青鯖は空に浮く   作:しちご

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#07 或る肉奴隷の崩壊

―― 恨みも、憎しみも妾の世代が持ち去ろう

 

かつての上司の言葉が思い起こされる。

 

紅に染まった大地の上で、美少年の尻を責めながら言われても、

説得力と言うものにいまいち欠けるのだがなあと、今でも思う。

 

上司の指先で、仇敵であった魔法少年が雌イキしていた夕暮れであった。

 

人に寄り添えと言われ、何を言っているのですかと返す。

その時に名付けられたのだ、いや、せめて指を止めろと。

 

―― ふむ、竜人公などと名乗るのはどうだ

 

触手と催眠男が良い笑顔で聞いているあたり、既に話が通っていたのか。

 

私に四天王を継がせる事を ―― てめえらそこまで書類仕事が嫌か。

 

まあそれでも、挽き肉製造機などと呼ばれるよりはいくらかマシかと、

目を逸らしていた同僚をシバきつつ、素直に受け入れた覚えがある。

 

そんな記憶を思い起こさせる目の前の光景。

 

全裸土下座である。

 

まじかる紫色と呼ばれていた少女が、何故か私室で全裸土下っている。

たぶんだが、人に寄り添うと言うのはこういう事では無いと思う。

 

床にまで達し形を変えている乳房と、透ける様な白い肌はしっとりと汗ばみ、

血流が朱と化して火照っている様の中、どこからか聞こえる駆動音。

 

後ろで全裸黄色が、手に持つリモコンをカチカチ言わせる度に痙攣していて。

 

うん、表情の選択間違ってるからな黄色、どう考えてもそこは

草原を渡る風の如き爽やかな笑顔を浮かべる所じゃない。

 

いや、サムズアップするな、褒めて褒めてオーラを醸し出すな。

 

あ、やめて、そこの堕肉、足を舐めようとしないで、その靴高かったの。

 

 

 

#07 或る肉奴隷の崩壊

 

 

 

市販の牛乳に砂糖を混入する、オペレーション銀河鉄道の夜は、

怪人カムパネルラが水路に落とされてしまい、失敗に終わった。

 

「やはり、異物混入系は成功率が低いな」

 

そんな事を呟きながら、竜の名を持つ四天王は書類を捲る手を止め、

穏やかな私室にて、軽く首を鳴らしながら執務机から視線を外す。

 

見れば最近、洗濯頻度がやたらと高い竜人公寝台シーツの上、

巴と絡む様に、互い違いの方向で寝そべる魔法少女たちが居た。

 

「こーの、お馬鹿ー」

「ふにふぐぅ」

 

意外と伸びる黄色の頬肉耐久試験を、座った目で施行する巨乳少女。

 

修復室から調教室、でびでびるん魔法帝国肉奴隷研修コースを終えて、

晴れて悪堕ち魔法少女まじかる紫色ブラックと化した肉壺である。

 

「む、ご主人様が休憩に入った、ストップストップぬぐうう」

「見えないわね、こっちからは見えないのよ」

 

俄かに騒がしくなった、竜人公の角度から見える二匹の有様は、

頬の伸び切った黄色の顔と、布切れに隠された紫色の股間。

 

見事に開いている。

 

魔法少女たちの上半身だけを見れば、天地逆しまに絡み合う可愛らしい風情、

だがしかし、その下半身側は解剖待ちの蛙の如くに開いている。

 

どちらもガニ股で寝台の上に尻を出している。

 

端的に表現するのならば、魔法少女の開き。

 

「……せめて、股を閉じないか」

 

死んだ魚の目で、そっと要望を口に出す肉壺どもの主が居た。

そんな支配者の強権的な要望を、頑として跳ね除ける黄色の奴隷。

 

「今股間を閉じると、乙女の尊厳的な何かが崩壊するからッ」

 

発言に力尽きたのか、そのまま寝台に沈み込む肉奴隷。

 

「ガニ股パンツ丸出しなのに崩壊していないのか」

「丈夫よね、乙女の尊厳」

 

