや、すまん。比較対象が葛城のせいでやっぱよくわかんねーわ」
それはつまり俺の筋肉がでかいってことだな。
ありがとう。最高の褒め言葉だ。
「クラス内にリタイアした者はいるか?」
「ん? いないけど……」
「なら、スイカ2つじゃ足りないか。そこまで遠いわけでもないし、もう何個か持ってこよう」
「あ、俺もついてっていいか?」
「もちろんだ。残った分は後日そちらで回収してもらっても構わない」
「おっ、マジか! サンキュー葛城、太っ腹だな!」
太ってねーよ。バッキバキだわ。
「Aクラスが見つけたんでしょ? 私たちが横取りしちゃっていいの?」
喜ぶ柴田とは対照的に、一之瀬は申し訳なさそうな顔をしていた。
「問題ない。スイカにタンパク質は含まれてないからな」
「……そっか。ならありがたく貰っちゃうね」
ああ、そうしてくれ。
せっかく学校側が無人島内にも食料を用意してくれたんだ。その恩に報いるためにも、俺は全ての野菜や果物を狩り尽くす気でいる。
「よし、いくぞ柴田。俺の姿を見失うなよ」
「そっちこそ、あんまり遅いようだと追い抜いちゃうからな!」
お互いに実行した瞬間色々と破綻する物言いを叩き合いながら、俺と柴田は全力のスタートダッシュを決めた。
Bクラス一の俊足がどの程度のものか確かめてやる。体育祭の前哨戦だ!
****
行きは障害物の多い自然の中をどれだけスムーズに進めるかを競った俺たちだったが、帰りは荷物を持っているため同じようにはいかない。
だが移動時間は有効活用すべきだ。ということでこのスイカで筋トレをしよう。
両の手のひらにスイカを載せたまま腕を水平にピンと伸ばす。そしてその状態をキープ。なるべく歩行スピードも緩めない。
「く、結構キツイな、これ」
そうだろう。これだけでそこそこのトレーニングになる。
まあ、俺からしたら負荷が小さすぎるんだけどな。
メディシンボールを使ったメニューは他にもあるから後で教えておこう。
え? 食べ物で遊ぶな?
馬鹿野郎! 筋トレは遊びじゃねーんだよ!
「あっ、2人ともおかえりー!」
Bクラスのキャンプ地へと戻ると、いの一番に一之瀬が出迎えてくれた。
彼女が好かれる理由はこういうところにあるのだろう。面倒事を避けないというか、些細なことでも徹底しているというか……。
少し話し掛けて貰えただけでほんわかした気持ちになるのだからすごい。
「採ってきたスイカはどこに運べばいい?」
「葛城くんがさっき持ってきてくれたやつは今冷やしてるところだし、他のもそうしよっかな」
「えー、俺今すぐ食べたいんだけどダメか?」
「うーん……それじゃ、半分は今から切り分けちゃおっか」
「よっしゃ!」
柴田の希望によりそういうことになった。
最初に俺が持ってきた2個と今採ってきた4個で計6個。その半分だから3個を40人で分けることになる。いや、Cクラスのスパイとして潜入している金田を加えれば41人か。まあ大して変わらない。誤差の範囲だ。
現在時刻はお昼時前。10時のおやつと考えれば悪くはないだろう。
「俺が切り分けよう。包丁とまな板はどこにある?」
「えっ、悪いよ。ただでさえ食材を恵んでもらってる側なのに、その上準備まで任せるなんて」
「なに、気にするな。俺が女子力をアピールしたいだけだ」
「ぷはっ、女子力って。葛城に一番似合わねぇ単語だな」
ケラケラと笑いながら、柴田は調理用具の置かれた場所へと俺を案内してくれる。
一之瀬は他人の厚意に人並みに遠慮を見せ、にも拘らず自分からは積極的に人助けをするタイプだ。
一方の柴田は他人の厚意をガンガン受け取り、その分を別の機会に返済するタイプ。
似ているようで微妙に違う。俺としては柴田のような人間の方が接しやすい。頼られるのは嫌いじゃないからな。
「俺の包丁捌きをご覧に入れよう。こう見えて普段は自炊しているんだ」
「おお、やるなー。でも勢い余ってまな板ごと切らないでくれよ?」
「なに、俺が本気を出せばその下の机ごといける」
「本当にやめろよ!? フリじゃないからな!?」
やらねーよ。そもそもできねーよ。俺を一体なんだと思ってるんだ。
包丁は切れ味さえ良ければ筋力など必要ない。
つまり逆説的に、俺は切れ味の悪い包丁も使いこなせるわけだが……。
「うわぁ、真っ赤。めっちゃ美味そう」
もちろん、Bクラスの備品を破壊するような真似はしない。
「早速食っていいか!?」
「手はちゃんと洗ったか?」
「おう!」
「ならばよし」
「いっただっきまーす!」
16分割されたスイカをシャクシャクと美味しそうに頬張る柴田。見ているこっちまで気持ち良くなるような豪快な食べっぷりである。
気づけばBクラスの生徒が近くに集まってきていた。他クラスの生徒である俺を警戒しているだろうが、スイカの誘惑には敵うまい。
そもそもこのクラスには友好的な人間ばかりが集まっている。試験中であっても空気が悪くなったりはしないし、それは敵対関係にある生徒相手でも変わらない。
チームワーク学年随一は伊達ではないということだ。
「おかわり!」
「まずは1人1つずつだ。余った分はジャンケンでもして決めてくれ」
「そんなぁ」
柴田が肩を落とせば周囲から笑い声が響く。こんな何気ない一コマからでも仲の良さは窺えるものだ。
やがてこの場にいた全員にスイカを配り終えることができた。出掛けている者には後で渡しておいてもらえばいいだろう。
「何から何までごめんね葛城くん。Bクラスの代表として、改めてお礼を言わせて」
