ソードアート・オンライン プレシャスプロミス 作:猫猫猫の助
そろそろボス戦行きたい、
翌朝から、戦闘練習と次の村に行くための移動を始めた。
「ソードスキルを使うとき、システムのモーションアシスト任せじゃなく、自分の運動能力でソードスキルの速さと威力をブーストできる。システム外スキルって言うんだけど、早めに身につけておくといいよ」
はじまりの街から少し離れたところにある草原で、《イエローワスプ》黄色の蜂型のMOBを相手にし、実演しつつソードスキルについて説明していた。
このMOBは攻撃力が高めで、すばしっこく、空を飛んでいるため、動きが読みづらく序盤では最も厄介なMOBだった。
しかし、一撃当てれば全損するほどHPが低く設定されており、基本群れずに行動しているため、容易く攻撃を当てることが出来る俺がいる現状では、ソードスキルの練習台となっていた。
「ブースト.....こんな感じかな、はあああ!」
体を半身にし、剣を体の中心に弓のよう引いて、手首を捻りながら《細剣術》基本技《リニアー》を放った。
直後、流れ星のように速く、真っ直ぐで綺麗な紫色のライトエフェクトを残し、アスナが通り過ぎていく。
「すごいよ!アスナ!あたし今の見えなかった!」
「ああ、今のは凄かった。運動神経がいいんだな」
「ありがとう!でも、もうちょっと速くなれる気がするんだよね......」
ベータでも、あれほど速いリニアーを使えるプレイヤーは居なかった。
ゲームとして存在しているこの世界ではプレイヤーの動きに、リアルの運動能力は依存しない。
それどころかレベル、ステータスの振り分け、スキルといった能力が全く同じであればプレイヤーの動きに差は生じないハズなのだ。
しかし、実際には今回のアスナの動きのように、明らかに速度が上がることがある。
このようにシステムに存在しないスキルを、システム上の仕様を利用したテクニックをシステム外スキルという。
俺は手を叩きはしゃぐリズに対し、今度はリズの番、と片手棍についても説明していく。
「っていっても、片手棍はそんなにメジャーじゃなかったから、ホントに基本的なスキルしか知らないんだよな....」
SAOは剣の世界だ。だからか片手剣や細剣、短剣といった武器を使うプレイヤーが多く、ベータで確立されていた戦い方も、それら用のものが多かった。
「うーん、覚えてるのはスタン値が高かったことと、一撃が重めだから隙がでかかったことかな。リズは盾を使う気は無いのか?」
「どうかな....使ってみたいけど、盾を使いだしたら覚えることもっと増えるんじゃない?」
「それはおいおいにやってけば慣れるさ。まずは死なないことが最優先かなって」
「そうだね。それじゃあ、装備を整えるためのコル集めと一緒に、経験値集めもやっていこう!」
クエストを受けてはコルを稼ぎ、経験値を集める。
そんな日々が続き、気づけばゲーム開始から2週間が立っていた。装備も現在用意出来る最高のものにし、俺は11、アスナとリズは10にまでレベルをあげていた。
その頃になると、はじまりの街周辺の狩場は埋め尽くされるようになり、上を目指すプレイヤーはどんどん次の村へと進んでいった。
そんな中最前線を進んでいるだろう俺たちはついにボス部屋を見つけた。
やっとレベル10を超えるプレイヤーが増えだした頃であり、1回目のボス戦は慎重に行くべきだ。と話し合い、マップの情報をアルゴに売ることにした。
このペースで進んでいけば、あと1週間もすれば他のパーティがボス部屋にたどり着きそうだ。1週間あれば、俺達も目標のレベルに到達できそうだし、ようやく第1層をクリア出来るかもしれない。
そうリズ達に話してしまったのは、この世界にみんなが慣れてきて心に余裕ができたからだ。
