仮面に縁を、歌に血を 作:星鱈
プロローグ
このSSはフィクションです。
ここに記される如何なる人物、思想、事象も、全て紛れもなく、貴方の現実に存在する人物、思想、事象とは無関係でございます。
以上のことに同意した方にのみ、彼の者の運命を観測する権利がございます。
ㅤ『同意する』
ㅤ『同意しない』
……結構。
怠惰を司る聖杯は瓦解し、曲解の研究所は崩落。
世界の歪みは正され、『停滞』への歩みは止まりました。
これもひとえに運命の鎖を解き放ち、真なる意味で自由への更生を果たされたトリックスター、そして心の怪盗団の奮迅のおかげ……
しかし、世界の道が変わろうとも、我がトリックスターは相変わらずのようですな。いや、その呼び名には語弊がありますか。
この『彼』は『賊』ではなく──いえ、自ずとわかることでしょう。
彼は破滅の雑音を遮断し、堕ちた巨人を退け、世界の解剖を────おっと、失礼。私にとってはつい昨日の出来事でございますが、皆様方にとっては恐らく、未来の出来事でしょう。
では、再び見えます時まで……ごきげんよう。
喧騒溢れる表通りから距離をとって人通りの少ない路地裏に入り足を進める。
そして何となく物寂しい雰囲気が辺りを包んできた辺りで彼は足を止め、伊達眼鏡越しに目的の建物──喫茶店であろうそれを眺めた。
ㅤ『……ここか』
ㅤ『築何年だろう』
彼──
彼が大学受験にて受かったのは地元ではなく都市部に位置する大学だ。
自宅から通うにはあまりに距離が離れていたため借家を探していた結だったが、そこに『ルブラン』なる喫茶店の情報が舞い降りて来た。
ルブランの客と自分の親が知り合いで、大学に行くのにも丁度いい距離で、ついでに住み込みバイトOK──要は彼にとって良い条件が揃っていたのだ。
定員一人というセンターより遥かに厳しい募集人数の中から選ばれ、現在件の店の前で感慨に耽けりつつ突っ立っているのだった。
呆けていた自分に気が付き慌てて辺りを見渡すが、路地裏なのが幸いしたのか奇異の視線に晒されることはなかった。
ㅤ『入ってみようか』
ㅤ『そっとしておこう』
ㅤ『カチコミだ』
入店のベルが響きコーヒーに舌鼓を打っていた老夫婦の目に彼が映る。
カウンターで新聞のクロスワードを解いていたガラの悪い──しかし隠しきれない優しさがあるような──ご年配がゆっくりと結を一瞥した。
「あぁ……そうか。今日って言ってたな」
「ごちそうさん。マスター、お代置いてくよ」
「まいど」
「最近ノイズが発生して物騒って言われてるじゃない。まあこの店はそんな縁はないかもしれないけどね」
「……そりゃどうも」
「ははは、また来るよ」
溜息混じりに返答したマスターと呼ばれたご年配は老夫婦を見送るとさらに深く息を吐いた。
「コーヒー1杯で4時間かよ。で、お前が結か?」
ㅤ『お世話になります』
ㅤ『雨城 結です』
ㅤ『問おう、貴方がマスターか?』
「こっちが質問してんだよ。まぁ、俺がマスターってのはそうだが」
「佐倉惣治郎だ。確か契約では大学卒業まで……だから4年くらいか」
頭をかきながら喫茶店の壁にかけられたカレンダーに目をやった惣治郎は「着いてこい」と一言。奥にある階段へと結を先導する。
案内されたのは掃除がそこそこ行き届いた屋根裏部屋だった。
ところどころ小さなホコリはあるものの、それ以外にこれといってひどい汚れは見当たらない。
ふと結が視線を落とすと床板に何か重たい物を引きずった痕があった。
「事情は聞いてるよ。大学に近い手頃なアパートを探してたんだっけか?ま、仕事手伝ってくれんだったら特に言うことはねぇから」
腰をさすりながらソファに腰掛ける惣治郎。
もしかすると彼は……
ㅤ『掃除してくれてありがとう』
ㅤ『もしかして……』
「……気づかれちまったか。いや、こんなレトロな店のバイトなんてそう来ねぇと思ってたからよ」
元々惣治郎はバイト募集の貼り紙を外に掲示したものの電話はこないだろうと諦めていたのだ。
故にバイト、しかも住み込み希望の電話が来るとも予見しておらず、屋根裏部屋は控えめに言ってゴミ屋敷だった。
そこに結からの電話がくる。
慌てて惣治郎は慣れない清掃作業に勤しむことになった。
ちなみにバイトはよっぽどひどい人でもなければ電話をかけた時点でほぼ内定だったようだ。
まさか気がつかれるとは思っていなかったのか気恥しそうにそう語る惣治郎。
それを紛らわすように咳払いするとゆっくりと立ち上がった。
「後でシフト表渡すからどこの日が都合いいか書いといてくれ。大学のカリキュラムはもう決まってんだろ?」
「あー、あんまり遅くに授業入れんなよ?その分こっちの苦労が増えるんだからな」
【惣治郎との距離が少し縮まるのを感じる……】
COOPERATION【佐倉惣治郎】
『法王』
【■□□□□□□□□□】 RANK1
【ペルソナの力を育てる人間関係
『法王』のコープが解禁した!】
そう言うと惣治郎はさっさと階段を下って行ってしまった。
結はこれから始まるだろう未知の生活に思いを馳せる。
だが今日のところは荷を解いた後、すぐに眠ることにした。
どこからか黄色いネズミのような、黒い猫のような声が聞こえた気がしたのは気の所為だろう……。
『今日はもう寝ようぜ』
──喪失までのカウントダウンまで、残り一年──
原作との相違点
・ルブランがちょっとだけ繁盛してます。原作よりも店内が広めです。頑張れば一人でも切り盛りできるけどバイト一人欲しいな……くらいには。
・ペ5主君大学一年生。住み込みカフェ&屋根裏部屋というロマンと親の勧めに引かれてルブランに電話した。彼に前科はなかった。
・惣治郎が柔和。ペ5主君が厄介払いされたわけではなく、ただのバイト君として来たことも関係している。
現在まだ主人公くんはペルソナを覚醒していませんが、都合によりコープは進めます。
え?原作と違う?
そりゃあこれSSだし多少はね?
ガバやらかしまくっていきますがユルシテ…ユルシテ…