「やっぱりな。レックスの言った通りだ。もう逃げ場は無いぜ、イノベーター!」
目の前で怒鳴る郷田ハンゾウを眺めながら、僕は予想通りだと安心した。
僕が神谷重工から逃げ出してもう二週間経つ。流石にそろそろ僕が神谷重工を裏切った事は知れているだろうと思ったが、予想通りだった。
神谷重工を抜けた事はイノベーターに伝わり、そしてイノベーターから黒幕であるレックスにちゃんと伝わっていた。大方あとで面倒な敵になりそうな奴が孤立しているから、孤立している内に消してしまおうとでも考えたのだろう。
伝わっていなかったら、自身が元神谷重工のLBXプレイヤーであることを暴露するタイミングに悩むところだっただろうが、向こうから全員に教えてくれるなら話が早く済む。
「おい、何とか言わねぇのかクズ野郎!」
「ああ、ごめん。確かに僕は神谷のLBXプレイヤーだった。でも少し情報が遅いなと思って」
「………何だと?」
「僕は既に神谷重工を裏切り、イノベーターの敵として戦っている」
「は? 口からでまかせ言いやがって。なら証拠は!? あるのかよ! 言ってみろよ、ああ!?」
ギリギリと胸ぐらを掴んで持ち上げる力が強まっていく。そろそろ苦しくなってきたところだが、平然を装い、ポケットからCCMを取り出して画面を見せる。
CCMの画面には、何かの設計図が写し出されていた。
「なんだ、これ………」
「アンドロイド向け人工臓器技術『オプティマ』を、人間向けにしたものの設計図だ」
「なにっ!?」
郷田ハンゾウが同様しているのが目に見えてわかった。強まっていた力はあっと言う間に弱くなっていき、表情からも力が抜け落ちていっている。
「オプティマ……確か海道邸で聞いたやつ」
「そうだ……! それを利用して、海道は石森さんを脅していた!」
オプティマという名前を聞いて、ハッと思い出したカズが呟き、それを聞いたバンもそれが何だったのか思い出す。アミとミカも思い出したようで、その設計図がここにあることに驚きを隠せずにいた。
ただ一人、あの時ひどく怯えていて会話の内容をさっぱり覚えていなかったリュウだけが、いったいその『オプティマ』とやらは何なのかと首をかしげる。
「え……そのオプティマって、何なんだ? 俺にも教えてくれよ」
「そうか、リュウは覚えてなかったか。海道邸に忍び込んで、俺の父さんを助けに行ったとき、石森さんが僕たちを裏切っただろ?」
「う、うん。あの時はもう死んだと思った……」
「その石森さんが裏切った理由が、あのオプティマなんだ! 石森さんには妹がいて、生まれた時から身体が弱くてずっと病院に入院してる。でもオプティマがあればその妹さんの命は助かるんだ」
「なら、そのオプティマってやつを使えば……あっ」
「そうなんだ。海道義光が利益を独占するために、圧力をかけているせいで医療に使えないんだ。だから、その妹さんが人質になるような形で……」
「だから石森さん、あの時裏切ったのか」
バンの説明を受けたリュウは、合点がいったというようにウンウンと頷いた。
説明を終えたバンが再びハンゾウに胸ぐらを掴まれたままの僕を向いた事を確認し、再び話し始める。
「このオプティマの設計図。僕が神谷を抜ける前に、コイツを使って盗んできた」
CCMを操作して、あるLBXを呼び出す。
校舎の屋上から、跳び跳ねながら降りてきたそのLBXを見て、バンとカズ、アミの三人がまたしても驚いたように目を見開いた。
「やっぱりそこの三人は知っているみたいだけど、コイツはLBX『アサシン』。イノベーターによる財前総理の暗殺作戦にも使用された隠密、精密射撃を得意とするLBXだ。流石に山野博士の『ハンター』には一歩劣る性能だけど」
「アサシン………まさかあの時のLBXを操作してたのは!」
「それは誤解だ。僕はコイツのテストを任されただけで、実際に暗殺に派遣されたのは外部から雇われたプロの暗殺者。結局その彼も証拠隠滅の為に消された訳だけど………」
「消された、って」
「殺されたんだよ。イノベーターに」
ハンターにとっての宿敵アサシンを目の前に、怒りをあらわにしたカズ。しかし実際にあの場でLBXを操作していた人物が殺された事を教えると、彼は顔を青ざめさせて一歩後ろに下がった。
