白と黒、冥界の死神   作:ジャンヌ

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第一話 死神、幻想、邂逅

死神。あなたはこの名を聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

鎌をもち、黒く煤けたローブのしたから覗く、どこもまでも深い双眼。ゆらりゆらりと、地獄より寿命を刈り取りにやって来る…。

様々なイメージがあるだろうが、実際は刀片手に悪霊払いといった、某戦闘民族も顔負けの戦いっぷりで陰陽師の真似事をしてたりするのである。

とにかく、死への根元的な恐怖からか、死神とは現世において、意外にも確固たる認識が存在している。

では、幽霊は?これまたホラー映画などの題材になったり。

 

それでは…"半人半霊"は?

 

人に近い肉体をもちながら、霊的存在でもあり。人を遥かに越える身体能力と天寿を有する。摩訶不思議な存在。

 

…イメージできるだろうか?

 

恐らく、否、だろう。

 

魔法使いのような、空想の産物…"幻想"と化している。

 

 

誰が認識するだろう、誰が覚えているのだろう。哀れにも、幻想と化したものたちは、皆、この現世から消え失せてしまう。時代の変遷…ともいうべきか。

 

 

 

 

だが…幻想は、ある。

 

 

あなたが目を向けない暗闇、鬱蒼と生い茂る竹林の奥、果ては月の裏にまで。

 

 

"幻想"は、いつだって、そこにある。

 

 

 

さてさて、話も脇道にそれてしまったが、改めて。

 

 

これは、"死神"と"幻想"−−−"黒"と"白"−−−世界を、己が矜持を・・・、

 

 

大切な人を守るため。

奮闘する、そんな話である。

 

 

 

 

***

 

 

 

ブン、と刀が空を切る。それはすぐさま元の軌道を切り返し、切り返し。その度に鋭く響く。

これだけ聞けば、特に何の変哲もない。道場で必死に稽古に励む剣道部員、といったところか。例え剣をふっているのが、若さのわりに色素が抜け落ちたかのような白さの髪の女の子だろうと、服が明らかに胴着とかけ離れた緑のワンピースだろうと、夜であろうと、美少女だろうと、何ら問題などないのである。

 

 

ただ…手に握られているのが、"真"剣であることを除けば。

 

 

 成人男性でも容易には扱えないほどの重さなのだが、全くそれを感じさせないほどに、剣線は滑らかであった。 いっそ惚れ惚れするほどに。

 

学校の施設とはいえ、この静かで、どこか崇高とした空間が、彼女は好きだった。精神を集中させ、一心不乱に素振り。なんと楽しいことか。

滴る汗を拭い、剣を構え直して−−−

 

 

「おい、なにをやっている?」

「みょんっ!?」

 

とある教師の一声に、妨げられた。

「ふむ、妖夢だったか。もう下校時刻は過ぎているんだから帰りなさい」

「す、すみません…」

「ん?それ、見れば竹刀じゃ」

「お、お騒がせしましたっ!!」

目に追い付かないほどの猛スピードで敬礼して戸を弾き、暗闇へ消え去っていった。

「ははは、大したもんだな…ん?そういえばあいつ、剣道部員だったか?」

名も知らぬ教師の疑問は、誰も答えることはなかった。

 

 

 

魂魄妖夢

 

肩書:高校一年生

髪の色:白

瞳の色:青

 

 

能力:「剣術を操る程度の能力」

 

 

***

 

 

全く、迂闊だった。

「せっかく今まで一ヶ月間、誰にもバレなかったのに…」

街灯の明かりが照らす中、もう止めようかな、とひとりごちる。元々、ただ修業の場所をたまには変えたい、というだけであり、一抹の罪悪感をもっていったのだ。むしろ後押ししてくれたようなものだ。

