明るい筋肉   作:込山正義

6 / 41

私の影響でよう実二期かダンベル二期が来るからお前ら見てろよ見てろよ



勝ったな(慢心)

 

「突っ立ってないで座ったらどうだ?」

 

 俺が外で待機している間に橘先輩から話を聞いたのだろう。堀北会長は俺がこの場にいることに疑問を呈することなく着席を促してきた。

 ここで遠慮しても話が進まないと思ったのでお言葉に甘えて会長の正面の席に腰掛けさせてもらう。

 

「橘、悪いがお茶を用意してくれ」

「かしこまりました」

 

 俺が座ると同時、上司の指示により橘先輩が一時的にこの場を離れていってしまう。

 手伝うために俺も立ち上がろうとする。しかし眼鏡越しの鋭い眼光で制される。

 

 ああっ、行かないで! この人と2人きりとかなんか二者面談みたいで緊張しちゃうから! 間に机があるはずなのに飛んでくる威圧感半端ないから! 

 ていうかなんでわざわざお茶なんて用意するんだよ必要ないだろ! 

 ありがたいけどこっちとしてはそんな長話をするつもりはないんだからね! 

 くそっ、こうなったらもうヤケクソだ! 使うぞ、筋肉ガァァァドッ!!

 

「葛城、お前の噂は俺も耳にしている」

 

 そんな感じの破茶滅茶な内心を表に出すことなく黙り続けていると向こうから話を切り出してくれた。

 一体どんな噂だろう。最近シャンプーを変えたことだろうか。

 過去問の話題を振れる空気でもないのでそのまま聞き手に回る。

 

「入試の結果は教師の間でも話題になっていた。筆記試験全教科及び面接試験満点による首席合格。加えて先日行われた小テストでも満点を取ったと聞いている」

 

 情報セキュリティガバガバだなという感想を抱くよりも先にマジかという驚きが感情を占める。

 確かに入試の時はめっちゃ頑張ったけど、それでもまさかミスが一つもないとは思わなかった。新入生代表スピーチのようなものがあれば名だたる面々を差し置いて俺が選ばれてたりしていたのだろうか。なにそれすごい。

 

 堀北会長の言葉に対して、本当は司波達也風に所詮はペーパーテストの点数ですよと返したかった。

 勉強ができるに越したことはない。しかし過信すると必ず痛い目に遭う。無駄とまでは言わないが、勉強だけでは生き残れないのがこの学校の特徴なのだ。

 それを知っているからこそ、テストで100点だったと知っても素直に喜ぶことはできなかった。表面上は。

 内心? そりゃ大喜びですよ!

 満点とかマジかよやったあああああ! 俺すげえええええ!!

 

「さらにお前が所属するAクラスは4月を終えた時点で970ものポイントを残すことに成功しているが──これは偉業に等しい。その功績の裏には1人の人物の呼び掛けが密接に関係していると聞いた。なんでも入学初日にこの学校のシステムを理解していたらしいな。随分と良く頭が回るものだと感心する」

 

 なんだこれ。本当になんだこれ。

 むず痒い。むしろ怖い。

 褒められているはずなのに嬉しさよりも不気味さが先行する。

 

「極め付けは今回の過去問の要求だ。テストを乗り越える手段として過去問の入手を思いつく人間はそれほど珍しくはない。だが時期が問題だ。例年通りならばテストの赤点が退学に繋がるという情報は5月最初のホームルーム──つまり今日初めて一年生に伝えられたはずだ。にもかかわらずお前はすでに動き出している。冷静に対処法を探る柔軟な発想もさることながら、その行動力の高さにも目を見張るものがある。1年の1学期にしてこの順応性。実に見事だ」

「…………ありがとうございます」

「──その反応を見る限り、今言った内容は全て真実のようだな」

 

 あー、なるほど。

 なんでこんな俺を持ち上げ続けるようなことするのかと思ったら事の真偽を確かめてたわけね。

 それなら納得。

 はぁ、緊張した〜。

 俺の知る堀北学とキャラが違うと思ったらそういうことかぁ。

 気分を良くさせて何か無理なお願いでもさせてくるのかとヒヤヒヤした。

 

 そうこうしている間に橘先輩がお盆を持って戻ってくる。

 圧迫面接みたいな雰囲気のせいで喉が渇き始めていたのでちょうどいい。

 

