青鯖は空に浮く   作:しちご

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#08 或る主人公の白濁

ガチャンと、硬い音が二人の後ろから響いた。

 

黄色と紫色が振り向けば、そこには閉まった扉が在るだけで、

部屋の中へと案内していたホルスたんの姿は何処にも無い。

 

首を傾げる平坦の横で、素早く状況を確認する堕肉。

 

扉には鍵、鏡張りの狭い部屋にはこれみよがしなベッドとハート型の枕。

机には怪しい液体の入った瓶が置かれ、床の上にはおまるが在る。

 

隅に設置された冷蔵庫を開ければ、利尿剤入りと書かれた飲料水。

 

「あ、何か扉に書いてあるよ」

 

部屋の各所を調べる内に、何か或る意味深刻な事態を想到して

色を無くしていく紫色の耳に、呑気な声色の黄色の言葉が届いた。

 

その内容を聞き、扉に寄って文章を見止める巨乳担当。

 

―― SEXしても出られない部屋

 

「ただの監禁じゃないッ」

 

何のために内装が揃っているのか微妙に疑問である。

 

「ご主人様を、ご主人様を要求するッ」

 

そして迷い無く、欲望直結の叫びで扉を叩く黄色。

 

何度か叩き続け、紫色が扉の強度を心配しだした頃合、

徐に黄色がその拳を抱えて蹲った。

 

「ものすごくいたい」

「何事よ、それ」

 

予想外の光景に、僅か慌てて扉を確認すれば。

 

「げ、最新型の対竜装甲」

 

そう、検証試験の度にドラゴン破壊光線で木っ端微塵に消し飛ばされ

泣きながら機人公が夜なべで改良を続けた新素材、対竜装甲であった。

 

最新型は、ドラゴン破壊光線2倍ですら3発までなら耐えられる。

 

そんな本気を出した監禁具合に、意味が分からず困惑する紫色であった。

 

 

 

#08 或る主人公の白濁

 

 

 

旭日が影を延ばす。

 

黎明の中、でびでびるん魔法帝国の拠点である魔王城裏手、

採石場の如き殺伐とした雰囲気の荒野に、二つの人影が在った。

 

髪と同じく桃色の衣装を身に纏う魔法少女と、塔の如くそそり立つ肉の色。

 

「魔法少女まじかるドアマット、だったか」

「桃色ですッ!」

 

桃色と、闘人公スマッシュマッチョである。

 

「どいてください」

「聞けん話だ」

 

余人の入らぬ相対の中、真剣な声色の言葉が交わされる。

 

「黄色さんたちを救わないと、間に合わなくなるんですッ」

「連れ帰った所で、始末されるのに変わりは無いだろう」

 

桃色ロッドを突き付けながらの懇願を、にべも無く切り捨てる筋肉魔人。

 

「そんな事にはさせませんッ」

「信じられんな」

 

交わされつつも交わる事の無い会話の果て、ふらりと、

何の予兆も無く、空気が歪むような動作で巨体が動く。

 

丸太を振り回すように無遠慮な、上段回し蹴り。

 

その体躯故に何処かゆっくりとした印象が在るが、

実際の所は風斬る音を響かせるほどの、高速の蹴撃。

 

かろうじて間に合った桃色の受け。

 

しかしその腕に伝わる衝撃は、想定したものより遥かに少なく、

理解と認識よりも速く、無意識の内に対の腕を上げた。

 

響く、音。

 

間を置かず蹴り込まれた、左右の蹴撃。

 

今度こそはと入れられた打撃は、全身の体重の乗った重いものであり、

それでも防げたかと刹那の安堵に歪む顔が、真下から突き上げられた。

 

顎先が跳ね上がり、そのままに後ろへと倒れ込む。

 

腕、では無い。

 

足、であるはずも無い。

 

いったいナニを叩き込まれたのか。

 

「飛竜 ―― 中心脚」

 

中空で、不可視の3撃目を放った闘人公は静かに大地に戻り、業の名が響く。

 

そしてその残心のまま、構えを崩す事無く真摯な声色で、

Mの字に開脚し下着を覗かせている少女に、果ての言葉を告げた。

 

「貴様の言葉は、軽い」

 

僅かの間、途切れた会話の齎した静寂の中、

もはや語る言葉も無いと、再びに踏み込む巨体が。

 

即座に後ろへと飛びのいた。

 

空を裂く、音が響く。

 

大地に沿うが如き滑り込みの蹴り足。

 

天を仰ぐが如き姿勢のまま、最下段を狙って放たれた蹴り。

空振りのそれが残心のまま引き戻され、M字開脚の魔法少女に戻る。

 

立ち構える巨体の男と、服従の如く腹を見せる少女。

 

だがしかし、互いの間には無言の緊張が挟まれている。

攻め手が互いに限定された相対は、硬直。

 

