仮面に縁を、歌に血を 作:星鱈
と祈祷しながら初投稿です。
ビッキーとのまともな会敵回数が少ないのが裏目に出て大変辛いでござる。
狂戦士と化したギャラハッド────否、(仮称)バーサーカーがその歩を一歩、また一歩と進める度、空間に漆黒と金色の波濤が放たれ周囲を蝕んでいく。
侵食された空間から仮面が地に落ち、赤黒い液体を撒き散らしながら怪物のそれへと姿を変える。
例えばそれは口を持つ赤と黒色の球体だったり、仮面をつけた神官のようなものだったり、ヒーホーヒーホー喋る白い小悪魔だったり。
バーサーカーの付近ほど空間の歪みは激しいようで、彼の足元の地面からは骨の芽としか形容できない何かが顔を出している。
端的に現在の薬品工業地帯周辺の状況を表現するなら現実を侵食し始めた『メメントス』がわかりやすいだろうか。
「旦那、アレにノイズの反応は?」
「……ない。しかし同じ特性を持っていないとも言い切れん。結のバイタルが観測できないのは気がかりだが、ひとまずは自分たちの安全確保、次いで明らかに暴走している結の目を覚めさせてやれ!」
目の前で増え続ける異形と広がり続ける空間異常。
奏は弦十郎に指示を仰げば、1に安全2に仲間と返ってくる。
「響は了子さんを頼む!翼はあたしと結のドタマぶっ叩いて正気に戻すぞ!」
「わ、わかりました!」
「承知!」
⚫
「ノイズじゃないならなんなんだよコイツは!」
完全に蚊帳の外に置かれたネフシュタンの少女こと雪音クリスはノイズとは違うベクトルで奇妙な存在に雑音を指揮してぶち当てていた。
どちらかを害さないならまだしもノイズも装者も平等に襲い続けているのを見れば、ヤツらの舵取りをあの元デュランダル現バーサーカーができていないのは一目瞭然。
オマケに怪物どもには位相差障壁がまるで通用しない。クリスは自分の専売特許を根こそぎ奪われた気分だった。
一つ一つは弱いのだがその攻撃方法が不思議不可思議意味不明。
氷結ビームを吐き出してくるものもいれば光弾を連射するもの、そしてデカい体にものを言わせて突進してくるやつ、終いには仲間を回復させる害悪エネミーまでいる。
ノイズよりは貧弱なものの微妙に統率のとれた行動がクリスの神経をゴリゴリと削り続ける。
72のコマンドを駆使してノイズに指示を出し続けるのも簡単ではないのだ。
そんな彼女の背後から巨大な木の枝のような影が投射される。
聞こえる風切り音と徐々に拡大する影に危機感を覚え、クリスはコンクリを踏み抜いてそこから飛び出した。
「んなっ……」
言葉を失うクリスの前に現れたのは黒い腕。それも大量にだ。
ただ言葉にするなら『右腕と左腕が結合したモノの群体が青い仮面やら剣やらを携えている』化け物としか形容できない。
奇しくもソレはある世界において初めて『彼』がペルソナでの初陣を飾った大型シャドウ────『マジシャン』と同様の姿をしていた。
もちろん、それをクリスが知る由もないが。
「
潜在的な嫌悪感を掻き立てるそれを叩き切ってやろうとクリスは刃鞭をマジシャンに向かって打ち放つ。
しかし『魔術師』のアルカナにおける『手腕』の暗示は伊達ではないのか、絡んだようにも見える腕を縦横無尽に動かして刃鞭の猛攻を巧みな剣筋で完封した。
それだけでは満足しなかったのだろう。マジシャンは青い仮面をクリスへと向け、目の部分の暗闇に焔を灯す。
爆炎が燃料タンクを誘爆させながらクリスへと牙を向けた。
もちろんクリスはそれを避け続けるが残念ながらここは薬品工業地帯、引火するものなど腐るほど転がっているのだ。
四回目の爆撃をギリギリで避けたクリスの視界に飛び込んできたのはよくご家庭で使われるプロパンガスボンベだ。
この付近に炊事場でもあったのだろうか。
当のクリスはといえばそんなことを考える暇はなく、約二秒後に自分が黒焦げになっている未来を想像する。
そして願ってもない爆炎が、視界の端で弾けた。
「つッ!」
たまらず鞭を壁のように拡散させて防御の構えをとるが、減衰させても焼け石に水なのは眼前に迫る業火を見れば明らかだ。ノイズを出すのも間に合わない。ウェルダン確定コースである。
肌が焼ける熱を感じる直前、クリスは自分の身体が何者かによって安全圏へと移されたことに気がついた。
「テメェ……!何やってんだよッ!」
「ごめん。でも私は人が焼かれそうなのを指をくわえて見てるほど、人を捨てたつもりはないからッ!」
クリスを抱えて脱出していたのは響だった。
了子を安全な場所へと送り届けた後、トンボ帰りで混沌極める戦場へと舞い戻ってきたのだ。
クリスを地面に下ろした響は油断なく視線の先で蠢くマジシャンに拳を構えた。
「誰もお前に助けてなんて頼んでねぇッ!」
「それでもッ!私は手を伸ばす!できるのにできないって諦めたら、死ぬほど後悔するから。……なにより!」
────救けを求める顔してたッ!