「どうぞ。粗茶ですが」

「ありがとうございます。いただきます」

「会長もどうぞ」

「俺の分まですまない。有り難くいただこう」

 

 丁寧な所作でカップが置かれる。

 書記橘改めメイド橘だ。そう思うだけで彼女の頭についてる二つのお団子も段々と猫耳に見えてくるのだから不思議なものだ。

 制服コス猫耳メイドの橘先輩は俺と会長の前にティーカップを置き終えるとお盆を手にしたままそっと会長の横に移動しそのまま控えた。

 変な想像をしたせいでその仕草すら主人に仕える従者のように見えてしまう。

 末期だ。お茶でも飲んで落ち着こう。

 うん、うまい。橘先輩が俺のために入れてくれたと思うだけで1.2倍くらいうまい。

 

「さて、本題に入ろう。先程までの話からお前の実力を見込み、俺から一つ提案がある」

 

 平常通りの真面目な表情で会長が言う。

 

「葛城、生徒会に入らないか?」

「えぇ!?」

 

 ファ!? 

 ……ちょーっと何を言っているのか本気でわからないですね。

 

 ほら、橘先輩もめっちゃ驚いてる。

 俺も口にお茶を含んでいたら危なかった。カップを置いたタイミングで切り出してくれたからよかったものの、そうでなければ会長の顔面にスプラッシュマッスルを繰り出すところだった。高圧から発射される水流は時に刃物より鋭い切れ味と化す。

 

「か、会長……本気ですか?」

「不服か?」

「い、いえ。生徒会長がそう仰るなら私に異存はありません」

 

 キリッ、じゃないよ! もっと反対して! 自分の意思を持って橘先輩! 

 そんなんだから南雲雅にいいようにやられるんだよ! 

 会長に絶対従うウーマンを脱却するチャンスだろ! ほらっ、今だよ! 今こそ己の殻を破って成長する時なんだよォ! 

 

「ちょうど書記の席が一つ空いている。中学時代に生徒会長を務めていたのだから勝手もわかるはずだ」

 

 原作葛城は生徒会に志願したものの断られた。一方俺は会長自らの手で勧誘を受けている。

 これは対南雲雅のための戦力として期待されていると見ていいのだろうか。

 嬉しい気はする。だが現実問題として、俺では確実に力不足だ。

 会長が判断材料として用いた功績はそのほとんどが原作知識のおかげなのだ。それを取り除いた素の俺の実力なんてそれほど高くはない。綾小路は当然として、坂柳や一之瀬、龍園や堀北といったクラスのリーダー格には一歩も二歩も劣っているし、他にも橋本、神崎、椎名、平田、櫛田、高円寺など、俺より優秀な一年を挙げ出したらそれこそキリがない。俺から原作知識を引いたらこの鍛え上げられた筋肉しか残らないのだ。

 それに俺は南雲雅の考えに反対しているわけでもない。

 

 橘先輩とお揃いというのは魅力的だが、この話は丁重にお断りさせていただこう。

 

「すみません会長。自分に生徒会の役職が務まるとはとても思えません。せっかくの提案ですが、謹んで辞退させていただきます」

「ええぇ!? 生徒会長からのお誘いを断るんですか!?」

「生徒会に入ってくれたら代わりに過去問を譲渡しよう、と言ったら?」

「え、そんな破格の条件──」

「すみません。それでも答えは変わりません」

「この条件でも断るんですか!?」

 

 ガーンと効果音が付きそうな驚き方をする橘先輩。

 会長の元で働けるなんて名誉なことなのに……とか、もしかして生徒会って恐れられてる? とか、そんな声がぶつぶつと聞こえてくる。

 

「……そうか。ここまで言ってダメなら仕方ない。勧誘は諦めるとしよう」

 

 そんな残念そうな顔しなくても大丈夫だよ会長! 1年には単独で南雲次期会長を撃破可能な綾小路っていうスーパーチートマンがいるからね! 

