仮面に縁を、歌に血を 作:星鱈
ギリギリ一日連続投稿だぜ。
誤字報告、誠にありがとうございます。
「虎の子かと思えば理性と引き換えか?」
鋭利な手鉤に変貌した響の腕がネフシュタンの鎧に目と鼻の先で停止させられる。
一対の刃鞭によってギチギチと締めあげられる響だが、迸る力と溢れ出す感情の奔流に任せブチブチと奇っ怪な音を立てて拘束を引きちぎろうとしていた。
舌打ちした鎧の少女は呆然とこちらを見つめている未来に叫んだ。
「おい、そこの!死にたくなきゃしっぽ巻いて逃げるんだな!」
しかし未来は動かない。
ボソボソとうわ言のように響の名を呟くだけで、他の何事も彼女の耳には入らないようだった。
「■■■■■■───────ッ!」
未来に声をかけたその一瞬、拘束が緩んだのをこれ幸いと響は歪なアッパーカットのフォームで漆黒の手鉤を鎧の少女に躊躇なく振るう。
しかしそれを見越した彼女は鎧に仕込まれたスラスターを吹かせて後退した。
「チッ、回収するにも一旦のしてからか」
銀色の杖────ソロモンの杖を手に取った少女は呼び出したノイズを響へと差し向ける。
「Aaaaaaaaa!!」
しかし人だけを殺すためにだけに磨がれた牙は獣の猛攻を止めるには役不足だったらしい。
四足歩行へと体勢を変えた響は音を置き去りにして猟犬の如く正面にいた人型ノイズへ躍りかかった。
人型は自らを紐のように細く変形させ負けじと響に特攻する。だがそれは浅はかと言わざるをえない。
最小限のステップで攻撃を躱した響はその細くなったボディを爪でなぞると瞬く間にノイズは三枚おろしに切断され、炭素を残して消滅。
続くカエル型のノイズに対しては衝突を避けもせず双爪をクロスさせ一振。細切れに散ったソレに大した興味も抱かず、次なる獲物を定めては真紅に染まった眼光を向けた。
⚫
「ひび、き」
喉が枯れているわけでもないのに、掠れたような声しか出ない。
アレが響?そんなわけない!
しかしそれを否定するには圧倒的に材料が足りないかった。
目の前で変身した彼女を見て、今もノイズ相手に炭化されず拳を振るい続ける変わり果てた彼女を見て、その何を、どれを否定できようか。
彼女はただ現実を見ることを恐れているだけなのだ。それが至極真っ当で正常な反応なのは言うまでもないが。
目の前で繰り広げられる非現実的な光景は未来が頭を動かそうとする度に思考のフリーズをもたらす。
殴打の響きがここまで聞こえてくる。
苦虫を噛み潰したような顔の少女が次なるノイズを呼び出した。
餌にありつくように獣のように、衝動が突き動かすままに響はまたノイズの蹂躙を開始する。
(……そうだ)
未来は響が獣に身をやつす直前、歌のような一節を口にしていたことを思い出す。
それは、助けを求めるような。
それは、怒りを堪えているような。
それは、悲哀に暮れているような。
色んな思いがないまぜになった声で、響は詠っていたのだ。
「助け、なきゃ」
自分でもおかしいと思う。
人の範疇を超えた彼女が泣いているように見えるだなんて馬鹿げている。
でも未来の目に響はそう映って、未来の耳は響のか細い声を拾い上げた。
赤に塗りつぶされた彼女の瞳が泣いていた。
黒に押し潰された響の口が『助けて』と動いていた。
獣の中にひとかけら、大海に真水一滴垂らすがごとく含まれた響の破片を────
「響ィィ────ッ!!」
────私が、呼び戻すんだ!
