ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!
「あぁ、またか……」
あの大会から数日後。学校からの帰り道、着信音に気付きCCMを開くと見慣れた四文字が目に入った。
「神谷重工、ねぇ」
以前はこうも鬱陶しく思わなかったものだが、前世の記憶を取り戻し、LBXが悪用される未来を見せられた今となっては感じ方も変わる。
メールを開くと案の定、ターゲットとなる人物の居場所と外見、使用するLBXと武器までご丁寧に記されていた。
青柳リュウセイ。原作には存在していなかったLBXプレイヤーで、神谷重工のお抱えのLBXプレイヤーとしてイノベーターに協力している悪のLBXプレイヤーの一人だ。
記憶では小さい頃に両親を失い、身よりの無かった僕達は神谷重工によって引き取られ、強力なLBXプレイヤーとなるべく育てられてきた。奇しくも海道ジンと似たような境遇になる。
社長令息である神谷コウスケほどの待遇では無いにしても、計画に仇なすものを排除する為に揃えられた僕を含める四人は『四神』と呼ばれ、それぞれ一点物の強力なLBXを与えられている。
LBX『セイリュウ』もその一体である。
主な役割は先述した通りだが、各々にも個別の役割が与えられている。
僕の役割は『神谷重工のイメージアップ及び試作品のテスト』。僕が公式の大会に出場し、神谷重工のLBXを使用し、正々堂々と戦って優勝する事で神谷重工のブランドイメージを向上させようという訳だ。そんな理由から大会では専用機『セイリュウ』以外にも、『デクー』『インビット』『デクー改』といった神谷重工の顔となる量産機を使用して頂点を勝ち取っていた。
その効果は覿面で、原作とは違って神谷重工製のLBXはあのタイニーオービット製のLBXと並ぶ程の人気を博している。あの、敵役としてのイメージが一般人にまで染み付いていた神谷重工製のLBXが、だ。
警備用のLBXとしても、『大会優勝する程の機体なら』と様々な企業が採用するようになり、デクーシリーズ及びインビットは飛ぶように売れた。
元々神谷重工は大企業であったが、今や更に日本を代表するLBXメーカーの二大巨頭となった。
しかし、そんな表向きは輝かしい優良企業の裏の顔に気付いてしまう者が居るのも避けられない事。原作『ダンボール戦機』においても主人公の山野バンや宇崎拓也達がそれにあたるが、原作には登場しなかったそうした人々がこの世界には存在している。
四神の全員に与えられた使命が、そうした人々の排除だった。
「やりたくないなぁ」
CCMを閉じてため息をつく。
今までは何も疑うこともなく、これが輝かしい未来の為なのだと信じて、ただ命令に従っているだけだった。でも全てを思い出し、全てを知ってしまったのだ。
自分の信じていた組織の真の目的。大好きなLBXが兵器として破壊と殺戮に使われてしまう未来。下らない野望のために殺されてしまう人々。
こんなことはやりたくないと思いながらも、自分がどうするべきなのかただ悩み続けてCCMに示された地点に到着してしまった。
「……火村ケンジだな」
「ッ!? お前はっ!」
夕焼けに染まった高架下の一本道。ターゲットを発見した僕はDキューブを片手に迫る。目の前の彼は僕が何をしようとしているのかを察して逃げ出そうとするが既に遅い。展開されたDキューブから黄緑色のフィールドが更に展開され、彼と僕を完全に閉じ込めた。
「なっ!?……クソッ、クソッ!」
「LBXプレイヤーを狩るための特殊なDキューブだ。LBXバトルが終わるまで逃げる事は出来ない」
「……そういう事か、青柳リュウセイ。ならば」
男は斜めがけにしていたバッグから一対のLBXを取り出す。燃えるようなオレンジのLBX。
