明るい筋肉   作:込山正義

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海パン一丁になれるとかご褒美かな?



プールサイドの英雄

 

 どれだけ授業態度が悪かろうと先生が注意しないため、他クラス(特にDクラス)では私語内職しまくりの無法地帯が形成されつつあろうことが容易に想像できそうな今日この頃。けれどそこは流石のちに優秀だと判明するAクラスと言うべきか。特に不良っぽい態度を取るものは存在しておらず、全ての生徒が至極真面目に授業を受けていた。

 が、何事にも例外は存在するもの。昼食後で眠くなったり、体調が優れなかったり、少し気を抜いてしまったりなどで些細なミスをしてしまうことは誰にでも起こり得る自然の摂理と言えた。

 

 それは1時限目の英語の授業でのことだった。

 俺の右隣に位置する隣人がうつらうつらと船を漕ぎ出し始めようとしていた。

 まだ抵抗はできているようだが、万が一の時はA種族値150から繰り出されるめざましビンタも視野に入れなければならないかもしれない。

 クラスポイントは大事なのだ。授業態度が悪いと判断されない範囲でさりげなく観察を続ける。

 その後英語の授業は恙なく進行し、彼が眠気に抗いきる形で問題なく1時間目は終了した。

 しかしまだ安心はできない。このまま何も手を施さなければ次の授業では本当に居眠りしてしまうかもしれない。

 色々考えた末、俺は一言注意を促すことに決めた。

 

「弥彦、集合」

 

 先生が教室を出て行ったと同時に声をかける。

 

「え……は、はい!」

 

 弥彦が椅子ごとこちらを向く。

 お手本のような姿勢だ。そんな緊張しなくてもいいのに。面接か。

 

「先程の授業中、随分と眠そうにしていたようだが?」

「あ、はい。……その、最近葛城さんを見習って筋トレを始めたんですが……まだ慣れてないので疲れが溜まっているというか……」

「なるほど」

 

 筋トレが理由なら仕方ないね……なんて言うと思ったか! 

 

「弥彦、あれがなんだかわかるか?」

 

 言いながら、俺は教室の隅の天井付近を指差す。

 

「えーと……どれですか?」

「あれだ。あそこにある黒っぽいやつだ」

「ああ、あれですか。…………なんですか、あれ」

「おそらく監視カメラだ」

「監視カメラ!?」

 

 気づかないのも無理はない。普通は教室にカメラが仕掛けられてるなんて想定しないし、あってもあまり気にしないからだ。

 そういう意味では、万引き常習犯である神室なんかは早い段階から気づいていると思われる。あと坂柳は言わずもがな。それに鬼頭あたりも気付いてそう。なんとなく。第六感とかで。

 

「なんで監視カメラなんて……」

「授業態度を観察しているのだろう。監視カメラがあれば、授業を行う教師では把握しきれないところにまで目が届く」

 

 板書する時なんかはどうしたって生徒から目を離しちゃうからね。

 

「入学初日、生徒に対する評価によって貰えるポイントが変化する可能性があるという話をしたのを覚えているな?」

「はい。無料の商品の存在から見ても、葛城さんの予想は間違いないと思います」

 

 盲信よくない。そこはせめて信憑性があるくらいにしといてくれ。

 

「その査定項目に、テストの成績だけでなく授業態度の良し悪しが含まれているとしたら?」

「授業態度が悪いとその分ポイントを減らされる……ってことですか……」

「そうだ。ところで弥彦、授業態度が悪いとは具体的にどういうものが挙げられると思う」

「そりゃあ、私語をしたり、携帯をいじったり……あとは居眠りをしたりとか──」

 

 そこまで言って弥彦は表情を変える。

 いいぞ弥彦。自分で気づけたな。そのまま退学回避可能ラインまでレベルアップするんだ。

 

「同様に、遅刻や欠席にも気を付けた方がいいだろう。当たり前のことを当たり前にやっていれば、とりあえずマイナスにはならないはずだ」

「そ、そうですね」

 

