栞なる子は、恋をする。   作:Master Tree

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思わぬ来客

 

 

ちょっとした予定外の事がありつつも、ボランティアが始まった。

多くの中高生が子供達と触れ合う中で、新さんはというと始まって早々大勢の子供達が押し寄せ、もみくちゃになりながら館内を抜け出すや、サッカー、ドッジボールをやった後に外で男女混同での鬼ごっこを行っていた。 そんな彼のいつでも全力で、輝いてる存在に釘付けになっていると、スカートの裾辺りを掴まれる感触が伝わり、そちらへと視線を移す。

 

「ねーねー、おねーちゃん」

「あ、すみません。どうかしましたか」

「えーとね、今度はお絵かきやりたい!」

「えーー!!私フラフープやりたいよーー!」

「ふふっ、まだまだ時間はありますから、一つ一つやっていきましょう」

 

私は現在、数人ほどの女児達に誘われ、おままごとという一種の子供遊びに参加している。自分が幼少期だった頃、こうした遊びに交じっていた記憶はない。こうした体験も、この児童館に足を運ぶようになってきたからだ。

・・・・・・それにしても。まだまだ小さい子供達が、柔軟な発想を用いて主体性を持って遊びを講じる姿には、私も驚かされているばかりだ。とはいえ、子供達に万一のことが起こらないよう、年長者としてしっかりと見守らなければ。 と、とある女の子がこんな発言をする。

 

「あ!じゃあ、恋バナしようよー!」

「!!!」

 

なんということか。今どきの子供達は、れ、恋愛といった話も話題に挙がるのでしょうか。やや狼狽える私を他所に、その場にいた女の子達がわんさかと集まっていく。となると、自然な形で私も勧誘されるわけで。

 

「おねーさんも、参加するよね?」

「い、いえ、私は・・・・・・」

「おねーちゃんは、一緒にお話してくれないの・・・・・・?」

「っ、そうじゃないですよ。ただ少し驚いただけです。折角ですので、私も混ぜてもらっても良いですか?」

「うん!もちろんっ!!」

 

ああ、茶化すように聞いてくる同級生ならば軽くあしらう事ができるものを。こう純粋に聞いてくる子ども達相手だと、なし崩し的に参加せざるを得ない。 私は苦笑しつつも彼女達の輪に入ったのを皮切りに、女の子達は1人ずつ思い思いの好きな人を語っていく。

ある子は、ご近所に住む幼馴染の子。ある子は少し年の離れたやんちゃな男の子。またある子は漫画やアニメに登場するキャラクタであったり・・・・・・と、個人差はあれど自分の想い人を語る時の乙女達は、皆目がキラキラしていた。そんな彼女達が微笑ましくもあり、羨ましいとさえ思う。心から想い人と結ばれて、幸せになって欲しいとも思う。アニメのキャラが好きだ、と語っていた子は、同じくそのキャラが好きな異性と意気投合していけば良いでしょう。

 

「じゃあ、最後は栞子おねーちゃんの番だね!」

「え、わ、私ですか?」

 

「そうだよー、皆もう喋り終えちゃったし」

「私も栞子おねーさんの好きな人、気になるかも・・・・・・」

 

 

どこか他人行儀のように話題へ耳を傾けてたからか、思わぬパスを受けた事に困惑する。包囲網は既に張られてしまったようで、あっという間に子供達に囲まれてしまう。ここではぐらかしてこの場を去るのも一つの手なのだろうが、子供達は納得してくれないだろう。

私も意を決して打ち明けようとした時。

 

「こらこら。そんな寄ってたかっちゃうと、このお姉ちゃんが困っちゃうだろ」

 

「あ、奥野にーちゃんだ!」

「あ、新さん!?」

「ああいや、さっきまでガキんちょ達と散々運動しててさ。休憩がてら水分補給とトイレ済ませて戻ろうと通りがかったら、栞子が困ってそうだったからつい」

「・・・・・・」

「もしかして、お邪魔だった?」

「いえ、そういうわけではないのですが、その」

 

ニカッと笑いながらそう言う新さんに、思わず私は目を逸らしてしまう。勿論、あの状況を見かねて助け舟を出してくれたことには感謝しているのです。

ただ・・・・・・タイミングが悪い。

 

「ねーねー!奥野おにーちゃんの好きな人は!?」

「あ、私も気になる!」

「わ、私も・・・・・・!」

 

次の瞬間には、女の子達が新さんの周辺をあっという間に囲い、わんさかと彼に押しかけていくではないか。私の時より反応が良いのはさておいて、何故だかムッとしてしまう。

理由は不明なのがとてももどかしいが。本人は今置かれている状況に珍しく混乱してるらしく、困惑した様子で喋る。

 

「ちょちょちょ! これ、一体なんの話してんの!?」

「さっきまで恋バナってやつを話してたんだー!」

「へえ、恋バナねえ・・・・・・ん?」

 

その場に居た子からの話を聞いた彼は合点言ったかのように頷くと、急に目を丸くした様子で私の方を向くや、生暖かい視線を浴びせてくる。だからタイミングが悪い、と愚痴をこぼしたのに。この手の話題になると、彼も乗っかって茶化してくるからだ。

 

「そっかぁ・・・・・・栞子もとうとう好きな人ができたんだな」

「ち、違いますからね!私は別にそういったのは・・・・・・!」

「えー、でも俺は栞子の事好きだけど?」

「な、何を言ってるのですか!?」

 