静止した世界に、時間だけが過ぎていった。

 

荒野を渡る風の音が、張り詰めた世界に響く。

 

幾度か、砂を運ぶそれが通り過ぎた頃。

 

空に、巨体が在った。

 

「殺ァッ」

 

呼気も一閃、体重を乗せ片足で踏みつける様な蹴り足は腹を狙い、

同時、桃色は全身の発条を使い、足裏に身体を寄せる様に飛び起きる。

 

背中合わせに近接する互い。

 

即座、勢いのままに放たれたのは、桃色の後ろ回し蹴り。

 

着地の衝撃に硬直していた闘人公は、視線も向けずそれを片手で受け、

受け流し、打撃を滑らせるように身体の向きを変える。

 

その流れのままに放たれた裏拳を、少女は身を屈めて避け。

 

低い姿勢より、踏みしめた大地の重さを掌底に乗せ ――

 

その刹那、全霊の集中がもたらす静止した時間の中で、

桃色の背骨に氷を突き込まれたが如き悪寒が走った。

 

蹴り飛ばす。

 

大地を。

 

踏み込みの足で。

 

無理な制動に膝周りの筋が悲鳴を上げる。

慣性に引き摺られる内臓が不快感を全身に染める。

 

極限の集中の中、ゆっくりとした、

まるで油に変わったが如き重さを増した空気の中で。

 

少しずつ、引き伸ばされた時間の中、少しずつ間合いが開く。

 

闘人公の身より、下から突き上げる様に放たれた必殺の打撃、

僅かに空いた互いの胴体の隙間にねじ込まれるような何かが在る。

 

見えた。

 

腕、ではない。

 

足、でもない。

 

武功を得、その気を纏わせた時、その身は鋼と化す。

そう、股間すらも神珍鉄へと変貌を果たすのだ。

 

中心脚、それは ―― 言わば3本目の足

 

しかし衝天が如き怒張は、その獲物に届く事は無く。

 

空振りが齎した巨体の硬直に、この好機逃すべからずと、

少女は悲鳴を上げる全身の発条を引き絞り ――

 

桃色は勝利を確信した。

 

確信、してしまった。

 

静止した巨体、届く事無く、虚しく女体に伸ばされている怒張。

引き絞り、今にも放たれんとしている少女の打撃。

 

誰にでもわかる必殺の好機。

 

だがそれ故に、桃色は見逃していた。

 

限界にまで締めこまれた、闘人公の丹田を。

 

絶招と言う言葉が在る。

 

より良き方法、程度の意味合いの言葉だが、

格闘を旨とする者にとっては、些かにその意味合いが変わる。

 

何某かの流派の神髄、それを活用する実践段階に於いて

過去の経験の蓄積から導き出された、極めて効果的な活用方法。

 

つまりは、流派が伝える実戦技の事である。

 

如何に相手に当てるか、如何に相手に響かせるか、

それぞれの理念に沿って追及されたそれは、

 

時として必殺の意味を持って語られる。

 

故にこそ刮目せよ、これぞ闘仙十八掌が絶招。

 

―― 射 精 大 砲 !

 

轟音が響いた。

 

必殺の衝撃を真正面から打ち返され、

増幅したそれが魔法少女の全身を貫き、響く。

 

放水車から放たれたが如き白き濁流に呑まれ、

まじかる桃色が宙を舞い吹き飛ばされていった。

 

無遠慮かつ無慈悲に、大地へと投げ捨てられた桃色の肢体。

 

そしてもはや、その場に動く者は無く。

 

決着。

 

「殺しはせんよ」

 

萎えた肉棒を垂らしたまま、闘人公が意を告げた。

 

そのまま踵を返し、白濁に塗れた魔法少女を置いてその場を立ち去っていく。

 

これより半日の後、ジャスティス連合軍の大攻勢の前に魔王城は崩壊する。

 

作戦行動を通して、まじかる黄色と紫色の消息は杳として知れず、

魔王城の崩壊に巻き込まれたか、既に処分されていたものと判断された。

 

 

 

《魔法戦隊速報》

 

 

 

ホルスたん無人の荒野を征く!

 

ジャスティス連合の攻撃により崩壊した魔王城より保護された搾乳奴

隷たちであるが、昨日未明、乳牛怪人ホルスたん及びヒンジャック怪

人小隊の手によりその全てが奪還された。

 

作戦行動直後の間隙を狙った行動であり、行動可能な正義の味方が現

場に到着した時には、既に奴隷たちと共にその姿を消していたという。

 

この件について魔法少女まじかるカレー味は「すいません、いま白い

物を見るとウチの桃色が凹むんで勘弁」と、ドライカレーをパクつき

ながら記者に語った。

 

ジャスティス連合軍による強引な作戦展開により、まじかる黄色と紫

色の生存が絶望視されている事については、ノーコメントを ――

 

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