明日の蒼空   作:pilot

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蠅叩 後編

「時が来た......か。命拾いしたな、羽虫。しかし、この災禍で死なぬ保証もない。精々足掻くといい。」

 

「言ってる場合ですかベルゼバブさん!こちらも相当まずい状況ですよ!?全員天災から防御態勢!」

 

「て、て、天災だって!?もう来たのか!?こんなの、どうやって生き残れば____」

 

十人十色、千差万別の天災への恐怖。

ベルゼバブは大して驚いてなど無かったが、それは彼の何時もの浮世離れした感覚によるものだろうと、誰もが思っていた。

 

一般オペレーターのなかには、既に死を覚悟したのか祈りだすもの、号泣一歩手前のもの、半分パニック状態になるもの、とにかく全員が全員、天災を恐れていた。

 

それほどまでに、破滅的なのだ。

 

天災というものは規模も、威力も、生命を脅かし、文明を破壊することが朝飯前のような大きさをしている。

 

それを回避するために移動都市という奇天烈なインフラすら構築し、鉱石病の罹患リスクすら背負い、動かすための燃料である源石をかき集める。

 

そうでもしないと、すぐ死ぬからだ。あとで死ぬか、今死ぬかなら人は十中八九後者を選ぶ。

 

「狼狽えるな!」

 

そんな混沌の渦中に一喝、その声の主はドーベルマン教官だった。

 

「私が何のために貴様らに教鞭を執ったかわかるか!?勝つためだけじゃない、任務遂行の為だけでもない。それをするのは当たり前だからだ。

________それに加えて、貴様らには生き残る義務があるッ!」

 

畏れられつつも、確かに敬愛されるドーベルマンの叱責は、皆の心に残る、ロドスへの郷愁を呼び覚ます。

さあ、帰らなければ、生きて、生きて。

祈る手は解け、恐慌の涙は意思を持った悔し涙へと移り変わり、恐々とした震えはいつの間にか武者震いへと変わっていた。

 

「そうだ!生きて......絶対に生きて帰るぞ!」

 

「「オォーーーーーッ!!!」」

 

「......」

 

その様子を、ベルゼバブは不愉快そうな表情を浮かべながらも見守っていた。

別に彼らが今、嫌いだというわけではないが、過去のとある集団を思い出すからだ。

絆だのなんだの、弱者の綺麗事を並び立て、しかし最後は自らを出し抜いたあの......

 

そこまで思い出したところで、ベルゼバブの手が誰かに引かれた。

 

「私の教鞭を受けていなくても、ロドス各員は生き残る権利と義務がある。こっちに来い!」

 

「余に施しをすると申すか......つくづく奇特な組織よ......」

 

何となく、記憶のそこに確かにある、あの輝かしき、しかし味気なかった居心地のいい最高評議会時代の思い出が横切った。

おそらく毎日が楽しくて、普通の人生として見るのならば十二分に充実していた生活。

 

ロドスは、似ている。

 

だが、ベルゼバブは渇望していた。

その不完全な、得たいの知れぬ不快感に身を焦がし、その身を闘争に置いた彼に、永らく安寧は訪れないだろう。

 

 

地獄のような、チェルノボーグの戦場は、天災の襲来によって真の煉獄へと変貌する。

 

「正しく天災......丁度良い、これでレユニオンの雑兵どもも消し飛ぶであろうな。ほら、あそこで腕を飛ばした羽虫もいるぞ。」

 

「いちいち実況しないでくれないか......」

 

ドーベルマンとベルゼバブは、二人揃って大きなビルの一階に待避し、ドーベルマンはセオリー通り出来るだけ部屋の真ん中に、しかしベルゼバブは外の様相が気になるのかじっと外を眺めるために少しだけ窓際によっていた。

非常に危ないが、ベルゼバブのことだから大丈夫だろうとドーベルマンは判断していた。

 

「文献で読み漁ったことはあるが、まさかこの目で天災を見れるとは僥倖なことだ。余はいつか、これも克服して見せるぞ。」

 

ふと、そう呟いたベルゼバブ。

そういえば、ドーベルマンはベルゼバブの本性を全く知らない。

高圧的なその口調から勝手に王族か何かかと思っていたが、なんともまあ実際はなんの身分も持たない流れ者らしい。

本当にどれだけ調べても過去の経歴の欠片すら出てこない。

これにはロドストップの一人、ケルシーも首を傾げていた。

 

「克服する......だと?ベルゼバブ、前々から思っていたが中々変わった発想をするな。」

 

夢見がちともとれるそのベルゼバブの発言に、ドーベルマンは興味を持った。

ベルゼバブの性格は、非常に偉そうで気難しいものの向上心の塊とも言える、自分にも厳しい在り方で、ドーベルマンが生徒に求める理想に近い。

 

あとはもう少し協調性を......などと彼女は思っていたが、彼は彼なりの美学があるのだろうと、とりあえずは妥協することにしていた。

 

「この世界の住民は甘えている。天災から逃げるのみでは、真の意味での頂に登り詰めることなど不可能。余はそれを変える。この世界をも私の手で変えて見せる。」

 

「面白いことを言うな。君は世界の王様にでも成るつもりなのか?」

 

さまざまな理想を持った人間が集まるロドスにおいても、世界の在り方自体を変えようという人間など居ない。

アーミヤは人を変えると、ドクターは病気への対応を革新すると、そういったやり方なら少ないながらも見たことがある。

が、天災というルールを書き換えてしまおう、などという輩は見たことがなかった。

 

「無論、当たり前のことよ。

運命と言ってもいい。そうなることは必然なのだ。」

 

ベルゼバブはそのあまりにも荒唐無稽な話を、肯定した。

 

「な、どうやって_____」

 

「愚問よ。どうやって、など手段を選ぶ余ではない。

どうやろうとも、どうあろうともだ。」

 

口を三日月に歪めたベルゼバブ。

ドーベルマンは、底知れぬ彼に少し不気味さを覚えた。

 

「天災はもう過ぎた。長話は、もう懲りたのでな......さっさと我らのリーダーに合流するとしよう。

......今のところの、仮初の王の元へな......」

 

きっと彼は精神を病んでいるのだろう。そうでいてほしい。そうでないのなら本当に_____

ドーベルマンは、切実にそう願った。

剣呑で、頂点以外何者をも写してないようにすら見えるその瞳は、一体どんな災厄をもたらすのか。

もしかすれば、天災などよりももっと恐ろしいものになるかもしれない。

 

 

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