明るい筋肉   作:込山正義

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筋肉がマンネリ化してきたかなぁ
じゃけん人気キャラ出してテコ入れしましょうね〜



過去がやばい奴ら

 

 日曜日。俺はカラオケルームにいた。

 遊ぶメンバーはAクラスのみんな──ではない。

 ここに呼んだのは別のクラスの生徒。櫛田と綾小路の2人だ。

 まだこの場所に2人の姿はない。だがもうすぐ着く頃合いだろう。

 予定の時間まであと10分。1人で先に歌い始めているのもなんなので、筋トレでもして待つことにする。

 

 数分後。部屋の前に1つの気配が現れた。

 店員のものではない。待ち人のものだ。

 

「悪い、待たせたか?」

「いや大丈夫だ。櫛田もまだ来てないからな」

 

 扉が開き綾小路が姿を見せる。

 彼はカラオケルームが初めてなのか、ソワソワしながら部屋の中を見回している。恐る恐るソファーに座ると、続いてデンモクを調べるように操作しだした。

 そうこうしているうちに2人目の来訪者によって扉がノックされる。

 返事をすれば、一目惚れしそうな笑みを浮かべた櫛田が手をふりふりしながら室内へと入ってきた。

 

「こんにちは葛城くん、それと綾小路くんも」

 

 役者は揃った。

 他クラス同士の密会。なんか裏取引みたいでテンションが上がる。

 薄暗い部屋の中というのもあるだろう。しかし密室だからと言って良からぬ妄想をしてはいけない。

 

「櫛田、早速で悪いが、ここにいる間は屋上で出してたような黒い感じの櫛田でいてほしい。肩肘張って取り繕う必要はない。その方が櫛田だって楽だろ。どうせ俺たち2人には本性がバレてるんだ。今更媚び売ったって印象はさほど変わらない。そう思わないか?」

 

 櫛田はすぐには頷かない。どうやら迷っているようだ。

 もしかしたら何かの罠ではと疑っているのかもしれない。

 

「この部屋に監視カメラはない。カラオケルームだから防音性も抜群だ。それと……ほら、俺の携帯だ。録音なんかしていない。もちろん他の機械を隠し持っていたりもしない。なんならボディチェックをしてくれても構わない」

 

 両手を上げて無害であることをアピールする。

 この学校を生き抜く上でキーアイテムとなるボイスレコーダーや小型カメラだが、俺はそれらの機械を持っていないし、これから購入する予定もなかった。

 誰が一音一句録音するような奴と話したがるだろうか。少なくとも俺は嫌だ。楽しくお喋りなんてできるわけがない。表では笑顔を浮かべつつ裏では失言を狙う心理戦を行なっているなど想像するだけでも恐ろしい。カーストを求めて腹の探り合いをする女子なんかよりよっぽど陰湿だ。

 

「……わかった」

 

 櫛田は上着を壁にかけると乱暴な仕草で鞄を置き、どっかりとソファーに腰を下ろした。

 

「どうせ知られてるなら悩む必要なんてないもんね。いいよ、提案に乗ってあげる。それに、もしあんたがその気ならどうせ抵抗するだけ無駄だしね。綾小路くんはともかく、葛城くんには人望があるし」

「おい、なんで今ちょっとオレに飛び火させた」

 

 うんうん、やっぱ櫛田はこうじゃなくちゃ。

 

「この態度を見て、なんで満足そうにするのか……ほんと意味わかんない」

「そうか? そんな変なことでもないと思うが……なあ、綾小路はどう思う?」

「え、なにが?」

「今の櫛田と普段の櫛田。どっちがいいかって話だ」

「……それは……」

「オブラートに包む必要はないぞ。どう答えようと、お前が櫛田に嫌われているという事実は変わりようがない」

「いや、まだわからないだろ」

 

 わかるだろ。

 少なくとも櫛田から俺と綾小路への好感度はゼロかその付近。最悪マイナスということもあり得るだろう。具体例を出すなら堀北の次レベル。

 

「そうだな……オレはやっぱ、普段の櫛田の方がいいかな……」

「その心は?」

「……優しい、から?」

「ふむ、つまり綾小路は愛に飢えていると。優しくされたら誰にでもコロっといっちゃう可能性があると」

「いや、それは…………どうなんだろ」

「綾小路くん、いかにも寂しい人生送ってそうだもんね」

「なんてこと言うんだ」

 

 実際、冗談では済まされないくらいやばい環境で育ってきたんだよなぁ。

 綾小路のこれまでの境遇を思うと涙が出てくる。そりゃ人格も歪みますわ。いや、歪むというより育たなかったの方が正しいのか。

 

