仮面に縁を、歌に血を   作:星鱈

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合体警報で最初から事故ったので初投稿です。


ルブランの日常②

「お邪魔します!」

「すみません。カレー食べに行くって聞かなくて」

 

 

『もう慣れた』

『親の顔より見た景色』

『──早速食うか?』

 

 

初夏も過ぎさりだんだんと日差しが強くなり始めたこの頃、ルブランの扉が勢いよく開け放たれた。

 

時間帯はランチタイムを過ぎておやつ時。店内は彼女たち以外誰もいない。

惣治郎はというと彼はランチタイムが終わった後から役所に出かけている。自分の娘について何らかの申請が必要だ、とのこと。

 

「あ、小日向未来です。いつも響がお世話になってます」

 

ショートの黒髪に後頭部の大きなリボンが印象的な彼女は響の親友である小日向未来だ。

 

しかし親友と形容するのは些か語弊があるかもしれない。

響が口を滑らせ未来の魅力を語る時の表情は、友に向けるソレではない気がする。

 

もっと親密な──それこそ夫婦みたいな──愛情が彼女らの間に育まれているような……。

 

ちなみに陸上部の大会や強化練習が重なったのもあり、未来の入店は今回が始めてである。

 

「こちらこそよろしく」と結は恭しく礼をする。

そして既に用意が完了したカレーをツヤツヤの白米と共に盛り付けてスピーディに配膳した。

 

>見た目は綺麗のはずだ……

 

「わぁ……!」

「響から聞いてはいたけど、うん。とっても美味しそうだね」

 

ほのかに湯気が立ち上り、それと共に鼻腔をくすぐるスパイスの香りがふわりと広がる。

 

「今朝ご飯食べるの忘れてたからお腹ペコペコだよ〜。もう我慢できない!いっただっきまーすっ!」

「ちょっと響!?私そんなこと聞いてないよ!」

 

パクリと一口、そして二口。三口目を口に入れたところで響の顔が顎の辺りから茹で上がるように紅潮していく。

皿からの上る仄かな湯気はあるが、響の顔からは多量の汗とサウナ上がりと見紛う程の蒸気が噴出していた。

 

うおォン 響はまるで人間火力発電所のようだ。

 

結はやはり心を込めすぎただろうかと今回投入したスパイスに目をやりつつ、氷水と綺麗なおしぼりをテーブルに配膳した。

受け取った響は即座にそれを飲み干すと、おもむろにおしぼりで顔の汗を拭う。

 

「ふぃー……うん、辛いけど美味しいです!」

「結さん、これ人に出していいモノなんですか?」

 

一風呂浴びたような感じになっている響とジト目を結に向ける未来。

ここで企業秘密だ、と言えば信用が失われる気がしたので観念して結は今回作ったものについて話し始める。

 

 

 

『説明しよう!』

 

【トリビア①︰チキンカレー】*1

 

 

 

諸々細かい説明を終え、とりあえず人に害はないということで納得して貰えた。

未来もチキンカレーを実食すると響と同様に顔から火を噴くような事態に陥ったのは言わずもがなである。

 

その後は慣れたのか、はたまた味蕾が麻痺してしまったのかは分からないが彼女たちは残さず完食してくれた。

 

「美味しいといえば美味しいけど、火を噴くような辛さはちょっと」

「でもこの辛さヤミツキにならない?」

「それは……そうだけど。でも結さん、もう少し辛さを抑えたりとかできないですか?」

 

>及第点はもらえたが満点への道のりはまだ遠いようだ。スパイスをふんだんに使うよりもバランスが大事ということだろう。

 

「あ、でもお父さんとかそれくらいの人なら好きかも……」

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しました〜!」

「ご馳走様です」

 

>二人は帰って行った……。

万人受けを狙ったわけではないが、年齢層に分けて辛味を調整したカレーを作ってもいいかもしれない。

 

二人が帰って程なくしてカウンターの隅の公衆電話に着信が入る。

 

『あの、結さんですか?』

 

 

『そうだ』

『合ってるぞ』

 

 

声の主は未来だった。まだカレーに指摘する点があったのだろう。結はスマホのメモ帳アプリを開いた。

 

『えっと、チャットのID教えてもらってもいいですか?』

 

そういえば響には教えていたが未来には教えていなかったなと思い当たり、すぐに教えた。

 

『ありがとうございます。それと、その、相談があるんですけど……』

『もっと辛いカレーってあったりしませんか?』

 

 

『なくはない』

『あるにはあるが』

 

 

「お金は払うので作ってもらえませんか?」

 

未来は現在陸上部に所属しており、その中でも短距離をメインとして大会などに出場している。

秋口頃に大会が控えているので、今のうちからコンディションと筋肉を整えていきたいそうだ。

そこで辛いカレーを食べれば代謝の効果を引き上げることができ、より効率よくトレーニングに励めるのではないか──とのことである。

 

カレーでの代謝の増大はあくまで一時的なものだった気がするが……もしかすると常態的に食事を続ければ汗腺が発達するのかもしれない。

もしプラシーボ効果を狙っているにしても彼女に悪い影響はないはずだ。

 

未来さんの意気がこもった解説を聞いている最中、時折「響の赤くなった顔が見たいわけじゃないです!」とか心做しか本音がダダ漏れで聞いてて恥ずかしくなるような台詞がボロボロ出てきたが、結は特に突っ込むまなかった。

 

触らぬ未来に祟りなしである。

 

 

【未来の熱いやる気を感じる……】

 

 

 

 

 

…………

たなる(よすが)ばれたり

 

(よすが)ち、

困難打倒する一条なり

 

、『太陽』のペルソナの祝福たり

みへとける、なるとならん……

 

 

 

