旧く、そして数少ない地域にのみ細々と伝わる神話。
まだ世界が分かたれていたとき、どこまでも続く雲海と、そして遥かなる星々のみがあった。
地は、切り捨てられたおぞましき死の世界。
大いなる二柱の神と、それに歯向かう二降りの翼が、人を試練に濡れた地に叩き落としたのだ。
この世のどこかにあると言われるバブ・イールの塔とは、その名残である。
シラクーザの仄暗い一族から押収された書簡より。
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「次に外へ行けるのはいつだ。」
ロドス艦内。
甲板にて。
「龍門に着く時間か?まあどーせすぐだろ、いつもそうなんだし。心配しなくても大して休めねーよ、バブさん。」
いつもの通り大仰な、威圧感を湛えたローブを羽織ったベルゼバブと。
そしてそのとなりには、サルカズの少女、イフリータが居た。
どうやら、力を好むもの同士馬が会うようだ。
なんだかんだ、つるんでいる悪くない関係。
「その呼び名はやめろ。虫酸が走る。」
しかし、そのあだ名にあまりいい思い出がないのか、珍しくイフリータ相手に苦言を呈するベルゼバブ。
苦々しい顔は、心底嫌な記憶を想起したのであろう。
「えー?悪くねえと思ったんだけどなぁ。」
「小童......まあ、余は慈悲を持ち合わせていないわけではない。いくらか大目にはみてやろう。
それより......あのサリアとかいうオペレーターは余を嫌悪しているようだが。貴様、奴と仲が良いのではなかったのか?」
これ以上それらに触れたくないのか、あからさまに話題を反らそうとしている。
彼はサリアとイフリータがいったいどういう関係か、なんとなくだが把握していた。
「いいんだよ、オレサマは両方と仲良くする。その力もある。オレサマとしては、全員喧嘩せず仲良くしてくれればいいんだけどな......」
先程の小生意気さはどこえやら。
突然しゅん、という擬音すら聞こえてきそうなほど落ち込んだ様子を見せるイフリータ。
しかし彼は、その大量の布地を風ではためかせながら、珍しくしおらしい姿を見せた少女を尻目に、目を細めて遠くを見ていた。
「生命同士の繋がりは、煩わしいことこの上ないぞ。どうせならば力を極めたらどうだ。余には及ばぬだろうが、お前は十分力強い。」
それは本心からそうおもっているのだろう。
事実彼はそう生きてきた。最早立ち止まることもない。
しかし、イフリータは迷っていた。
まだ幼気な雰囲気をまとう彼女は、苛烈なる力を望まず手にいれた。
苦痛と引き換えに。
ベルゼバブと経緯は同じでも、それが自由意思によるものでないのならば、それが本人にとって幸せかどうかはわからない。
大きなどこまでも続くようにすら見える荒野を進む。
それは移動都市、ロドスの道なりか、あるいは彼らの人生か。
「さあ、な......もうオレサマにはわかんねえよ。強くなれば幸せになれるかと思ったけどよ、バブさん見てるとよくわからなくなるんだ。」
「おい。それはどういう______」
「そろそろ龍門へと到着します!接続行程に移行するので、任務を請け負っているオペレーターは直ちに出発の準備をお願いします!」
かききえそうな問いかけと、そしてそれにたいする反論。
それらは全て、無機質なアナウンスに上書きされた。
ふと進行方向を見れば、空のすべてを覆うのではないかと思うほどの摩天楼が乱立している。
「......ふん、帰還の後話を聞かせてもらうとしよう。
......言っておくが、余は幸福だぞ。強さはそれだけで価値があるのだ。勝つことに、最強たることに、達成感とやらを見出だすのだ。そうあるべきなのだ。」
言い聞かせるように、ともすれば吐き捨てるように、微妙なトーンで彼はいい放つと、イフリータの前から身を翻して消えていった。
先程までの重々しい雰囲気はもう失くなって、どこまでも広く、抜けるような青い空が広がっていた。
「サリア......サイレンス......誰でもいい。教えてくれよ。アレが本当に、オレサマの目指した姿だったっていうのか......?あんな悲しそうな......」