仮面に縁を、歌に血を 作:星鱈
まずは完成させるところからスタートって、それ一番言われてるから。
「大丈夫か?」
ギャラハッドは宣言通り響がいない分しっかり仕事をこなしていた。
自分の担当区域のノイズはあらかた駆逐したので、このあたりで奏や翼の方へ向かおうとしたところで本部から連絡が入る。
響が未来と流星観測をしていた場所で二年前に喪失したはずのネフシュタンの鎧、そして多数のノイズの反応が検出されたのだ。
それに呼応するようにガングニールのアウフヴァッヘン波形も感知され、響が戦闘を開始した線が濃厚であるというのが二課の見解だ。
付近にいたギャラハッドが加勢に駆けつければ状況は予想していた戦況とはかなりあべこべだった。
上空でホバリングする二課のヘリにカメラくらいは積んであるだろう。二課の面々も今の響の状態を目の当たりにしているはずだ。
赤い眼差しで結を睨みつける響に盾を構えたギャラハッドは弦十郎に指示を仰ぐ。
ㅤ『目を覚まさせていいか?』
ㅤ『鎮圧に許可はいるか?』
ㅤ『優先はネフシュタンか?』
数秒の逡巡の後、弦十郎は指示を下した。
『……俺たちが守りたいのは聖遺物ではなく人命だ。早急に響くんの目を覚めさせてやってくれ!奏と翼もあと少しでそちらに向かえるはずだ!』
飛行中でも声を拾えるようにスピーカーモードにしていた通信機から聞こえる弦十郎の声は背後でフラフラと立ち上がるネフシュタンの少女にも届いたはずだ。
雪のような髪をした彼女をチラリと窺う。
鎧の所々に亀裂が走り、呼吸も荒い。しかしその目からは曲げられない信念のようなものが感じられた。
ㅤ『目的を聞いても?』
ㅤ『作戦目的とIDは?』
「……言えねぇ」
小さく口にした言葉にそれもそうかと納得し、正面を見やる。
「自分の目的は響を止めることだ。多分、そこまでは同じじゃないか?」
ハッとして彼女は首をもたげる。
遠回しに彼が協力しようと持ちかけているのは明らかで、素人目から見てもそれはかなりの杜撰なお誘いだった。
大方自分を納得させるために遠回しな言い方をしたと結論付け、彼女は口の端に獰猛な笑みを浮かべてみせる。
────いいぜ、その口車に乗ってやらぁ!
「ハッ!じゃあお望み通り共同戦線といこうじゃねぇか。精々利用し尽くしてやるから足引っ張んなよ、第四号ォ!」
ㅤ『ギャラハッドと呼べ』
ㅤ『第四号なんて名前じゃない!』
⚫
暴虐の権化となった響の爪撃を堅牢な盾で受け止める。
あのごはんダイスキーで心優しい響から放たれたとは思えないほど力強く、本能に任せた一撃。
ギャラハッドがヘイトを引き付けている間、ネフシュタンの少女は響の足元の地面から刃鞭を出現させ、その華奢な脚を地面に縫いつけた。
────しかしその程度で獣は怯まない。
驚異的な身体能力で縛られた足ごと中空に飛び、そのまま勢いよく体を捻ってきりもみ回転。
掃除機がコードを巻きとるように、スピンした響にネフシュタンの少女が絡め取られる。すぐに逆きりもみ回転を開始して少女をギャラハッドに向かってリリースした。
慌ててギャラハッドは彼女を抱きとめる。
錆くせぇだのヤケドするだのボロクソに文句を言われるが、そのまま吹っ飛べば今よりボロボロになっていたことは想像に難くない。
全身鎧×2とは打って変わって目を回すこともなく猫のように着地する響。
お前たちでは前菜にもならん、ニタリと歪んだ響の口元が言外にそう告げる。
「にゃろう、人間サマに下剋上しようってか!」
ㅤ『多分そこまで考えてない』
ㅤ『アレに思考なんてないだろう』
「うっ、うるせぇ!」
小突き合うのもつかの間、空気を裂く音が耳に入ると同時に両者は弾かれるようにその場を退避した。
響は黒爪が空を切ったことに腹を立てたのか、歯ぎしりと唸り声を鳴らす。
「なんかねぇのか、何か……」
ソロモンの杖を振るいノイズを放出しながら彼女は考える。
響の優先度はノイズ>ネフシュタン>ギャラハッドとなっており、ノイズを向かわせている間は黒爪がこちらに届くことはない。
しかし響の動きはノイズをぶつける度に研ぎ澄まされつつある。
彼女の動作の最適化が完了すればいくら無尽蔵に出せるノイズと言えども壁として使い続けることは難しくなるだろう。
結の方も弦十郎からは先の連絡が最後だ。
つまりツヴァイウィングは未だ彼女が放ったであろうノイズ相手に奮戦しているということだ。
救援が望めそうにないことは明白だった。
「っチィ!」
痺れを切らしたのか、ネフシュタンの少女はノイズに加勢する形で蛇行させた刃鞭で強襲する。
が、もう見切ったとでも言わんばかりに雑音を退けつつもガシリと鞭を掴み、数分前を焼き直すようにそれを勢いよく引っ張った。
「うぁッ!?」
マズった、そう思った時には遅かった。
既に響は鞭から手を離し、黒爪を構えて鎌首をもたげている。スラスターを吹かすのは間に合わない。かといって攻撃に耐えきれるかと聞かれればそれは否。
予想可能回避不可能な衝撃に備え彼女は腕をクロスさせて苦し紛れの防御体勢をとる。
無意味だということはわかっている。だからといって諦める選択肢は彼女に存在しない。
反射的に目をつぶったその表情に勝気な彼女の面影はない。宛もなく出口を探す弱々しい少女のそれであった。
「アダっ」
痛い。いや、痛いで済んだというべきか。
鉄に思いっきり頭から衝突したような痛みが彼女の頭にじんわりと広がった。
もちろん響の攻撃がその程度でないことは確然たる事実である。
──ならば、まさか!?