COOPERATION【小日向未来】

 

『太陽』

【■□□□□□□□□□】 RANK1

 

 

 

 

【ペルソナの力を育てる人間関係

『太陽』のコープが解禁した!】

 

 

 

 

 

「帰ったぞ。……またカレー作ったのか?」

 

 

『今日は響だけじゃなかった』

『お連れ様がいた』

 

 

「そうかよ。俺も味見していいか?まだ余ってるよな」

 

惣治郎が戻ってくる頃にはもうとっぷり日が暮れていた。三日月が空に昇り柔らかな光が夜道を照らしている。

まだ二人分のカレーが余っていたので盛り付けてカウンターに座った惣治郎へ出す。一口、二口と口に運ぶと辛さがきたのか少し顔をしかめた。

 

「チキンカレーっていうのはいい選択だ。だけどちっと辛すぎだな。受けるやつには受けるかもしれねぇけどよ」

 

やはり、というか未来にも指摘されたがバランスがとれていないようである。

彼女向けのものはまた後で考えるとしてしよう。

 

ぼんやり考え事をしながら後片付けに取り掛かろうとすると入口のベルが鳴る。入店したのは黒縁メガネをかけたスーツの男だ。どこか只者ではないオーラがある……。

 

「もう閉店だったりしますか?」

「まだやってるよ。ご注文は」

「そうですね。コーヒーを飲もうかと思ったんですが、今食べているカレーってまだありますか?」

 

 

『ラスト一食分ある』

『ギリギリだったな』

 

 

「それはよかった」

 

再度同じように白米とルーをよそって席に着き時計を見つめていたスーツの男に配膳する。

彼は一口、二口と次々にスプーンを進めていくが、何故だろう。彼から発汗の気配がまるで無い。

すると視線に気がついたのか彼がこちらに話しかけてくる。

 

「どうかしましたか?」

 

 

『汗をかいていない』

『涼しげだな』

 

 

「ああそういう事ですか。こんなナリですが、そこそこ鍛えてるので」

 

そういう問題なのだろうか……。

いや当人がそう言うのだからそうなんだろうと結は自分を納得させ、洗い物に集中する。

 

「ご馳走様です。お代置いておきますね。機会があったら、また」

 

もう食べ終わったのか、と驚くよりも前に退店のベルが鳴り、視界に映ったのはゆっくりと閉じていくドアだけだった。

 

 

 

 

 

 

ルブランから少し離れた薄暗い場所でチキンカレーを食べた男は眼鏡を外し電話をとる。

 

『反応はあったか?』

「はい。自分がカレーを渡された時にほんの少しだけ。カレー、美味しかったですよ。司令もたまに食べに行ったらどうです?」

『……遠慮しておく。俺はあまり、マスターに好かれていないようだからな』

「それは……すみません」

『いや、いい。あれは俺の責任だ。それよりも、そこに【サクリストV】があるのが確かなら、少数だが精鋭を手配する。人選は任せるぞ』

「了解しました。では」

 

通話を切り、彼は再び眼鏡をかけた。

 

「────忙しくなりそうですね」

 

 

 

 

 

カウンターを台拭きで拭いている最中、結は見慣れないものを見つけた。

カウンターにある本はマスターの趣味本が多く、たまにラインナップが変わったりするのだが、今回置かれているのは青く分厚い辞書のような本だ。

 

表紙には金色の『Le Grimoire』の刻印、月桂冠の中には大きく『V』の文字が刻まれていた。

 

 

『……とても懐かしい感じがする』

『開いてみようか』

『メギドラオン……9999……うっ頭が』

 

 

好奇心を抑えきれなかった結は貴重品を扱うようにそっとブックスタンドからそれを引き出して、ゆっくりとページを開いてみる。

 

>……何も書かれていない?

 

分厚い中身をパラパラとめくるもそこには穢れのない白一色が広がるのみである。

 

結は何かゲンナリした気分を抱えながら本を閉じて視線を上げた。

 

 

 

 

 

「ようこそ、がベルベットルームへ……」

 

 

 

 

 

瞬間、彼は身構えた。

懐かしいような、それでいて新鮮な、何とも不思議な気分。

青を基調としたこの部屋のどこにも、一切の見覚えはないというのに。

 

既視感のある長鼻の老人がゆっくりと結に語りかける。

 

 

「私の名はイゴール。この部屋……夢と現実 精神と物質の狭間の場所……。“ベルベットルーム”の主を致しております」

 

*1
今回結が作ったのは通常ルブランカレーではなく、具材の牛肉を皮付き鶏むね肉に変更し、それに合わせてスパイスを調整したチキンカレーだ。

むね肉はグリルする時にブラックカルダモンとグローブ、それにナツメグを加えて肉の生臭さの払拭と辛味付け、風味付けをする。

1口大に切ったそれを更に追加で数種類のスパイスを入れたルーに投入して各種下ごしらえを済ませた野菜を入れていく。

今回響が湯上りもどき状態になったのは身体を暖める効果を持つといわれるナツメグのせいである。多量にぶっかけたわけではないはずだが……。




一日頑張っても文字数はこれくらいが限界でち。パパっと書いて終り!ってできないんだよなぁ。

書き溜め?まあ、いいやつだったよ。

ひびみくは至上、古事記にもそう書いてある。

サクリストV……一体何物なんだ……?


そんなことより主人公くんやっとベルベットルーム入りましたね。
シリーズ恒例の覚醒前のお試し入室的なアレです。内観は次回描写します。

やっぱり感想いただくと、やるぞっ!て気分になりますよね。なるんだよ君もSS書いて感想キメてまたSS書くんだよホラやくめでしょ(豹変)
感想下さった御二方、本当にありがとうございます。
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