栞なる子は、恋をする。   作:Master Tree

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遅いわ(by担当T)
まあ人のこと言えないんですけどね。


温もり

 

「いつも悪いわね。ボランティア引き受けてくれて」

「いえ。お世話になっているのはコチラですから。本日はよろしくお願いします」

 

小気味よく晴れ上がったこの日。秋にしては暖かい中、わざわざ出迎えに来てくれた職員さんに私は一礼して館内へと入る。

休日を返上し、私はとある児童館へと訪れていた。理由は無論、ボランティア活動だ。

 

三船家の人間たるもの、他人への真心を込めた奉仕活動を欠かさない。やれ時間を取られるだとか、遊ばないのと聞かれる事も何度あったことか。・・・・・・()()()はともかく、私にとってそれは当たり前の事だったし、面倒だと思った事は1度もない。

 

・・・・・・それに、ここの児童館を利用している子供達の顔を見ているのが楽しいのもまた事実だ。手のかかる子も一定数は居るものの、その屈託の無い真っ直ぐな瞳で、コレから先、どんな将来に進んで行くのかが楽しみなのだ。勿論、彼等の幸せな道を進む為に私が手を貸してあげられるのなら尚良いのだが。

 

そんな事を考えながらストラップ付の名札に学生証を入れ、それを首に掛けたとき。

 

「わっ!」

「ひゃっ!?」

「朝からいい反応するじゃん。プッ・・・・・・おはよ、栞子」

「・・・・・・おはようございます、新さん」

 

大声に驚いた私の反応を愉しんでいる不届き者()は、面白おかしくて堪らないといった感じで、腹を抑えながら揚々とした調子で話しかけて来る。しかしイタズラされた私としてもやっぱり腹が立つ所はあるわけで、がらでもなく口をとがらせて抗議する。というか、この歳になってイタズラ癖があるのはどうかと思います。

 

「それで、脅かすのが大好きな新さんもこのボランティアに参加するんですか?」

「いやあ、いつも反応がいいから脅しがいが・・・・・・痛っっっ!!ごめんごめんごめん冗談だから!!!今のは真っ赤な嘘だから俺の右耳を掴んでるその右手を放して!!」

 

取り合えず不真面目な態度で弁明しようとした彼の耳を戒めるために思い切り抓ると、それに観念するかのように新さんは降参を示すように両手を上げる。私は抓っていた右手を降ろし、嘆息をあげる。これで少しは反省してくれるといいのですが。

 

「痛てて・・・・・・いや、まゆ・・・・・・ここの館長と()()()()でさ。折角だから子供たちと遊ぶついでに顔を見せろって言われたから、仕方なく」

「そうだったんですか」

「まあ、栞子もボランティアでやるなら俺も参加するかな」

 

思えば、彼がどんな交友関係を深めているのか、どんな人と繋がりがあるのかなど考えたこともなかった。ましてや、ここの館長は多忙で留守にしていることが多く、私も数回程度にしか会ってなければ、名前を覚えて貰っているかすら怪しい。

彼は知り合い、とはいってたけれど私と同じか、もしくはそれ以上にボランティアに参加して、それで顔を覚えて貰ったのだろうか。何れにせよ、彼もまた人の役に立とうとボランティアに参加することはいい事です。

 

頭の片隅でそんなことを考えていると、不意に控え室の扉が緩やかに開く音が聞こえ、私も新さんもそちらへと視線を向ける。黒髪ロングに、女性にしてはやや高めの身長と、非常に整った顔立ち。更に彼女身にまとっている上下ピッタリの黒のスーツやアクセサリーが、彼女のスタイルの良さを際立たせている。

 

・・・・・・彼女は(まゆずみ)さん。先程述べたここの児童館で館長を務めているその人だ。

 

 「はーい、今日はボランティアに参加してくれてありがとね栞子さん。あと・・・・・・あ、新!なんだ、来たなら連絡寄越しなさいよ」

 「・・・・・・お久しぶりです、黛さん」

「しかしまあ、私よりも背大きくなっちゃって〜。お姉さん自分の事のように嬉しい!昔はあんなにちっちゃかったってのにさぁ・・・・・・」

「すぐ姉貴面になろうとすんなっ!つーか、一々頭を撫でんな!」

 

柔らかい言葉を掛けつつ彼の頭を撫でようとする館長()さんと、そんな彼女に対し心底うんざりとしている新さん。だけど、そんな彼の表情は私の知らないものばかりで、面食らってしまう。

2人の姉と弟のようなやり取りに、何処か微笑ましい雰囲気が漂う。けど、それとは裏腹に、私はキュッと胸が締め付けられるような感覚が芽生える。

 

──その姿が、幼かった頃の自分と姉さんの姿を重ねてるから?

