ソードアート・オンライン プレシャスプロミス 作:猫猫猫の助
「止まって!!チハヤ!止まってってば!?」
「......ッ!えっ、あ、ご、ごめんっ!」
無我夢中で走っていた俺の意識は、後ろから思いっきり引っ張られることで覚醒した。
「どーゆうこと!?なんで外に向かって走ってるの!?なんでこんな事になったの!?嫌だよ私!現実世界に帰してよ!!」
瞳に涙をため、俺の胸をたたく。これが当たり前の反応だ。こんな世界に閉じ目込められて真っ先に強くなるため、リソースを他人に奪われないように圏外に向かっていくやつのが異常なのだ。
「...ベータテストでコンビを組んでたやつが言ってたんだ。MMORPGってはプレイヤー間のリソースの奪い合いなんだって。俺は茅場晶彦と直接会ったことがある。だから他の人より少しだけ彼のことを知ってる。あの人はプレイヤーがはじまりの街に、圏内に閉じこもることを望んでない。いつ安全な圏内がなくなるかわからないんだ!」
そうだ、あの時から雑誌で何度も読んだことば。
〈これはゲームであっても、遊びではない〉
それとあの時に言っていた
「異世界を作りたい」
この二つから考えられることは
「...たぶん、茅場晶彦は...俺たちにこの世界を現実世界と同じように生きて欲しいんだ。そのために、この世界で生きる気のないプレイヤーを、きっと、許さない」
「意味分かんない...アタシは、戦えない...弱いモンスターにだって殺されかけたのに、勝てないよ...死にたくない...!」
「君は死なせない。約束する。里香のことは俺が守るから」
考えるだけで恥ずかしいセリフだ。クサすぎる。それでも俺は約束しなければならない。ここで何も言わなければ里香は生きることを諦めてしまうかもしれない。「死ねば現実世界に帰れるんじゃないか?」なんて考えだしたら終わりだ。そんな可能性は0だろうから。
二人の間に沈黙が流れた。さすがにクサすぎたかもしれない。顔がだんだん熱くなっていくのがわかる。
先に沈黙をやぶったのはリズの方だった
「ぷっ!あはっ!クサすぎでしょっ!」
うるせーわかってる。それでもリズの顔に笑顔がもどってくれた。それだけでも言ったかいがある。
「ふふっ、ありがとう。アタシのために言ってくれたんでしょ...?」
バレてるか...。でも、よかった、生きてくれるならそれでいい。
「ねぇ、チハヤ。アタシも...戦ってみることにする。ううん、それだけじゃない。絶対茅場の顔面に一発いれてやるんだがら!そうじゃなきゃあたしの気が済まない!それまで守ってよね?チハヤ!」
「あぁ、任せろ!やってやろう!強烈なのを!」
いつもの調子に戻ってくれてよかった。強くなろう。この人を死なせないように、悲しませないように、守れるように。
もしこの世界をクリアするそのときまで、君を守ることができたなら。つたえよう、この想いを。
これは君と俺との大切な約束だ。
「ねえ、明日奈を探してもいい?明日奈もきっとこんな世界に閉じ込められて苦しんでいるだろうから...。早く見つけてあげよう...!」
「わかった、俺も探すよ。一人より二人のがいいだろ?」
「ありがとう!」
「そういえばまだフレンド登録してなかったよね。今のうちにしとこ?」
はじまりの街の広場まで戻る道中、リズに言われて俺も気づいた。
ベータテストに参加したといってもゲーム初心者なのは変わってないみたいだな、と自分でも少し笑ってしまった。
「えーっと、あった、ここね?チハヤ?あんたゲームで本名って...」
「うるさい!ベータテストのときに登録したデータが残ってたんだよ...。あのときは何も知らなかったんだからしょうがないだろ!」
アイテムやレベルなどは引き継がれなかったが、作成したキャラデータなどは残ったままだった。1から作り直すことも出来たが、めんどうだったので、やらなかった。
「今どき初心者だってそんくらいわかってるわよ」
「くっ...そ、そんなことより件の明日奈さんは?プレイヤーネームも聞いたのか?」
「あっ」
「聞いてなかったのかよ」
「うっさいわね!こんな事になるなんて思ってなかったし!それに顔は分かってるんだから大丈夫よ!」
まぁたしかにゲームに閉じ込められるなんて思わないよな。
茅場晶彦...あの人は今どこにいて、何をおもっているのだろう。あの人の性格からして、せっかく作ったこの世界をただ見守っているだけなんてありえないだろうけど。
いくら考えても分からない。とりあえず今は、明日奈さんを探すことに集中しよう。
はじまりの街広場について最初に目にしたのは、すべてを諦めた顔をした人々だった。
数千人はいるだろうか、ここにいる全ての人に声をかけ、「生きてください」なんて、俺には言えないし、リズ、それにこれから行動を共にするかもしれない明日奈さんを守ることが、俺に出来る精一杯だ。
広場に着き、明日奈さんを探し始める。ここにいるかはわからないが、この人数の中から見つけ出すのは結構骨の折れる作業かもしれない。
『いたよっ!チハヤ!明日奈がいた!』
探し始めて数十分、リズからメッセージが届いた。明日奈さんが見つかったみたいだ。どうやら宿屋に向かう途中だった明日奈さんを見つたらしい。二人きりで話したいこともあるだろう、2、30分たったら会いに行けばいい。そう考え辺りを散策することにした。
「ヨッ、チー坊。久しぶりだナ」
突然後ろから声をかけられ、驚き振り向いた。革と布の防具で身を包み、身長は、俺よりも頭一つ以上低いプレイヤーがいた。
その特徴的な喋り方と呼び方には覚えがあったが、一応警戒し、相手の顔を注意深く見る。
「そんなに真剣にオレっちの顔を見ないでくれヨ。恥ずかしいダロ?」
「す、すまん。やっぱお前、アルゴか?って言うかヒゲ自分で描いたのかよ」
「ご名答。このヒゲはオレっちのアイデンティティだからナ」
彼女は恐らくアインクラッド初の情報屋、通称〈鼠のアルゴ〉。ベータテストのとき、俺にゲームをついて教えてくれたプレイヤーの一人だ。もたろん、その分コルは取られたが...。それでも感謝はしている。
「こうなった世界でもそのプレイスタイルを続けるのか?」
「...まあナ。オレっちはこのやり方しか知らないしナ。おかしいカ?」
「いんや、きっとアルゴの情報はこの世界を脱出するために必要なものになると思う。それに知り合いがいてくれるのは嬉しいんだ」
一瞬、アルゴは驚いた顔し、すぐに笑って言った
「にひひ、泣かせてくれるネ。オネーサン惚れちゃうヨ?」
「はいはい、この世界でもよろしくな、アルゴ」
その言葉に笑顔を持って応えた彼女は、ひらっと手を振り「ほんじゃ、またナ」とだけ言い残したあと、そのまま身を翻し、鼠の渾名に相応しい敏捷さで去っていった。