ぶっちゃけ、今後も使うなとは言われていないのにそう即決してしまうところは、彼女の生真面目さを表しているかもしれない。

無論、家の武道場を使えばいいだけなので、問題はないのだ。

「さて、早く帰ればなりませんね」

師匠もしかめっ面をして待っていることだろう。容易に想像ができ、思わずクスリと笑みがこぼれる。

「半霊、急ぎましょう」

誰もいない空間−−−否。傍らに漂う人魂のようなものに話しかける。返事の代わりか、それは一層ふよふよと揺れて見せた。

頷き、ぐっと足を込める。加減はしないとな、と思いながら駆け出そうとして。

横からものっそい衝撃がきた。

「ぐはっ!」

吹っ飛ばされそうになるのを何とかこらえ、改めてその物体をみる。

「…男のひと?」

顔面がもう見るに耐えない、気絶した不細工なチャラ男であった。

遠くから「おい、大丈夫か山ちゃん!?」と聞こえてくるから、きっと山ちゃんなんだろう。

「てめえ山ちゃんをやりやがってぇ…」

どうも下手人はオレンジの髪のちょいヤンキーっぽい、目が鋭くて眉間にシワがよっていてうちの高校の制服着たって「どっからどうみても黒崎さんじゃないですかぁぁ!?」・・・妖夢の同級生であった。

 その等の本人はチャラ男どもの威圧にも動じず、頭をポリポリ掻いている。

「俺らがなんかしましたかぁ?健全によぉ、ただスケボーを」

「うるさい」

「ゲブゥ!?」

ズザサー、と地をすべるモブ。

(あ…あ…足で蹴ったぁぁ!?)

完全に理不尽なる暴力である。最初の威勢もどこへやら、すっかりリスよりも萎縮するMob。

しかし妖夢は、級友の裏の面に、ただただ驚いていた。

教室で話したことはない。だが、みていてそんな頭の悪そうな事をしでかすとは到底思えなかったのだ。

(意外と喧嘩っぱやいんですね…ですが)

服の裏に隠した真剣を、静かに抜刀の体勢に移す。

(これ以上民間人を傷つけるというのなら…斬ります!)

無論、黒崎も民間人だが、既に妖夢の脳内では敵認定されている。

そんな妖夢の思いもどこ吹く風、雑魚どもは腰が抜けて立てなくなっていた。そして、黒崎の非情なる宣告が下される。

 

 

「まずはこいつ《・・・》に謝んないとなぁ!?」

 

 

はっ、と目を見開いた。

だって彼が指差していたのは…

 

 

血みどろの少女の、霊。

 

 

「ひぎやぁぁぁ!!」

「すいやせんもうしませんからぁ!?」

「む、無理!!お、おで、かえる!?」

…見るも無様な醜態を晒しながら、我先にと逃げ出す。それもそうだろう、パンピーにとって血みどろフィーバーゴーストなど、悪霊以外のなにものでもない。

だが…妖夢には分かる。彼女の抱える、迷いが。現世にとどめる、鎖が。

 

 

さて、黒崎の方といえば、一仕事終わりといったように、肩をぐるぐる回しながら少女の霊に近づいた。もう、おぞましい気配はなりをひそめて、安堵の表情を彼女は浮かべていた。

「おーし、終わったな…悪い、巻き込んで」

「ううん、私の方からお願いしたんだもん、当然だよ。それより、あれ…」

ん?と訝しみながら、指差した方向をみる。

白い髪。緑のワンピース。傍らに霊魂らしきものが浮かぶその少女に、黒崎は見覚えがあった。

「あ、えーと…よ、よう多串」

「いや、誰ですかそれ」

無表情に突っ込んで、妖夢は黒崎に歩み寄った。

…非常にこまる。いや顔は分かるが、何せそこまで他人に気を配っていなかった。特に彼女は大抵、一人の時も誰かと話す時も無表情なのだ。いや、たまに弄られると真っ赤に蒸気するが。

とにかく、話すことが思い浮かばない。

「…その、何をしてたんだ」

「いえ、下校の途中ですが」

「だ、だよな−。あ、でもその服、」

「ああ、これは稽古用です」

「…」

「…」

訪れる静寂。心への重圧。

(ちょっと、気まずいってもんじゃないんだけど!?何でコイツ何もしゃべんないの!?つぅかマジで誰だっけ!?)

