明るい筋肉   作:込山正義

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導入


集え強者たち

 

 高度育成高等学校から与えられた二週間のバカンス。その最も素晴らしいところは、豪華客船内の施設を全て無料で利用できるという点だろう。

 映画や舞台を観るのもタダ。水着を借りてプールで遊ぶのもタダ。そしてもちろん、飲食店で食事をするのもタダである。

 

 米が。野菜が。魚が。肉が──。

 無料で! 食べ放題!! なのである!!!

 

 当然食べる。食べまくるに決まっている。

 ポイントの消費を考えずに美味しく栄養を摂取できるとか天国以外の何物でもない。

 ただでさえ一週間無人島で生活して栄養が不足気味だったのだ。それを取り戻すつもりで肉を中心にそれはもう食いまくってやった。

 普通の食べ放題と違って時間制限がある訳でもない。しかも豪華客船と言うだけあって料理の質も上級なものばかり。

 じっくりガッツリ美味い肉を頬張れることのなんと素敵なことか。

 坂柳がこの場に居ないことだけが心残りだが、それを補って余りあるほど幸福な時間だった。

 

 満足いくまで筋トレを行い、思う存分肉を食らい、気が向いたら友人たちと共に娯楽施設で遊び尽くす。

 そして最後に十分な睡眠で一日を締める。

 完璧だ。文句の付けようもない。

 望む全てがここにはある。最高の夏休みと言って相違なかった。

 

 

 

 そんな充実した時間を過ごしているとあっという間に三日が経った。

 俺は今日も肉を食べている。正確にはミディアムレアの肉厚ステーキを食していた。

 一緒にいるメンバーは佐倉と綾小路だ。

 

「……食事が進んでないようだが……」

「あ、ううん、気にしないで。葛城くんの食べっぷりを見てたら、それだけでお腹いっぱいになっちゃって……」

「……すまない」

「あ、ちがっ、文句とかはなくて……なんなら、私の分まで食べていいくらいだから!」

 

 おかわりがしたかったら普通に頼めばいいだけなんだけどな。無料だし。

 まあ腹にはまだまだ余裕があるので食べられないというのなら貰うけど。

 

「…………」

 

 しかしそれだけではないだろう。佐倉は何やら暗い顔をしていた。

 何かあったのかと問い掛けるように綾小路を見る。彼は俺の視線に気づいてこちらに一度視線を向けた後、スっとステーキを食べる作業に戻っていった。

 えぇ……。

 いや、確かにここの肉は美味いけどそうじゃないだろ。

 お前に任せた? 主人公で同じクラスなんだからもっとお前が面倒を見て差し上げろ。

 そして仲を進展させてイチャイチャを俺に見せつけてくれ。

 最近、己で恋愛するより綾小路の恋愛模様を見る方が楽しそうだと考える自分がいることに気づいた。

 たぶん原作ファン特有の感覚だろう。

 それにほら、俺に恋愛している暇とかないし。だって筋トレで忙しいから。

 

「……何かあったのか?」

 

 だがまあ、佐倉を放置するという選択肢はない。なのでストレートにそう聞いてみた。

 

「……実は、その……同じ部屋の人のことで、ちょっと悩んでて……」

 

 俯いたまま小さな声で佐倉は言う。

 なるほど、つまり交友関連の相談か。そうなると相談相手として最適なのは櫛田だろう。

 だが人気者で各所に引っ張りだこの櫛田はこの場にはいない。

 それに比べて綾小路と佐倉はすごい。言い方は悪いが、いつ何時でもスケジュールが空いている。呼び放題誘い放題だ。

 

「ルームメイトと仲良くなりたいのか?」

「どう、なんだろ……。仲良くなりたい気持ちもあるけど、それと同じくらい一人でいたいって気持ちもある……。だからダメなんだろうね、私って……。仲良くならなきゃとは思ってるんだけど……」

「別に無理して仲良くなる必要はないだろう。人には誰しも合う合わないがある」

「でも、葛城くんは誰とでも仲良くしてるよね?」

「……それはそうだが……」

 

 うーん。

 それは俺から積極的に関わりに行っているからであって、同じことを佐倉が求めるのは違う気もするんだよなぁ。

 頑張ろうとする意思は尊重するし応援もしたいけど、それで許容量を超えてしまったら元も子もない。

 何事も段階を踏むことが重要なのだ。自分に合っていないペースで進もうとすると人は予期せぬ障害物に躓いて転んでしまう。傷を負ってしまう。

 対人関係というデリケートな問題だからこそ、可能な限り見極めはしていきたい。

 それに、友人なんてものは信頼できる数人がいればそれでいい──という言葉には俺も同意するところであるし。

 

「……ちなみにルームメイトというのは誰なんだ?」

「……篠原さん。市橋さん。それと前園さん」

 

 うん、ダメだ。

 いや、その三人が悪いわけではないんだが、最初に手を出すには些か難易度が高すぎる。

 強気な性格の人間は根本からして佐倉には合わない。

 分かりやすい具体例は坂柳や堀北だ。彼女たちが佐倉と仲良くしている姿はおおよそ想像がつかない。つまりはそういうことだ。

 