 ここまで言ったが、これだけだと少しくらいならという迷いが生まれてしまう可能性もある。

 だから最後の一押しに切り札を使わせてもらうとしよう。信頼を利用するようで心苦しいが、本人のためでもあるから許してほしい。

 

「それと評価が個別かどうかもまだわからない。もしかしたらクラス別かもしれないし学年別かもしれない。その他の認知していないグループ分けが為されている可能性もある」

「つ、つまり、俺のマイナス評価のせいで、葛城さんにも迷惑がかかるかもしれない、と……?」

「あり得ない話ではない」

「ぜ、絶対居眠りなんてしません! 死ぬ気で授業受けます!」

 

 そこまでしろとは言ってない。が、これで弥彦は一先ず問題ないだろう。

 筋肉教は敬虔な信徒を持てて嬉しく思います。神に祈りを! 

 

 

 

 ****

 

 

 

 その時を心待ちにしていた男子は多いだろう。

 事前に知らされていた通り、その日の体育は水泳だった。

 4月なのに水泳。温水プール最強説。年中泳ぎ放題の水泳部とかかなりのアドバンテージを得ていると思う。

 

「うわっ、わかってたけどえっぐい肉体してんなー」

「流石です葛城さん!」

 

 俺は一般男子の例に漏れず水泳の授業を楽しみにしていた。女子の水着姿を期待していたというのもあるが、この肉体美を堂々と見せつけられるからという理由も大きかった。

 露出趣味はない。ただ努力の成果を披露したいだけだ。高円寺の言葉を借りるわけではないが、非常に美しいと自負している。

 

「あっあっ、あ、ああっ、あわわ、あわわ、あばばばばばば」

 

 目の前の西川なんて半裸の俺を見て語彙力を失っていた。

 瞬きもせず全身を凝視したかと思うと、両手を合わせて拝み始めてしまう。

 前屈みになったことで胸元が強調される。等価交換として少しくらい不躾な視線で見てしまっても許されるだろう。中身はご覧の通りこの有様だが、顔もスタイルも悪くなければそれでいいと思えてしまうのだから男なんて単純だ。

 

「うわ、なんだあの胸筋」

「でっかーい」

「背中側もやばいぞ」

「葛城くん、ちょっとポーズ取ってくれない?」

 

 着替え終えた人が続々と集まり、気づけば参加者1人のボディビルコンテストがプールサイドを会場として開催されていた。

 

「女子じゃなく男子の水着姿が一番注目を集めてるとか、よく考えたらおかしな状況だよな」

 

 橋本の呆れたような声が聞こえてくる。

 安心しろ。その分俺が女子の方を拝むからこれでプラマイゼロだ。

 授業の欠席がポイントの減少に影響するかもという話を教室でしたからか、ずる休みをしている女子はかなり少ないように思える。体育を禁止されている坂柳や女の子の日といったやむを得ない事情を除き、全ての生徒が参加しているのではないだろうか。

 狙っていたわけではないが嬉しい誤算もあったものだ。

 

 

「よーしお前ら集合しろー!」

 

 ドミレソから始まる聞き慣れた音楽が聞こえてきたと同時、俺に負けず劣らずのマッチョ体型の先生がプールサイド全てに聞こえるような声で授業の開始を合図した。

 

「見学者は4人だけか。他のクラスに比べてかなり少ないな。みんなやる気があるようで先生は嬉しいぞ」

 

 ニカっと笑うマチョ先生。男前な笑みだ。暑苦しさを覚える者もいるだろうが、個人的には好感が持てる。熱血系の教師は嫌いじゃない。

 

「まずは準備体操。その後は実力を見るためにも早速泳いでもらう」

「はい! 私泳げません!」

「なに、心配はいらない。俺が担当するからには必ず夏までに泳げるようにしてやる。泳げるようになっておけば必ず後で役に立つぞ?」

「頑張ります!」

 

 先生の雰囲気に当てられ、何やら生徒の方までもがやや熱血になっている気がする。

 もしかして俺のせいもあるかもしれない。筋肉は気分を高揚させる効果を含んでいるからな。

 

