明るい筋肉 作:込山正義
午後11過ぎ。
試験の結果発表が行われてすぐ、俺はとあるカフェを訪れていた。
西川たちとの話し合いで使用したこの場所は、綾小路と堀北の密会場所でもある。堀北にご執心中の龍園もこの場所に現れると思って足を運んだわけだが……どうやらビンゴだったようだ。
「なんだ、お前まで来たのか」
「ああ、お前たちならここに居ると思ってな。……予想よりも大所帯だったが……」
そこには堀北、綾小路、龍園の三人だけでなく、平田や櫛田、一之瀬や神崎までもが集合していた。
なんだこれ。今から打ち上げでも始まるのか?
「龍園くんに話を聞きたいのは私たちBクラスも同じだからね」
一之瀬が言う。ま、それもそうか。龍園のせいで被害に遭ったのは何もAクラスだけではない。2グループ分の裏切りとなると、BクラスやDクラスに入るはずだったプライベートポイントも300万ほど消失する形になる。
「そうか。なら早速聞かせてもらうとしよう。龍園、この結果はどういうことだ?」
「いちいち分かり切ったことを聞いてんじゃねえよ。お前には心当たりがあるはずだぜ、葛城」
各クラスのリーダー格たちに囲まれ一人孤立状態の龍園。にもかかわらず、彼は不敵に笑ってみせる。
「……どういうこと?」
「俺はただ、無人島での借りを返してもらったに過ぎないって話さ」
AクラスとCクラスの取引を、堀北や一之瀬たちは知らない。
その言葉の意味が理解できたのは、当事者である俺と龍園のみだ。
「無人島試験の結果を見て、最終的にそのクラスがどれだけのポイントを残していたかを推測するのはそう難しくない。だからお前たちも疑問に思っていたはずだ。Aクラスはポイントを残しすぎている、とな」
Aクラスが最終的に残していたポイントは240ポイント。坂柳不在により270ポイントスタートであったため、無人島生活で僅か30ポイントしか使っていない計算になる。
疑問に思うなという方が無理な話だった。
「それに、Cクラスが関わっていたってこと?」
「そういうこった」
AクラスとCクラスの同盟。
これで、堀北のリーダーすり替え作戦がCクラスにも刺さらなかった理由が判明したことになる。平田が僅かに納得の表情を見せていた。
「……あの取引は、無人島試験単体で完結していたはずだが?」
「そうかもな。だが、お前の心情は違う。あれは平等な取引ではなかったと、そう考えている。試験結果だけを見れば分かりやすい」
Aクラス240ポイント。Cクラス100ポイント。それが無人島試験の最終的な結果だ。これに加え、全員が快適な1週間を送れたというのもAクラスにとって大きく働いている。
原作では毎月2万プライベートポイントの支払いが生じていたが、この世界ではそれもない。クラス内に裏切り者を作られた可能性は否めないが、それだって坂柳の手に掛かれば炙り出しは容易だろう。
つまりあれだけの利を得ておきながら、目に見える負債はゼロに近いということになる。
「Aクラスだけを狙い撃ちにして、他のクラスには手を出さなかったのもそれが理由か?」
「そういうこった。これ以上欲張れば、お前は本気で動き出しかねないからな。だからそのギリギリを攻めた。どうだ? 俺の推測は間違っているか?」
……たぶん、間違っていない。
4クラス合同会議の場でああ言った以上、その発言には責任を持つべきだ。
だが、心はそれを否定している。これで借りは返せたと、そう納得してしまっている。
俺の心の内を、龍園は完全に見透かしていた。
「……それでもお前なら、俺の報復など恐れず全てのグループを結果3で終わらせることも出来たはずだ。そうしなかったのはなぜだ?」
「分の悪い賭けは嫌いじゃないが、横合いから邪魔されるのは大嫌いでな。これから俺はDクラスを潰す作業に入る。その次はBクラス。最後にテメェらAクラスだ。そう心配しなくても、すぐに相手してやるさ。だからそれまでは大人しくしてろ」
その言葉は少しだけ意外だった。龍園なら、纏めて相手にしてやるくらい言いそうなものだと思っていた。
同時に戦ったら流石に負ける。そう聞こえてしまったのは気のせいだろうか。