「行くぞ、『サラマンダー』!」
LBX『サラマンダー』。タイニーオービット社製のブロウラーフレームのLBXだ。その独特なフォルムからか扱いが難しく使い手を選ぶと聞いていたが、どうやら彼も相当な使い手らしい。
「頼んだ、『トロイ』」
だが、今はどうにも本気を出すような気分にはなれなかった。選んだのは『セイリュウ』ではなく、神谷重工から試作機として与えられていたLBX『トロイ』。『インビット』と同じく腕が武器腕になっている事が特徴的なブロウラーフレームのLBXである。完全自律型として作られたLBXだが、実戦での性能が如何程のものかと言うことで渡された。必要な戦闘データは既に神谷重工に全て送られていてもう僕に使わせる必要は無いのだが、報酬の一部として僕の手元に残っている。
「俺になんか本気を出すまでも無いってのか、チャンプ」
「……いや、そんな気分じゃ無いだけだ。始めよう」
選んだバトルフィールドは工業地帯。鉄柱やパイプが植物のように張り巡らされ、撒き散らされた油や濁った水がLBXの動きを妨害する。暗い雰囲気の漂うステージで、不良の学生達なんかに人気があるらしい。
トロイのその黄色の巨体が着地すると、ズゥゥンと重い音が響きステージを震動させた。暗闇に紫のモノアイが浮かび上がり、対峙するサラマンダーを威圧する。
「……っ、く。うおぉぉぉ!」
バトルスタートの合図と同時に、相手のサラマンダーは一直線に走り出した。装備しているのは見たところサイスの『風林火山』。ゲームでもトップクラスの攻撃力を持った武器だ。原作時間において、山野バンが参戦する世界大会アルテミスが近付いているこの時点でこの武器を持っているとは、世界規模で見てもトップクラスのLBXプレイヤーである事は間違い無いだろう。
あの武器でまともに殴られては、いくら化け物じみた性能をしているトロイでもロクに
「だが、まともに受けなければいいだけだ」
サラマンダーに向かって、トロイの武器腕『デスバレル』が火を吹いた。現存する遠距離武器トップの攻撃力と連射性能。そして何よりもその異常な装弾数。
攻撃を予測していたサラマンダーは咄嗟にブーストをかけて回避するが、固定砲台と化したトロイの吸い付くようなエイムに着実にダメージを与えられていく。
「くっ、だが性能に頼っただけの戦法じゃ」
普通のLBXならば突破することも不可能な、止まない弾丸の嵐を風林火山で防ぎながら突進してくるサラマンダー。そのままトロイ目前まで迫った彼は、ズンと風林火山を地面に突き刺し、それを盾にしながらトロイの背後に回り込む。胴を軸に回転したサラマンダーの尾がトロイの装甲に激突し、火花を散らす。
サラマンダーはさらに一撃をと言わんばかりに地面に突き刺していた風林火山を掴み、回転の勢いを利用して一気に引き抜いた。
「よし、もう一発!」
「遠距離だけじゃない」
横凪に振るわれる風林火山。勝利を確信したのか火村の口角がきゅっと上がる。
しかし、それはトロイの装甲を貫くには至らなかった。
「え………は?」
「トロイは無人機として設計されている。だから何ていうか………雑に強いんだ」
左のデスバレルが、風林火山をしっかりと受け止めていた。その砲身には傷一つ無く、また圧倒的なトロイの膂力によって、あれ程の重たい武器で攻撃されたにも関わらず二機の位置は一ミリも動いていない。
「あと、性能に頼っているだけだって言ってたよね」
右のデスバレルが火を吹いた。しかし狙ったのは目の前にいるサラマンダーでは無い。予想外の方向への発砲に火村は反応することが出来ず、サラマンダーは微動だにしなかった。
「お前、何を」
「盾になってよ」
ドォォォォォン!