 いろいろ失礼なことを考えている、黒崎である。

 妖夢のほうも、脳内はすっかりテンパっていた。

(え、その、そういや男の人と二人きりで話すのって初めて・・・?な、何を話せばいいんでしょう・・・?)

 ・・・

「あ、あの。お兄さん?」

 見かねた少女の霊が、口火を切った。

 その声に気付いた妖夢は、思い出したかのように少女に向き直った。

「そ、そういえば・・・貴女はなぜ、こんなところに?見たところ、事故か何かで?」

「あ、ああ・・・こいつ、先週に交通事故で亡くなったらしくって。その手向けの花をアイツラ倒しやがったわけでさ」

「なるほど、分かりました」

 納得したように頷く妖夢。ようやっとまともに話ができた所為か、黒崎の顔も晴やかであった。

「・・・てちょっと待て。お前、見えてんのか?」

「?はい、かわいらしい子ですよね」

「あ、やっぱり見えてたんですね!!」

 当然のように答える妖夢。そうはいっても、黒崎にとっては、少し異常な事態だったりする。

 黒崎が今、幽霊と話しているのは、彼自身が超A級霊媒体質であるからだ。そうそう彼のような体質の者がいるわけではない。

 まあなんという偶然もあるもんだ、と心中で黒崎は思った。恐らく、傍らの霊もどこかで拾ってきたものなのかもしれない。

「ってヤベ、早くしねーとクソ親父に絡まれんじゃねーか!悪い、二人ともじゃあな!気をつけろよ、あと早く成仏しろよ!」

 言うだけ言って、突風のごとく走り去る。よほどまずい事態なのだろうか。

 妖夢はその姿を見送る。

「ふぅ、緊張しました・・・さて、そこの貴女」

「ん?なぁに?」

 こうして見ている分には、まったく普通の女の子に見える。尋常じゃないケガを除けば、だが。

 こんな価値ある命が失われてしまったこと。そればかり嘆いていても仕方ない。運命とは時に非情である。

 それに。私には、やることがある。

 すっと懐から脇差ーーさっきまで武道場でふるっていたものーーを取り出し、抜く。

「っ!?」

 正真正銘、本物の真剣。それは、幼き霊を怯ませるのに十分な威力をもっていた。

「はぁあ・・・!」

 彼女の気が高まっていく。最早少女には彼女が何をしたいのか、とんと見当もつかない。

 霊に、物理的攻撃は効かない。効かないはずなのに・・・ゆらり、と揺れるその剣から発せられるまがまがしさに、恐怖を覚えずにはいられない。

 

 

「・・・やぁっ!!」

 

 ・・・それは、一瞬であった。

 消えたと思ったら、確かに、自身の体で何かが通った。

 それが彼女の脇差だと気がつくのに、そう時間はかからなかった。

「・・・?」

 それなのに。痛みはおろか、切られていない足が、徐々に光の粒子となって消えていく。

 その光景はまるで・・・

「じょう、ぶつ・・」

「はい。我が”白楼剣”で、貴女の今生の迷いを、断ち切らせていただきました」

 チン、と鞘に収まる音が、少女には、なんだか心地よく聞こえた。

 恐怖は、ない。すぅぅ、と清らかになっていく心。理解が追いつかないところもままあったが、これだけは、わかる。

「ありがとう、ございます・・!」

 妖夢も、少女を慈しむように、初めて笑みを浮かべる。

「いえ。どういたしまして」

 それを最後に。

 少女は、消えた。

 

 

 

「ふむ、なるほど。これは確かに大きい・・・」

 空虚町上空を歩く、一人の死神。少し時代遅れな第三世代のケータイ画面をじっと見つめ、何やら思案していた。

 十三番隊、朽木ルキア。護艇十三隊の中でも上位の実力を有す彼女は、ふっと上空を浮かべる。

 実力者ではあるのだが、どっかのお兄さんの気配りという名の過保護により、これが現世での初任務だったりする。精霊艇とも、流魂街とも違う夜の空模様に、新鮮な気持ちを抱く。

(フフ・・・ここで手柄を立てて隊長にも、兄様にも認めてもらうのだ・・・!)