……いや、気のせいではないのかもしれない。
最後に勝つためならば何でもする。一時の敗北や屈辱も受け入れる。出来る限り多くの手段を模索し、あらゆる事態を想定し、最も大事な線引きは見誤らない。
こいつはそういう男だったはずだ。
「そういうことなら仕方ないね。私たちも葛城くんにはお世話になってるし、この一件で今までのことがチャラになるならむしろ望むところかな」
話を聞いた一之瀬は、お互いの関係性を一度白紙に戻すことを提案してきた。
これまでの貸し借りは全て無し。恩や仇もリセットする。
それが俺のために紡いだ言葉だということは嫌でも理解できた。
世話と言われても、俺が彼女たちにしたことなんてほとんど思いつかない。せいぜいが過去問を共有したくらいのものだ。無人島でも軽く手伝いをした記憶はあるが、それはリーダー当てによって消し飛ばした。
挙句の果てに今回の試験での脅し文句。
むしろ嫌われて当然くらいの行いをしている気がする。
「それに葛城くんに粛清とか、最初から求めてなかったしね」
え、そうなの?
チラリと見れば櫛田も小さく頷いていた。『お前には無理だろ』とでも言いたげだ。
いや、待ってほしい。俺が本気を出したら結構すごいことになるからな?
ペーパーシャッフルに少し介入するだけで、まず櫛田を退学に追い込める可能性がある。
次に龍園と綾小路の戦いが終わった後にどうにか手を加えると、龍園の退学及び軽井沢の無力化を謀れる。
一之瀬が過去に起こした事件が露呈する際、綾小路が裏で動かなければ一之瀬が壊れるルートが生まれる。
クラス内投票で賞賛票を山内に集めれば、綾小路を退学に追い込むことも可能かもしれない。
卒業式で兄と和解しなければ、堀北の成長がそこで止まる可能性も浮上する。
このように、実行できるかは別として、原作知識の利用の仕方はいくらでも思いつく。
改めて考えるとやばいな。分かっていたことだが、取り扱いには厳重な注意が必要そうだ。
「でも、忘れてないかな龍園くん。Aクラスが手を出さないとしても、私たちBクラスはその限りじゃないよね」
「今までのことは水に流すんじゃなかったのか?」
「あはは、冗談きついなぁ。Cクラスに喧嘩を売られた記憶はあるけど、恩を売ってもらった覚えはないからね」
「だろうな。ま、Bクラスとの敵対は今更の話だ。BとDが協力関係にある事実を知らないとでも思ったか?」
「だったら、Aクラスとの関係は続けた方が良かったんじゃない?」
「バカ言うな。お前たち雑魚を相手取るのに、誰かの助けなんて必要ねえよ」
笑顔で睨み合う龍園と一之瀬。
集まった面子が面子なだけに、いつ戦いが始まってもおかしくない雰囲気がそこら中に漂っている。今が試験中じゃないからこそ、何が起こるか分からなくて気が気でない。
「というわけだ鈴音。俺の最初のターゲットはDクラス。次の試験では徹底的にお前を狙い撃ちにして、身も心もズタズタにしてやる。二学期を楽しみにしておくんだな」
龍園は立ち上がり、堀北を見下すような姿勢でそう言ったあと、尊大な態度のままカフェを後にした。
とりあえず一安心。場外乱闘は起こらずに済んだ。
「じゃ、神崎くん、私たちも戻ろっか」
「そうだな。夜更かしは健康を害する」
一之瀬と神崎が動き出そうとしているのを見て俺もそれに続く。
「俺も戻る。クラスの皆に謝罪をしなくてはならないからな」
「あ、そっか。なんか忘れそうになるけど、今回の最下位はAクラスなんだ……」
「……一之瀬、死体蹴りは良くないと思うぞ……」
「ああ、ごめん! そういうつもりで言ったんじゃないの! ……無人島の試験も合わせたら、最下位は私たちBクラスだしね……」
ズーン、と落ち込む上位クラスのリーダー2名。下克上はやる側と見る側は楽しいが、される側は辛いものだ。
まあ、俺には落ち込む資格すらないわけだが……。
一之瀬が顔を上げる。すぐに立ち直った彼女は、戦意を滾らせながらいつもの笑顔を浮かべていた。
「確かに今回は不覚を取ったかもしれない。──でも、次は負けないからね!」
グッと握り拳を作る姿からは敗北を引き摺っている様子は見られない。
