明日の蒼空   作:pilot

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蠅と男

「小蠅どもめ。」

 

心底煩わしい。

そう言わんばかりに、その男は顔を歪めた。

暗い力が溢れ、奔流となって地形を歪ませる。

フードを目深に被り、その細かな風体はわからないが、邪悪なような、ともすれば気高くも見える異様な雰囲気を漂わせていた。

 

それと対峙した_____

いや、対峙と言うのも烏滸がましいことだろう。

彼の前に立った敵対者達は、ものの数秒で臓腑を引きずる死体と化し、地を赤黒く染め上げていた。

 

この世に存在した、確固たる痕跡すらのこせず、有象無象に消えていく。

それほどまでに、男が強大だと言うことだろう。

もしくは敵対者が脆弱すぎたのか。

 

「余興にすらならんか。いくら雑草どもを引き抜き踏みにじったところでつまらん。」

 

不愉快そうな口ぶりを隠そうともせず、そう吐き捨てた。

辛うじて残った、誰の物かもわからぬ白い仮面が彼を恨めしくにらんでいるように見えた。

それに気づいた彼は、造作もないことのように、さも石ころを蹴るかのごとく仮面を踏み抜き、破壊した。

 

「やはりどこであろうが、余が王にならん限りは世界など完全には至れぬのだな。」

 

片付けを終えた彼は、その口を三日月のように歪めて、決意を新たにするのであった。

 

その目は、頂点を超越したその先を写す。

 

 

「そこまであの小娘が必死になるほどの人間なのか、奴は。」

 

深い秘密施設。

レユニオンを蹴散らし、ウルサスの目を掻い潜り、ここまで来た複数の人影。

 

彼らは皆一様に、ロドスという組織の一員、あるいはその協力者たちだ。

 

「ああ。しかし、ドクターの手腕をお前は見たことがないのか。」

 

その中でも重装備をした、厳つい男。

ロドス最強ともうたわれる、Aceというオペレーターだ。

 

それが、黒いローブを纏った、便宜上黒衣の男と言われている人物の疑問に答えていた。

 

「そのドクターとやらに全く興味などなかったのでな。」

 

不遜な態度を崩さぬその人物は、しかし口調と裏腹に皆の称えるドクターという存在に、微かながら興味を持ち始めていた。

 

「しかし、ここまで我々に苦境を強いた救出作戦。それを対価にして十分となる能力を見せてくれねば失笑ものだ。喜劇も良いところだぞ。仮に失敗だとして、有象無象などいくらでも消し飛ばせるが、余計な労力を余に強いるという行為は赦しがたい。」

 

疑念を持つのは、彼のある特異な事情により仕方のないことではあるが、そのようなことを欠片も知らぬ周囲にとっては、自信家の割りに意外と慎重なんだな、と概ねプラスに受け止められた。

 

同時に、この傲慢、良く言えばワンマンな男に、ドクターの実力を見せつけるのも楽しみだという気持ちを持ったオペレーターも居た。

 

ウサギの耳の少女、アーミヤが、ドクターの手を取り起こす。

感動の再開の最中、しかしこの作戦の根幹を揺るがす事態に直面することになる。

 

「君たち......は?」

 

その言葉を聞いたとき、その場にいた全員が自らの耳を疑った。

 

「え......?」

 

困惑するアーミヤ。

 

「なんだ。製薬会社のロドスとやらは、上役とそれ以外の交流もままならぬ、そんな組織であったのか?」

 

それを煽る黒衣の男。

落胆するオペレーターを尻目に、いつもと変わらぬ饒舌な、圧力のある言葉を吐く。

 

「いいえ。ドクター、こんなときに急にこんな話をしても信じてもらえないかもしれませんが、でも、私たちは貴方を助けに来ました。」

 

しかし、アーミヤはあきらめない。

なにやら起きたそのドクターと話をつけるようだ。

が。

 

「......時間だ。羽虫どもが湧いてきたぞ。」

 

「裏切り者のロドスどもめ!貴様ら全員の内臓をぶちまけてくれる!」

 

ドクター、と呼ばれたその人物は、困惑していたものの、しかし目の前に現れたそれ以上の狂気に満ちた集団を見て、すぐに自らの状況を理解したのか、それとも目の前の少女に気圧されたのかおとなしくなった。

 

「ドクター、私は貴方を信じています。

皆さん!ドクターを信じてください!きっと、きっと大丈夫です!」

 

「ふん。見てみぬ限りはどうかわからぬがな。ドクターとやら、貴様は余が覚えるに値する者なのか。」

 

 

「戦場を鳥瞰する気分はどうだ?

余に行かせろ。羽虫どもなど一捻りにしてくれるわ。」

 

ロドスの持つ、画期的な操作系、ニューラルコネクタに接続したドクター。

脳から直接やり取りするその形態は、凄まじいまでの情報処理を可能とする。

戦場の情報を隅から隅まで提供してくれるのだ。

そして指令も端から端へと同時に出せてしまう。

が、それを効率良く利用できるかはユーザー次第である。

 

「待ってください。今ここで貴方の力を使われると他オペレーターの作戦行動を阻害してしまいます。貴方だけの戦場ではありませんよ。」

 

しゃしゃり出てきた男を制止し、ドクターへと「正しい」操作を促すアーミヤ。

 

「余に命令するだと......?ふん、アーミヤめ。今は引いてやろう。余に気を効かせて休息を用意した、ということにしてやる。」

 

「もうそれでいいです......」

 