直後、サラマンダーの背後で凄まじい爆発が起こる。トロイに攻撃した時のままの姿勢だったサラマンダーは回避が間に合わず、トロイによってその爆発の盾にされてしまった。
先程狙ったのはサラマンダーの後ろにあったドラム缶。トロイの銃撃によって中の油に引火し、爆発を起こし、更に連鎖するように他のドラム缶にも引火して大爆発を起こしたのだ。
「さ、サラマンダー!」
火村が悲痛な叫びをあげる目の前で、サラマンダーの装甲は尻尾から順に砕け散る。更に追い討ちのように正面からデスバレルの銃撃がサラマンダーを襲い、それから数秒の間で無残にもサラマンダーは鉄屑と化した。
「そん、な……俺は、負け」
愛機を失い、これから自分がどうなるのかを察した火村はがっくりと項垂れ、膝から崩れ落ちた。
サラマンダーが一直線に向かってきた時からずっとこれを狙っていた。武器だけでなく尻尾まで攻撃に用いるテクニックには感心したが、それだけだ。神谷重工にはもっと強く、化け物じみたプレイヤーが揃っている。攻撃的な彼のプレイングから、位置をコントロールするのは容易だった。
黄緑色のフィールドが解除され、LBXが手元に戻ると同時にバトルフィールドはDキューブに戻る。
あまりのショックに膝をついて項垂れたまま、動けなくなっている彼にトロイのデスバレルを突き付け、僕は彼に歩み寄った。
「(どうしたものか)」
今まで通り本部に連絡し、こうして倒した彼を神谷重工に引き渡すのは簡単だ。しかし生まれ変わった自我と記憶が僕を迷わせる。
本当にこのままで良いのだろうか? 元々ストーリーの表舞台に現れすらしなかった僕はいずれ消える存在だと、大人しく従い続けるままで良いのだろうか?
「僕は、どうしたいんだ?」
「………は? お前、何言って」
火村が涙で濡れた顔を上げる。その瞬間、僕の中でカチリと何かがぴったりはまる音がした。
「そっか……僕は、LBXを兵器にしたくないんだ」
「は、はぁ? 兵器同然にLBXを扱ってる奴がなに言ってるんだ! 表では華々しく活躍してるお前の裏の顔だって、俺はよく知ってるんだぞ!」
ぽかんと口を開いたままの間抜けな表情のまま、叫ぶ火村を見下ろすと、彼も叫ぶのをぴたりとやめてぽかんと口を開いたまま固まってしまった。
唖然としているというか、半分呆れられているというか。火村のその表情からは「本当にお前は何を言っているんだ」という気持ちがありありと伝わってくる。
「火村さん、これあげるから、新しいLBX買って、逃げて」
「え、ハァ? って、じゅ、10万クレジットも!?」
「壊したサラマンダーは僕が証拠として貰うけど、貴方は自分の身を守るためにもLBXを買って。神谷重工以外ので、出来るだけ、強い奴を」
僕はトロイのデスバレルを下げさせて、電源をオフにしてバッグにしまった。そしてバッグからフリーザーバッグを一枚取り出して、サラマンダーの破片を一つ一つ回収していく。
回収が終わり、再び前を向くと、相変わらず唖然とした表情の火村が膝をついたまま固まっていた。
「どうしたの、逃げないの?」
「あ、あっ! ああ、逃げる。逃げるよ。でも、お前は何故」
先程までサラマンダー相手に冷酷な戦いを見せつけた神谷重工のお抱えプレイヤーが、何故突然自分を助ける気になったのかと、火村は聞いてきた。
彼からすれば予想外にも程がある展開だろう。いきなり敵幹部クラスに道端で襲われ、LBXバトルで完膚なきまでに叩き潰された。このまま自分は神谷重工に捕らえられてしまう。その筈が、何故かここまで自分をボコボコにした相手が突然救いの手を差し伸べてきたら、頭がイかれてしまったのかと思っても当然だ。
だから、彼の疑いを出来るだけ晴らして、可能な限り信用して貰えるように真実を話す。
「僕はLBXが好きなんだって、今頃になって思い出した、それだけ」
「そ、そうなのか。それなら良いが………って、こんな大金受け取れないよ!」
「大会の賞金でお金には困ってないから、受け取って。身の安全の方が優先」
「はぁ………なら、受け取っておく。だが、俺を逃がして本当に良かったのか?」
「大丈夫。それに戦ってるのは貴方だけじゃない」
小さい頃から神谷重工という会社の庇護の元に育ち、都合の良い価値観を植え付けられてきた青柳リュウセイという自我。それに理由は不明だが前世の記憶を捩じ込まれ、真に自信が何を求めていたのかをやっと理解することが出来た。
