明日の蒼空   作:pilot

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コンクリートの止まり木

シラクーザのとある場所には、もはやいつからあるのかもわからぬ独特な手甲が残っているという。

綺羅星のように輝くそれは、他の九つの武装を心待にしている、とも。

ある文献によれば、叩き落とされた世界で、狼____ループスを率いた比類なき強者が携えていたとされる。

神狼と呼ばれた彼は、ありとあらゆる殺しの技術を習得し、またそのおぞましい業は、今もどこかに息づくらしい。

 

__________

 

「ここが龍門か。つまらぬ評価を下すのならば、喧しい街、といったところか。」

 

龍門、外交セクションにて。

 

いつ、どんなときに訪れても、この龍門という街は良くも悪くも活気に溢れている。

しかし今回は、ある種物騒な喧騒。

 

「............」

全身黒ずくめの装甲、ブレード、クロスボウ。

完全装備状態の龍門近衛兵達が、直々にここへと集結していたからだ。

 

その物理的にも精神的にも大きな圧力は、嫌が応にも龍門という都市の大きさを理解させてくる。

 

「随分と悪趣味な歓迎会だな。」

 

ベルゼバブにはあまりそれが面白くないのか、黒いフードの中でへの字に口を歪め、あきらかに機嫌を損ねている。

 

「仕方ありません。チェルノボーグがレユニオンに壊滅させられた、その事実は外部に対して警戒を強めるには十分すぎる理由です。」

 

それに対してアーミヤは、少し緊張しつつも、冷静な態度を崩さずに居た。

 

「おい、ベルゼバブ。君がどれだけ前職や、また実際の生まれが高貴であったとしても、ここロドスで、そして今現在はただの護衛役だ。......高圧的な態度は慎め、相手を無闇に刺激するなよ。」

 

「貴様に言われなくとも解っておるわ。利用できるものは利用させてもらう......相手が真摯であれば、な。」

 

穏便に済ませる、という意思表示に見せかけた、相手が自らを愚弄するならば関係なく殺すという人騒がせな宣戦布告。

 

ケルシーは静かにため息をついた。

 

 

 

 

 

 

人。

見渡す限りの、人。

地にそびえ立つ無数のコンクリートの柱。

照りつける太陽は、屈折して部屋中を跳ね回る。

その内、ひときわ高いビルのなかで、苛立ちを隠さぬ様子の男がいた。

 

「言わせておけば散々ではないかッ!」

 

派手に歯軋りしているその男は、鋭い視線を「長官室」

へと向けていた。

先ほどまで交渉をしていたトップ三人組の護衛をしていた彼は、しかしそのあまりにもの相手の態度にいい加減我慢の限界が来たのだ。

が、先にそれを見抜いたケルシーに別な理由をつけて外へとやんわり出されてしまった。

 

仕方がないので、長官室の前で燻っている、ということらしい。

 

「忌々しい。忌々しいぞ。いつの時代でも、中途半端な強者を見るのが一番腹が立つ。」

 

「そして何よりも余の計画の邪魔......ロドスを疲弊させるわけにはいかんのだ。

だというのに......」

 

怒りのまま、知らぬ間に拳を握りこんでいた。

美しく手入れされ、凶器ともとれる鋭さと化した自らの爪が、手のひらに突き刺さる。

痛い、と彼は感じただろうか。

 

「ふん......まあよい。いい機会だ、目にもの見せてやるぞ......余に敵対せしものがどうなるか......あのレユニオンの羽虫どもを使い、派手に知らしめてやるとしよう。」

 

が、すぐに気を取り直したのか、それとも面白い話でも思い付いたのか。

クツクツと軽く笑いつつ、ケルシーに押し付けられた用事を片付けるため、あるき出した。

しかしその先は、なんと屋上方面らしい。

 

彼は高いところが好きだ。というよりも上に立って睥睨する。そういう、人の上にたつ、ということが好きだ。

このような摩天楼は、かつての星の世界でも中々なかったことだろう。

 

こつ、こつ、こつ。

規則正しい、規律のとれた足音は、かつて軍人だった故か。

もしくは、完璧を求めるその精神性が反映されたのかもしれない。

とにかく、美しくありたい。そのような願望こそが、彼の原動力だ。

 

いくらか歩いた頃、いや。

歩き出して直ぐだろうか。

階段にすら差し掛からぬときだ。

 

「うん......?」

 

角の生えた、女性が居た。

 

ああ、近衛兵の、女か。そう、彼は彼女を知っていた。

リーダー格で、いつもしかめ面。

力を持つくせに、それを誇示せぬ、つまらぬ奴。

龍門、龍門、龍門......この町につき、この部屋に辿り着くまで、たったそれだけの短い付き合いで、何度その言葉を彼女の口から聞かされただろうか。

 

気に入らん。そう思い、無視した。

当たり前の話だ、蝿にいちいち構う暇も、体力も無駄。

早く風に当たりたいベルゼバブにとっては、実に面倒な相手であるのだ。

 

「おい。」

 

だがそれを、彼女は許さなかった。

 

「......何の用だ。」

 

ぶっきらぼうな、めんどくさいという意識を欠片も隠さず、ベルゼバブは答えた。

 

「護衛任務はどうしたんだ?ロドスの職員ならば、仕事はキッチリ終わらせるべきだろう。我々の防衛は鉄壁だが、怠慢は見逃せないな。」

 

自他共に厳しい、このチェンという近衛兵。

ロドスのオペレーターにすら、その厳格な指導は向くらしい。

 

「貴様が余に対して出来ることはないもない。そして、いちいち説明するもの面等だが、特別に教えてやる。

余は別の仕事を得た、貴様に構う暇など無いのだ。」

 

「そのわりには外ではなく上に向かっているようだな。なんだ?スパイ活動でもする気か?それは許さないぞ。」

 

明らかに怪しまれている。

無理もない、見た目も、雰囲気も、言動も、何もかもが不釣り合いだ。

古風か、あるいはファンタジーの中から抜け出てきたような、そんな存在のベルゼバブが怪しまれないことは無い。

 

「......滑走路だ。......煩わしいことこの上ないが......余の力の一端、ここで見せてやろう。」

 

緊張が高まる。たかが揉め事、しかし、事は急速に進むこともある。

風を、刃が切り裂く音が聞こえた。

 

「っ!?」

 

反射的に構えるチェン。

徹底的に訓練されたその反応は、致し方ないものだろう。

 

「普段ならば、もう既に首は飛んでいるぞ。」

 

しかし、目の前には既に誰もいなかった。

 

いつの間にか、後ろにローブを脱ぎ捨て

 

異形の羽を生やした、ベルゼバブが居た。

 

確かに先ほどまでベルゼバブがいた場所には、冷たく黒い風が、ただ漂っている。

 

「チェックメイト......身の振り方に気を付けた方がいいぞ、小娘。別に命を奪うつもりも、ここで打ち合うつもりもない。無駄だからな。」

 

「こっ ......小娘だと......!?」

 

振り替えれば......

またもや、何も残らず。

太陽光に、少しだけ黒い空気が浮かび上がっていた。

 

「チッ......(龍門スラング)。

明らかに怪しい。屋上へと向かっていたことといい、何が目的なんだ......?」

 

実は特に目的もなく、ただ上にいきたかっただけ。

そのことを知れば彼女はどれだけ拍子抜けするだろうか。

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