掴め、アイドルスター!   作:アイドルって、楽しい!

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作者は兎に角夢見がちな少女でふ。



☆第1話★

 照明に照らされて、頭の中の動きを一つ一つ実現していく。ここに来ているファンの皆に聞かせるべき声を、声帯から絞り出す。

 過酷な肉体改造で培われた私のこの身体は、私の頭の中にある全てを逐一寸分の違いもなく体現してくれる。

 

「〜〜♪」

『『うぉぉお! マキナ〜ん!!』』

 

 簡単なことではないが、誰よりも才能の無い私がこの夢を見続ける為には、誰よりも努力をしなくてはならないのだ。

 その覚悟は疾っくの疾うに出来ている。

 

「〜〜♪」

『『!!』』

 

 ファンの皆には、常に最高の私を見てもらわなくてはならない。

 私は、誰よりも彼らの理想(イデア)で在らねばならない。

 

 だって、

 

 

 

 ―――私は、アイドル(理想の体現者)なのだから。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「また来てくださいねぇ!」

『勿論です!』

 

 握手をして、一言二言言葉を交わし、見送る。

 こうした地道な、作業とも取れるようなサービスが着実に私自身のアイドルとしての名を広めていくのだとプロデューサーは言うが、昔の私ならばともかくとして、残念なことに今の私はそうは思えなかった。

 

『あ、あの!』

「あ、前々回の握手会にも来てくださいましたよねっ! ありがとうございますぅ!」

『は、はい! 応援してます!』

 

 一言で言えば、私にはアイドルとしての才能(・・・・・・・・・・)が無かった。

 それでも厳しくも優しいママの静止を振り切り、憧れから飛び込んだこの世界で、何も出来ないなりに努力していたら、気が付けばこの有様。

 私の知る存在は、もう、誰一人として私の知らない存在になってしまっていた。進む意味でも退く意味でも。

 こうして、この仕事にしがみついているのは私くらいなものだ。後は一流。

 

「貴方はぁ⋯⋯確か、去年の夏のイベントで来て下さった方ですね。また来てくださって、ありがとうございますっ」

『いえ⋯⋯。ずっと、これから先も応援しています』

「はい! 応援、ありがとうございます!」

 

 世間一般で言えば、私は容姿にも恵まれているし、この記憶力だって私の力になる。お陰で歌詞や台詞を間違えたことは無いし、動きを間違えたこともない。一度見れば、なんだって出来た。NGを出したことは一度もない。それに、認めたくはないが、昔、ママから鍛えられた演技力もある。

 

 だからという訳では無いが、なんらかの才能は、あるのかもしれない。

 

 

 ―――でも、誰よりもこの才能(チカラ)を発揮出来る所にはいない。

 

 

『あの、今日のコンサート、とっても良かったです!』

「貴方は初めての方ですね。来てくださってありがとうございます! また、来てくれると嬉しいですっ!」

『はい! 必ず!』

 

 あの人で今日は最後か。

 まだ時間はあるけど、列はもうない。こうなれば、散発的に来ることもほとんどないし、終わりと見て良いだろう。

 小さく一息吐いてから、一応気を抜かずに笑顔を保ち、最後の人の姿が完全に見えなくなったところで、ベタベタになった手をアルコールウェットティッシュで拭う。

 

「⋯⋯はぁ」

 

 何に対して、という訳でもないため息をひとつ。

 今日はもう上がってよかったことを思い出して少しだけ気分が軽くなるが、よく良く考えれば私にはそもそも早く上がったところでしたいことなんて何一つなかったことを思い出して気分が重くなった。

 すると、目の前に人の気配を感じ、マネージャーかと思って顔を上げる。

 

 

「おや? 今日の握手会は終わりでしょうか?」

 

 

 なんで。

 私は驚愕に身を強ばらせた。

 

 そこに居たのはおでこにインドの装飾とかそんな感じの黒子のある男。

 しかし、私が驚いたのはそんなどうでも良いことじゃない。

 

 

 ―――言葉が、伝わってくる(・・・・・・)のだ。

 

 

「せっかく消毒されたのに、私の手でまた汚すことになってしまいますね。申し訳ございません」

「いえいえ、こちらこそ変なところを見せちゃいましたね? 今のはあんまり言いふらさないで頂けると助かります! これ、どうぞ!」

「ああ、ありがとうございます。大切にしますね」

 

 

 机の端にはけていたトートバッグから、事前にサインを書いておいた私のCDを取り出してそっと手渡しする。

 受け取ってくれて良かった。

 うーん⋯⋯言葉は伝わってくる。伝わってくるんだけど。

 ⋯⋯でも、あんまり好きじゃないな、この人。

 

 まあ、新しいファンなら大歓迎だ。一人でも多くファンを増やすことが、この地道なファンサービスイベントの役割なんだから。

 

「貴方は初めての方ですねっ! そろそろ終わりにしようと思っていたんですけど、早すぎたみたいですねぇ」

「ふふ、いえいえ。私の方こそ遅れてしまい申し訳ございません」

 

 恭しい態度で頭まで下げた黒子の人に、慌てて頭をあげるように言う。

 ファンに頭を下げさせてるなんて思われたら、私のアイドル生が終わる。

 しかし、礼儀正しい人のようで良かった。時にはアイドルに勘違いを起こすようなヤバい人もいるくらいだし。

 

 

「全然、大丈夫ですよっ! わざわざ握手会にまで来てくれてありがとうございます! 良かったら「―――いえ、貴女のアイドル生活はここで終わりです」⋯⋯はえ?」

 

 

 頭がフリーズした。

 初対面のはずの人に、何を言われたのか理解出来ない。段々と受け入れ始めると、次には殺人衝動にまで昇華しかねない怒りが私を焦がす。

 誰だ、この不愉快な奴は。私のマネージャーはどこに行った。

 

 

「申し遅れました。私の名前は、天知(あまち)心一(しんいち)想辺(おもいべ)万希為(まきな)さん、貴女の新しいプロデューサー(・・・・・・・)です」

「⋯⋯まずは、事務所に通してくださいますかぁ?」

 

 

 何だ、お仕事の話か。

 それなら、あんなことを言われて気に食わないという思いは強いが仕方無い。スマイルも忘れない。

 

 

 ―――私は、アイドルスターになる為ならばどんな努力だって惜しまないのだ。

 




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ルート。

  • 理想の体現者√
  • 引き返せない夢√
  • 『家族』√
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