スイカ片手に一之瀬が話し掛けてくる。
「その代わりと言ったらなんだけど、私たちに何か手伝えることはないかな?」
「特には思いつかないが……そうだな、強いて言うなら──」
そこで一度言葉を区切り、表情を少しだけ真剣なものに変える。
その場にいる全員に聞こえるように響き渡るような重い声で。
心の隙を縫うように絶妙に間を空けて。
多少の威圧感を込めながら。
続ける。
「Bクラスのリーダーを教えてくれないか?」
『──!?』
瞬間、空気が静まり返った。
警戒が適度に緩んだタイミングを狙ったため、返ってくる反応は通常よりも大きく分かりやすいものとなっていた。緊張の名残りが続いていると、心の内がより顕著に表れてしまうのだ。ホラー映画などで一安心させた後の隙を突かれると必要以上に驚いてしまうのと同じ理屈と言えばわかりやすい。
目を見開く者。視線を彷徨わせる者。喉を鳴らす者。身体の節がピクリと動く者。完全に硬直する者。
その全てを、俺は事細かに観察した。どれだけ小さく些細なものだろうと、それが筋肉の関わる動きならこの俺が見逃すはずもない。
比較し。分析し。統合し。結果を割り出す。
「あはは、それはさすがに無理だよー。他のことじゃダメかな?」
さすが一之瀬。動揺を全く見せないどころが、軽口で返す余裕さえある。
あとは神崎あたりからも情報は全く読み取れなかった。
「もちろん冗談だ。変な空気にしてしまったお詫びとして、むしろこちらが何か手伝おう」
だが無意味だ。
たかが1人2人の反応が得られなかった程度どうってことない。立ち位置と視線の通りに気を使った甲斐があり、20以上の人間の反応をかなり正確に読み取ることができた。
初対面なら気づけなかっただろう。だが普段の彼らと交流して得た経験則が機微を察することを可能にしていた。
「こう見えて力仕事は得意でな。なんでも言いつけてくれて構わない」
得るべき情報は得た。確信に至るにはまだ足りないが、絞り込みとしては十分だ。
盤外戦術で他者を陥れるやり方は俺の流儀に反するが、ルールの中で勝ちを目指す分には全く問題ない。
むしろ手を抜くのは失礼だと思っている。だから全力で一位を目指しにいく。
悪く思わないでくれよ一之瀬。
ちゃんと最初に言ったはずだ。
偵察に来た──とな。
****
その後同じような手口を使い、Dクラスのリーダーも探りに行った。
近くで採って袋詰めにしたキュウリを片手に、生徒が多く集まる時間帯を狙って突撃する。
分け隔てなく築いてきた交友関係はこういう時に役に立つ。懐深くまで踏み込めることのなんと有利なことか。
「──リーダーの情報を教えてほしい」
あえて備える余裕を与えてから圧力を滲ませつつそう言えば、中々にいい反応が返ってきた。
意識すればどうしても不自然さは出てしまうもの。誰が見てもわかるような露骨な反応は流石にないが、それでも俺なら感じ取れる。筋肉は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。無人島生活で揺れ乱れている精神状態では、己の筋肉を騙すことさえままならない。
だが当然、中には反射のレベルで偽りの反応を返してくる者もいた。
例えば堀北は、全くと言っていいほど表情を動かさなかった。
平田は苦笑するだけだったし、櫛田は平田に視線を送るというフェイクまで織り交ぜていた。
しかしやはりというべきか。
些細な反応一つ取っても、綾小路だけは別格だった。
俺が言葉を発した刹那、注視していなければ分からないほどさり気なく、彼は堀北の方を一瞬だけ盗み見ていた。
わざとらしさなど微塵もない完璧な演技。俺の観察眼の性能を一寸の狂いもなく推し量った上で、気付けるギリギリの範囲を攻めてきたのだ。
自分の能力に自信を持ってしまう方向へと、思考が誘導されてるような気さえした。
事実、綾小路のことを知っていなければ騙されていただろう。間抜けな人間から情報を抜き取ってやったと優越感に浸り、勝ちを確信してリーダーの指名を行っていたに違いない。
高度な駆け引き。しかし話はそれだけでは終わらない。
ここでさらにタチが悪いのは、堀北が本当にリーダーである可能性が非常に高いという点だ。
他のDクラスの生徒の反応も統合すると、五割以上の確率で堀北がリーダーであるという結果が弾き出された。思考が原作知識に引っ張られている可能性もある。しかしそれを加味したとしても、やはり堀北が一番疑わしいという事実に変わりはない。
綾小路がDクラスを裏切った──わけではない。
この段階で、すでに堀北をリタイアさせる作戦を思いついているに過ぎないのだろう。
俺が見た中で現状唯一、堀北は嘘偽りない体調不良によるリタイアが可能な生徒だ。
その事実を利用し、Aクラスのポイントを削りにきた。
実力を隠しながら、大して労力も使わずに、視線一つで50ものポイントを操作しようとした。
二重に罠を張り巡らせたミスの誘発支援。
あの鉄面皮の下でどれだけの策略が渦巻いているのか……考えるだけでも恐ろしくなる。
坂柳がいない今、まともにやり合うのはどう考えても得策とは言えないだろう。
その後は久しぶりに櫛田とお喋りしてから、俺はAクラスのベースキャンプ地である洞窟へと戻った。
裏櫛田と対面できなかったのは残念だったが、周りに目がある状況では仕方ない。
次にカラオケルームで集まる時まで、楽しみは取っておくとしよう。
筋肉って言っとけば何でも許されると思ってませんかねこのハゲ(と作者)