「いや、すまない。どちらがいいかと聞いたがその質問は取り消そう。本来、優しい櫛田も怖い櫛田も櫛田という人間を形成する一要素でしかないんだ」

「怖い?」

 

 怖いと称された本人が何か言いたそうにこちらを見ているが今は綾小路に説明している最中なので少し黙っていてもらう。

 

「どちらか片方では成り立たない。両方あって初めて真価を発揮する。光が強ければ影もまた濃くなるように、表の櫛田を知っているからこそ裏の櫛田が際立つ。これを俗に──ギャップ萌えという」

「なるほど」

「そう考えると、こっちの櫛田もそれはそれでアリ……って気持ちにならないか?」

「……なるかも」

 

 綾小路は控えめながらも納得したように頷いた。

 洗脳……じゃない。布教……でもない。説得……そう、説得。説得完了。

 

「いや、違うでしょ。ギャップ萌えって普通プラス方面に使う言葉だよね? 自分で言うのもなんだけど、こんな私のどこに萌え要素があるっていうのよ」

「確かに普通の奴がやればただの嫌な女だろう。だが櫛田なら話は別だ。櫛田くらいの女の子がやればなんか許せる気持ちになる。可愛いは正義だからな」

「……そ」

 

 ラシド。

 

「とまあ櫛田は承認欲求がバカみたいに高いからこんな風にストレートに褒めると割と言いくるめられる。染み付いた演技もあるだろうが俺の見たところ半分くらいは本気で嬉しがっていると思う。コツは下心を出さずに純粋な気持ちで称賛することだな」

「そうか、覚えておく」

「……聞こえてるんだけど?」

「聞かせてるからな。陰口とか嫌いな性格なんだ」

「直接言うのもどうかと思うけど」

 

 俺は直接言われる方がいい。

 陰で『あいつハゲてるよな』って言われるより直接『このハゲ!』って言われる方が幾分かマシだ。

 ……いや、やっぱどっちも傷つくかも……。

 

「念のため言っておくが、さっきの意見は単純な男限定だからな? 他人を見下してる女子とか同性からは絶対嫌われるから気を付けろよ?」

「バカにしないで。そんくらい私だってわかってる」

 

 ならいい。

 他人を見下して嫌われないためにはそれ相応のカリスマ性や実績、絶対的な実力が必要だ。

 争いは同レベルの者同士でしか起こらないとはよく言ったものだ。例えば綾小路から見下されていたとしても全然心は痛まない。そりゃそうですよねってなるだけだ。

 

「で、葛城くん。そろそろ本題に移りたいんだけど」

「本題?」

「なんで私たちをここに呼び出したのか。その理由を教えて」

「ああ、その話か」

 

 しょうがない。そこまで聞きたいなら教えてやろう。

 

「俺がお前たちをこの場に呼び出した、その理由は……」

 

 あえて間を作り表情を引き締める。

 釣られて2人も小さく息を呑んだ。なんか笑える。

 

「櫛田のストレス発散のためだ」

「…………は?」

 

 櫛田が眉を顰め首を傾げる。

 綾小路の表情は変わらない。

 

「屋上であんなことをしていたのは日々のストレスを発散させるためだろう?」

「……そう、だけど」

「ストレスを溜め込むのは良くない。適度に吐き出すのは必要なことだ。……だが、櫛田の場合はやり方がまずかった。現にこうして俺たちにバレてしまっている」

「うぐっ……」

 

 櫛田は悔しそうに唇を噛む。

 事実だけに何も言い返せないだろう。

 

「だからこうしてストレス発散の場を設けたんだ。ここなら大声を出しても誰かに聞かれることはない。思いっきり叫ぶことができるぞ」

「……それ、葛城くんにメリットあるの?」

「櫛田とカラオケを楽しめる。あと綾小路とも」

「オレはついでか」

「不満か? なら次からは誘わなくても──」

「是非誘ってくれ」

 

 食い気味に言われる。素直でよろしい。

 

「ちょっと待って、この集まりって次もあるの?」

「一応そのつもりだ。死ぬほど嫌だっていうならやめる」

「いや、そんな命に関わるレベルの拒絶反応はないけど……。正直なところ、何度も集まれるような時間が私にはないと思う。ほら、私って人気者だし。特に今の時期はテスト対策もあるから余計忙しいし。Dクラスは退学者を出さないようにするので大変なんだよ。優秀なAクラスと違ってね」

 