 その後全員で準備体操をし、ウォーミングアップ目的で軽く泳いだ後、お待ちかねの50メートル自由形による競泳大会が開催された。

 

「これから男女別に競争してもらう。1番速かった奴には俺から特別ボーナスで5000ポイント。逆に1番遅かった奴には補習の義務をプレゼントしよう」

 

 泳ぎに自信のある者からは歓声が、ない者からは悲鳴が上がる。

 

 最初は女子からのスタートだった。

 優勝候補は神室だろうか。なんか運動神経良さそうだし。

 

「葛城くん! 優勝したらご褒美に筋肉触らせてね!」

 

 見える範囲の筋肉のつき方からおおよその運動能力に当たりをつけていると、スタート台から西川のやる気に満ち溢れた声が聞こえてきた。

 そういえば彼女も優勝候補筆頭か。運動部所属であるし、筋肉フェチを公にしているだけあって己の肉体もそれなりに鍛えあげられている。

 

 笛が鳴り1組目の女子たちが一斉に飛び込む。

 優勝した時のことを先に言うだけあって西川は見事な入水だ。その後も綺麗なフォームで他者を突き放し、そのまま一位でゴールした。

 

「やった!」

 

 ピースサインを送ってくるのでサムズアップを返す。

 お前の筋肉の躍動、しかと見届けたぞ。

 

 続く2組目には神室がいた。

 しかし予想に反して彼女は5人中3位と良くも悪くもない成績だった。フォームは悪くないのだが力強さが足りない。あれはおそらく手を抜いていたな。真面目にやれば予選通過くらいできたはずだ。決勝に進めばもう1回泳ぐことになるからそれを嫌ったのだと思われる。

 

 最後の3組目は水泳部所属の女子がぶっちぎってた。男子でもほとんどの奴は歯が立たないだろう。やはり本職は違う。

 

 そして行われた予選1位通過者3人による決勝戦。

 西川は懸命に泳いでいたが、結果は残念ながら2位だった。いや、女子の中で2番目なのだからそれでもすごい。十分過ぎる。よく頑張ったと褒めてやりたい。

 しかし1位になったらという条件をつけたのは他でもない西川自身。だからこの肉体を触らせてあげるわけにはいかない。別に1位なんか取らなくても、普通に頼んでくれていれば俺も普通に承諾していた。だが言葉にした以上約束は守った方がいいだろう。この敗北を糧に更なる成長を遂げてくれ。

 地面に両手両膝をつけて項垂れる西川から視線を外し、俺はレースに備えるべくストレッチを開始した。

 これが俺の、動的ストレッチ……!

 

 

 その後すぐに男子の1レース目が始まった。

 結果は鬼頭がトップ。スタートからゴールまで文句の付け用がない実に見事な泳ぎだった。無音泳法とでも呼ぶべきか。無駄が極限まで削ぎ落とされたことで、力の全てを推進力に変換しているのではと思わせるような静かなクロールだった。抵抗を無視して水中を突き進む矢を彷彿とさせる。忍者か何かだろうか。

 

 

「葛城さん! 頑張ってください!」

 

 俺は2組目だ。

 スタート台に上ると、弥彦の期待するような声が聞こえてきた。応援してくれるのは嬉しいが、もう少し自分のことを重要視してほしい。弥彦は1レース目で6人中5位だった。西川を見習えとは言わないが、もうちょっと悔しがれ。

 

 先生の掛け声の後に笛が鳴る。

 それと同時、全身の筋肉とバネをフルに使い思いっきり台を蹴って前方に大きく跳躍する。

 爆発的な勢いを殺さぬよう入水。からの力任せのクロール開始。

 肥大した筋肉により水の抵抗を人一倍受けるこの身体だが、それ以上の推進力があれば何も問題はない。髪による抵抗力がゼロであることを考えればむしろプラスだ。

 筋肉にものを言わせた飛び込み。筋肉にものを言わせた水掻き。筋肉にものを言わせたバタ足。

 水泳部や鬼頭とは対照的な技術のへったくれもない力任せの泳法。荒々しいと自覚しているが、それでも負けるつもりは毛頭ない。

 隣のレーンの泳者に大迷惑なくらいの水飛沫を上げながらそのままゴールする。顔を上げ周りを見る。結果は俺が1位。タイムは25秒25だった。笑えない。

 