 だがまあ、僅かながらのアドバイスくらいはしておこう。役に立つかは分からないがな。

 

「篠原はとにかく我が強いタイプだ。気に食わないことがあるとすぐに噛み付く癖がある。だが悪人というわけではない。ヒートアップしている時は周りが見えなくなるが、冷静になった後は自分の非を認めてきちんと反省できる人間だ。佐倉は言い返すようなことはしないだろうから、聞き役に徹すれば案外良好な関係が築けるかもしれない。プライドが高く素直になれない性格だから苦手意識を持たれがちだが、それもツンデレと思えば可愛く見えてくるだろう」

「葛城がツンデレとか言うと違和感がすごいな」

「最適な言葉選びをしたまでだ」

 

 うるさいぞ綾小路。お前は黙って肉でも食ってろ。

 

「市橋はパッと見大人しそうだが、中身は篠原と同じく強気なタイプだ。外面を取り繕う点も考慮すれば篠原より付き合いは難しいかもしれない。だが市橋は無類の猫好きだ。猫の話題を出せばとりあえず盛り上がれる。佐倉は写真が趣味だから人間的な相性自体は悪くないと思う」

 

 猫の写真。ほら、これだけで接点ができた。

 だが個人的には猫よりも猫耳の佐倉の方が見たい。

 ハゲに猫耳は致命的に合わないから猫耳が似合う人は尊敬する。人は自分に無いものを所持している人間を羨むとは誰の言葉だったか。

 

 ……話が逸れたな。戻ろう。

 次は前園か。

 

「前園は口と態度が悪い上に沸点が低い。何が不興を買うか分からないから相手は会話に気を使いがちだ。それがストレスだと言う者も多い。だが実は簡単な解決法がある。前園はかなりの甘党でな。どんなに怒っていても甘いものをあげればすぐに機嫌が直る。市販の飴玉で十分だ。常にポケットに忍ばせておくといいだろう」

 

 三人分の説明を終えた俺は水を飲みながらふぅと一息つく。

 広い交友関係は数多の情報に密接している。櫛田や一之瀬、平田なんかと情報交換を行うこともあるから質もある程度保証されているはずだ。

 まるで情報屋のお助けキャラだな。

 へい綾小路、誰の情報が知りたいんだい? 俺とお前の仲だ。特別に安くしておくぜ?

 ……うん、いいな。すごく楽しそう。

 

「一つ言っておくが、今の話には個人的な意見も多分に含まれている。参考にするのはいいが鵜呑みにはしないでくれ。自分の目で見て確かめる。やはりそれが一番だと思う」

 

 あとはそうだな。佐倉が仲良くなれそうな人間を後でリストアップしておくか。

 ルームメイトと気が合わないなら他の友人と外に遊びに出掛ければいいだけの話だ。

 長谷部は王道として、あとはやはり井の頭やみーちゃんあたりだろうか。

 

「俺のお節介はとりあえず以上だが、何か質問はあるか?」

 

 聞いてみる。しかしすぐに返事は返ってこない。

 見れば佐倉はポカンと口を開けてこちらを見ていた。

 なんだそれは。口に肉をぶち込めという合図だろうか。

 佐倉が頼んだのはハンバーグだが、ステーキも食べたかったものだと思われる。

 綾小路を見る。二枚目に突入している俺と違い、彼の手元にはすでにステーキがない。

 仕方ない。俺がやるか。

 ステーキをひと口大に切り、そのままフォークを持った手を伸ばして佐倉の口に肉を突っ込む。

 

「……ふぇ?」

 

 もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。ごっくん。

 どうだ、美味しいだろう? 

 やはりステーキはヒレに限る。脂なんて必要ない。赤身が美味い肉こそ至高なのだ。

 

「え……と、あの、その…………」

 

 顔を赤くした佐倉が何か言いたそうにこちらを見ている。

 だがそれ以上言葉が紡がれることはなかった。不意の出来事によって直前までの行動を一瞬のうちに中断させられたからだ。

 携帯から響くキーンという高い音。それが全員の意識を強引に引き寄せた。

 学校からの指示や行事の変更などがあった際に送られてくるメールの受信音。

 その重要性の高さは、マナーモード中であっても強制的に音が出ることからも明らかだろう。

 

「な、なんだろうね?」

 

 佐倉が不思議がるのも尤もだ。入学後に説明を受けてから今まで一度もこの機能は使用されたことはなかったのだから。

 しかしなぜ佐倉は明後日の方を向いて喋っているのだろうか。残念だがそっちには誰もいない。もしかして見えない何かが見えていたりするのだろうか。

 釣られて視線をずらす。やはり何も無い。

 

 瞬間、船内アナウンスが流れてきた。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメッセージを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願い致します。繰り返します──』

 

「……今届いたメールの事、だよね?」

「たぶんな」

「とりあえず確認してみるか」

 

