明るい筋肉   作:込山正義

5 / 41

暗躍できないのが、マッチョの辛いところだな
どうしても目立っちまう、へへ



過去問? そりゃ手に入れるよね

 

 4月が終わり5月がやってくる。

 入学してからの1ヶ月間、俺は友人作りに精を出していた。最初の1週間は同じAクラスの仲間と重点的に関係を構築し、その後はB、C、D分け隔てなく親交を深めていった。

 5月からはクラス対抗戦という事実が判明してしまう。だから他クラスの生徒と仲良くなれるかどうかはこの1ヶ月が勝負だったわけだが、個人的には中々上手くいったと自負している。

 単純に原作キャラと仲良くなりたいと思う気持ちもあるが、幅広い人脈があればこれからの学校生活でも必ず役に立つという打算的な考えも少なからずある。

 携帯に登録されている連絡先の数はもうすぐ3桁。男版一之瀬、あるいは男版櫛田を目指しているというのは嘘ではないのだ。

 

 あと特筆すべき出来事といえば山菜定食を食べた事くらいだろうか。

 敬遠する者は多いが、原作を知る俺にとってはテレビで紹介された人気商品や漫画肉のようなもの。一度は試しに食べてみたいと思っていたのでタイミングを見て実行した。

 そして実際に食べた感想だが、味はまあ普通だった。しかし如何せんタンパク質が足りない。生きていくだけなら問題ないが、筋肉の発達を考えるとそう何度も食べたいとは思えなかった。

 

「みんな、しっかりと席についているな。欠席者もいないようで何よりだ」

 

 5月最初のホームルームが始まると同時、いつものように時間ぴったりに真嶋先生が入室してくる。

 その表情はいつも通り。険しい顔をしているであろうDクラスの担任とは大違いだ。余裕の表れというよりかは、どんな時でもこんな感じというだけなのだろう。

 

「これから朝のホームルームを始めるが、その前に少しだけ質問の場を設けることにする。現在疑問を抱えている生徒は多いだろう。お前たちの中に何か聞きたいことがある者がいれば遠慮なく挙手してくれ」

 

 軽く周りを見渡す。手を挙げる素振りを見せる生徒はいない。

 そっか。んじゃまあ代表してわたくしめが。

 

「先生、よろしいでしょうか」

「葛城か。なんだ」

「先生の仰っていた通り月始めである今日確かにポイントは振り込まれました。しかしその額が先月よりも幾分か少なかったように思えるのですが、これは手違いでしょうか。それともこの額で正常なのでしょうか」

「後者だ。ポイントの振り込みに関することでミスは確認されていない」

 

 真嶋先生が衝撃の事実を口にしたにもかかわらずAクラスの生徒たちの様子からはあまり驚きが見られない。

 その仮定がかなり前から共通認識になっていたが故だろう。現在進行形で阿鼻叫喚の地獄絵図となっているであろうDクラスとは真逆の反応だ。

 

「わかりました。ありがとうございます」

「他に質問はないか? なら説明に移らせてもらう」

 

 言いながら、真嶋先生は手に持っていた筒の中身を黒板に貼り付けた。

 

「この学校ではクラスの成績がポイントに反映される。それがこの結果だ」

 

 己の影響を確かめるために黒板を見る。

 Aクラスの横の数字は970。

 ……え、マジ? なにこれ強い。Aクラス優秀過ぎワロタ。

 原作からまさかの30ポイント増加だ。単純計算で減点行為が半分に減ったことになる。

 いつからか授業中に私語も居眠りも絶対にしちゃいけないような空気が流れてたしそのお陰だろうか。

 やっぱシチュエーションって超大事。お坊さんがお経読んでる最中に会話始める奴とか基本おらんもんね。フルコンボだドン!