「……ちょ、お前!待てッ!」
捨て台詞を吐いて響はクリスから逃げるようにマジシャンへと急襲する。
またもや置いてけぼりとなったクリスはあ゛〜もう!とガシガシと頭をかいてその後に続いた。
⚫
「うらぁッ!」
「■■■■■■────ッ!」
奏の撃槍は葉脈の如き金色のラインと黒靄に侵食された鉄パイプと漆黒に染ったデュランダルに阻まれた。
間髪入れずに翼が横合いから『蒼ノ一閃』を放つも、衝突直前に地面から出現した文字通りの竜骨がその致命の一撃を防ぐ。
成長を続ける竜骨を掴んで一気に空へと駆け上がり装者二人の頭上を取ったバーサーカー。
身体にまとわりつく黒靄を手中に集中させてあるモノを形作る。
喚びだした『JM16A1』──平たくいえばガトリング砲を竜骨から飛び降りながらも躊躇いなく乱射。
奏と翼は射程外へと後退しつつ捌ききれない凶弾を各々のアームドギアで弾いていく。
「あ〜、ホント滅茶苦茶だなオイ。パイプでアームドギアと打ち合ったかと思えば今度はガトリングガンか?──っとぉッ!」
文句を垂れつつ背後から接近したシャドウを一槍のもとに切り伏せる。
球状の身体に口がついたシャドウ──『アブルリー』は塵も残らずその姿を霧散させた。
「正気に戻す前に此方が膝を着きそうだな……奏!後どれくらい持つ?」
「ん〜、持って10分15分だな。あんま悠長にはしてられなそうだ。了子さんがLiNKER改良してくれたのか知らねぇけど、前よりはかなり長い間戦えてる」
「立花も今の雨城ほどとは言わないが八岐大蛇の幻影が如き奇っ怪な魑魅魍魎とその拳を混じえている。……奏、早急に片をつけるぞッ!」
「……スイッチ入るといっつもこうなるんだよなぁ」
防人スイッチがONになり彼女の中の跳ね馬が踊り高ぶってしまえばもう止められるものはいないのだ。
相棒のいつも通りの豹変に頭をかきながら奏は撃槍を握りしめ再びその身戦火の中へと投じていった。
⚫
響が前回クリスと戦った際の記憶はぼんやりとしたものだったが、ある時その現場を撮影したビデオを視聴して記憶の補完を始めていた。
進んで見たいものではなかったが、悔しさの先に大きな発見もあった。
ネフシュタンの少女──クリスが自分の攻撃から未来を守っていてくれたのだ。
そして後には一時協定とはいえギャラハッドと戦線を共にしていた。
このことから響は彼女がそこまで悪い人間ではないのだろうと結論付ける。
もっとも性根が悪か否か程度の些細な問題で、響はクリスへの対話を試みることをやめはしなかっただろうが。
先ほどの響が言った『救けを求める顔してた』という台詞はクリスの心的弱味というか、後引く想いを焚き付けるようなものなのだが、当の本人にその自覚は全くない。
響からすれば最速、最短、真っ直ぐに、一直線にその胸の響きを、想いを伝えるための手段を即決して実行しただけなのである。
影の剣と撃槍の拳が交差しギャリギャリと擦れる。
響の攻撃の隙間を縫うように放たれるマジシャンの手刀はクリスの鞭によって叩き伏せられた。
二人は怪物から距離を置いて息を整える。
「訂正しろ。あたしは救けを求めてなんかいねぇ」
まさかそんな台詞を言う人に助けられるとは思ってもみなかった響は少し目を見開いて横目でクリスを見つめた。
「あの鎧野郎のぶんの借りをここで返してやる。それでイーブンだ。非常に癪だがアイツらを倒さねぇ限りあたしもお前も、未来はねぇみたいだからな」
「……うん、今はそれでいい。でも後でちゃんとお話させてもらうよ?」
「ハッ!全員五体満足でホトケになってなきゃ考えてやるよ!」
「十分ッ!」
