「ふん......奴等、破滅することこそが目的なのではないかと思えるほどに向こう見ずだな......。
何故、ロドスはあの羽虫どもにさえ無駄な慈悲を与えようとするのか。」
移動都市の真上に生まれた、まるで小さな超新星爆発のようなアーツ。
あまりにも五月蝿く、そして暑苦しい地獄に地獄を重ねた戦場は、ようやく終息に向かっていた。
「だが、力だけは本物のようだ。ひどく醜く、未完成の、唾棄すべきものであるが。」
焦熱の最中、二つの太陽に焼き払われたかのような都市のすこし離れた場所で、吹き飛ばされたはずのベルゼバブが佇んでいた。
あれほどまでの攻撃を真正面から受け止めたというのに、全くダメージを受けていないようだ。
周囲には、漆黒に光輝く楔が浮遊していた。
おそらく、それらがあの暴君の一撃を往なしたのであろう。
彼の周りに何者も残らなかったが、しかし彼のみはここに在る。
彼にとっては全くそれでいいのだ。最終的に自己一人さえ、生きていればいいのだ。
だが、まだ最後ではないらしい。
ふと空を見上げ、ロドスの各員が向かったであろう撤退地点を睨み付けた。
「ほとほと蠅と言うものはいつでも、いくらでも湧くものなのだな。忌々しい。」
なにか感じ取ったのか、それとも戦術眼のなせる技なのか。
あるいは、勘か。
なににせよ、ある種の面倒事が増えたと言うことは確かなようだ。
苦虫を噛み潰したような表情。
しかし、それも瞬間的なものだったらしく、すぐにいつもの通りの鉄面皮に戻ると、
「......行かせておいて正解だったな。
やはりあれは、役に立つ。」
そう呟くのだった。
どうやら、素手に手を打っていたようだ。
盤上遊戯でも、現実でもそうだが、やはり行動は早ければ早い方がよい。
それは誰でもわかっていることだが、出来る人間は少なかった。
全員が全員出来ているのならば、この世界はここまで手遅れになることもなかっただろうに。
_______________
「あ、ああ......やっぱり、ダメでしたか。」
数分前。
ベルゼバブとタルラの戦闘していた地点から、しばらく走り続け、ようやく撤退地点が見えてきた矢先の事だった。
先程まで自らが殿を託したあの戦場が、跡形もなく消し飛ばされてしまった。
遠くからでも良く見えるあの大爆発。
ベルゼバブの正体不明の力でもない。
まちがいない、あれはタルラのアーツだ。
全てを歪める、太陽のごとき力だ。
羽はきっと焼かれただろう。
太陽に近付きすぎた人が焼かれたように、それはやはり必然だったのかもしれない。
そうアーミヤは思った。
それでも、止まることはなかったが。
「おい......アイツ大丈夫か?」
「おそらく、無理だろうな......でももう逃げるしかない。仲間たちの犠牲を無駄にするな。」
「その通りです......今はまず、撤退を_____」
「あら、ロドスの皆さん。そんなに急いでどうしたの?」
迂闊だったというべきか。目の前に撤退地点が見えていると言うのに、いや見えていたからこその油断なのかもしれないが____見上げれば建物の屋上から複数のレユニオン兵士たちがこちらに照準を合わせている。
赤いサルカズの女が、リーダー格らしい。
「貴方は誰ですか。」
「私?私はW。貴方がアーミヤよね?ちょっとおしゃべりでもしない?」
あくまでも飄々とした態度を崩さない「W」と名乗ったその女性。
いったい何が目的なのか、それの一切を示さないその姿勢に、ロドスの緊張は頂点に達していた。
「そんな時間はありません。」
毅然と答えるアーミヤ。
「そう。残念。」
それに対して、何か懐かしむような素振りをWは見せた。
「なら___」
だが、それは一瞬の事でしかなく。
やはり結局手が出るらしい。
「W!!!後ろ!!!」
が、戦場は公平だ。
レユニオン兵の叫びが響く。
散々ロドスに想定外を強いた分、どうやらレユニオンにも想定外を強いるらしい。
「え?」
Wが振り替えれば、サルカズよりよっぽど悪魔らしい「ナニか」が、おぞましく純粋な殺意を遠慮なく彼女にぶつけようとしていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
殺そうとしているのはその黒い怪物だと言うのに、とても悲しげな声で絶叫している。
しかしそんなものはもうどうでもよかった。
死ぬか生きるかの瀬戸際に感情などは存在しないのだ。
「貴方だれ?」
初撃を紙一重でかわしたW。
その爪痕が地面へと刻み込まれ、破壊の余波はその力の膨大さを雄弁に物語る。
当たればぐちゃぐちゃのミンチ、いやそんな甘いものではない、物質が残るだけ平和なくらいだろう。
「グ......ア......ア......?」
何故かその問いかけで、怪物は動きを止めた。
誰。それはこの怪物にとって大好きな言葉なんだろう。
得られないからこそ。
赤い空に浮かぶその化け物は、なんとなくその在り方が正しい気がした。
この世界で、空が蒼くなければならない理由などない。
そんな否定的な存在が良く似合う。
「覚えてないみたいね、記憶力が無いのかしら。」
「_____」
声にならない音が漏れ出して、視界はすべて、赤く染まる。
それは物理的に、だ。
赤黒いなにかが迸るのだ。
ロドスの各員がチェルノボーグでの最後の思い出として記憶したのは、その哀しい化け物の破壊活動で、そして自傷行為であった。
「あれは......」
「いや、いい。今はただ、撤退するべきだ。」