 まだこの時期には会ってないだろうけど、綾小路のことを知れば俺のことなんて眼中から跡形もなく消え去るはずだ。

 

 さて、なんか話はこれで終わりだみたいな雰囲気が醸し出されているけれど、こちらの目的がまだ達成されてないということを忘れてはいけない。

 過去問を手に入れるために生徒会に入るつもりはない。だが過去問を手に入れないとも言っていない。諦めるのはまだ早い。

 ここからは普通にポイントによる交渉に移るとしよう。

 

「会長、ポイントで過去問を譲ってもらうことはできませんか? 可能ならば4月に行われた小テストから3学期に行われるであろう学年末テストまで、会長が1年の時に受けた全てのテストの過去問が欲しいです」

「……随分と欲張りですね」

 

 そんなことない。少なくとも今年の分は貰っといて損はないはずだ。

 来年以降の分は南雲新生徒会長やら月城やらのせいで過去問の効果が薄れる気がするからいらないけど。未来への投資と無駄使いは全くの別物だ。

 

「いくら払える?」

「相場がわかりませんので金額を提示していただけると助かります」

「……なら、20万ポイントでどうだ?」

「えっ……会長、それはいくらなんでも──」

「わかりました」

「即決ぅ!?」

 

 予想以上に高くついたな。弥彦からポイント借りといてよかった。

 まさか使うことになるとは思わなかったけど。

 来月ポイントが入ったらすぐに返さなきゃ。

 

「……冗談だ。半分の10万ポイントでいい」

 

 冗談、か……。

 これはあれか。俺の手持ちポイントを探られたのか。

 Aクラスの生徒が仮に入学後1度もポイントを使用しなかったとして、現在の所有上限額は197000ポイント。

 それを上回る要求に了承したというのは予め他人からポイントを借りていたことを意味する。

 変なところで事前準備の有無とか交渉術を確かめようとしてくるなぁ。

 知られて困ることはないからいいんだけど過大評価だけはやめてくださいね? 

 

「それとポイントの振り込みは橘に行ってくれ」

「えっ、ちょっと生徒会長?」

「葛城が最初に声を掛けたのも、話し合いの場を用意したのも橘だ。ポイントを受け取る権利はある」

「い、いえでもそんな……」

 

 黙って見てると暫く押し問答が続きそうな雰囲気。だから橘先輩は一旦無視して会長だけに話し掛ける。

 

「会長、橘先輩のIDを教えてください」

「えっ」

「ああ、わかった。少し携帯を貸してみろ」

「ちょっ」

「どうぞ」

「あのっ、待っ」

「…………完了だ。ポイントの振り込みまでこちらで済ませておいた。過去問は日付が変わるまでには送らせてもらう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「──ああっ、本当に振り込まれてるぅ……」

 

 無駄のないテキパキとしたやり取りの横で橘先輩が1人項垂れる。

 

「……生徒会長からの誕生日プレゼントだとでも思っておけばいいんじゃないですか?」

「……葛城、なぜお前が橘の誕生日を知っている」

 

 は? 知るわけないやん。

 まさか適当に言ったことが事実だったパターン?

 複雑な表情をしている橘先輩を見兼ねて適当なことなんて言わなきゃよかった。

 なんでも知っているお姉さんみたいな扱いは勘弁だ。

 なんでもは知らないわ。筋肉のことだけ。

 

「いえ、橘先輩の誕生日がいつかとか知るはずないですけど……もしかして本当に今日だったのですか? それはそれは、お誕生日おめでとうございます」

「あ、はい、ありがとうございます……。って違いますよ! 確かにもうすぐですけど今日ではないです!」

 

 そうなのか。

 もし誕生日パーティーとかが開かれるなら参加しようかな。なんだあのハゲってなること確実だけど、上級生と繋がりを持てるなら悪くなさそう。

 サプライズに最初は困惑してたけど理解すると同時に照れる橘先輩とか見てみたい。この人のことだからきっといい反応を見せてくれることだろう。

 

「では目的も果たしたので自分はこれで失礼します。改めて、今日はありがとうございました」

 

 長居は無用と思って発した俺の一言により、この集まりは解散となった。残っていたお茶を飲み切り立ち上がる。

 解散といっても2人はこの後生徒会の業務があるらしく、俺だけ生徒会室から出て行く形になったけど。

 

 しかし橘先輩は可愛かったな。生徒会のメンバーとして活動する時の印象が強くお堅いイメージが付いているが、実はプライベートはゆるゆるというギャップが堪らない。

 最初は俺への警戒心からか仕事モードに寄っていたが、途中からはその真価を遺憾なく発揮してくれていた。リアクションが一々面白い。打てば響くとはああいうのを言うのだろう。堀北会長が近くにいることで忠犬属性が追加されてさらに2倍美味しくなる。

 あとは筋肉フェチというわけでもないはずなのに俺の見た目に対して恐怖せず普通に接してくれたのもポイントが高かった。

 優しくて真面目なのに面白いとか最強かな? 最強だな。

 

 橘最強ッ! 