 優秀なAクラス。皮肉だとわかっていても嬉しい響きだな。

 

「そういえば、葛城はDクラスだからって俺たちを見下したりはしないんだな」

「見下せる要素がないからな。クラスポイントだけを見れば確かに差があるように見えるが、そんなものは所詮目安に過ぎない。実力を測るには判断材料が少なすぎる。これはあくまで個人の意見だが、俺はBクラスやCクラスよりもDクラスを警戒しているくらいだ」

「それは流石に持ち上げ過ぎじゃない? 自慢じゃないけど、うちのクラス馬鹿ばっかだよ?」

 

 なんて毒舌。これは0ポイントを相当根に持ってますね。

 

 櫛田や綾小路は怪訝な顔で見てくるがこれは事実だ。というか原作を知っていれば誰もが肯定する事柄だと思う。

 

 わかりやすい例を2つ挙げてみる。

 

 まず1つ目。例えば、非常に優秀な生徒が各クラスに何人ずついるか比べてみたとする。

 Aクラスの坂柳を基準として、それに対抗可能かどうかが選出ラインだ。

 当然Aクラスからは坂柳の1名。

 Bクラスからは一之瀬でこれもまた1名。

 Cクラスからは龍園でやはり1名。

 しかしDクラスからは綾小路、堀北、高円寺と3人もの名前が挙がる。

 なんだこれは。バランスが崩壊しているじゃないか。

 神崎や椎名、平田なども優秀だと思うが、上に挙げた6人よりはやはり1歩劣るという印象を受ける。少なくとも坂柳がしてやられる姿は想像できない。まだ隠された力とかがあるのかもしれないが、今の俺では判断がつかないので保留とする。

 

 次に2つ目。例えば、AクラスとDクラスの直接対決を想定してみたとする。

 実力が同等と思われる生徒同士を順番に1人ずつぶつけていく方式を採用。ただし40人分考えるのは面倒なのであくまで参加者は幹部級のみとする。

 ルールは破茶滅茶だが仮にこの条件で勝負するとして、まず初めに坂柳と綾小路をぶつけるのは確定だ。

 次に橋本と平田。神室と櫛田。鬼頭と須藤あたりをぶつけるとする。

 さて、もうお分かり頂けただろうか。仮に俺も幹部に含まれていた場合、1人で高円寺と堀北のタッグを相手にしなければならなくなる。

 もはや絶望しかない。一切の希望を捨てよとかそんな難易度だ。

 

 この様に、Dクラスのメンツはなかなかにぶっ壊れている。

 総合力では勝っていても、特別試験では個々の能力がモノを言うことも多い。

 だから油断などできない。できるはずもない。

 不良品だと見下すなんて以ての外だ。

 

「まあ、クラス毎の戦力差なんて今はいい。追々わかることだ。今の考えるべきは中間テストをどう乗り越えるか。そうだな?」

 

 コクリと2人が頷く。その眼差しからも深刻さが窺える。

 

「そんな2人にプレゼントだ」

 

 鞄から数枚のプリントを取り出し机に広げる。

 

「……これは?」

「過去問だ」

 

 2人が驚いたような顔になる。櫛田は素だろうけど綾小路は演技やめろ。

 

「これは2年前に行われたものだがかなり役に立つと思う。その証拠に先日行われた小テストと2年前に行われた小テストの問題は完全に一致していた」

 

 これがどれだけ重要なものか気づいたのだろう。

 実際、これで確実に退学を回避できるとしたら、勉強のできない生徒からすると2000万ポイント相当の価値があると言っても過言ではない。逆に勉強ができる生徒からしたらただの紙切れ同然だけど。

 目の前の2人が個人主義だった場合はおそらく必要のないものだ。

 

「……これを、私たちにくれるの?」

「ああ。是非とも使ってくれ」

「……そもそも過去問を使うなんてアリなの?」

「学校のルール的には問題ないはずだ」

 

 そこら辺は実質生徒会長のお墨付きみたいなもんだし。

 

「なあ葛城。軽く目を通させてもらったが、この過去問、テスト範囲と微妙にずれてないか?」

「何を言っている。ぴったり合致しているではないか。まさかテスト範囲が変更されたことを知らないわけでもあるまい」

 

 2人の顔が驚愕に染まる。その驚きようは過去問を出した時以上だ。

 

「……それ、本当?」

「ん? なんだ? Dクラスは本当に知らされてなかったのか?」

「Aクラスにだけ与えられた特別待遇……なわけないか。クラス毎にテスト問題が違う線も考えにくい。となると……」

「ちゃ〜ば〜し〜ら〜ッ!」

 

