掴め、アイドルスター! 作:アイドルって、楽しい!
ちなみに私は人気投票、全部堀くんにしました。
「じゃあ、また」
「うん、またねアリスちゃん」
柊さんに手を振って帰路につく。
明日こそは、プロデューサーが仕事をくれるだろう。そう思って歩いていると、後ろから何事かを叫ぶ声とドタバタとした足音が聞こえてくる。
伸ばされた手を反射的に回避して横に逸れると、走り込んできた存在は地面に激突して顔を地面に擦りつけることとなった。
痛そう。
「なにか御用ですかあ? 黒山さん」
「⋯⋯おう」
バツの悪そうな顔をする彼の名前は
だが、どうして私を追いかけてきたのだろうか。
「お前に頼みたいことがある」
「私にですかあ?」
「ああ、他でもないお前にだ」
私に頼みたいこと、いったい何だろうか。
私に出来ることなんてたかが知れてるし、そもそも、私はアイドルで黒山さんは映画監督。今までも黒山さんとお話したことはあるが、頼み事をされるなんて初めてだ。
「頼みたいことについてはここじゃなんだし、次来た時に教える。また明後日にでもうちに来てくれ」
「分かりましたぁ」
「そんだけだ、じゃあな」
明日ではダメなのか。まあ、明日こそプロデューサーが仕事をくれるはずなのでこちらとしても都合が良いのは確かだ。
去り行く黒山さんの後ろ姿に手を振って、私は再度歩き始めた。
☆
「はい、それでは、お待ちかねのお仕事です」
「わくわくですっ」
無論、そこまでわくわくはしていない。
アイドルとしてのお仕事ならばともかくとして、女優としてのお仕事にドキドキすることはあれどわくわくすることはないだろう。
しかし、何やら見知らぬスタジオに連れてこられたが、私はここで何をするのだろう。慌ただしく行き交うスタッフを眺めながら、私はお仕事に思いを馳せる。
すると、ただでさえ慌ただしかったスタジオの、その入り口が騒がしくなっていることに気がついた。
『―――星アキラです! よろしくお願いします!』
アーくん?
どうしてアーくんがこんなところに?あ、いや、共演なのか。なるほどなるほど。
⋯⋯プロデューサーめ。
「正気ですか?」
「ええ、勿論。私はいつだって真剣ですよ」
「なら良いですけどお」
まあ、プロデューサーがそう言うなら私に異論は無い。
私はアイドル。私は人間に非ず。私は理想の体現者。誰の理想であっても例外は無い。
「アーくん、知ってた?」
『⋯⋯うん』
「私、女優としては初めてのお仕事だけど、頑張るねっ」
そう言うと、アーくんは苦笑いを浮かべて私から目を逸らした。
⋯⋯やっぱり嫌われてるなあ、私。
「プロデューサー、私は今日、何するのぉ?」
「ああ、伝えてませんでしたね」
「うん、伝えられてないんですけど」
プロデューサーは私に一枚のプリントを手渡した。
なになに?⋯⋯へえ。だから、私達なのか。
「仲が良い兄妹による男物と女物の商品のCM、ですかぁ」
「ええ。こんなにもピッタリの配役はないでしょう?」
「まあ、それもそうですねぇ。仲が良い、という点を除けばですけどもぉ」
「おや? 仲はよろしくないので?」
プロデューサー、分かってて言ってるな?
私はアーくんのことが大好きだけど、アーくんが私のことを好きかどうかでいえばそれは否。悲しいけど、アーくんは私のことが嫌いだろう。
「アーくんは十中八九、私のことが嫌いですよお」
「それはそれは⋯⋯降りますか?」
「それこそ愚問ですねえ」
一度引き受けたのに降りるなんて有り得ない。
それに、このプリントの記載が確かならばこの会社の社長は⋯⋯ほら来た。
『
「社長さん、私も会えて嬉しいですっ。それと、今は真希為じゃなくてアリスですよお」
『はっはっは! そうだったね。それにしても、君は変わらず素敵だねえ!』
「ありがとうございますっ」
恰幅のいいこの男性は、今回私達がCMに出演する会社の社長さん。
ほとんどの社長さんの顔は頭に入っているから、ライブ中に見かけた時、「絶対にモノにする」って思ったのは懐かしい。
彼は、私のファンなのだ。
『今日はお兄さんと一緒に、よろしく頼むよお?』
「はいっ、任せてください!」
多分、プロデューサーはそこら辺もリサーチ済みに違いない。
元の椅子に戻っていった社長さんを見送り、プロデューサーから台本を受け取る。
ファンに無様な姿は見せられない。私は、アイドルなんだから。
台本に一通り目を通し暗記。すぐにアーくんに声をかける。
「じゃあ、アーくん。リハーサル、テストって言うんだっけ? それしようよ」
『うん、良いよ』
アーくんは私と同じ努力家タイプだ。だから、台本は暗記済みと考えて良いだろう。
「ふふ、そんなに緊張しないでよ、アーくん。むしろ、私が緊張するはずなのに」
『⋯⋯っ、ごめん。大丈夫だ』
収録じゃなくて、私と一緒に
⋯⋯嫌だな、なんか。
まあ、今は目の前のことに集中、集中!
私は意気揚々とステージに上がった。
☆
「今日はありがとうございました! また、よろしくお願いしますっ!」
ぺこりとお辞儀をしてスタジオを後にする。
「いやはや、私の目に狂いはなかったようですね」
「まあ、私はアイドルですから」
「アイドル、と呼ぶには些か悪魔的だった気もしますが⋯⋯」
「そんなことないですよお」
まあまあ初めてにしては悪くないモノが出来たんじゃないかな?と思う。
結構女優も悪くないものだ。アイドルと何が違うのかは今のところ釈然としないが、きっと続けていれば何かが見えてくるだろう。
しかし、テスト一回ですぐ本番に入ったので、時間にかなり空きが出来てしまった。
どうしようかな。久しぶりに女子高生らしいことでもしてみようかな。
なんて考えていると、唐突に声がかけられた。
『アリスっ!』
「アーくん?」
そんなに声を張り上げて、いったいどうしたのだろう?
私が困惑しているのも気にせず、アーくんは私のすぐ前までやってくると私の方をがしりと掴んで私を見据えた。
『―――僕は! 君を、超えてみせる! 君に、兄だって認められる兄になるっ!』
「⋯⋯ふふ。待ってるね、アーくん」
まさか、そんなことを言われるなんて思いもしなかった。
思ったよりも嫌われてないみたいで安心もした。
それはそうと、ニヤニヤしてるプロデューサーには後で罰を与えよう。
感想、誤字脱字報告、よろしければよろしくお願いします。
そういえば、他のキャラクター視点とかって必要でしょうか?
ルート。
-
理想の体現者√
-
引き返せない夢√
-
『家族』√