再び響はその拳を振るいマジシャンへと突貫。
後ろからそれを援護するようにクリスは鞭をしならせ響の進撃を阻む腕や剣を弾いていく。
「ここだァッ!」
響渾身の一撃がマジシャンの青い仮面へと吸い込まれる。しかしマジシャンはその攻撃を避けようともせず────
────その暗い瞳に怪しげな光を灯す。
マジシャンから淀んだオーラが目と鼻の先にいた響にぶつけられる。
至近距離だったこともあるのか、彼女の意識は一瞬にして刈り取られ、暗闇の中へと転落していった。
⚫
「あれ、私……」
自分は薬品工業地帯で腕の化け物と戦っていた筈だが──そう思い周囲を見渡した。
いつの間にかその身に纏っていたはずのガングニールは消え去っており、響はいつもの私服のまま暗闇が包む空間に一人佇んでいた。
「あそこ、光ってる……?」
黒一色の空間に光明が差す。それほど離れていないところに光源が見えた。
飛んで火に入る……とは言うがこの場所がどこかも分からない以上情報は必要だ。
響は注意を払いつつその光へと近づく。
そこで響を待っていたのは────
────
やはりコイツただの……いやなんでもないですわよ。
前回あとがきに書いた哲学兵装『縁繋ぎ』については『其は無毀なる影、真なる我』の最後に頑張って簡略化して明記する予定でございまする。
分かりにくくてすまなんだ……。
シャドウを召喚し始める(仮称)バーサーカー。
なんでそんなことできるんですかねぇ……(困惑)
なんか周囲一帯メメントスが現実に侵食してきた時みたいになってるけど……まあヨシ!(現場猫)
次回『以降』予告での台詞回収〜。今回はクリスちゃんの台詞でした。
シャドウに位相差障壁が通用しないのはシャドウもペルソナも根底の集合的無意識が全ての世界にまたがるような概念だから、ちょっと位相がズレたところでそんなの関係ねぇって感じで殴れるわけですねぇ。
平たくいえばノイズはいくつかの世界にしかまたがれないけど、ペルソナ及びシャドウはどの世界にも遍在しうるのでノイズを殴れるよ!くらいに考えて、どうぞ。
ついでに言えば存在が概念的なものなので炭素化しないんですわ。そもそも生き物じゃないし。
そして結の持つエリザベスと銀のイヤホンの縁から召喚されたのは────大型シャドウ・『マジシャン』!
あぁ!ペルソナ3冒頭で毎回オルフェウスを食い破って出てくるタナトスっぽいアレに惨殺される『マジシャン』君じゃないか!
カットインを二回もらえる高待遇。
ここまでヤツを持ち上げたSSここだけじゃねぇかな(多分)
了子さんを安全圏にお届けしたビッキーがキネクリパイセンを救出!
なんか少しの小銭と明日のパンツの人か9代目OFA継承者みたいなこと言ってますねビッキー。彼らと性質は似てるような気がしますわよ。多少はね?
で、次。ツヴァイウィングとバーサーカーの決戦。
彼のNTR武器には赤い葉脈ではなくて金色の葉脈が走ってるんですよね。黒に金の方がシャドウっぽいじゃんアゼルバイジャン?
マガツイザナギカラーだとそのまますぎるのでシャドウを象徴するカラーになっていただいた。
そしてUMAみたいな宝具(偽)発動。
安心安全のガトリングガンを取り出します。どっから輸入してきたそれ?
もうFateとガッチリ繋がってんの隠そうともしなくなってきたな。もうこれ分かんねぇな……。
これもだいたい『縁繋ぎ』ってヤツの仕業なんだ。
……さて、他の解説は後の方に回しておきましょうか。
ブラウン管テレビの山に出会ったビッキーはどうなってしまうんでしょうね。
次回ッ!ㅤ『ビッキー覚醒!』
どうぞお楽しみに!