 思考は、欲望まみれであったが。

 ニヤリ、と本人的には不敵な笑みを浮かべる。

 その時、ふと違和感が彼女を襲った。

「虚(ホロウ)・・・いや、普通の霊だな。それが、消えた・・・?」

 ほんの、小さな魄動。しかし、確実に、今、ひとつ消えた。そこまで細かく感じられたのは、ある意味奇跡かもしれない。

「気にするほどでもないか・・・」

 いや、と思い直す。魂の成仏・・・”魂葬”は、死神にのみ許された術。死神は自分以外にいないし、ただの人間にできるはずもない。滅却師(クインシー)にすら、できるわけがない。

 第一、魂葬か滅却か、自然死(?)すらわかるはずもない。

「まずは、任務完遂だな」

 気を引き締めなおし、不安を振り払う。

 向かっているのは・・・黒崎一護の家。

 

 

***

 

「バカモン、いつまでほっつき歩いとるかっ!!」

 家の敷居をくぐるなり、祖父の怒号が響き渡る。

 びくりと肩を震わせながらも、背筋を張って歩く。もしここで委縮して縮こまろうものなら、即座に奥から木刀が弾丸の速度で鳩尾を貫くだろう。

「申し訳ありません、師匠」

 負けじと、大声で返す。遠くから何時だと思ってるんだ、と罵声が来るが、こまけぇこたぁいいのである。

 靴を揃え、居間に入る。案の定、中央には、阿修羅のごとき殺気を放つ、白髪に白髭の老人ーーー魂魄妖忌が仁王立ちしていた。

「わかっとるだろうな、妖夢。今日は鍋だと、メールで伝えたはずだ。メインのうどんが伸びたら・・・首は飛んでるところだったぞ」

「分かっております」

「なにをしていたのか、言え」

「道端に浮遊霊がいましたので、成仏させてまいります」

「・・・未熟な剣でか?」

「やれるだけのことは、やったつもりです」

 生まれて十数年、祖父との対話も臆せずできるようになってきた。にしても、うどんってなんだ・最近、怒るポイントがずれていないか?

「ならば、よし。夕餉にしよう」

 あとなんか優しい。昔なら、

『半人前のくせに、傲慢にも引導を渡そうとは!!飯抜きじゃ!!』

 ぐらいは言われていたはずなのだが。席に着きながらも、現状との違いに、おかしさを隠せない。

「なにをわらっとる、さっさと食わんか」

 剣の修行にしろ、そうだ。昔は一言も話さず、ただ打ち合うだけであったが、今ではほんの少しアドバイスをくれる。重心がずれている、とか心がこもっとらん、とか。歳のせいなのかな、とも思う。

「妖夢、何か失礼なことを考えているじゃろう」

 半人半霊、という特殊な種族に生まれてきた所為か、幼少のころは中々人となじめなかった。何しろ、かけっこではぶっちぎりで一位、鬼ごっこじゃ負けなし、チャンバラなんか「鬼の妖夢」などと二つ名がつけられたほどだ。それだけ人外っプリを見せつけられれば、距離をおかれるのも仕方あるまい。

 両親は行方不明。祖父からそう聞いている。

 だから、肉親と呼べる存在は妖忌だけだったし、まともに話せた(?)のも彼だけであった。

 師匠でもあり、友であり、唯一無二の親。

「師匠・・・ありがとうございます」

 つい、感謝の言葉が口から出てしまう。羞恥に、カァっと顔が赤くなった。

 妖忌は無言のままであったが、耳の先が赤みがかっているあたり、彼も内心悪く思っていないのだろう。

 そうして、夕餉はすす

 

 

「むわけないじゃな~い♪」

 

 ・・・もうひとり、メンドイ人がいた。

 もう何かいろいろと、半人半霊よりおかしいひとだ。

「もう妖夢、あんまりじゃないかしら?」

 なぜ思考を読んできたのだろうか?