 怒りでぷるぷると震える櫛田こわ可愛い。

 

「あとでBクラスやCクラスの生徒にも確認してみるといい。綾小路……には友達がいないから無理だったな。すまん」

「いきなり言葉の刃物で突き刺してこないでくれ。お前は堀北か」

「ねえ、イラつくからあの女の名前出さないでくれる?」

「えぇ、これオレが悪いのか……?」

 

 うん、綾小路が悪いな。間違いない。

 

「はぁ、今からBクラスの子に電話して確認してみるよ」

 

 裏付けを取るために櫛田が携帯を取り出す。

 

「あ、もしもし。いきなり電話してごめんね。今時間大丈夫かな? ちょっと聞きたいことがあるんだけど──」

 

 対人用の表情と声に切り替えた櫛田が携帯の向こうの相手と会話を始める。

 やさぐれた顔で声だけ弾んでいたら面白かったんだけどそこまで器用ではないか。

 

「なあ、葛城」

「なんだ?」

「この過去問、どうやって入手したんだ」

「優しい先輩から貰ったんだ」

「無償か? それとも何か代価を支払ったりしたか? ……例えば、ポイントとか」

 

 櫛田の電話を待つ横で、小声で探りを入れてくる綾小路。

 そんな慎重にならんでも普通に教えるのに。

 

「ああ、ポイントで購入した」

「参考までに、いくらかかったか教えてくれないか?」

「悪いな、それは企業秘密だ」

「……そうか」

 

 この2人の前で10万とか言えるわけねえだろ。

 

 俺に答える気がないと理解したのか、綾小路がそれ以上追及してくることはなかった。

 そうこうしているうちに櫛田の方も電話を終える。

 

「うん……うん……ありがとう、助かったよ。今度またお礼するね。あはは、遠慮しないで。うん、うん……。うん、じゃあまたね。ばいばーい」

 

 ピッ、と通話を切ると同時、櫛田の顔が怒りを含んだものに変わる。笑っているのに笑っていない。そんな表情だ。

 

「ねえ、なんなの? 私の顔見てはニヤニヤしてさ。すっごく電話しにくかったんだけど」

 

 綾小路と会話しつつチラチラ盗み見てたのがバレていたらしい。

 

「いや、すまん。櫛田の変わりようが、電話する時だけ声が高くなる祖母の姿と被ってしまってな」

「ぶふっ」

 

 俺の言葉に綾小路が吹き出すと、櫛田のこめかみにピキピキと力が入った。

 俺としては綾小路の共感が得られたことに驚きなんだけど。お前お婆ちゃんに会ったことあるのか。ないだろ。

 

「さて、テストへの憂いもなくなったことだしそろそろ本来の目的を果たさないか? 内なる怒りはマイクにぶつけるんだ」

「今私が怒ってるのはあんたのせいだけどね!」

 

 差し出したマイクを、櫛田はひったくるように奪い取った。

 すぅ、と大きく息を吸い込み、想像を絶する大声で怒鳴る。

 

「──堀北のバカやろおおおおおッ!!!」

 

 音が反響しハウリングが木霊する。

 うるさい。めっちゃうるさい。この一瞬で耳が少し悪くなった気がする。

 

「……ん」

「なんだ?」

「これじゃあ私だけ悪人みたいじゃない。あんたたちもやって」

 

 なるほど、共犯に仕立て上げようというわけか。

 先程陰口は嫌いだと言ったけど、櫛田が堀北を好いていないということは堀北本人も知っているはずだからノーカンでいっか。綾小路だってコンパスで刺されたりと少なからず不満は持っているだろうし。

 俺? 俺は堀北のことは嫌いじゃない。そもそも好き嫌いがわかるほど関わってない。話したことすらない。

 

「堀北のバカやろおおーッ!」

『堀北のバカやろおおーッ!』

 

 俺と綾小路が続くと、櫛田は満足そうにウンウンと頷いた。

 ちなみに今の俺の叫びは堀北鈴音に向けた言葉ではない。橘先輩という可愛い女の子を侍らせている堀北兄への嫉み言だ。

 

「堀北のバカやろおおおおおお!」

「堀北かわいいいいいいいいい!」

 

 …………。

 

「お高く止まりやがってえええええ!」

「黒髪美少女おおおおおおおおおお!」

 

 …………。

 

「あんなやつ死んじゃええええええ!」

「ツンデレさいこおおおおおおおお!」

「…………」

「…………」

 

