「それで、どうしてナイトメアを盗もうってなったんです?」
リュウセイは若干の呆れを言葉に含ませながら山野博士に問い掛けた。
前世の記憶では、まだ開発段階だった『ナイトメア』が何故か『仙道ダイキ』の手に渡っており、どうして仙道の手に渡ったのかの説明などは一切無くストーリーは進められていく。『仙道ダイキ』の強化装置としての役目をストーリーで果たしただけで、ナイトメアが何故、誰の手によって彼に渡されたのかは不明のまま終わってしまった。
正直このナイトメアについては僕も気になっていた所だったのだ。あれだけ事細かに未来を示されていた中で、これは全くの不明のままだったのだから違和感がしこりのように残っていた。
「ああ、それなんだけどね、是非ともナイトメアを使わせて上げたい子が居てね」
「つまり、バン君達の仲間にしようと?」
「まあそんな所だな。ほら、アルテミスでユジンに負けた彼だよ。覚えてるかい?」
「仙道ダイキですか」
大会中は自身の予定で忙しく、他の選手の戦いはあまり見ることが出来なかった。しかし見ていなくとも、前世の記憶での『ダンボール戦機』という世界の中で活躍していた彼の事ならばよく知っている。ただ、ナイトメアという名前が出てきた時点で彼の名前が出てくる事は予想していたが、まさか直接名前が出るとは思わなかった。
「しかし何故彼を? 確かに優秀なLBXプレイヤーですし、バン君達との面識もある。ですが彼の性格からして、イノベーター討伐に協力してくれるとは……」
「まあ確かに協力してくれるのは期待してはいないな。だが、彼には少し問題があってね」
「問題、ですか? 」
山野博士は懐からタブレット端末を取り出して一つのアプリケーションを起動させる。数秒後にアキハバラのものと思われる地図が開き、その上を青い点が一つと大量の赤い点がゆっくりと移動していた。
「この青い点が仙道少年。そしてこの赤い点全てがイノベーター所属のLBXだ」
「………え?」
「彼は、イノベーターに戦力として狙われている」
◆◆◆◆◆
アキハバラの路地裏を、紫色の髪をした少年はある男との再戦を求めて一人彷徨っていた。
昼間だと言うのに夜のように薄暗い路地裏を、数々の店から漏れ出る明かりが彩る。このアキハバラの路地裏では『申し込まれたLBXバトルは決して断ってはならない』という事が暗黙のルールとして根付いており、至るところからLBXバトルの音が響く。
並ぶLBX販売店も、表では売れないような非正規の品ばかりが揃っている。例えば【裏模型ブルータス】では『月光丸』や『マスターコマンド』、『アサシン』といった神谷重工製の市販向けでは無い物の模造品が売られている。性能は本物には程遠いとは言え、そのフォルムは本物と遜色無い。何処から情報が漏れたのかはわからないが、そんな物が当たり前のように売られている此処は日本でも有数の無法地帯だった。
そんな無法地帯をたった一人で歩いていた少年『仙道ダイキ』は唐突にその歩みを止め、ゆったりとした動きで振り返った。
「………誰だ、さっきから後ろをツケて来やがるヤツは」
懐からLBX『ジョーカーMk-2』を取り出して起動させる。
少年が睨み付けた先の角から一人の男が姿を現した。格好はアキハバラでよく見るオタクの服装と何ら変わり無い。灰色のパーカーにジーンズで、眼鏡をかけた長身の男だ。
男はダイキの前に立つと懐から『デクーカスタムL』を取り出して起動させた。
「何が目的だお前」
「……君のアルテミスでの活躍はよく見せて貰いました」
「はァ? 煽ってんのか?」
「まさか。私達は君の力を認めていますよ。確実に君は強くなる。オタレッド、ユジンよりもね」
「……!」
男のその言葉にダイキは目に見えて動揺した。この男は自分の目的を知っている。後をつけられていたとは言え、相手はいったい何処まで自分の事を知っているのか。何故自分の事をつけるのか、その理由がわからない。
「君がユジンとの再戦を望んでいる事はよく知っている。そして彼の居場所がわからずにここ数日、ずっとこの辺りを彷徨っている事もね」
「気持ち悪ぃヤツだな………何が目的だ。俺をつけてたんだ、理由があるんだろ」
「話が早くて助かります。あなたには私達の計画の手伝いをして頂きたいのです」
「計画だと? その手伝いをして俺に何のメリットがある。俺は忙しいんだ、悪いが断らせて貰「手伝って頂けたならば、ユジンの居場所をお教えしますよ」……何?」
ニヤリと笑った男を前に、ダイキは迷う。「ユジン」の居場所、それはダイキにとって喉から手が出る程欲しい情報だ。
彼に勝つためにLBXの腕を鍛え直し、そして訪れたアキハバラ。この数日間ずっと彼の事を捜し続けていた。しかし彼の居場所は一向に掴めず、それどころか彼と繋がりのありそうなオタレンジャーすらも見付けられていなかった。