「ふむ、これは紫殿。なにか不測の事態でも?」

「まあ、そのとおりね」

 空間のスキマ《・・・》から半身をだし、センスで口を隠す・・・スキマ妖怪、八雲紫。

 幼少のころから妖忌とともに面倒を見てくれた方だが、いかんせん胡散臭い。まず「境界を操る程度の能力」ってなんだ。それに、まったく思考が読めない。胡散臭い。すごい美貌なのに、冬は冬眠する。胡散臭い。

「ねぇ、あなたさっきからいろいろとひどくない?」

「・・・だからどうして人の思考を読むんですか?」

「全部口に出てましたわ」

「みょんっ!?」

 まさかの失態に、あわあわと動揺する妖夢。呆れたようにその様子をみていた妖忌は、再度紫に向き直る。

「で、詳細は?」

「黒崎医院へ、虚と死神が交戦中。恐らく、黒崎一護を狙ってのものね」

「!!?」

 聞き覚えのある名前に、ガタンッ!と席を立つ。

「あらあら、そんなに急がなくてもスキマで送ってあげるわよ」

「・・・お願いします。一刻も早く、助けないと・・・!」

 思い返せば、彼には矮小な霊がしっかりと認知できていた。

 つまり、それができるに値する霊力を、彼は保有していることなど、即座に推測して当然だったのだ。いつ虚に襲われても、おかしくなかった。

「まだ・・・私は未熟者だ・・・」

 ギリ、と歯ぎしりしても、悔恨は消えない。いま、自分にできること・・・。

 紫が、スキマを空中にあける。

 

「魂魄流剣士、魂魄妖夢・・・、参ります!!」

 

 

***

 

 

