明るい筋肉   作:込山正義

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坂柳をめっちゃ甘やかすために全ポイントを吐き出して無人島生活を送
る展開も考えてはいました



筋肉流攻撃術

 

 BクラスとDクラスのリーダーに当たりをつけたわけだがまだ確信には至っていない。

 俺の存在がある以上、原作知識なんてものが当てにならない可能性も大いにあり得る。

 どちらにしろ、1人の意見だけでは決定打にかける。だから俺以外の人間も偵察に向かわせることにした。

 といっても、俺のように真正面から堂々と突っ込ませるわけではない。

 リーダー候補を告げた上で、相手側に見つからないよう隠れながら敵情視察をさせるつもりだ。

 

 選んだメンバーは極小数。鬼頭隼と西川亮子の2名のみだ。

 

 鬼頭は隠密能力に長けている。武芸者であるが故のスキルなのか、他人の視線や動きにも敏感だ。音と気配を消しての忍者的歩行と組み合わせれば、偵察や索敵において無類の性能を発揮する。それに加え、今回は関係ないが当然のように通常戦闘も得意ときた。

 坂柳がボディーガードを任せるのも納得の有能さだ。

 

 西川は観察眼が飛び抜けている。筋肉への愛がなせる技なのか、下半身の動きを見れば連動して上半身がどう動いているかもわかるというガイ先生顔負けの妙技も習得しているとのこと。俺は複数の人間の反応を統合してリーダー候補を絞ったが、西川にも同じことができるはずだ。いや、同じどころの話ではない。精度はおそらく彼女の方が上だ。人を分析する能力一つ取ってもクラス内上位に食い込めるだろうが、そこに少しでも筋肉のことが加わりさえすれば一度に得てくる情報の質と量はあの坂柳すらも凌駕すると思われる。

 好きこそ物の上手なれ。筋肉フェチ恐るべし。

 

 そんなAクラスに相応しい能力を持った2人を、BクラスとDクラスにそれぞれ分けて偵察に向かわせた。

 狙う時間帯は朝の7時から9時までのおよそ2時間。そこが最も成果が得られやすいと考えた。

 理由は8時に点呼が行われるためだ。

 点呼に欠席した者がいると、そのクラスは1人につきマイナス5ポイントのペナルティを受ける。加えて点呼はそれぞれのベースキャンプで全クラス同時に行われるため、ポイントを犠牲にしないでの偵察はどうやっても不可能というわけである。

 誰もが無駄にポイントを減らすような真似はしないはず。点呼には基本的に全員が出席するもの。そんな固定観念が通常よりも僅かにだが気を緩ませる。

 点呼で全員が集まっているということは、人数をかけてスポットを更新できることも意味している。

 しかしそこも問題ない。キーカードを使用する瞬間を、直接その目で見る必要などないのだから。

 周りが誰を守ろうと動いているか、それを見極めれば自ずとリーダーは判明する。リーダー以外がスポットの更新を行えない関係上、皆誰しもがリーダー及びキーカードを隠そうとする。その思考と行動原理を逆算し本命を割り出す。味方を騙していた場合この作戦は破綻するが、BクラスとDクラスの特性から考えてそこまではしていないはずだ。

 クラス内の全員がリーダーを把握している。その事実こそが重要なのだ。

 もちろん、誰にでもできる芸当ではない。だが鬼頭と西川なら可能性はある。

 俺の絞り込みと合わせればかなり確実なところまで近づけるはずだ。

 ポイントを消費するだけの価値はあると──俺はそう判断した。

 ちなみに点呼は1日2回行われるが、もう1回は20時に行われるものなのでそちらは除外した。暗いと偵察の難易度が桁違いに跳ね上がる。

 8時間ごとのスポット更新に点呼を合わせる場合、4時・12時・20時でローテーションを組むのと8時・16時・24時で回すのとではどちらが楽かというのは意見が分かれるところであるため、正直これは天運に任せるしかない。