 

・・・・・・否だ。きっと、それだけじゃない。だけど、そのモヤモヤとしかこの気持ちが上手く言えない。それがどうにももどかしくて、無意識に下唇を噛んでいた。

 

「・・・・・・栞子?」

「え?な、なんでしょうか?」

「いや、さっきから呼んでたけど反応なかったからさ。もう時間だぞ」

「あっ・・・・・・」

 

彼の呼び掛けに、私はハッと我に返る。彼の言う通り時間が来たらしく、指導員の方が出迎えてくれていた。私とした事が、思考を放棄するとは情けない。

今は、ボランティア活動に集中しよう。そうすればきっと、このモヤモヤとした気持ちもきっと気にしなくて済むから。

 

私は頭に付けられた髪飾りを今一度結び直して、毅然と向き直る。

 

「すみません、準備が終わりました」

「ん、それじゃあ私も行こうかな」

「あれ、もう行くんすか?」

「私はガキンチョと違って暇じゃないのよ」

「誰がガキンチョだ、誰が」

 

彼の突っ込みをスルーし、黛さんは私の目の前へとやって来たかと思うと、その細い手で私の頭を撫でてくる。突然の出来事で、思わず声が上擦ってしまう。

 

「あ、あの」

「新の事、お願いね。色々と迷惑かけるけど、助けてあげて」

 

何処と無く真剣な表情で、黛さんはそんな言葉を掛けられる。無論、私の決意は変わる事はない。私よりも少しだけ高い黛さんのその顔を見上げながら、伝える。

 

 

「はい、任されました」

 

その返答を聴いた黛さんは満足そうな表情を浮かべて、今度こそ控え室を後にして行く。当の本人はというと、少しムッとした表情で頭を掻いていた。

 

「たく、好き勝手言って・・・・・・」

「にしては、凄く仲良かったではないですか」

「・・・・・・まあ、()()()()があって、その度に助けてくれた恩人だから、かな」

 

そう述べていた彼の横顔は、昔の出来事を懐かしむよう―――それが何処か寂しそうで、悲しそう―――であった。 一転して、彼はまた笑みを浮かべて話の話題を切り替えようとする。

 

「さ、早く行こうぜ。あんま待たせちゃ悪いし」

 

一言だけ述べて歩き出そうとした彼を、彼の右手を取って引き止める。このまま行かせたら、新さんが、何処か遠い場所へと行ってしまう気がしたから。言葉の纏まらないまま無言で突っ立ていると、見兼ねた新さんが困ったような表情で尋ねてくる。

 

「し、栞子?」

「先程の言葉ですが」

「う、うん」

「あの言葉、本気ですからね」

 

騙りや虚言はない。何よりも私は嘘は嫌いだ。私に出来ることはたかが知れてる。そんな事は分かってる。それでも、彼に対してできることがあるならば、私は迷わず力になりたい。自分の貴いと感じる存在なら、尚更。

私の思っている事が少しでも伝わったのだろうか。彼は一瞬だけ目を見開いて、それも直ぐに屈託ない笑みを魅せてくれる。

 

「じゃあ、その時が来たら頼りにするよ」

「はい、勿論です」

「それじゃ、行こうぜ」

 

彼の右手が、私の左手を握り返す。突然の行動に顔がカーッと熱くなってくものの、彼に連れられるままにそのまま控え室を出て廊下を歩き出していく。彼の背中に視線を送りながら、ふと考える。

 

 

 

──彼は、私の事をどう思っているのだろうか。

 

 

でも、結論をだすには早い。コレからゆっくりと考えけば良い。 だって―――

 

 

彼と私を繋ぐこの左手が、こんなにも温かいのだから。

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