 

「お前たちAクラスの成績は非常に優秀だ。これだけのポイントを残せたクラスは過去に存在しない。文句なしで称賛に値する」

 

 真嶋先生がこれだけ褒めるのも珍しい。フラットがデフォだからなんだか妙に嬉しさを感じる。

 

「この970という数字がAクラスの現在の保有ポイントだ。また、この数字に100を掛けた数字が毎月振り込まれるポイントとなっている。学校では通称として前者をクラスポイント、後者の個別で自由に使用できるポイントをプライベートポイントと呼んでいる」

 

 予め知っている内容のため流し聞きしつつ、改めて他のクラスの数字も確認する。

 Dクラスが0なのは既定路線のようなものだからいいとして、問題は他の2クラスだ。

 Bクラスが690。そしてCクラスが510。どちらも原作より上昇している。

 ……Aクラスの誰かから俺と弥彦の会話の内容が他クラスに漏れたか? 口止めをしろと言っていたわけではないので普通にあり得る。

 そう仮定するとDクラスも原作よりはマイナスが減っていていいはずなのだが、それでも0を上回らないあたり原作同様かなり派手にやらかしたのだと思われる。

 史上最高のAクラスと史上最低のDクラス。それでもDクラスの戦力の方が大きいっていうのだからやってられない。1000程度の差なんて実際あってないようなもんだろう。バランス調整を要求したい。割と切実に。

 

「ある程度の仕組みは理解したな? それでは次にもう一つ。先日行われた小テストの結果を発表する」

 

 真嶋先生は追加で紙を黒板に貼り付けた。

 クラス全員の名前がずらりと並び、その横に数字が記されている。

 

 俺の名前は1番上にあった。つまりクラス順位で1番。100点を取ったものは俺以外にもう1人いたが、五十音順的に俺の名前が上に来ている。

 こんな見た目だからって脳味噌まで筋肉でできていると思われるのは心外だ。

 これでも前世は受験生だったのだ。センター前に死んだけど。

 つまり高校の内容など1歳の時には終えていたということ。いくら高3レベルの問題といえど解き方を知っていればどうということはない。

 3位以降は95点が1人、90点が2人、そして85点が半数近く。軽く計算してみたところ平均点は80点ちょい下くらいだと思われる。

 なんだこの優等生クラス。気持ち悪い。

 ちなみに弥彦は60点だった。おま、なにやってんだ! 最下位一歩手前じゃねえか! 最後の3問はいいとして、その他の簡単な問題を5問も落としてんじゃねぇ! 弥彦ォ! 

 

「こちらも4クラスの中でトップの成績だ。この学校では中間テスト及び期末テストで1科目でも赤点を取った場合退学になることが決まっている。赤点ラインはテスト毎にクラス平均の半分で設定されるが……優秀なお前たちのことだ、油断さえしなければまず問題ないだろう」

 

 生徒たちの間で僅かなざわめきが起こる。

 そりゃいきなり退学の話になったら困惑もする。しかも条件がかなり厳しい。名前の書き忘れとか体調不良もアウトなのだろうか。せめて追試くらいは受けさせてほしいものだ。回収の時に細工されたらどないすんねん。ソースはAngel Beats!。

 

「最後にもう一つ。この学校が高い進学率と就職率を誇っていることは知っていると思うが、何も全ての生徒がその恩恵を受けられるわけではない。学校が進路を保証するのは3年終了時にAクラスに在籍していた生徒のみだ」

 

 動揺が大きくなる。

 衝撃事実の連装爆撃。他クラスの生徒の内心が穏やかとは程遠いことは想像に難くないが、追われる側というのもそれはそれで落ち着かないものだ。

 将来がかかっている以上慢心なんてできようはずもない。

 

「後付けするような形になってすまない。だがお前たちが一丸となればクラスを維持するのもそう難しいことではないだろう。まずは3週間後の中間テストに向け準備をすることだ。なに、過度に気負う必要はない。退学を防ぐ方法は存在している」

 

 最後に過去問の存在を仄かし、真嶋先生は退出していった。

 初見の人だと前の話のインパクトが強すぎるせいで聞き逃したり、普通に勉強することが退学を防ぐ方法だと勘違いしそうなものだが、真実を知っている身からすればがっつりヒントを与えているようにしか聞こえないのだから不思議なものだ。

 真嶋先生はノリや雰囲気による冗談をあまり口にしない──もっと言えば無駄な話をほとんどすることがないため、伝えられた内容がマニュアルによるものかどうかは比較的判断しやすい傾向にある。

 これが星乃宮先生や茶柱先生だと普通に意味のないことでも意味深げに口走りそうだから対応にも困りそう。その点でもAクラスは恵まれていると言えるだろう。

 

 

 

 ****

 

 

 

 中間テストを退学者無しで乗り越えるのに一番楽な方法は過去問を手に入れること。

 というわけでその日の放課後、早速行動を開始することにする。思い立ったら吉日だ。

 