「やるな葛城。荒削りでこれだけタイムを出せるのは驚異的だぞ。水泳部に入って技術を磨けば全国も狙える」

 

 なんか誘われたが丁重にお断りしておいた。筋トレと勉強の時間が減るのはできれば遠慮したい。筋トレ部かボディビル部なら入ってたかもしれないけど残念ながらこの学校には存在していなかった。

 

 その後行われた3レース目は水泳部所属のやつが優勝した。

 これで決勝に進む3人が決まったわけだ。俺、鬼頭、そして水泳部(ガチ勢)。原作では5人くらいだった気がするがこの際目を瞑る。実際予選1位が決勝に進めるというルールの方がわかりやすくていいと思うし。

 

 

「葛城さん! 頑張ってください!」

 

 本日二度目の声援を受けつつスタート台に上る。

 手を抜くつもりはない。優勝という名誉と5000ポイント獲得を全力で狙いにいく。

 目立つ目立たないなんて今更だし、この筋肉でへぼかったら見せ筋だと馬鹿にされる。俺や俺の頭を馬鹿にするのは構わないが、俺の筋肉を馬鹿にすることだけは絶対に許さないし許されない。

 だから本気を出す。それ以外の選択肢など存在しない。

 

「位置について」

 

 本場の水泳部が見せてくれた構えをトレースし、自分の身体に最適となるよう昇華させる。

 

「よーい……」

 

 スタートダッシュは大事だ。ここで差をつけられれば優勝に一歩近づき、逆に失敗すれば一気に遠のく。

 コンマ1秒のロスもしたくない。そのためには笛の音と同時に飛び出すことが必須となる。

 今まで先生は決まったタイミングで笛を吹いてきた。『位置について、よーい』という前置きの掛け声を一定のリズムで行い、その後少しだけ間を開けて笛を鳴らす。

 最後の『い』が聞こえてからおよそ1.3秒後。それが笛の鳴るタイミングだ。

 しかし人間というのは音が聞こえてから動き始めるまでに最低0.1秒は必要だと言われている。つまり1.3秒後のタイミングで飛び出せばフライングと判定されかねない。だからその分の0.1秒を加えた1.4秒後ジャストに力を解放することにする。

 あの先生は悪戯を企てるような性格ではない。男子決勝だけスタートのタイミングをずらすなんてことはしないだろう。

 雑念は不要。ただ意識を集中させその時を待つ。

 

 …………今! 

 

 よし、スタートダッシュは完璧。隣を確認する余裕はないがおそらく1番に飛び出せただろう。

 そのリードを守るためにも45度の角度を意識して一点入水。イメージは嘴から真っ直ぐ刺し貫くように潜るペンギンだ。

 スタートが成功したら後はただひたすら全力で泳ぐのみ。予選のタイムだけだと俺は2位。無駄なことを考えている余裕はない。

 筋肉を信じろ! 足をバタバタしろ! 腕をぐるんぐるん回せ!!

 水を裂け! 波を貫け! 大腿四頭筋を加速させろォォォ!!! 

 

 

 

 ──それから数十秒後。

 

 プールサイドには西川の隣で仲良く両手両膝をつき項垂れる俺の姿があった。

 

 





〈坂柳有栖〉
原作:ヒロインの一人。幼馴染枠。ただし恋愛感情があるかは微妙。Aクラスのリーダー。かわいい。杖使い。ベレー帽。ガーター。大天使一之瀬に精神的に追い詰めた鬼畜。学力最下位の須藤がDクラスなのに身体能力最下位でAクラス入りする有能オブ有能。正直綾小路以外に負ける姿が想像できない。発育が悪いことを指摘すると怒る。そんなところもかわいい。11巻の挿絵がベリーキュート。

本作:常に目の前にいるラスボス。
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