「命懸けで盗んできたオプティマの設計図は、信用に足る医療技術者に渡した。既に代替品が完成し、認可に向けて作業が進められている。最早自分の手を離れた物に海道も圧力はかけられない。安全の為に、石森ルナの入院している病院には知り合いのLBXプレイヤー達を集めて警護について貰った。石森理奈の妹、石森ルナもじきに入院の必要ない身体になるだろう」
神谷重工を抜けると決めてから、どうやってイノベーターを追い詰めていくか対策を練り、入念に準備してきた。
石森理奈をイノベーターに縛り付けておく為の人質である石森ルナを救うため、盗み出したオプティマもその一つである。
プロのLBXプレイヤーとして活動する中で、培ってきた横の繋がり。人から人へと協力を求める中で必要な人材にたどり着き、協力体制を築いた。
こちらに引っ越してきてからはミソラ第二中学校への転入までも時間があり、石森ルナとの顔合わせも済ましている。現在彼女の姉がどういった状況にあり、自身がテロリストの人質にされている事を伝えると彼女も快く了解してくれた。実際、原作のゲームにおいてはクリア後の世界で彼女と呼び出しバトルでLBXバトルをする事ができ、彼女の身体が外を出歩けるほどに健康になっている事がわかる。手術は無事に成功し、健康な身体を手に入れる事だろう。
「嘘だろ………お前、本当に」
ついに僕の胸ぐらを掴んでいた手がゆっくりと離れ、だらりと垂れ下がった。自分が悪だと断じて疑わなかった存在が、むしろ自分達と同じく平和の為に戦う側だったと知ってショックを受けているのだ。
ショックのあまり足にも力が入らなくなったのか、ふらりと後ろに倒れそうになるハンゾウの身体を、御影ミカが慌てて支えた。
「僕は、君たちの敵じゃない」
「………俺の、早とちりかよクソッ」
「気にしないで。正義感から神谷のプレイヤーだった僕を追い詰めようと思ったのに間違いは無いよ」
「お前は………どうして裏切ったんだ」
ハンゾウは完全に勢いを無くし、力無くそう聞いてきた。何故危険を冒してまで神谷を裏切ったのか。信用する為にも、最後に聞いておきたかったのだろう。ならば、言うことは決まっている。
「LBXが好きだから。LBXを人殺しの道具にしたくなかった」
「………ハァァ~、ったくマジかよ。散々LBXプレイヤーをとっ捕まえてきたお前がか?」
「うん、その僕が。言い訳はしない。僕がしてきた事は間違っていた事に違いないから。でも覚えていて欲しい。僕はもう君たちの敵じゃない」
そう言うと、ハンゾウは身体を支えてくれていたミカを離して、自分の足でしっかりと立ち上がった。その手には彼のLBX『ハカイオー』が握られている。
彼はハカイオーを手のひらに乗せて、Dキューブを片手に迫る。
「ハンゾウ、何を」
「下がってろ、バン」
彼が何をしようとしているのか察したバンが止めようとするが、ハンゾウは普段の番長としての落ち着きを取り戻し、彼を制する。
そしてDキューブをこちらに突き付けて、静かに言い放った。
「理解はしたが、納得はしてねぇ。俺にはてんで難しい理屈の話は無理だ。だから青柳リュウセイ、俺と勝負しろ」
こちらが返事をするよりも先にDキューブが展開され、地中海遺跡のバトルフィールドが現れる。そしてハカイオーは遺跡の中心に降り立ち、一点もののLBXであるハカイオーの専用装備『破岩刃』を構えた。守りなど要らないと言わんばかりに、片手剣使いならば普通は装備している盾も身につけず、威風堂々と仁王立ち。
「わかった。君がそれで満足するなら」
結局最後は話すよりも肉体言語。先程呼び出していたアサシンをフィールドに呼び出し、ハカイオーと対峙させる。
しかし、ライフルを持ったアサシンを見て、ハンゾウは不満げに眉を寄せた。
「まさかお前、それでやる気か?」
「いいや。アサシンは遠距離向きだけど、今使うのはこれじゃない」
CCMを操作してアサシンにライフルを投げ渡させ、代わりにヒートブレイズとタワーシールドを投げ入れた。アサシンはそれを受け取り、即座に自分の腕に装着させる。
「ほう……片手剣。わざわざ俺と同じにしたってか」
「やるならば正々堂々と。はじめよう」
「応よ!」
バトルスタート!