 突如無表情になった櫛田がぐるんとこちらを向く。

 何かあったのだろうか。どことなく不満そうにしている。生憎だが全く心当たりがない。

 

「ねえ」

「なんだ?」

「喧嘩売ってんの?」

 

 ちょっとお茶目心を発揮しただけなんだからそんなに怒らんでも。

 

「言い忘れてたけどその服似合ってるな。制服姿を見慣れているから新鮮に映る。可愛いぞ。なっ、綾小路?」

「ああ、いいと思う」

「えへへ、2人ともありがとう……とでも言うと思った? 露骨に話逸らさないで。綾小路くんも乗らない」

 

 ち、イケメンに褒めてもらって有耶無耶にしよう作戦は失敗か。使えねーな第5位。

 

「ところで今更だが、櫛田はこの状況は大丈夫だったか? 男2人に対して女1人しかいないわけだが」

「本当に今更だね。……別に、その辺は割り切ってるよ。どうしようもないし。それに、2人のことは一応(・・)信用しているから」

「なんなら堀北を呼んでも──」

「絶対イヤ」

 

 ダメか。櫛田の本性を知っている女子となると候補は1人だけだったんだが、それじゃ本末転倒か。

 まさか本人のいる前でバカやろーと叫ぶわけにもいかない。

 

「私が言うのもなんだけど、葛城くんもいつもと若干キャラ違うよね。ウザさが5割増しくらいになってる」

「カラオケルームはテンションが上がるからな。そのせいだろ」

 

 実際のところ、普段は多少なりとも葛城康平を演じていたりする。

 ロールプレイは楽しいからね。それだけだと疲れるからこうして息抜きもしたくなるわけだけど。

 

 その後は普通にカラオケもした。

 大体の人は3回以内には100点を出せると嘘をついて綾小路に歌わせたら本当に3回目で100点を取りやがった。

 めっちゃ上手かった。涙が出そうなくらい感動した。櫛田も思わずぽかんと口開けてた。

 

 ちなみに俺はダンベルアニメの主題歌をポージングありきで歌った。そしたら中々に盛り上がった。

 これからはこの歌を俺の持ち歌にしよう。そう心に決めた。

 

 

 

 ****

 

 

 

「葛城くん、過去問について一つ質問してもよろしいですか?」

 

 時は流れテスト数日前。

 Aクラスの教室で坂柳に話しかけられた。

 敵対状態にあるからか、最近はあまり話せてなかったので正直嬉しい。

 

「なにか不備でもあったか?」

「いえ、そんなはずありません。この過去問は非常に有用です。小テストにあった明らかに難易度の違う問題やテスト範囲の変更。これらをヒントに過去問を手に入れるというのは、学校側が用意した正解のうちの一つだと思われます。それは小テストの使い回しからもほぼ確定的。ここまでさせておいて全て罠だった、という線もおそらくはないでしょう」

 

 わざわざ赴いてくれた坂柳にいつものように自らの椅子を差し出し、俺自身は弥彦の椅子を奪い取り聞く態勢を整える。

 

「そんな勝利の鍵とも呼べるものを勝負の相手である私にまで共有するとは。あなたには勝つ気がないんですか?」

「そういうわけじゃない。だが過去問の話は勝負云々より前にしたことだからな。その時に俺はクラス全体で共有するつもりだとすでに発言していた。後になって取り消すことはできない」

「そうですか。あなたの考えはわかりました。私との勝負に全力で挑まないその姿勢には少々腹が立ちますが、クラスのためだというのなら目を瞑りましょう」

 

 腹が立つ、ね。

 いつもの微笑を浮かべているからよくわからない。威圧感のようなものは感じるが、それだってデフォルトで放ってるしなぁ。

 

「ですので『質問』というのはそのことについてではありません」

 

 坂柳はフッと笑みを深める。

 

「本当に聞きたいのは、なぜ過去問がAクラスだけでなく他のクラスの手にも渡っているのか──ということです」

 

 坂柳だけでなく、他のクラスメイトからも訝しむような目が向けられる。

 

「Bクラス、Cクラス、Dクラス……全てのクラスが過去問を所持しているらしいですね。出所を確認してみたところ、なんでも葛城くんに譲って貰ったとか」

 

 気分はさながら味方から糾弾される裏切り者だろうか。

 

「説明──していただけますよね?」

 

 なんだか楽しそうっすね坂柳さん。

 俺は全然楽しくないですけど。

 

 

 

 

 

 





きよぽんグループ(闇鍋バージョン)爆誕ッ!

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