リズとアスナが夜に2人だけで狩りに行ってしまった。
朝はやく、まだ日も登らない時間、嫌な予感がし目を覚ますと、2人のHPが黄色に突入していた。
油断してた。まさか、2人だけで狩りに行くとは思わなかったし、夜の戦闘について忠告していたのに。
2人は草原にいた。そこは《ダイヤウルフ》が主にポップするエリアで、昼間ならばたとえ群れで湧いたとしても、レベルが上がった今全く相手にならない。
しかし、夜は違う。草が生い茂る草原にて、明かりがなく視界の確保ができない状況で黒い毛並みを持つ《ダイヤフルフ》は最悪の相手だ。
見えない相手にじわじわとHPを削られていく恐怖。暗くあまり見えなかった視界を、焦りが更に狭める。
今まではチハヤがいたから何も怖くなんてなかったが、レベルを追いつけたい。なんて理由から2人だけで出発してしまった。
遅まきながら2人は忠告を無視して狩りでてしまったことを後悔していた。
死を覚悟し、2人は抱き合う。
そのとき突然2人を守るように影が現れた。
暗くてよく見えないがおそらくプレイヤーだ。そのプレイヤーは一瞬のうちに囲んでいた4体を屠り、鮮やかなエフェクトに変えた。
エフェクトを見て危機が去ったことを悟ったが、まだ放心したままだった。
お礼を伝えなければ。そう思いながらもリズ達はまだ言葉が出せない。
ようやく落ち着いたころ、だんだんと目が慣れはじめ辺りが見えるようになってきた。
よく見ればそのプレイヤーはまだ少年のようで、藍色の簡素な皮鎧の上に軽量な銅のブレストプレート着け、黒の片手剣を持っていた。
その少年はこちらから顔を背けながら、ギリギリ聞こえるぐらいの声で「大丈夫か?街まで送るよ」と言った。
反応がないこちらの様子を見て、手に持っていた剣を背中に仕舞おうとするがなかなか入らない。
そのまま立ち去ろうとする彼を見て、先程見せた強さとのアンバランス差に思わず笑みがこぼれた。
「ま、まって!良かったら送ってくれないかな?」
「ああ、わかった」
そう短く返事する彼に2人してついて行く。
街の手前まで送ってくれた彼は「それじゃ、俺は狩りに戻るから」とだけ言ってお礼も聞かず去っていった。
不思議な少年だった。線は細く、どこか頼りなさそうな印象を受けるのに、そばに居ると安心する。
もしかしたらチハヤの言っていたプレイヤーかもしれないと2人は考えていた。
「リズ!アスナ!良かった!!」
目に涙をうかべ、チハヤはリズに抱きつく。
「もうダメかと思った!2人のHPが赤になって!俺気づかなくて!」
「ちょ、ちょっと、チハヤ!恥ずかしいって!」
「うるさい!心配したんだぞ!起きたら2人ともHPが減ってるし、死ぬんじゃないかって怖かった!もう離さない!」
「ちょ、なっ、離しなさい!離しなさいってばああ!」
「ぐはっ!!」
2層で取得できる《体術》スキル使ってるんじゃないかってくらい綺麗なボディブローだった。仮想世界に痛みは無いはずなのに何故かとても痛かった。
「そ、それよりどうやって助かったんだ?結構ヤバそうだったろ」
「助けてくれた人がいるのよ、名前は聞きそびれちゃったけど」
「うん、その人チハヤくんと同じくらい強そうだったよ」
そんな人がいるのか、もしかしたらアイツかもしれないな。名乗らずにどっか行くなんていかにもアイツっぽいし。会ったらお礼しないとな。
「とりあえず、2人だけで狩りにいくの禁止な、ゼッタイ」
「「はーい」」
返ってきたのは反省してるのかわからない返事だった。
しかし、実際にはこのことは2人にとってトラウマとなっており、2人だけでは狩りに行かないよう心に決めていた。
1週間後、12月2日、別のパーティーがボス部屋にたどり着き、トールバーナにてボス攻略会議が開かれることになったと、アルゴからメッセージが届いた。