なんで彼はこうも歯痒くなるような事をサラりと呟けるのか。沸騰したお湯の一気に顔に熱が帯び、動揺で自分の唇が震えている。彼を囲っていた小さな乙女達もそんな大胆発言に顔を赤面とさせて、1部から悲鳴のような声まで発している。

本人はというと、自分がどんな事をしでかしてるのかということをまるで理解してないようで、ピンと来てない様子である。人垂らしなのですか全く。

うわずりそうな自分の気持ちを必死に押さえ込みながら、その発言の真意を問いただそうと口を開く。

 

「あ、あのそれは一体どういう意味で・・・・・・」

「・・・・・・それは」

 

数秒の間を込め、彼が口を開いた時。館内に、アナウンスの音声が鳴り響く。口を開きかけた新さんや私も何事かと耳を傾けていると、

 

『これより、お昼の休憩を行います。児童の方はそれぞれの教室で、ボランティアの方々は昼食をご用意しましたので、控え室にてご食事頂くようお願いします。午後の部の開始はーー』

 

といった内容のアナウンスが流れてくる。助かったと安堵したいような、発言を最後まで聞けなかったことに対する残念な気持ちを半々程に感じつつ、咳払いをして口を開く。

 

「皆さん、お昼の時間です!先程の放送通り、児童の皆さんはそれぞれの教室にはもどって食事をしてくださいね」

 

私の発言に対し、話を全て聞き終えていないと不満を漏らす子は一定数居たものの、最終的には納得してくれたようで彼の周りに居た女の子達はゾロゾロと解散し始めていく。

 

「新さん、私達も戻りましょう」

「ん。ああ、そうだな」

「奥野おにーちゃん、栞子お姉ーちゃん! 今度絶対に話してねー!」

「約束だよー!」

 

控え室に戻ろうと彼に促しつつ、教室を出ようとすると先程まで会話に参加しこの教室に残っていた女の子達からそんな言葉を掛けられる。 機会があれば、といった言葉で返事を返し、教室を後にする。 控え室までのちょっとした長い道のりを歩く中で、私は歩みを止めて彼を引き止める。

 

「あの」

「どうかした?トイレとか行きたいんだったら」

「いえ、そうではなく。先程の言葉について、なのですが」

「・・・・・・ああ、そういうことか」

 

私の否定で話の合点がいったのか、彼は私の方へと向き直ると、柔らかな態度を崩さず穏やかな表情で言う。

 

「言葉通りだよ。誰かの為に一生懸命頑張ってるところとか、ちょっと頑固な所があって、放っておけない所とかさ」

「・・・・・・それは」

 

──幼馴染として、ですか?それとも・・・・・・一人の女の子として、ですか?

 

でも、その一言を呟くことが出来なかった。この関係性が崩れる事が怖かったから。今まで積上げてきたものが、何もかも無くなる事を、私自身が恐れてるから。

私は自分の気持ちを誤魔化して、お礼の言葉を呟く。

 

「いえ、ありがとうございます。私もそう言っていただけて嬉しいです。・・・・・・すみません、早く戻りましょうか」

「ああ、うん。そうだね」

 

その会話を最後に、私は再度廊下を歩き出す。会話は結局、控え室に着いてからも、昼の休憩が終わってからもする事はとうとう無かった。

 

「・・・・・・本気、なんだけどなぁ」

 

私の背中を見やりながらそう呟く新さん言葉は、廊下を歩く私の耳に届く事は無かった。

 

 

 

ーーーー

 

 

時刻は午後の十五時。午前から始まったボランティアも、もうすぐ終わろうとしている。

・・・・・・アレから、新さんとは顔を合わせて居ない。何度か彼と目線があったりしたものの、私の方から避けてしまっている。

こんな気持ちになったのは、いつからだろうか。そもそも私は彼の事が好きなのか。そんな感情がグルグルと私の中で駆け巡って、その度にチクチクと針に刺されるような感覚に見舞われる。

そんな事に嘆息の息を零しながら児童の広場を眺めていると、とある人達を見かける。

 

その者達は虹ヶ咲学園の制服に似た──というより、虹ヶ咲学園の制服を着て、音ノ木坂学院の制服を着た人と会話をしている。だが、生徒会室で届け出として出されていた資料等には、彼女達のような人は該当してなかったはずだ。

それに、あの人達を知っているような気がする。

 

「あら、貴方たちは・・・・・・?」

「み、三船栞子っ!」

 

まさかという気持ちを持ちながらも、私は声をかける。声を掛けられた者は驚き、私の名前を呼んだことで、それを確信する。それにしても、今日は何という日なのだろうかと内心愚痴らざるを得ない。

私は溜息をつきながら、目の前の人物に対して叱責を含んだ言葉を口にする。

 

「・・・・・・いきなり人を呼び捨てとは、感心しませんね」

 

私を呼び捨てにしたベージュ髪の少女で虹ヶ咲学園(内の生徒である)普通科1年の、中須(なかす)かすみさん。 その後ろで私を見て驚くロングの茶髪をリボンで纏めた同じく1年で国際交流学科の、桜坂(おうさか)しずくさん。そして、ピンク髪にアホ毛で、顔をスケッチブックで隠している同じく1年の情報処理学科に在籍している天王寺璃奈(てんのうじりな)さん。

 

 

彼女達こそ、私が唯一無駄であると断じ、廃部をさせようと虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(敵視している存在)。そのメンバー達である。

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