Bクラスのみんなと力を合わせればどんな困難も乗り越えられると、そう信じているのだろう。
「あ、それと、貰ったポイントはありがたく使わせてもらうね」
最後にそう言い残し、一之瀬たちも去って行った。
試験の結果で手に入れたポイントに対して感謝を述べる必要など無いというのに、本当に律儀なことだ。
二人の姿が見えなくなってから、遅れて俺も帰路につく。
その道中、ゆっくりと歩きながら一人考えを巡らせた。
弥彦救済のために始めたポイントの積立。1000クラスポイントを維持するとして、一人あたり5万ポイントを20人分。例のクラス内投票があるのは3月だから、合計で12ヶ月分。つまりそれだけだと1200万ポイントまでしか貯まらない計算だった。
だが今回の試験で元葛城派のメンバーたちは合計で750万ポイントを手に入れた。つまり条件は概ねクリアされた形になる。
クラスとしては敗北したが、当初の目標だけは達成した。だからとりあえず良しとしよう。強制的に退学者を出すような理不尽な試験は、後にも先にもあれだけだと信じたい。
同時にBクラスやCクラスもポイントの無駄使いをしなければ3月までに2000万ポイントまで届くはずだ。無人島で俺が龍園の取引を受けなかったことで、彼には退学フラグが、一之瀬には南雲との交際フラグが建設されていたが、その憂いも一先ずはなくなったと見ていいだろう。元から定められていた事ならまだしも、俺のせいでそうなったとなればどうしてもやり切れない気持ちになってしまう。
問題はDクラスだ。現状のクラスポイントとメンバーの特徴から考えてみても、2000万ポイント貯めきれる未来がどうしても見えない。今回で2000万ポイントを手に入れたとしてもそれは変わらなかっただろう。たぶん、3月まで同じ額は残っていなかったはずだ。
加えて、Dクラスが2000万ポイント保有していると事態が悪化する恐れもある。それが退学回避に必要なポイントの引き上げだ。
そもそもクラス内投票とは、綾小路を退学にすることを目的として行われる試験だ。つまり綾小路が退学にならない説が浮上すれば、月城がその対策を行う可能性が出てきてしまう。
そんなことをされてしまえば被害を受けるのはDクラスだけでは済まない。今まで貯めてきたポイントが無意味になることすら考えられる。
そういう意味では、Dクラスの誰かを確実に救う手立ては存在しないのかもしれない。
対抗策が思いつかない点でいえば、俺にとって厄介なのは綾小路よりもむしろ月城の方だ。
生徒と教師の立場の違い。それが重くのしかかってくる。
前世がなんだというのか。原作知識がなんだというのか。
どれだけ強力な武器を保持していたとしても、扱う人間が未熟なら全くもって意味がない。
俺は己の無力さを感じずにはいられなかった。
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子(鼠)──裏切り者の正解により結果3とする。
丑(牛)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
寅(虎)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
卯(兎)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
辰(竜)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
巳(蛇)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
午(馬)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
未(羊)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする。
酉(鳥)──裏切り者の正解により結果3とする。
戌(犬)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする。