ドクターは良くわからない彼らの関係性を無視して、やるべきことに集中することに決めた。

あれらはあまり触れるべきではないと、なんとなく感じたからだ。

 

 

「ほう......!これは、狡知に並び立つ程の手腕......」

 

記憶を失い、そして先ほどまで死の淵をさ迷っていたとは思えないほどのドクターの手腕に、黒衣の男は驚いていた。

 

「ドクター、信じてましたよ。さぁ、早くここから脱出しましょう。」

 

一度は記憶喪失という事実にうちひしがれていたオペレーターたちも、ドクターのその能力に少しも衰えを感じさせない指揮により、また奮起し始めていた。

 

「様子がおかしいぞ。何故ここの兵どもは羽虫に遅れをとっておるのだ。」

 

だが、このチェルノボーグを包む暗雲は、ますます大きくなっていた。

武装集団、レユニオン。

この世界において糾弾、迫害の対象となっていた、源石による鉱石病の罹患者の自助組織____といえば聞こえはいいが、その実態は反体制派のテロリストである。

元々はそこまで大きな組織ではなかったものの、つい最近になって突如規模が巨大化、無視できない勢力として台頭し始めていたのだ。

 

しかし。

あくまでもこのような反体制派のテロリストごときが、大国ウルサスに喧嘩を売ってこんなにも長く持ちこたえるのは普通では考えられない。

 

何かが、おかしい。

 

「予定通りに脱出地点まで早く撤退しましょう、あまり長居しても何も得られません。」

 

事前に何度も何度も確認した道順を、ロドス各員は迅速に駆け抜けていく。

ここに来たのはレユニオン殲滅のためではなく、あくまでもドクター救出。

逃げ切れさえすれば勝ちである。

 

しかし、そう上手くはいかないこともある。

 

「どこに逃げようって言うんだい?」

 

突然の殺気。

先程まで蹴散らしてきた、緩い殺気ではない。

どす黒い、本物の殺気だ。

 

「なんだ。少しばかり大きな蠅どもが迷い混んだようだな。」

 

負けじと殺気をばらまく黒衣の男。

こういった所でも、やられっぱなしは性ではないらしい。

 

この状況にアーミヤと、そして目覚めたばかりのドクターですら頭を抱えていた。

 

殺気の元に居たのは、数人のレユニオン達で、しかしその姿は今まで戦ってきたある種の雑兵達とは異なっていた。

いわゆる幹部だろう。おそらく戦闘能力はけた違い、ともすればロドスの通常オペレーターなどでは歯がたたないかもしれない。

 

不味い。

出来ることならば、さっさと無視しして駆け抜けたい所だが、いかんせん道を、奴等の部下らしきレユニオンの兵士達に塞がれている。

手惑えば背後から追撃、本腰入れて幹部と争うならば、時間がなくなる。なにより包囲網を作られて引くことすらできなくなるだろう。

これまでの状況や、対ウルサスの立ち回りを見れば、敵に質のいい作戦立案者、もっと言えば元軍人辺りがいてもおかしくはない。

 

ならば、選択肢はただひとつ。

 

「ベルゼバブさん、今です!」

 

そう、通常ではないオペレーター、その彼自身曰く「圧倒的で、反抗する気すら失せる力」

を使うときだ。

 

「フハハハハハ!いいだろう小娘!引き受けるぞ!

余に殺気を放った蛮勇に、後悔と真の恐怖を刻み込んでやろう!」

 

瞬間、嵐のような衝撃が舞い上がり、その黒いローブがかき消え、黒衣の男___ベルゼバブと呼ばれた彼は、自らの顔を露にする。

 

その顔は、笑っていた。

 

 

「ハーハッハッハッハ!因果ごと消えろッ!」

 

黒い翼のような、だけれどもどうみても翼ではない、異形の新たな腕を生やし、ベルゼバブは暴れていた。

 

混沌としたエネルギーは濁流となり、破壊の渦にレユニオンの兵士達を巻き込んでいく。

 

「攻撃に巻き込まれないように進んでください!時間がなくなる前に!」

 

その後に続くロドスのオペレーターたち。

 

その様子の裏で呆気にとられていたのは、レユニオンの幹部達だった。

ここで奴等を逃がさず、殲滅するつもりだったというのに、何故か知らないが化け物じみた人間が突然現れ、何もかもを破壊して突き進んでいる。

 

ロドスにもタルラに似たような人材が居たのかと思っていたが、それにしたって突然すぎる。

まるで別の世界から現れたかのように異質で、前触れがなかった。

 

「だが、アイツはまだ本気を出してない。」

 

クロスボウへ装填作業を終わらせた少年が冷静にそう呟く。

 

「あ、あれでまだ本気を出してないって言うのか?ファウスト。」

 

ファウストと呼ばれたその射手は、首を振りながら構えを取る。

 

「あれだからこそだ。反撃される可能性は無いと信じている。実際に、あれに反撃するのは至難の技だ。

雑にやってても防げる力量がある。

でも、隙は隙だ。ここを逃せば、おそらく反撃の機会は無い。」

 

キリキリと、源石を介したアーツのエネルギーが収束していく。

クロスボウには大きな運動エネルギーから変換された、張力が湛えられている。

 

その一撃を、今までまともに防げた人間はいない。

そこに、ファウストの正確無比な照準があわさり、百発百中の一撃必殺、レユニオンの幹部足る力となっていた。

 

「___墜ちろッ!」

 

放たれた一撃は、そのまま一直線にベルゼバブの元へと吸い込まれていき......

 

 

 

 

 

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