「ぶっ壊せ! ハカイオー!」
「切り刻め、アサシン!」
ドスドスと大地を力強く踏みしめ、ブーストをかけて一直線に駆けてくるハカイオー。ブーストをかけずに歩いて接近していたアサシンの目の前に躍り出ると、破岩刃を思い切り振り上げて叩き付けんとする。
「まずは一発目、貰ったァ!」
「甘い!」
しかし破岩刃が振り下ろされる直前にアサシンは右へと素早くステップをして回避、更にブーストをかけてすれ違いざまにハカイオーの駆動部を狙って切りつけた。武器を振り上げた状態で無防備だった為にそのダメージは大きく、その上ヒートブレイズの持った熱によって駆動部表面は赤熟し、ハカイオーはオーバーヒートを起こしてしまう。
「ハカイオー!」
大幅な機能低下を起こしたハカイオーの腕はだらりと垂れ下がり、武器を振るうことすら出来なくなってしまった。力押しになりがちではあるが、優秀なLBXプレイヤーであるハンゾウは機能が戻るまで逃げ続けなければならないと即座に判断し、ジャンプで倒れた柱の裏へと逃げる。
しかしそんなチャンスをアサシンが見逃すわけもなく、三段ジャンプで大きく飛び上がり、空中からハカイオーを強襲。咄嗟にハカイオーは横へと逃げるものの、高い位置からの重い一撃はハカイオーの重厚な装甲を貫いて左腕を切り落とした。
「リーダー! やっぱり此処に……って何やってんスか!?」
「郷田君!? 取っ捕まえるだけじゃ無かったのかよ!」
「まずいでごわす。郷田君のハカイオーが!」
と、ここで騒ぎを聞き付けたのか四天王郷田三人衆が駆けつけてきた。矢沢リコを先頭に、続いて鹿野ギンジ、亀山テツオと現れ、一方的に攻撃を受けるハカイオーを見て言葉を失う。
矢沢リコはあまりにも一方的すぎる戦況に、声を荒げて迫ってくる。
「どういう事だ……リーダーのハカイオーが全然動けなくなってる。どんな卑怯な手を使ったんだ、お前!」
「いいや。装備していたヒートブレイズの攻撃でハカイオーがオーバーヒートを起こしただけだ。卑怯な真似なんてしていない」
「そうだぜリコ。これは漢と漢の真剣勝負。黙って見てな」
「リーダー……」
そうしている間も尚も続くアサシンの猛攻に、ハカイオーのボディはどんどん傷ついていく。そして、あと一撃で勝負が決まると言う瞬間に、ハカイオーは機能を取り戻した。
「良し、良く耐えたハカイオー!」
アサシンの振るったヒートブレイズを破岩刃で受け止め、突き放す。満身創痍となったハカイオーは、しかし尚も両の足でしっかりと大地を踏みしめてアサシンを見据えた。
「行くぜハカイオー!」
必殺ファンクション!