「坂柳、少しいいか?」

「あら、葛城くんの方から声をかけてくれるなんて珍しいですね。なんの用でしょうか」

 

 珍しい、か。

 確かに俺から坂柳に声をかけたことなんて今のところ数える程度の回数しかないが、それは逆も同じことだろうに。

 

「唐突だが、坂柳は中間テストに向けて過去問を手に入れるつもりはあるか?」

「過去問……ですか?」

 

 コテンと小首を傾げる坂柳あざとい。あざとかわいい。

 

「なるほど、つまり葛城くんはテストを乗り越えるために上級生から過去問を貰うつもりだと。この短時間でよくそんなことを思いつきましたね」

 

 なんだこいつ。白々しいな。

 

「お世辞はいい。坂柳も思いついていたことだろう」

「何のことでしょう……と惚けるのは時間の無駄みたいですね。はい、退学を防ぐ方法の一つとして視野には入れてましたよ」

 

 そもそも過去問をアテにするというのはそんな突飛な発想でもない。

 ──実力主義を掲げる学校が同じ問題を出すなどという手抜きをするはずがない。

 ──過去問対策も当然してくるはずだ。

 そんな固定観念さえなければむしろ過去問なんてものはいの一番に候補に挙がる。

 実際、中学時代も過去問が役に立つ場面は多々あった。主に実技科目のペーパーテスト。俺の中学だとその中でも特に美術。まんま同じ問題が出ることも少なくはなかった。

 

「ですが実行に移す気は今のところありませんね。そしてそれはあなたも同じではないですか? 小テストの点数を見る限り、わざわざ過去問を手に入れずとも赤点を取る心配はないでしょう」

「退学がかかっているのだから油断はできない。それに過去問は自分のためだけに入手するわけではない。有用だと判断したらクラス全体で共有するつもりだ」

「ポイントのためにAクラスの点数を底上げするつもりだと?」

「そうだ」

「なるほど」

 

 Aクラスの中に赤点を取る危険のある生徒は存在していないが、万が一を考えればあって損はない。

 

「改めて確認するが、坂柳は過去問を手に入れようと自ら動くつもりはない、ということでいいんだな? 坂柳が動くというのなら俺は静観する。無駄なことはしたくない」

「私は今回、過去問を手に入れようと自ら動くつもりはありません。ですので葛城くんの方でお好きに動いてもらって構いませんよ」

 

 よし、確認は取れた。

 これで俺が苦労して過去問を手に入れて、実は坂柳も持ってましたーなんて展開は避けられる。

 

「了解した。では早速上級生のフロアに足を運んでみることにする。呼び止めてすまなかったな」

「いえいえ。しかしもう動き始めるのですね。テストまでまだあと3週間もある。こう言ってはなんですが、少々気が早すぎるのでは?」

「善は急げと言うしな。それに、ちょうど先輩方とも交流したいと考えていたところだ。今回の件はいいきっかけになる」

「そうですか」

 

 そう、上級生にはまだ知り合いがいない。だから交渉は難航するかもしれないが、まあ筋肉があればまあなんとかなるだろう。

 

「気をつけてくださいね。殴り込みだと思われないように」

 

 坂柳は俺をなんだと思ってるんだ。

 生徒会長といきなり戦闘を開始する誰かさんと一緒にしないでほしい。

 

 

 

 ****

 

 

 

 弥彦がいても何かがプラスに働くとは思えないので1人で校内を歩いて回る。

 全くの初対面の相手に話しかけるのはなんかあれだ。せめて一方的にでも知っている相手がいい。

 そう考えアテもなしに放浪する。最初に知っている人物を見かけたらその人に声をかけよう。

 そう決めてからおよそ1分後。

 早くもエンカウントした。

 

「すみません、少しよろしいでしょうか」

「? 私ですか?」

「はい。橘先輩ですよね?」

「そうですけど……」

 

 橘茜。小柄な見た目の生徒会書記様だ。

 3年生相手にこんな感想を抱くのは失礼気もするが、お団子ヘアがとてもキュートである。

 

「えーと、あなたは……」

「すいません、自己紹介が遅れました。1年の葛城です」

「葛城……」

 

 1年という単語に驚かないあたり、2、3年生の生徒の顔はほとんど覚えているものだと思われる。

 それに不躾な視線で頭部を見続けたりしないことにも好感が持てる。

 だが葛城には反応していた。表に出さないだけで内心ではハゲなのに葛城であることをバカにしていたりするのだろうか。

 