 それこそ、点呼のタイミングをガン無視してスポット更新を行う可能性だってある。

 だがまあ仮にそうだったとしても、鬼頭と西川なら何らかの情報を持って帰ってきてくれるはずだ。そんな気がしている。

 

 

 

 ****

 

 

 

 洞窟の前で筋トレをして待っているとまず最初に鬼頭が戻ってきた。

 最後の追い込みをかけてから出迎える。

 

「おかえり鬼頭。今水を用意する」

「助かる」

 

 3日目の時点でCクラスの生徒たちは数人を残してリタイアした。

 使わなくなった物資はそのまま譲り受けたため、水も食料も豊富にあるのが今のAクラスの状態だ。奪われたり失くしたりしないよう、洞窟の奥で大切に保管している。それに水に関してはBクラスとDクラスからもちょくちょく貰っているので余裕はかなりあると言えた。

 

「では、早速で悪いが報告を聞かせてくれ」

「ああ」

 

 ある程度の涼しさを保っている洞窟内に入り話を聞く。

 

「Bクラスは8時の点呼に合わせてスポットの更新を行っていた。動きの流れを見た限り、リーダーは葛城が予想していた通りで間違いないと思う」

「そうか」

 

 おおっ、さすが鬼頭。成果としては文句の付けようもない満点。完璧な仕事である。

 後で海に漁をしに行く予定だから、そこで捕まえた魚を丸ごと一匹贈呈しよう。働きにはそれに応じた報酬を。上に立つ人間が行うべき当然の責務だ。

 

「Cクラスの金田も上手く溶け込んでいるように思えた。龍園がリーダーの情報を手に入れるのも時間の問題だろう」

 

 Cクラスとの契約で、Aクラスが他クラスのリーダーの情報を手に入れたら龍園に教えなければいけない決まりになっている。だが龍園は俺たちのことを完全には信用していないため、CクラスはCクラスで独自に情報の奪取に動いているのが現在の状況というわけだ。

 その名もスパイ作戦。実際に殴って怪我を負わせることで同情を引き、他のクラスに保護してもらうような形で潜入を果たすというのが大まかな内容だ。

 暴力行為は処罰の対象だが、同じクラス同士ならばその限りではない。褒められた行いではないが、見事にルールの穴をついている。

 デメリットとして点呼不在によりポイントが減り続けてしまうというものがあるが、それも0ポイント作戦により無力化している。ポイントのマイナスがない試験だからこそできる逆転の発想と言えた。

 

「ただいまー」

 

 鬼頭から見たBクラスの現状を細かく聞いていると、次いで西川が帰還する。

 

「お疲れ西川。キンキンに冷えた水でも飲みながら話を聞かせてくれ」

「やたっ!」

 

 小型製氷機マジ最強。

 ポイントに余裕があるからこんなものまで買えてしまう。どうせCクラスから貰ったポイントだし、消滅するくらいなら贅沢に使った方がいいだろうということで購入した。

 たとえマニュアルに載っていない物でも、先生に言えば用意して貰えることがある。というわけで一応プロテインも候補に挙げたのだが、反対意見半数以上で却下された。女子の票が一票しか入らなかったらそうもなる。残念ながら当然の結果だった。

 せめて何ポイントで何キロ分のプロテインが買えるのかくらいは把握しておきたかったが、知ったら知ったで購入したい欲が強まると思ったのでやっぱりやめておいた。

 ああ、プロテイン……プロテイン……。

 俺。魚。食う。

 メッチャ……食ウ……。

 

「……Dクラスの様子はどうだった?」

 

 そう聞くと、西川は思い出したように神妙な面持ちになった。

 滲む感情は疑問だろうか。ただ単に成果が得られなかっただけ──という訳でもなさそうだ。

 

「スポットの更新はしてなかったよ……。でも、その……リーダーは分かっちゃったというか、なんというか……」

 

 微妙に歯切れが悪い。西川にしては珍しいな。

 

「本当に偶然なんだけどね、一瞬だけキーカードらしきものが見えたの……」

 

 おおっ! ……お? 