 何を、自分は慢心していたのだろう。

 どれだけ、自分の価値観は、甘かったのだろう。

 結局、自分は、変わっていない。

 握る拳から、血が滴る。こんなものじゃない。自分への呵責は・・・こんなものじゃ済まない。

 あれから虚の気配を探るため、一般人の家屋に入ったが、そこの少年が、まさか自分を視認できるとは思わず、ついつい足を止めてしまった。

 その隙をつかれ・・・虚は、少年の部屋の階下で暴れたのだ。

 どうやらその少年、あまりにも内包する霊力が大きかったらしい。不幸にも、ターゲットにされてしまったようなのだ。

 怒りに任せて突撃する一護を止めようと、手を伸ばし・・・

 気付けば、私が虚の腕に貫かれていた。

 はは・・・無意識とは言え、こんな醜態を晒すとは・・・情けない。

「お、おい!大丈夫か!」

 ああ、すまないな。あれだけ偉そうに死神について講釈を垂れたというのに、このざまだよ。

 身代りになったことではない。ただただ自分の不器用さに、腹が立つ。

 巻き込むつもりは、毛頭なかった。だが・・・こうなっては、いたしかたない。

 死神の、十三番隊隊士として、プライドはまだ残っている。何が何でも、この少年を、ここにいる彼の家族全員も、助けなければ。

「よく聞け、一護・・・いま、この状況をひっくり返す方法が、ひとつだけある」

「・・なんだ?」

 その目は、若者特有の熱意に染まっていた。

「このままでは勝ち目はない。だから・・・貴様に死神の力を半分渡す」

「!?」

「安心しろ、一時的なものだ。渡した力も、時がたてば元に戻る」

「・・・そうしなけりゃ、このまま共倒れなんだろ?だったら、やってやるよ!!」

 ・・・そうこなくては。

 私の失態を押しつけるようで悪いが、頼む。

 そう万感の思いを込め、

 私は斬魄刀の切っ先を一護の胸の前《・・・》に向ける。

「・・・え?あの・・・死神の力をわたすんだろ?」

「たわけ、そういっただろう・・・だから、この斬魄刀を、貴様の胸に突き刺す」

「いや聞いてねぇんだけど!?ちょっと傷とかのこんねぇよな!?死なねぇよな!?」

「当然だろう!!そもそも斬魄刀は・・・って言っているうちに虚が来たではないか!?」

「てめぇが説明不足だからだろ!?」

 ちょ・・・洒落にならないんだが。

 さすがに・・・間に合いそうもない。

 もはや、これまでか・・・。

 

しかし、聞こえてきたのは自身の肉か千切れる音ではなく。

絶対的優位にいたはずの、虚の断末魔だった。

「GYAAAAA!!」

恐る恐る、目を開ける。

目の前には、呻く虚、ピクピク動く、落ちた腕。

そして、残心の姿勢で刀を握る、白髪の少女であった。

 

 

 

 

スキマから飛び出すなり、一直線に斬ってしまったが…

仮面ではなく腕を切り落とした辺り、余程興奮していたのだろう。いつものこととはいえ、つまらぬ切れ味に頭が冷えた妖夢は、内心でそうおもった。

魚面した、でっかいエイリアンみたいな虚。こんなふざけた外見のやつに級友は襲われたのかと、怒りが募る。まったく、虚なんて何度みても、気味が悪い。

そんなことより、お二人を助けなくては。

「大丈夫ですか、黒崎さん、死神の方!!」

「お、おう、さっきぶり…」

「…」

呆然とした二人。あれ、私、何か変なことしましたかね?

「え、えっと…」

「妖夢でいいですよ」

「そうだ、妖夢…お前、いったい」

「後で話します。黒崎さんは死神の方を!!」

「!分かった」

妙に晴れやかな顔で下がる黒崎さん…どうしたんですかね?

では…

「私の前に立ったのが運のツキですよ、虚さん」

「GYA…」

ギラリ、と楼観剣と白楼剣が光る。

 

 

「人符・・・『現世斬』!!」

 

 

 

 

***

 

 

死神だの虚だの、十分すぎるほどファンタジーに触れたと思っていた。 だけど、目の前に映る光景−−−ただの人間であるはずの彼女−−やっと妖夢だと思い出した−−−が、あの化け物とやりあっている。

いや…圧倒していた。

目にも止まらぬスピードで刹那、頭から真っ二つにされた虚。断面から、光の粒子となって消えていく。

あとに残ったのは、ヒュンと刀をふり、鞘に納める彼女の影だけだった。

「妖夢…、お前、いったい…」

道端でばったり会うまで、興味すら持っていなかった彼女との、隔絶した実力の差。

純粋にただ凄いとも思うし、悔しくもある。

家族の敵すら倒せぬ自分。いとも簡単に他人を守れる彼女。

「俺、何やってんだろな…」

ぐっと握り拳がギリギリ痛む。

だが、その思考は、死神の怒声に遮られた。

 

 

 

何なのだ…あいつは?

何もない空間からいきなり飛び出し、斬魄刀でもない刀で、あろうことか虚を撃退してしまった。数多くの先輩方の美しき剣舞を見てきた私をも、見惚れする流麗な剣閃で。

まだそれだけならよい。何年前かには、人間の身でありながら虚を根本から滅却する術を会得した"滅却師"というのもいた。それができたところで、そこまで不思議に思うことではない。

