薄闇を纏う室内には4人が席に着いている。
筋肉の塊と無駄に露出の高い痴女、女顔の機械人。
そして、何かキングとかジェネラルとか言った雰囲気を纏った誰か。
「でびでびるん魔法帝国が壊滅した様だな」
無駄に偉そうなキングが、お誕生日席で重々しい声を響かせた。
「所詮、魔法帝国は我らでびでびグループの中で一番の若輩」
「正義陣営に攻め陥とされるなど、でびでびグループの面汚しよ」
痴女と筋肉が言葉を受けて、それらしい返答を返す。
魔法帝国の壊滅を受け、でびでびグループの連結決算は赤字を計上し、
今期の法人税がかなり安くあがる見込みになってしまうなどの被害を受けた。
経理を任されている竜人公は、全力で焼け太りをする所存である。
そして、低い笑い声と窓型液晶画面から効果音付きの稲光が轟いている中、
「ところで、竜人公はどうしたんですか」
四天王会話が一区切りついたと見た機人公が、
会議室に姿を見せない四天王最後の一人の事を聞く。
「拉致された搾乳奴隷たちの回収のため、現場に出ているな」
改めて室内に明かりを灯けて、手元の書類を捲った闘人公の返答。
「それで、新しい名前はどうする」
「もう、新でびでびるん魔法帝国とかで良いんじゃないですか」
聞き返すように問われた今回の議題を、気の無い風で打ち返す美少年。
そのままに会議は踊り、
結果、新名称は「でびでびるん疾風魔法大帝国」に決定される。
何処となく、四天王が空中レースを繰り広げる様な気配が見える改名であった。
09 或る肉奴隷の行商
でびでびキャラバンとは、でびでび乳業が奴隷乳を広報するために
極東結界内を周遊し各地でキャンペーンを行う広報活動である。
その象徴たる広報車の名はメカニカルミルクベース、通称MM号。
運転手をでびでび乳業のイメージガールとして有名なホルスたんが務め、
あなたの街にも乳が来る、を合言葉に愛されているキャラバンだ。
「新発売の奴隷乳でーす」
そんなMM号の周辺で、試飲の奴隷乳を配る2人の首輪付き魔法少女。
通勤する労働成分が受け取ったパックに視線を移せば。
どれいのあさ ~明け方一番搾り~
夜間の睡眠で体内の水分が失われるため、早朝に絞った奴隷乳は、
様々な成分が濃縮されたコクまろな口当たりに成ると言う。
そしてセールストークを受け、奴隷乳を飲みながら去って行こうとする通行人。
が、突如に進行方向を変え、MM号横の特設ステージへと飲み込まれていく。
ホルスたんの乳に挟まれて記念撮影、1回千円。
そう、乳の引力の前に人は無力であった。
その後ろでは崩れ落ちた黄色い魔法少女が、無言で地面を殴りつけている。
そんな黄色が気を取り直して、改めて通行人に乳を渡す。
「姉妹品のどれいのゆうべでーす」
端麗夕絞りである。
通行人は片手で受け取ってから空いた手で。
容赦無く黄色の顔面を絞り上げた。
「何ぬけしゃあと生き延びてやがんのかなッ」
「ぬぐおおおおぉぉぉ」
絞るのは顔面じゃなくて乳ーなどと言う言葉に、手前に乳は無いだろうがと
酷い受け答えを返す通行人の衣服は、赤いまじかるどれす。
「あ、た、し、ら、が、どれだけ心配した思ってやがんだゴルァッ」
「のののののののーッ」
ジャスティス連合軍の総攻撃で壊滅した、でびでびるん本拠地にて
発見されず生死不明のまま行方がわからなかった黄色と紫色を、
生存を信じて今の今も探し続けていた、まじかる七色残り3名であった。
そんなやるせない鬱憤を晴らすかの如き鉄の爪の握力は、
ゴキリと重い音を以って終焉を迎え、伏せる黄色の横で肩で息をする赤色。
そんな暴走魔法少女の肩を後ろから叩く誰かが居る。