青柳リュウセイはLBXが好きなのだ。今までの人生のほとんどをLBXに費やしてきた今となっては、LBXそのものが人生と言っても過言ではない。LBXこそ僕の全てであり、何よりも守るべき大切なものだった事に、やっと気付いたのだ。
「大丈夫。後から貴方の事を追尾させたりとか、そういう事は一切しない。だから兎に角逃げて。神谷重工と、イノベーターの手の届かない所まで」
「お前………いや、君は大丈夫なのか?」
「問題ない。上も一度のミスで重要な戦力を手放すほど馬鹿ではないだろうし、僕も頃合いを見てすぐにでも神谷重工からは抜けるつもりだから」
「そうか、なら、お互い頑張ろう。気を付けて」
彼はそう言うと周りの様子を気にしながらそそくさと去っていった。
彼の姿が見えなくなると、手元にあるサラマンダーの破片を眺めながら思う。勿体無い事をしたものだと。あれほどまでに丁寧にメンテナンスされ、素晴らしい動きを見せてくれたサラマンダーは滅多に居なかった。それをただの鉄屑に変えてしまった事が酷く悔やまれる。
どうしてもっと早く気付かなかったものか。気付いていたならば最初から戦うことすらしなかったのに。
「………引っ越そう」
どうして原作との乖離が生まれてしまったのかは未だにわからないが、僕を含めた四聖獣の働きによって神谷重工は原作以上の力をもってしまっている。
山野バンとその仲間達は原作通りなら恐ろしく強いが、それでも今の神谷重工とイノベーターの率いるLBX軍団に勝てるかと言うとそれは怪しい。
自分で撒いた種だ。だから自分でそれはどうにかしなければならない。だが一人で暗躍して山野バン達に敵だと勘違いされるのも困る。
「たしか山野バンの通ってた中学は……」
上に報告する内容と言い訳と、山野バンとの繋がりを作るべく、引っ越し先の事を考えながら帰路につく。これから中学生の身で大企業とテロリストを相手取って戦うのだ。厳しい戦いにはなるだろうが、覚悟は決まった。
さあダンボールの中で戦争を始めよう。
LBXの未来をかけて。
【サラマンダー】
タイニーオービット社より発売された、ブロウラーフレームのLBX。ドラゴンをモチーフとして作られた機体で、オレンジのボディと太くて長い尻尾が特徴的。見た目のかっこよさから人気の高い機体だが、操作は他のLBXと比べて難しく、使い手を選ぶ。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。
【トロイ】
神谷重工が開発したブロウラーフレームの試作LBX。大きなモノアイと、圧倒的な分厚さの装甲を持つ。ナズーやインビットと同様に腕が『デスバレル』という武器腕になっており、その破壊力は圧倒的。リアルに「ずっと俺のターン!」が出来る化け物じみた機体。実は雑魚敵でお馴染みのデクーがベースになっている。
初出はマンガ「ダンボール戦機外伝」。
※本作品におけるAC(アーマークラス)について
原作ゲームにおいて、キャラクターのレベルとは別に各パーツの成長を示していたAC。本作品でもこの設定を採用しましたが、これは原作のようにLBXのパーツ自体の防御力や体力が上昇するものではないです。
本作品におけるACは、各LBXのアーマーフレームに内蔵されたAIが、バトルの中でのLBXの動きが各パーツに与える影響、攻撃を受けた際の衝撃の伝達などを学習し、よりダメージを受けない為にどのような動きをすべきかをコアスケルトンのAIに伝達させて各動作を最適化させていくといったものです。
『戦えば戦う程、動きが良くなっていく』といった認識でお願いします。
アミの最終機体、どれがいい?
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シャルナック
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ダークパンドラ
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ホーネット
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パンドラのままが良い!
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正直どれでも良い……