完全に解剖待ちの姿勢の黄色を眺めながら、

竜人公と紫色が、しみじみとした口調で語り合った。

 

「それで、何でだ」

 

短い疑問に対し、巨乳は倦怠感を醸し出す微笑みに乗せ、言葉を紡ぐ。

 

「ご主人様も、骨盤底筋群を筋肉痛にさせてみますか」

 

てめえケツ穴荒らしまくって、ところてん射精させたろか、

そんな副音声が聞こえてきそうな、怖い笑顔であった。

 

「筋肉痛は、無理にでも動かすと良いのではなかったか」

「……崩壊するから……ほうかいしちゃうからぁ」

 

目を逸らしながら口にする、当たり障りの無い言葉に、

黄色がシーツに埋もれながら命乞いの如き断末魔を零し続ける。

 

僅かの間、静寂の中とりあえずとその頭を撫でる飼い主。

 

ひぎぃ、ふぐぅ、でゅふふと、何か気持ち悪い鳴き声が響いた。

 

「以前の戦闘中も思っていたけど、ご主人様って容赦無いわよね」

 

天国と地獄の狭間で末期の痙攣を見せている黄色を眺めながら、

そっと自分の頭をガードした紫色が、しみじみとした口調で言葉を零す。

 

そんな所感に、顔を上げた黄色が我が意を得たりと口を開いた。

 

「ドラゴン腹パンを受けた時、ビビッと全身に電流が走ったよね」

「それはどう考えても、恋の予感じゃなくて死の予感じゃないかしら」

 

それでもあの時に、細胞単位でご主人様に躾けられたと主張する肉に、

やだこの娘ってば性根がアマゾネスと、少し引く幼馴染。

 

オマエ強イ、種ヨコセ的な。

 

―― ドラゴン腹パン

 

胸倉を掴む左手で癒しのドラゴンぱうわぁを浸透させながら、

破壊の右手で対象の内臓と背骨を破壊、即再生の心折奥義である。

 

ひたすらに叩き込み続けられる、心が折れるまで。

 

折れた後にも5発ぐらい入れて、心を磨り潰すのが基本とされる。

 

「魔法少女だからな、油断したら挽き肉にされかねんし」

 

目を逸らしながら弁解する主に、二匹の熱視線とジト眼が突き刺さった。

 

そして紫色は軽く溜息を吐き。

 

容赦は無いのだが ―― その脳裏に引っかかるモノが在る。

 

そう、魔法少女側は全力で相手を殺しにいっていた。

 

爆発した怪人が黒焦げアフロで自転車を漕いで逃走していたり、

 

でびでるん万歳と叫びながら格好良く感電爆死した怪人が、

後日に普通に再生怪人として登場したりしていたから目立たないが、

 

正義と悪は殺し合うものだと、そう教えられて、忠実に実行していた。

 

しかしかつての大戦で、でびでびるん魔法帝国最悪の戦闘集団と言われた、

血萬公オシリスの軍団の代名詞である、伝説の心折奥義48手。

 

死んだ方がマシとも言われるそれらは、相手を殺さない、

いや ―― どうあっても殺せない形に構成されている。

 

それにどのような意味があるのか、思索の海に囚われたその顔の前で、

幼馴染が得意げな表情と、明るい声色で主へと言葉を返していた。

 

「そして油断していたボクたちは、イキ肉にされたんだねッ」

「何処をどの角度から見てもろくでもないわね」

 

酷い結論に、紫色は思考を中断して合の手を入れる。

 

そしてその視界には、良く見えていた。

 

発言を受けて遠い目をしていた自らの主が、撫でるのには飽きたのか、

目の前の奴隷の下半身側に回り込み、徐にその両の足首を掴んだのを。

 

これからの惨劇を想像した紫色は、膀胱あたりの肉がキュッと締まるのを感じる。

 

「あ」

 

端的に言えば、決壊した。

 

それからの事は語るまでも無く、黄色の機嫌が直るまでは実に半日を要し、

その日、被服室に無言でシーツを洗濯する竜人公の姿が在ったと言う。

 

 

 

《ワールドネットワークニュース》

 

 

 

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