問題は…"滅却"ではなく"魂葬"であったことだ。

似たようだか、天と地程に違う。我々死神の魂葬は、魂を浄化し、あの世ともいえる"戸魂界"に送る。所以、成仏。

滅却師のは、根本から消し去る。輪廻の輪から外れ、文字通り消滅する。

滅却は魂のバランスを崩すため、死神と滅却師間で戦争がおきた程に、この差は大きい。

だからこそ、彼女の意図はわからない。滅却師ではない、ましてや死神でもない。

気づけば、私は立ち上がり、彼女の首もとに斬魄刀−−−"袖白雪"を突きつけていた。

動じることのない彼女。ますます、疑心が強まる。

「貴様、何者だ?」

「…魂魄妖夢。黒崎さんとは同級生です」

「ん?黒崎、とは?あのギャアギャア煩いガキのことか?」

「誰がガキだチビ死神!!」

「なっ、誰がチビだ!そして私は朽木ルキアだっ!!」

「ああそうかい、じゃあ俺は黒崎一護だ!」

「じゃあとはなんなんだっ!」

全くこのエリートの私にチビとはって違うっ!!

「名前じゃないっ!!なぜ虚を倒した?なぜ貴様は魂葬ができたのだ!?」

一護がごちゃごちゃ後ろで喚いているが、無視だ。

妖夢、といったか。意図が伝わらなかったのか、しばらく首をかしげた。

「魂葬…ああ、死神の方の術のことですか」

…そういえばこやつは、私を一目見て"死神"だと判断できたようだった。

…本当に、現世の人間なのか?

「私のはそれとは違います…この白楼剣の能力です」

 そういって見せたのは、一振りの脇差。

なるほど、見れば、発せられる霊圧は並のものではない。私の考え及ばぬほど、長い業がその身に刻まれているのだろう。

「白楼剣の斬撃は、霊魂の迷いを断つ。ま、魂葬と似ていますね」

…もう一振りの太刀については、なぜだろうか、視認もしたくない。

 あれは、人間が持つには危険過ぎる。

 あんな禍々しい剣など、聞いたこともない。

 …そんな私の思いなど露知らず、いつの間にか隣にいた一護の声に、我にかえる。

「そういやさっきから気になってたんだけどさ…その霊魂、なんなんだ?守護霊、とか?」

ふむ、確かに。背後に朧気に揺れている。

「ああ、これは私の半身です。私、半人半霊ですので」

「へぇ、お前、半人半霊だったのか!」

「なるほどな、それなら納得できるな」

はっはっは…

 

「「んなわけあるかっ!!」」

 

 

きょとんとする妖夢だが、当たり前だろうがっ!

よくもまあ、そんな衝撃的告白をさらっとできるものだな!?

「半人半霊ていうのは、現世に顕現している肉体の組成が…」

「そういうのはどうでもいいのだっ!!」

…なぜだろう?至極彼女の態度は真面目なのに、非常に疲れてくるのだが…。

「あー…まあよくわかんねぇけど、助けてくれたのは、感謝するぜ」

「いっ、いえ!!お気になさらずっ!で、では」

妙にあたふたした様子で、駆け出す。

本当ならここで後を追いかけるべきだったのかも知れないが、私は躊躇してしまった。

最初の疑念が、少し、収まってしまったからかもしれない。

とにかく、これで任務は一つ《・・・》達成した。もう片方については、今後、何らかの形で彼女に接触すればよい話。

「…で?ルキア。これからお前はどうするんだ?」

…失念していた。まだ、後始末が残っていたではないか。

はあ、とため息をつく。

急に夜の闇が、肩にのしかかるような気がしてきた。

 

 

 

***

 

出会いは運命的ではなく、しかし複雑に縁はからむ。

野心を秘める男、自身の復活のため、沈黙を貫く男、胡散臭い賢者。

彼らのみならず、因果の渦は、世界を、現と幻を巻き込む。

それは、死神故なのか。

それは、幻想故なのか。

 

とにもかくにも、世界は未来へ進んでゆく−−−。




一万文字に肉薄しました・・・。
今後は五千字前後で仕上げるつもりです。
駄目だったら、自白します。

さーて、まさかの一護、死神化ならず!!
妖夢もいまだ死神にならず!!
どうなる、原作!?
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