紫色の髪の、出る所は出る肉感的で、小柄な身体。
まじかる紫色ブラックが、優し気な笑顔で赤色に向かって口を開いた。
「他人のそら似よ」
「ストロングスタイルで誤魔化そうとするなッ」
叫ぶや否や、足元を蹴りつける様に半歩下がる赤色。
開いた視界を、鞭の如くしなる指が通り過ぎた。
紫色の握らぬ半拳で、掠める様に狙ったのは赤色の顎。
開いた空間の空気が、張り詰めて個体と化していく。
「紫色、何で寝返った」
両の手を片方の脇に寄せ、静かに赤色が問い掛ける。
「いや私、ぶっちゃけ黄色が居るから正義陣営に居ただけだし」
「畜生、普通に納得しちまうッ」
何だかんだで長い付き合いであった。
「平和な世界を求めて戦い続けた日々を忘れたのか」
「平和な世界ね」
それでも諦めずにと重ねた言葉は、嘆息を込めた返事で繰り返される。
静かに、紫色の両の手が身体の前に持ち上げられた。
対する魔法少女は、両の手に炎を纏う緋色の剣を召喚する。
赤色のヴァージニアアームズ、火葬大剣。
「そこに居る事が出来るのは、一体何人なのかしらね」
片足の重心を消し、ゆらりといつでも足が出せる構えのままに紫色が問い、
意味をとれぬまま赤色は刃を後ろに流す脇構えで、静かに言葉を聞く。
「100万人」
炎が、揺れた。
「何を、言っているんだ」
「制御可能な大きさの、豊かで、平和な世界」
積み重ね続ける言葉は深刻で、軽い声色にそぐわない。
「かつての黄金の時代の様に」
「だから、何の話なんだッ」
赤色の叫びを優し気な微笑みで受け流しながら、紫色は改めて口を開いた。
「今回の作戦の前に、正義側の頂点はこう言ったそうよ」
静かに、物を棚に置く様な軽い声色で。
「まだ、6憶人も居る」
―― これは、毒だ
言葉を受け、赤色は咄嗟の発想に全ての意識を委ねた。
「あたしは馬鹿だからよくわからないが」
「思考停止ね」
上滑りする意識が言葉を紡ぎ、内心はただ透き通っていく。
「お前たちを連れ戻して、皆で考えればきっと何か出来るはずだ」
「妄想ね」
思考の全てを放棄し、精神がただ一振りの刃と化していく。
それでもと、消すことの出来ぬ赤心から、一言が零れ落ちた。
「あたしの知る紫色なら、どうにか出来る」
一切の偽りの無い視線が、紫色を射抜く。
ただ一言で紫色の口が止まり、個体へと身を転じた空気が鉛と化す。
「信頼が、重いわ」
重さに耐えかねる様に絞り出した言葉が、拒絶の意思を伝えた。
「どうしてもか」
「どうしても、よ」
もはや言葉も無く、刃を交えるのみと終の言葉を交わす。
「なら聞くが良いさ、アタシの初恋ポエムをッ」
そして、鉛の空気が凍り付いた。
青々とした乙女心が浪漫ちっくでぽえみーな単語で飾られた言葉の羅列が、
朗々とした美声でキャラバン会場の隅から隅までと響き渡る。
突然の聞くからに痛々しい精神攻撃に、毎夜の奉仕の白濁の如くに思考が
塗りつぶされてしまった紫色が、冷や汗を流し、視線を彷徨わせれば。
周囲に集まった野次馬の中に、知った姿を見つけた。
「……鬼が居る」
群衆の中、催眠怪人ファントムライトがサムズアップをしていた。
《季刊ワンダフルライフ》
―― 絶滅したと思われていた滋賀県民が発見される!
人間の乱獲により絶滅したと思われていた滋賀県民を、京都府跡地に
て撮影に成功したとワールドネットワークニュースが伝えました。
滋賀県民は旧世界に存在した人型の肉食獣で、大戦末期に琵琶
この情報は検閲されました
件を受け、研究チームは滋賀県の実在を確信したと語って
おり、国土地理院に情報提供の申し入れをしましたが拒否されました。
この様な情報統制に対し編集部は ――