みるみる内にハカイオー胸の中心にエネルギーが集束していき、赤い光を放ち始める。凄まじいエネルギーの波動に空気がビリビリと震え、周りの気温が僅かに上昇したのを肌で感じた。
「……これがプロメテウス最強のLBX!」
「ああ………受けてみろ!」
直後、圧倒的なエネルギーの奔流がハカイオーから放たれた。
迫るエネルギーを前にして、アサシンはただ盾を静かに構え、真っ向から向かい合う。
ここで避けてはならないのだと、直感が告げていた。熱血漢である郷田ハンゾウが今求めているのは、絶対的な力だけではない。それはふとした瞬間に見せる漢気であり、拳と拳で理解しあう一つの信頼関係の形。
僕という漢を見定めるために、彼はこの勝負を仕掛けてきたのだ。その期待を裏切るわけにはいかないからこそ、遠距離のアサシンに剣を持たせ、ハカイオーがオーバーヒートを起こそうと容赦なく追撃の手を休めず、そして今度は真っ向から『我王砲』を受け止める。アサシンがハカイオーの必殺ファンクションに耐えられなければそれまでで、僕は潔く敗けを認めるのだ。
「うおおおおおおお!」
「耐えろ、アサシン!」
ハカイオーは、ボロボロにひび割れたその装甲を崩しながら全力でエネルギーを射出し続けた。
エネルギーの波に飲み込まれたアサシンは最早その姿を確認することさえ出来ない。CCMから見るLBXのカメラもノイズまみれで何が起きているのか確認出来なかった。
気の遠くなるような長い数秒間の後、やがて光の線は細くなっていき、僕とハンゾウの二人、そして戦いの行く末を見守る全員が息を飲む。
全てのエネルギーが放出されきった先に残ったのは
「………っ、ふぃ~。マジかよ」
「……アサシン!」
ハカイオーと同じく、装甲に幾つものひび割れを作りながらも、アサシンは立っていた。赤い三つの目には未だ消えぬ闘志を燃やし、暗殺者と言うには余りにも堂々とした雰囲気を纏い、遠くのハカイオーに向けてヒートブレイズの切っ先を突き付けた。
必殺ファンクション!月下乱舞!
「次は、こっちの番……!」
真っ直ぐにヒートブレイズを立たせ、ぐっと身体に引き寄せて構えるアサシン。それを見ていた者は全て、アサシンの背後に咲く満開の夜桜と満月を幻視した。
「ハハッ、仕方ねぇ」
身体を回転させながら放たれるのは、桜のエフェクトを纏った飛ぶ斬擊。三回に渡って連続で放たれたそれは、全てハカイオーに直撃し、一度に深い傷を負ったハカイオーは爆発四散した。
「ハカイオー、ブレイクオーバー。僕の勝ちだ」
戦いを終えて顔を上げると、郷田ハンゾウの姿が目に入る。フィールドを挟んで立つ彼は、満足そうな笑みを浮かべていた。
【ハカイオー】
プロメテウス社の社長の息子である郷田ハンゾウの専用機。胸部パーツに砲門が作られた、特殊な構造のブロウラーフレームのLBX。プロメテウス社で初めてのスペシャル機で、郷田ハンゾウ自身がそれなりに有名なプレイヤーであることもあり、プロメテウス社の宣伝にも一役買っている。専用必殺ファンクション『我王砲』を持つ。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。
【アサシン】
財前総理暗殺のために作られた、神谷重工製のワイルドフレームのLBX。赤く光る三つの目が特徴的。暗殺者らしく長距離からの狙撃を得意とし、財前総理の就任記念パレードにおいてイノベーターの雇った暗殺者によって財前総理暗殺の為に使用された。その後は量産化されたらしく、結構な頻度でデクーやデクー改に混じって雑魚敵として登場してくる。
本作品では実用化前のプロトタイプが、神谷のテストプレイヤーであるリュウセイに渡されたという設定。因みにリュウセイに渡される試作機は全て、量産化される前の一点ものの為、ゲームで言う所のMGに位置する。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。
アミの最終機体、どれがいい?
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シャルナック
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ダークパンドラ
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ホーネット
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パンドラのままが良い!
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正直どれでも良い……