見上げた彼女の目が捉えたのは漆黒の腕に脇腹を貫かれた機械の騎士の背中だった。
⚫
「な、な……」
「デカブツ!何バカなことしてやがる!?」
装甲を断ち切られ露出した内部機関がバチバチとショート。そこからの挙動は情けないくらい鈍重だ。
ㅤ『これ……で、いいッ』
ㅤ『心配、する……な』
ネフシュタンの少女の激が飛ぶが結はそれに割く頭の余裕がない。
ギャラハッドが青い炎と共に消失し、その後には血を垂れ流す結が残った。
よくよく彼の体を観察すればギャラハッドが貫かれた部分と同じ箇所が抉られ、痛ましい傷を外気に晒している。
息も絶え絶えで脇腹からは絶えず血が流れる。
そのセリフが強がりだということくらい誰にでも分かった。
それでも彼は、傷が開くことも厭わず一歩、また一歩前へ。
ㅤ『響ッ!思い出せ!』
唸る彼女の肩をひっ掴んで訴えかけた。
その力はヒトを害するものでなく、ヒトを守るためのもの。
ㅤ『自分が何のためにそれを振るうのか、思い出せッ!』
「何──た、め」
ノイズが含まれた途切れ途切れの声。しかしまだ意識はある。
ならばと畳み掛けるように結は続けた。
ㅤ『君は、獣なんかじゃない』
血に塗れた、震えた手で結は響の頬に触れた。
赤の双眸は震えるように明滅し、彼女の瞳は徐々に元の山吹色を取り戻した。
呆然と自分を見つめる響の頭をクシャクシャっと撫でる。
ㅤ『ああ───安心した』
結は嬉しかった。
一度は我を忘れ破壊衝動に身を任せた響が、こうして自分を取り戻してくれたことが。
対価に支払ったものはそれ相応だが、致し方なし。むしろ安いものだ。
ㅤ『もう、見失うな』
満足気な微笑みを浮かべた結は糸が切れた人形のように響に垂れかかる。
脇腹から滴る生暖かい液体が彼女に侵した業をまざまざと感じさせた。
「あ」
弛緩した肉体は結構な重さだった。
もたれた結を支えたまま、ドサリと地にへたり込む。
「うっ……あ、あ」
徐々に彼の体の熱が逃げていく気がする。
それに比例して赤と黒しか見えなかった現実が、色彩豊かに彩られていった。
「うああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
再び宙に尾をかけ始めた流星の中、響の悲壮に満ちた声が辺りに木霊する。
響が握る結の手は彼女が離すその時までついぞ動くことはなかった。
お前までシリアスしてどうするつもりだよォ!?
まあだいぶ後にシリアルは回ってくる(予定だ)し、多少はね?
最後の場面のイメージは「城戸……おい城戸! 城戸ぉ─────!!!」のシーン。
割り込みでキネクリ先輩救出成功。
ギャラハッドのスキル『かばう』ですね。
ようやく裏で立ててたステータスを生かせる時が……。
ペルソナのステータスの本格開示は無印終わったらする予定です。
SAKIMORIは絶唱してないのでズボラな性格が露見するのは先送りとなりました……命拾いしたね!(威厳が保てる的な意味で)
次回のサブタイは『Mass Destruction』です。
どうぞお楽しみに。