 

 弥彦も見習え。

 

 

 

 ****

 

 

 

「おはようございます葛城くん。昨日はあの後どうなりました? 成果はありましたか?」

 

 翌日。登校すると同時に坂柳から話しかけられた。

 

「おはよう坂柳。心優しい先輩のおかげで無事に過去問を得ることには成功した。だが今回のテスト範囲と比べてみたところ、僅かにだがズレが生じていることが判明した。だから役に立つかは微妙なところだ」

「そうですか。それは残念ですね」

 

 まあ、今週の終わりか、少なくとも来週中にはテスト範囲の変更が伝えられるはずだけどね。

 

「被っている範囲の問題を共有するにしてもテスト数日前の方がいいだろう」

「そうですね。下手な先入観のせいで勉強にムラができるのは好ましくないですから」

 

 過去問に頼り過ぎて基礎学力の向上に支障をきたすかもしれない──という懸念は、過去問の有用性が証明されていない現段階では考えなくてもいい。

 また、わざわざこの段階で小テストの使い回し案件を伝え、逆算的にテスト範囲の変更の可能性を示す必要もない。やって無駄な勉強など存在しないのだから。

 

「というわけで次は正攻法で勉強会でも開こうかと考えている。よければ坂柳も手伝ってくれないか?」

「私ですか? 葛城くんがいれば十分なのでは? そもそも本当に勉強会を開く必要などあるのでしょうか」

「もちろん希望者がいないようならそれでいい。だが仮に参加者が多かった場合、俺だけでは手が足りなくなる可能性が高い。あとは俺でもわからない問題があった時に解説役を頼める相手がいると心強いというのもある」

「葛城くんが解けない問題を私が解けるという保証はありませんよ?」

「その点に関しては心配していない」

「……私以外にも、教師役を務められる生徒は大勢いると思いますが」

「ああ。もし必要になりそうなら個別に頼んでみるつもりだ」

 

 この勉強会、もし開催されたら俺は基本的に教える側に回る予定だ。しかし限界はある。俺は全知ではない。だから誰かに教えを乞いたくなる状況がくることも普通にあり得るだろう。

 そんな時に坂柳レベルの成績優秀者がいると非常に助かる。Aクラスには勉強のできる生徒が多いが、それでも高校の範囲に限定すれば坂柳以外の奴に負けるつもりはない。

 坂柳がダメならあとはもう綾小路(最終兵器)を用意するしかない。それくらいは勉強ができるという自負がある。人生2周目は伊達ではないのだ。

 

「……そうですね……」

 

 坂柳が考える仕草を見せる。

 

「では、私が勉強会に参加する代わりに、一つ私と勝負をしていただけませんか?」

「勝負だと?」

「ええ。勝負です」

「……勝負内容は?」

「あら、受けてくださるんですね」

「聞いてから判断する」

「そうですか。ではシンプルに、私が受け持った生徒とあなたが受け持った生徒でテストの平均点を競う、というのはどうでしょうか」

 

 軽いゲーム感覚なのだろう。

 Aクラスは切羽詰まっているわけでもないし、そのくらいはやっても問題なさそうだ。

 

「いいだろう、受けて立つ。勝負形式にすることで勉強意欲の向上も期待できるしな」

「ありがとうございます。あとは勝った時の報酬も決めないといけませんね。頑張ったのに何もなしでは盛り上がりに欠けますから」

 

 こう言ってはなんだがすごく意外だ。

 坂柳の性格的に、勝った時のご褒美を──ではなく、負けた時の罰ゲームを──と言いそうなものだと考えてしまった。最終的な結果は似ていても、飴を用意するか鞭をチラつかせるかでは受ける印象はだいぶ変わる。どちらの方がやる気が出るかは人それぞれだろう。

 しかし報酬か。無難に試験の打ち上げを負けた側が全額負担とかがいいのではないだろうか。

 