パサパサだったのが嘘のように、あらん限りの力を振り絞って未来は喉を震わせる。
そうすべきと言われたわけじゃない、これが自分の首を絞めることも承知の上だ。
────でもこれが今の響に必要だと、頭でなく『心』で理解した。
赤い双眸が未来を捉える。
一瞬だけ顔の闇が晴れるも、すぐにその面は黒で暗く淀んでしまった。
ノイズを目にした時とは打って変わって比較的ゆっくりと未来に歩み寄り、その腕を振り上げる。
今の今までノイズと戦っていた響とはどこまでも対照的だ。掲げた爪は振り下ろすことを拒否するように震えている。
しかし拮抗もつかの間、その爪はいくらかの躊躇いを持って振り下ろされる。躊躇ったとはいえ一般人の未来からすれば致死の一撃なのは言うまでもない。
──届かなかった。
迫ってくる爪はスローモーションを見ているかのように酷く遅い。
自分が数秒先に辿る結末など未来の頭にはなく、ただ響を元に戻せなかったことだけが心に深くわだかまりを残していた。
諦めたように伏せたまぶたを少しだけ開けてみる。
切り刻まれるはずの身体は五体満足で生存しており、あろうことか未来の目の前では白銀の鎧の少女が響の動きを静止させていた。
「逃げろっつっただろ!」
⚫
(そのガッツだけは認めてやる)
しかし時と場合は考えろ、そう思った。
コイツは大人ではない。
あたしが憎くて憎くてたまらない、掃き溜めのような大人ではない。
それどころか獣になった友達を止めるために、力もないのに身体を張るくらい肝が据わったヤツだ。
そう、助けたのは単なる気まぐれ。
コイツを救ってやりたいとかそんな大層で崇高な理由じゃなくて、このまま放っておくと寝覚めが悪くなる気がしただけ。
だから──
「あたしの気が変わんねぇうちにサッサと逃げろ!」
後ろ目で見たソイツはあたしとヤツを心配そうに見つめて、すぐに駆け出した。
視界から消えたのを確認し、鞭を振るい第三号を大きく後退させる。コイツを後ろに下げるわけにはいかねぇ。
「喰らえよッ!」
鞭を横凪にしならせヤツの頭部を狙う。
昏倒でもしてくれれば重畳。そしたらアイツの命令は完了したも同然だ、そう思っていた。
衝突と全く同時にグイと鞭が引っ張られた次の瞬間、アタシの足は地面から離れていた。
風切り音が聞こえて辛うじて分かるのは、自分が振り回されるアメリカンクラッカーみたいに高速回転していること。
鈍い音を立てながら木とか地面にぶつかって、その度身体の表面から染みるように鎧が根を張っていく。
逆方向にスラスターを吹かせて勢いを緩めようとも、圧倒的な力には焼け石に水だった。
そのうち飽きたのか、無造作に空中へと放り出されたあたしはいくらか木をボキボキと折りながら地面を転がった。
「つぅ……この、見せつけてんじゃねぇぞ!!」
視界に見える第三号は未だ健在。
お前が、お前みたいなのがいるから争いはなくならねぇんだ。
だけど身体が鎧に蝕まれ、口を突くのは苦悶の声だけ。
とてもじゃないがそんな啖呵を切れるような余裕はなかった。
また、ヤツはゆっくりと近づいてくる。
色んなものに侵された顔で、ゆっくりと、ゆっくりと。
死にはしないが、この先死ぬほどの苦痛が待っているのは自明の理だった。
あたしは覚悟を決めて立ち上がる。
アレが引くことを許すとは到底思えない。
(クソ……せめて後一人いれば)
柄にもなくそんなことを思い、頭を振るう。
いるわけないだろ、そんな都合よく味方なんて────
「……あ?」
こちらを捉えて離さなかった獣の瞳が夜空を見上げていた。流れ星でも見えたのかとあたしも釣られて空を仰ぐ。
確かに流星が一筋、空を駆けていた。しかしヤツが見ていたのはそれじゃない。
次いでズドン!と何かが上空から落下して地を揺らした。もちろん星ではない。
しかし──流れ星に願い事をするジンクスは、あながち捨てたもんじゃないらしい。
「大丈夫か?」
第4号──確かフィーネにギャラハッドと呼ばれた男があたしを背にして第3号の前に立ち塞がっていた。
君を苦境から救いに来たんだ(グリッドマン)(スーパーヒーロー着地)
ちゃんとタイトル回収しました。えらい。
これじゃどっちが悪役だか全然わかんねぇお……。