 三人で各々携帯をチェックする。

 届いたメールには以下の文章が記載されていた。

 

『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日20時40分までに2階207号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

 豪華客船の凄さを実感させた後に無人島に放り込んだり、一つ目の試験から三日が経って気が緩んだところに次の試験を持ってきたりと、学校側はなかなかに意地の悪いことをしてくれる。

 おそらくは不測の事態への対応力を見たいのだと思われる。最初から知っている俺には関係ないけど。

 

「え、と……どうすればいい、のかな?」

 

 佐倉が問う。

 不安が垣間見えるが俺からは何も言えない。メールを見せ合って意見を交わす訳にもいかない。

 

「一先ず解散だな。すまないが、こちらはしばらく忙しくなると思う」

「そう、だよね……。その方がいいよね」

「リーダーは大変だな」

「なに、やってみると案外楽しいものだ。それにプラスも大きいしな」

 

 俺と彼らは敵同士。それを忘れてはいけない。

 仲良くはするし差別もしない。だが線引きはしなければならない。

 リーダー代理を任されている現状なら尚更だ。

 

 

 

 ****

 

 

 

 集合時間に指定された20時40分の10分前である20時30分。俺は二階フロアに足を踏み入れていた。

 近くには的場と矢野、そして西川がいる。同じ時間に集合を言い渡されたAクラスのメンバーたちだ。

 

「結構人がいっぱいいるね」

「全員がこの組ってことはないでしょうから、何人かは偵察要員でしょうね」

「私たちも何人か見張りを立てとくべきだったかな?」

「必要ないだろう。どうせメンバーはすぐに分かる」

 

 そう言いながら前方を見ると早速同じ組っぽい人間を発見した。

 Bクラスの神崎だ。片手を挙げながら声を掛ける。

 

「……葛城か。もしかして同じ時間か?」

「ああ、俺たちは20時40分組だ」

「そうか、よろしく頼む」

 

 差し出された手を取り握手を交わす。

 俺自身はまだ学校側から説明を受けていないが、これより前の時間に招集された人間からすでに試験の概要は伺っている。

 神崎も同じなのだろう。だからこそこの発言だと思われる。

 

 と、今度はDクラスの堀北が姿を見せた。

 神崎と同じく周りには誰も連れていない。どうやら一人のようだ。

 仲のいい間柄とは言えないが、無視するのもあれなので声を掛ける。

 

「無人島以来だな。堀北もこの時間か?」

「だったらなに。気安く話しかけないでくれる?」

「気安くでなければ話しかけてもいいのか?」

「そうね。特に用がないならそもそも話しかけないでほしいわ」

 

 そうか。残念。

 ここで押しても悪印象しか与えないので大人しく引き下がる。

 

 説明開始10分前だけあって続々と同じグループの生徒が集まってくる。

 次に現れたのは堀北と同じDクラスの平田だ。横には綾小路の姿もある。

 

「二人もこのグループか?」

「いや、僕はそうだけど綾小路くんは違うよ」

「ああ、オレはただの付き添いだ」

「そうか。……そういえば、綾小路は兎グループだったか」

「……知ってたのか」

「一応な。すでに説明のあったグループのメンバーは全て把握している」

 

 原作との差異があるかないかで取る行動はかなり変わってくる。

 なるべく早い段階で把握しておきたいと思うのは当然のことだった。

 

「平田、もしかしたら大変なグループに巻き込まれたのかもしれないな」

「そうだね。葛城くんや神崎くんがいるなら苦戦は必至だと思う」

「いや、それだけじゃない」

「え?」

 

 綾小路の視線に釣られるように、皆がそちらを向く。

 

「クク。随分と雑魚どもが群れてるじゃねえか。足りない脳みそ使って作戦会議か? 俺も見学させてくれよ」

 

 自らの存在を主張するような足音が近くまで迫ってきて止まる。

 後ろに三人の生徒を侍らせながら登場したのはCクラスの龍園だった。

 

「龍園。お前もこの時間か?」

「そういうこった。せいぜい足掻いてみることだな」

「お手柔らかに頼む」

「ハッ、心にもないこと言ってんじゃねえよ」

 

 やってくるのは学年でも有名な人間ばかり。

 改めて見るとやっぱこのグループって魔境だな。ほのぼのから一番縁遠い場所にある気がする。

 

「あれ? みんなで集まってどうしたの?」

 

 そんなこんなで三つ巴ならぬ四つ巴の睨み合いを行っていると、最後に櫛田が姿を現した。

 後からやって来ていつもと変わらない笑みを浮かべるみんなのアイドルは、角度によってはラスボスの風格を纏っているようにも見えた気がした。

 この試験の鍵を握るであろう人物だから、勝手にそう思えてしまうだけかもしれないけど。

 

 

 

 





佐倉(こいつなんで他のクラスの女子についてこんな詳しいねん)(°д°)ポカーン

ハゲ(お、なんだ? これ食いたいんか?)╰( ^o^)╮肉ポイー

綾小路(そうはならんやろ)(´・ω・)ナンデヤネン

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