かり、かりと響く、音が。
砂の嵐に隠された、世界の何処かの空間に。
部屋を埋める奇天烈な四角い箱は、原色のサイレンをくるくると回しながら、
今もカタカタと硬質な音を立て、パンチカードを吐き出している。
かり、かりと響く。
爪を噛む音が。
長い、白銀の髪は微動だにしていない。
中空に浮かぶ映像の前に座る少女、薄明の中に機械から零れた光が交差し、
まだらな空間に座り込む彼女は、映像を見ながら今も爪を噛む。
映されているのは、一人の魔法少女。
―― ご主人様の忠実なる下僕、まじかる黄色ぉーブラックぅ
爪が、割れる。
―― 何やってんのよ黄色ぉッ
―― 黄色さん、どうしてッ
響き渡る会話に、歯が軋む。
「何故、コイツが生きている」
吐き捨てる様な言葉は、怨嗟の色。
画面が増える。
「その程度の役にすら立たないのか」
脈絡も無く触手に襲われる赤色が居た。
徐に桃色の胸を揉みしだく魔人公が居た。
機人公の目にカレーを塗り込むカレー味が居た。
紫色の前で、何か黄色は誰かに蹴られてた。
様々な場所の、様々な景色が映し出され、
様々な音が混ざり合い、雑音として騒々しく奏でられる。
そしてその一角。
視線を留めて、泥の様な色合いの声を吐き捨てる。
「竜の、出来損ないが」
映る、竜人公ドラポンエクストリーム。
#05 或る竜騎士の災難
尻のあたりに付いた足形を突き出して、撫でろとアピールしている
肉奴隷の無言の要求を黙殺しつつ、竜人公は会議に意識を戻す。
まじかる七色残存勢力との決戦、まじかる黄色ブラックも参戦させた
乾坤一擲の大決戦は、終始魔法帝国優勢に進みながら ――
最後に引っ繰り返された。
突如に戦場へと参戦した新戦力のせいである。
卓上の中空に浮かび上がる映像に、問題の人物の姿が映る。
―― 大地と海原の呼び声に応えッ
白銀の髪と、白く丈の長いコートを硝煙の混ざる風に靡かせながら、
心在るならば思わずと見惚れるが如き偉丈夫が、猛き名乗りを響かせている。
――
会議の空気が白鉛を流し込んだような微妙な品質に成った。
イケメンスマイルで歯を煌めかせ、桃色あたりが無駄に頬を染めている。
そんな画面をハイライトの消えた目で眺めながら、竜人公が口を開いた。
「みすりるどらぐない?」
果てしなく棒読みの言葉に、闘人公が無駄にマッチョな感じで返答する。
「
わざわざ画面に漢字を表示するほどに親切な返答であった。
「どらぐーん、どらぐない……どらぐない、かぁー」
小さく、空気の鉛を飲み込んだ様な歯切れの悪い言葉を零し、
竜の名を持つ四天王は疲れた様相で、片手で面頬の顔を覆って天を仰いだ。
もう片方の手は黄色に掴まれている。
セルフ撫で撫でであった。
「まあ、新しいヒーローと言うか、政府からの援軍だな、問題はここだ」
微妙極まりない空気を筋肉でスルーしつつ、マッチョが映像を早送りして
帝国の軍勢を蹴散らした竜騎士の必殺技の場面へと動かした。
―― 貫け聖光ッ、
振りぬいた拳から、白銀に輝く竜の如き形状の光弾が放たれ、
進行方向に在った悉くを蹴散らしながら、最後に爆発を起こす。
何か画面に技名が漢字で筆書きされていた。
そして、マッチョ以外の四天王の目のハイライトが消える。
「くろ、何ですか」
「クロスクルセイドリバースドラゴニア・アギトゼロシキ」
機械の身体を持つ美少年の呟きを、真面目に拾った筋肉が答える。
そしてそのまま、顔を覆い「おお、もう」などと呟いている黒い竜に対し、
真剣な色合いの声で言葉を投げかけた。
「お前の『ドラゴン右手から何か出る』と酷似している」
対になる様に新たに表示された画面には、黒い竜を放つ竜人公の映像。