自身もアルテミス本戦に出場したことで有名選手の仲間入りを果たした身。秋葉原を彷徨く中で多くのLBXプレイヤーから勝負を挑まれ、その悉くを捻り潰してきた。だが、彼にとってそれは所詮無駄な時間に過ぎない。無駄な時間を過ごし続けるのは、彼としても本意では無かった。だが、
「いや………やっぱり断る。俺自身の手でヤツを見付けて、もう一度真っ向からやって勝たなきゃあ俺の復讐にならないんだよねぇ」
「そうですか、それは残念です」
ハァと眼鏡の男は溜め息をついた。ダイキもこれで話は終わっただろうと踵を返したその時だった。男がパーカーのポケットから一枚の写真を取り出す。
「ならば此方も多少は強気に行かせて貰いますね」
「お前何を………ッ!? その写真、何処で撮った!」
「さぁ? 私は此方にはあまり関与していませんので。でも、これでわかって頂けましたよね?」
写真に写っていたのは年端もいかない少女の姿。撮られた角度からして間違いなく盗撮だろう。ランドセルを背負った少女のその髪は、ダイキにそっくりな紫色をしていた。
「『仙道キヨカ』。貴方が誰よりも大切に想っている彼女に危害を加えられたく無ければ、我々に従う事です。全てが終われば解放し、報酬に莫大なクレジットもある。どうです?悪い話じゃあ無いでしょう」
「……このッ、下衆野郎が」
万が一、相手が犯罪者じみた人間だとしても、LBXを使って戦えばどうとでもなると高を括っていた。しかし蓋を開けてみればどうだ。家族を、それも自身がこの世で一番大切に想っている妹を人質に取られたような状態で、完全に身動きを封じられてしまった。
いつものように、お得意のタロットで未来を占う余裕なんて無い。ふと何者かに視線を向けられている気がして周囲を見渡すと、建物の間の隙間や看板の上、至る所から真っ黒なLBXがジッと此方を見詰めている。従ってしまえば楽になるのかもしれないが、人質をとって脅してくるような相手の考えている事なんて間違いなくまともな内容では無い。口では従えば身の危険は無いなんて言っていても、実際その通りだなんて信じられる訳が無い。ダイキは、これ以上無い程に焦っていた。
「さあ此方へ。通りで我々の車が待っています」
「く………」
「さあ、早く」
喉の奥がカラカラで声が出ない。手も足も震えてまともに動かない。
恐怖からでは無い。ただこの場を切り抜ける解決策が何も見つからない事に、地に足をつけていないような奇妙な感覚に陥っていた。
歩み寄ってきた男がダイキへと静かに手を伸ばす。ダイキが震える手でその手を掴もうとした、その瞬間だった。ビルの上から蒼天の如く輝く弾丸が雨のように降り注ぎ、ダイキと男を囲んでいた無数のLBXを撃ち抜いて次々と破壊して行く。
「何? リュウセイはまだ動けないのでは無かったのか!?」
「コイツは………!」
闇の中でぼんやりと緑色の光を放つジャンクショップの看板。秋葉原でも知る人ぞ知る老舗の入り口から、黄色ジャージに鳥を模したヘルメットを付けた男が姿を表した。
「ボクたちの秋葉原で悪いことをしようなんて、そうは問屋が卸さないんだな」
「お前は、オタイエローか! 何処までも我々の邪魔を……」
眼鏡の男はギリッと歯軋りをしてデクーカスタムLを出撃させる。
ビームサブマシンガンが直接オタイエロー目掛けて放たれるが、その全てが上空からの銃撃の雨によって防がれる。
オタイエローの前にビビンバードX-Ⅲが着地を決め、デクーカスタムLへとビビンバードガンを突き付けた。
「ボクの黄色はカレーの黄色。お腹の中のカレーが尽きない限り、ボクは絶対に負けないんだな!」
「チィッ! 作戦変更だ。待機組も全員前へ、力尽くでも確保するぞ!」
路地裏にたむろしていた者達の何人かが、その掛け声で一斉にCCMを取り出した。好機とばかりにダイキも眼鏡の男を突き飛ばし、オタイエローの隣に並ぶ。
「何で今になって現れるんだか。ユジンと戦う為に、ずっとアンタらを捜してた」
「申し訳ないんだな。ボク達も色々と忙しくて秋葉原を離れていたんだな」
「ハッ、そうかよ。俺から逃げてたんじゃなくてか?」
「んな訳無いんだな………さておき、この場は協力して乗り切るんだな!」
オタイエローの助けによって落ち着きを取り戻したダイキはジョーカーMk-Ⅱを出撃させ、オタイエローと背中合わせになる形で周囲を取り囲む敵と対峙する。
そして、ポケットから無作為にタロットカードを一枚抜き取って相手に見せた。
「『戦車』の正位置。早いとこ勝たせて貰おうか」
仙道ダイキの最終機体アンケート!
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ナイトメア
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ジョーカーX
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インセクター
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それ以外!