 

「でも、私のことがバレてたんじゃないかって、そんな予感もあって……」

 

 ……なるほど。

 

「確信がある訳じゃないの。そんな気がしたってだけで……。おかしい、よね……。もし仮にそうだとしたら、気づいてたのに敢えて仲間には黙ってて、その上わざとリーダーを悟らせるような真似をしたことになっちゃうもん。そんなこと、するはずないのにね……」

 

 これは……。

 

「……ちなみにだが、西川に勘付いたと思われる人間は複数いるか? それとも1人だけか?」

「……たぶん、1人だけ」

「それが誰かはわかるか?」

「うーん、ごめん……名前は分からないや。顔立ちはそこそこ整ってたかな。でも纏う雰囲気は暗い感じで……あ、ちなみに男子生徒だよ」

 

 綾小路かな? 

 

「それと……そうだ! 筋肉はDクラスで一番すごかった!!」

 

 綾小路だな。

 須藤や平田は暗いイメージとはかけ離れているし、高円寺はそもそもすでにリタイアしているためその場にいるはずがない。

 だから間違いなく綾小路だ。

 

「ごめんね、はっきりしなくて」

「問題ない。その情報だけで十分だ」

「周りの動きも含めて、リーダーは葛城くんが予想してた通りだと思うんだけど……」

「十分すぎる。それが分かったのなら気に病む必要なんて全くないだろう。他に何を求めるんだって話だ」

 

 しょんぼりしている西川を慰めながら考える。

 徹底して実力を隠している綾小路に対して僅かにでも違和感を覚えた西川がすごいのか。

 はたまた西川の筋肉眼を以てしても確信まで至らせなかった綾小路がすごいのか。

 うーん、わからん。

 どっちもやばいってことで一先ず納得しておくか。

 

 

 

 ****

 

 

 

 その後は対象を入れ替え、翌日の点呼の時間に同じように2人を偵察に向かわせた。

 試験が全部で7日あるうちの4日目と5日目。少しでも気が緩みそうな折り返し直後を狙った形だ。

 これ以上ポイントを無駄にしてまで偵察はいらないのでは? と思うかもしれないが、リーダーを確定させること以上にクラスの方向性や考えの傾向、立場の上下関係や親密度を把握する目的もあったため実行した。

 クラスの全員が一堂に会し、周囲の目が無いと思い込んでいる状況では本音や本質が浮き彫りになりやすい。それに重ねて、日常とかけ離れた極限の状況でこそ人の本性というのは現れるもの。敵の情報を深いところまで知っておくことは、今後の戦いを有利に進めるためにも必ず必要になってくるはずだ。

 あとはまあ、鬼頭の隠密性能が綾小路に通用するのか確かめたいという気持ちもあった。

 

 洞窟にて再び報告を聞く。

 西川の考察は俺及び鬼頭のものと完全に一致した。Bクラスのリーダーは確定と見ていいだろう。このまま何もなければ最終日に指名することを決定する。

 鬼頭の方も同じだ。Dクラスのリーダーも今のところは確定した。綾小路によるリタイア作戦が決行されなければ指名することになるだろう。ほぼ100パーセントと言っていい確率で、そんなことにはならないと思うけど。

 それと肝心の鬼頭の隠密性だが、詳しいことは分からなかった。鬼頭本人はバレた様子はなかったと言っていたが、本当のところは定かではない。

 鬼頭が綾小路を上回ったならそれでいい。だが逆の場合、綾小路が単に何もしなかったというだけで説明はついてしまう。すでに俺と西川にリーダーの情報を悟らせるような真似をした後だから、これ以上やるとわざとらしくなってしまう。そう考えた可能性も非常に高いと思われる。

 どちらにせよ、警戒を続ける他に選択肢はない。

 両方の指名が上手くいけば+100ポイントだが、はてさてどうなることやら。

 結局は試験最終日になってみなければ何も分からないのだから、気を抜くことなんてできるはずもなかった。

 

 

 





葛城は原作同様慎重な男です。坂柳がいない状況だから余計に。
それはそれとして見た目通りの大胆さも併せ持っていますけど。
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