亥(猪)──裏切り者の正解により結果3とする。
Aクラス
-100クラスポイント
+1400万プライベートポイント
Bクラス
クラスポイント変動なし
+1500万プライベートポイント
Cクラス
+100クラスポイント
+1650プライベートポイント
Dクラス
クラスポイント変動なし
+1550万プライベートポイント
****
「完敗、ね……」
残る人物が二人だけとなったカフェの中、堀北はポツリとそう洩らした。
「そうか? 無人島に続いてDクラスは今回も2位。上出来じゃないか?」
「……あなた、分かっていて言ってるでしょう」
もちろん、と綾小路は心の中で頷く。
今回の船上で行われた特別試験。確かに結果だけを見ればDクラスは僅差とはいえ2位だ。クラスポイントこそ増えなかったものの、Aクラスとの差も縮まっている。不良品の集まりと呼ばれていた事実を考慮すれば、十分に健闘したと言えるだろう。
だかそれは、過程を無視した場合の話である。
「今回私は何も出来なかった……いえ、何もさせてもらえなかった、が正しいかしら」
全てが決まったのは一回目のグループディスカッション直後。
作戦を練る暇もそれを実行するタイミングも与えられぬまま、試験はその瞬間に九割以上が終了した。
何も出来なかったのは綾小路も同じだ。もしも兎グループの優待者が他のクラスにいたならば、一回目のディスカッションの間に優待者を割り出しクラスポイントを稼ぐことも出来たかもしれない。
しかし実際のところ、兎グループの優待者は綾小路と同じDクラスの生徒だった。
これに関しては運が悪かったという他ない。だが運も実力のうちという言葉もある。故に、綾小路はそれを嘆くようなことはしなかった。
「このままじゃダメね。あなたは以前、私に対してもっと周りと協力することを覚えろと言ったけれど、その大切さを身をもって実感したわ」
堀北鈴音にDクラスの全員を動かせるだけの発言力があれば、結果はまた違っていたかもしれない。
1学期の間ずっと貧乏生活を送ってきたDクラスの生徒たちは、僅かなクラスポイントよりも50万という大金を優先した。
後のことまで考えるとクラスポイントを取った方が有利に働く。最下位のDクラスだからこそ、Aクラスを目指すためには試験を一つでも多く勝利で終わらせるべき。いずれAクラスに上がり裕福な暮らしをさせてやるから、もう少しの間だけ我慢してほしい。そんな堀北の主張にクラスメイト全員が耳を傾けてくれるくらいの信用があれば、BクラスやCクラスと手を組んでAクラスとの差を今よりもっと縮められていたはずだ。
今の堀北では平田や櫛田の発言力には敵わない。それでは上のクラスを目指すのは難しいと、綾小路はそう考えている。
「でも、葛城くんはどうやって各クラスの優待者を把握したのかしら」
己に対する反省を終えた堀北は、次いで試験の敗因を探る作業に入る。
「優待者には法則があったからな。それで判断したんじゃないか?」
「彼が知ることが出来たのは自分のクラスの3人だけ。法則性がそれだと決めつけるには材料が不足しているんじゃないかしら」
各クラス毎で法則性が違うという説を考慮しないわけがない。それでもあんな大胆な行動を起こしたからには確実な証拠があったはずだ。
クラス内にAクラスのスパイが紛れ込んでいる可能性が高いと、堀北はそう考えているのだろう。
「試験内容の説明の時、クラスの垣根を一度無視して考えろみたいなことを言われたのは覚えているか? それにAクラスの優待者は鼠、鳥、猪とかなり離れていた。これらの状況証拠から、クラスやグループに関わらず法則性は一緒だと判断したんじゃないか?」
「……それでも、確実性には欠けるわ」
「それでもいいんじゃないか?」
「……どういうこと?」
具体性のない発言に、堀北がやや苛立ちながら聞き返す。
「あのリーダー会議を行った時点で、葛城は優待者に当たりさえ付けていればそれで十分だったってことだ。あの場にはクラスの優待者を全て把握している龍園や一之瀬、平田がいた。話し合いをしながら反応を見れば、予想を確信に変えることも出来たはずだ」