「二人を足して2で割りたいネーミングセンスね」
「わ、わかりやすくて良いじゃないですかッ」
静寂が訪れていた会議室に、意外なほど大きく魔人と機人の声が響く。
そして竜人は、傍らに為された小声の会話をスルーしながら、
無言でスマホを取り出して、視線を集めながら操作を開始した。
あまり使い込まれていない綺麗な液晶には、メール画面。
to 彦一 from 竜胆
件名:何で創竜聖斗って名乗ってんの
>何があったの
送信、着信。
to 竜胆 from 彦一
件名:いや待て違うんだ
>今の職場でエンタメが大事とかで司令が
会議室の空気に混ざる鉛が、劣化ウランへと変質した。
>みすりるどらぐない
そーしん、ちゃくしん。
>待て待て待て待て待て
言葉少なに交差するメールの文言。
幾度か繰り返された後、真面目な声色で竜人公が所感を述べた。
「営業の都合らしいな」
「聞きたいのはそこじゃ無い」
はてと首を捻り黙考、やがて撫でさせられていた手を黄色から外しながら、
ようやくと言った感じで闘人公の望む答えを言葉に変えた。
「村八分にされていた家の長男で、友人と言うか、乳兄弟だ」
「要するに、竜の血族か」
隠れ里にて、育児放棄された忌子は村八分の家に面倒を見られたと。
「一緒に村を出て、東京でベコ飼うだとか言っていたんだが」
「それが、どこをどう騙されたら神聖白銀神龍騎士に成る」
真剣な顔色の会話の最中も、指先は動き続けメールを送信している。
>お前の兄さん都会で創竜聖斗って名乗ってると
お花に伝えたら爆笑していた
>何してくれてんのおおおおぉぉ
>くろすくるせいど、えーと何だっけ、アレの動画を見せたら
ひとしきり笑った後、無言で顔を覆って
会議室の視線を画面に集めながら、そこまで送信した後に最後。
短く一言だけ。
>すまん
空気に混ざった劣化ウランが、会議室の中の空気を深刻な色合いに染めた。
訪れた静寂の中、メールを受信した音だけが地獄めいた響きを立てる。
そっと、祈るような気配を滲ませた視線が、表示された文面に集まって。
>あばばばばばばばb
誰しもが、無言であった。
妹の事を書いているが、別にそんな作業をしていた気配は無い。
色々と察したそれぞれの脳裏に共通して、明確に思い浮かんだ情景が在る。
これからあの、やたらと白いイケメンが焦りながら家族の元に赴いて、
そして何も知らなかった妹に、自ら秘密を暴露してしまうのだろうと。
そんなどうしようもない空気の中、加害者が軽く頷いて総括を述べる。
「とりあえず心を折っておいた」
「お前には人の心と言うものが無いのか」
闘人公の返答は、会議参加者の一致した見解であった。
《魔法戦隊速報》
対決する双龍、因縁に囚われた氷の貴公子の熱き叫び!
本日未明、ハムカツの中身を薄いロースハムから厚いプレスハムに
差し替えるテロを実行していた魔法帝国は、駆け付けたまじかる七
色との戦闘に入り、その結果、双方の痛み分けに終わった。
その戦闘の中で、特殊行動警察に所属し、先日よりまじかる七色と
の共同作戦に従事していた創竜聖斗氏が、竜人公と対面した時に叫
び声をあげ、突然に殴り掛かると言う一幕があった。
冷静にして沈着、氷の貴公子と呼び名も高い「神聖白銀神龍騎士」
創竜聖斗氏が、これほどまでに感情を露わにしたのは珍しい。
幾つか確保された現場の記者の音声からは「よくもこんな(検閲)
を」「妹が」「お菓子好きかい」などと断片的ながらも尋常なら
ざる関係を伺わせる発言が記録されていた。
共に竜に関わる二人の深い因縁を伺わせる戦闘であり、これからの
まじかる七色と魔法帝国の動向からは目が離せない ――