「勝った方が負けた方になんでも命令できる──というのはいかがですか?」

 

 とか思ってたらなんかすごいこと口走ってきた。

 

「……本気か?」

「もちろん本気ですよ」

 

 ふぇぇ。目が本気(マジ)だよぉ。

 

「……他の者に迷惑のかからない命令に限定する、という条件付きなら受けてもいい」

「結果が出る前から負けた時の心配ですか?」

「もちろん負けるつもりはない。だが無関係の人間に迷惑がかかる可能性があるなら受ける気はない」

 

 ちょっとCクラスに行って龍園くんを本気でぶん殴ってきてください──とか言われたりしたら大変だ。

 

「その条件でいいですよ。ふふっ、楽しみですね。葛城くんにどんなことをしてもらうか、今からじっくり考えておきましょう」

 

 こうして、クラス内での中間テスト点数勝負の開催が決まった。他のクラスが聞いたら睨まれるような気楽さだ。

 

 結局、なんでもの範囲をわざわざ聞くような真似はしなかった。期待していると思われるのもカッコ悪いし、エロい命令を出すつもりだと思われるのも嫌だった。そんなことになればロリコン認定待ったなしである。

 当然、実際にそんな命令をするつもりもない。坂柳は魅力的な女性だがそれとこれとは話が別だ。

 一時の興奮と優越感を代償に全てを放り捨てる気なんてさらさらない。報復が退学で済めばいい方だ。最悪の場合……いや、これ以上は考えるのをよそう。

 

 

「というわけだ。中間テストに向け、クラス全体で勉強会を開きたいと考えている。強制はしない。だがなるべくなら参加してほしい。勉強を通してクラスメイトとの親交も深まるはすだ。一度試しに参加してみて、合わなそうならやめるというのでも一向に構わない。少しでも興味のある者は放課後教室に残ってくれ」

 

 クラス全体にそう呼びかける。

 反応は様々だが、露骨に否定的な生徒は今のところ見当たらない。

 

「はい! 葛城さん! 俺参加します!」

「弥彦、お前は最初から強制だ」

「わかりました!」

 

 いや、嬉しそうにすんな。

 確かに特別扱いだけど、それは小テストの点が悪かったのが理由だから。

 

「私も参加するよ。勉強は得意な方だし、もしもの時は教える側にも回れると思うよ」

 

 続いて西川も参加を表明してくれる。

 彼女は前回の小テストで90点を取っている。こう見えて最後の難問のうち一つを解けるくらいには優秀なのだ。ただの筋肉フェチと侮ってはいけない。

 

「ところで葛城くん。もし勝負に勝ったら坂柳さんに何を命令するつもりなの?」

 

 まるでお節介な友人キャラのように、西川はそんなことを聞いてくる。

 

「特に考えてはいない」

「えー、だってなんでもだよなんでも。男なら期待しちゃうんじゃないの? 坂柳さん可愛いし」

 

 もちろん妄想くらいはする。

 けれどこんなお遊びみたいな勝負で空気も読まずにすんごいことを要求したらそれこそみんなドン引きだろう。

 坂柳もドン引きする。俺自身もドン引きする。

 常識的に考えろ常識的に。

 

「私だったら期待しちゃうなー。もし葛城くんになんでも命令できるなんてことになったら──」

 

 そこまで言い、なぜか西川は前触れもなくピシリと固まった。

 何があった。なんかちょっとだけ嫌な予感がするぞ。

 

「……なんでも? なんでもってなんでもってことだよね? つまり葛城くんに命令してあんなことやこんなことも? や、やばっ、なんか興奮してきた……。あの筋肉が触り放題……。あの筋肉にやりたい放題……。あの筋肉が全部私のもの……。あはっ、うへっ、ぐへへ、ぐへへへへへへ……」

 

 筋肉が好きなのはいいことだ。

 けどもうちょっとだけ擬態しろ。西川ァ!

 

 

 

 

 

 





後書きに書くキャラが一時的に居なくなりました。なので以前から一度はと思っていたアンケートをやってみることにします。皆さん気軽に答えてくださいね。

あなたの好きなキャラは?

  • 戸塚弥彦
  • 鬼頭隼
  • 山田アルベルト
  • 山内春樹

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。