「実はテストで赤点を取ったら退学になるという話を聞いて焦っていまして。もし良かったら過去問をいただけないかと思い声をかけました」

「……なぜ私に?」

「生徒会を務める優秀(・・)優しそう(・・・・)な先輩なら頼りになる(・・・・・)と思いまして」

「……はぁ」

 

 あれ、おかしいな、なんだこの微妙な反応は。

 こういう先輩キャラは慕ってくれる下級生に対しては甘々になるというのがお決まりだと思ったのに。とりあえず持ち上げとけばどうにでもなると思ってたのに!

 

 むしろなんか警戒するような目で見られてるぞ。胡散臭いとかと思われたか? 

 筋肉の威圧感は抑えていたはずなんだがな。

 

「……そうですね。……こんなところで話すのもなんですし、少し場所を移しませんか?」

 

 お、やった。もちろん即刻頷く。

 断られるかと思ったけど話は聞いてくれるようだ。

 あとはポイントで過去問を手に入れるだけの簡単なお仕事。97000ポイント入ったばかりだし余裕で足りるだろう。

 

 

 それから橘先輩に先導され移動すること暫し。当たり障りない雑談を交えながら廊下を歩き階段を上りまた廊下を歩いていると、やがてとある教室の前へと辿り着いた。

 表札を見る。そこには生徒会室の4文字が。……が?

 

「ごめんなさい、少しだけ外で待っててもらえますか?」

 

 戸惑いながらも了承の返事をすると、橘先輩は俺を置いて1人で生徒会室の中へと消えていってしまった。

 予想外の待機時間。ボーッと待つだけなのもあれなので今のうちに状況を整理しておく。

 まず最初に考えなければいけないのは、なぜこの場所に連れてこられたのかということ。

 人が居ない場所と考え真っ先にここが浮かんだから?

 いや、おそらく違うだろう。秘密の話をしたいならば他にいくらでも候補はある。わざわざこんなところにまで移動する必要性は薄い。そもそも橘先輩が生徒会室を私用のために独断で使うとは思えない。

 なら、過去問云々とは関係なく、何か別の目的があった?

 あり得る。生徒会室と聞いて、まず最初に思い浮かぶ人物が1人だけいる。耳を澄ませば中から話し声のようなものが聞こえてくることからも、その人物が中で待ち構えている可能性は非常に高い。橘先輩は俺とその人物を引き合わせようとしている。そう考えると一応の説明がつく。

 しかしなぜだ。なぜ橘先輩は俺とその人物を会わせようとする。

 まさか彼の指示だろうか。しかしそうだと仮定しても、やはり理由がわからない。

 知らないうちに何かやらかして目を付けられたのだろうか。

 それとも綾小路のように生徒会に勧誘されたりするのだろうか。

 

 ……そんなわけないか。

 

 入学してまだ1ヶ月。対南雲戦力として使えるかどうか判断するには色々と材料が不足している。それに俺は綾小路と違い、他クラスの訴えを取り下げさせたりもしていない。筋肉に惹かれたとかならわからなくもないが。

 

「お待たせしました。どうぞ中へお入りください」

 

 やがて扉が開き橘先輩がひょっこりと顔を出した。

 困惑しながらも表情は引き締め促されるままに入室する。

 生徒会室には予想通りの人物が待ち構えていた。ゲンドウポーズで静かな圧を放ちつつ、鋭い瞳でこちらを見つめている。

 この学校で知らぬものはいない現生徒会長──堀北学がそこにいた。

 

 予想していたとしても実際に目の当たりにすると困惑してしまう。そんな内心では呆然としている俺をよそに、橘先輩は自然な動作で堀北会長の横へと移動した。

 2対1のような構図が出来上がる。

 なんだこの状況。訳がわからない。

 ボス戦か何かだろうか。

 

 

 

 そうか、やっぱり俺……。

 

 ──橘先輩に、嵌められたのか。 

 

 

 

 




〈綾小路清隆〉
原作:主人公。最強だけど目立つのを嫌う系。1学期の頃は比較的内心が愉快。ただし時を経る毎に段々ロボに戻っていく。やっぱり演技じゃないか(呆れ)

本作:常に思考の隅に置いとかないといけない裏ボス。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。