「そんなことが、本当に可能だと言うの?」
「さあな。だがそうだと仮定すると、葛城と同じグループにいた櫛田は一回目のディスカッション中に優待者だと見破られた可能性が高い。これでヒントは3から4つに増える。あとは猿グループを裏切った時の反応から、猿グループの優待者がBクラスの人間だと判断したんだろう。個人までは特定できないから、その時の開示情報は12分の4.3ってところか。他のグループで優待者を見抜いたAクラスの生徒が葛城に連絡していた可能性もある。10人近くから1人の優待者を見つけるより、1人の優待者候補を白か黒か判断する方が容易だからな」
「……それでも、まだ半分かそれ以下じゃない。それに、猿グループは結果3で終わっているわ」
「そうだな。裏付けが2回取れたとはいえ、まだ確実とは言えない。クラスメイトからの連絡があったとしてもそれは同じだ。だが思い出してみろ。試験の最終日に優待者を共有する際、葛城は自分のクラスの優待者をいち早く告げることで他のクラスにも自主的な公開を誘導していた。別に、葛城が全ての優待者を順番に発表しても良かったはずなのにそうしなかった。そういう意味では、猿グループがたとえ結果4だったとしても最終的な結末はさほど変わらなかっただろうな」
人のいい一之瀬や平田は、葛城に倣って自らのクラスの優待者を促されるまま口にした。
すでに会議が終了し方針を決めた後で試すような真似はできない。そんなことをすれば今度こそAクラスの裏切りで試験が終了してしまうかもしれない。
そんな心理を利用された。
「……法則が合っているという確実な証拠はどこまで行っても得られない。だから彼は結果3ではなく結果1を狙った、ということ?」
「それもあるかもな。だが、一番の理由は話し合いの場でも言っていた、出来るだけ多くのプライベートポイントが欲しいってやつなんじゃないか? Aクラスの維持に絶対の自信があるなら、退学者が出ることを最も恐れていても不思議じゃない」
「坂柳さん、だったかしら。そんなに優秀なの?」
「さあな。だが葛城が信を置く人物だ。生半可じゃないことだけは確かだろう」
二学期からは別のリーダーが指揮を執るから、ここでいくら失敗してもAクラスが危機に陥ることはない。あの時の葛城からは、そんな確信にも似た自信が表れているように見えた。
「ま、今の話は全部オレの憶測だけどな。クラスにスパイが紛れ込んでいる可能性もゼロじゃない」
「でも、あなたがそう言ったからにはそれなりの理由があるんでしょ?」
「ああ。……葛城は、オレの実力に気づいている節がある」
「それって……」
そう、綾小路は己の力をクラスメイトにもひた隠しにしている。知っているのは堀北を含めた極一部の生徒のみ。彼女たちが裏切り者だと仮定するより、全てを見透かす観察眼を持っていると考えた方がよっぽど現実味があるというものだ。
あとは教師と繋がっている可能性も否めないが、それは同じ教師である茶柱にでも探ってもらえばいいだろう。どちらにしろ、可能性はかなり低いと考えている。
「強敵ね……」
堀北の言葉に、全くもってその通りだと綾小路は頷く。
──もし、一目見ただけでその相手の本質を見抜き、どう動くかまで予測できるのだとしたら。
今まで葛城から感じていた違和感。常に先回りされているような不気味さ。
その正体に、勘づき始める綾小路。
──今回起こした行動さえも、筒抜けになっていると見た方がいい。
船上試験の裏で、綾小路は軽井沢という駒を手に入れた。
だがそれも葛城の想定内である可能性は高い。そうなると、どうしても次の駒が必要になってくる。制御が可能な範囲で手を広げ、想定外を狙って作り出す必要が出てくる。一人だけだとどうしても限界があるのだ。
──未来視レベルの観察眼は確かに厄介だ。
使えそうな駒を脳内でリストアップしながら、綾小路は考えを巡らせ続ける。
──だが、知られていることを前提に動けば、やりようは幾らでもある。
葛城との対決を想定していることに、本人はしばらく気づかなかった。
Aクラス:1231
Bクラス:896
Cクラス:762
Dクラス:247