ソードアート・オンライン プレシャスプロミス 作:猫猫猫の助
1層では始まりの街以外にも中小規模の町や村が点在しているが、中でも最大のものが、迷宮区から程近い谷合の街《トールバーナ》だ。
直径200メートル程で巨大な風車が立ち並ぶのどかな町。
ここで1回目の《第1層フロアボス攻略会議》が開かれる。
今日この日を迎えるまでに、プレイヤーの死亡者の総数は、実に1800人程にものぼっていた。
まだ1層をクリアすることもできてないのに、たった3週間でプレイヤー人口の約5分の1が死んだ。これは生き残ったプレイヤーの心を折るには十分な数字であった。
もし今回のフロアボス攻略に失敗してしまえば、間違いなくゲームが崩壊する。それだけは絶対に避けなければならない。
会議が始まる夕方に近づくにつれ、続々とに集まりだすプレイヤー達。
舞台場を中心に半円形に囲むよう、同心円の階段状に観客席が広がる空間に、ざっと見て40名ほどのプレイヤーが座っていた。
観客席の外側には20名程、攻略者達を見に来たのかソワソワしているプレイヤーもいる。
会議に参加するプレイヤー達は緊張している者が多かったが、雰囲気としては悪くなかった。
午後4時が近づき、そろそろ始まりそうになった。何となく周りを見渡すと、あるプレイヤーが目に入り、近づいた。
「よっ、ひさしぶりだな。キリト!」
「!!えっと、誰ですか?」
「はは!まあわかんないか、チハヤだよ。やっと会えたな」
「チハヤ!?お前どこいたんだよ!今まで!」
お互い姿が前と変わってしまったんだ。分からないのも無理はない。
俺がキリトのことをわかったのは、ただ何となく目の前のプレイヤーから感じるものに懐かしさを感じたからだ。
この世界はあくまでもゲームで、そういった第六感のようなものは存在しない。
だが相手を注視した際のサーバーの負荷によって起こる極小さなラグが懐かしさとして俺に残ったのかもしれない。
これもシステム外スキルというのだろうか。
「俺もキリトのことは探してたんだよ。この2人を助けてくれたのはキリトなんだろ?本当にありがとな!」
「あの時はありがとう!もっとお礼したかったんだけどすぐどっか行っちゃったからさ」
「え?2人?ああ!思い出した!お礼なんていいよ。目の前に危ない目にあってる人がいたら助けるのは当然だって」
こんな世界で自分の命を危険に晒してまで人を助けることを当然だといえるのは何人いるだろうか。キリトと友達になれたことを心から誇りに思った。
「それにしてもなんであんな頑なに顔を逸らしてたの?」
「うぇ!え、えっと...あれだよほら、夜に男性プレイヤーが近づいてきたら怖いだろうなって、うん。」
「察してやれよアスナ。こいつ女の子が相手だから緊張してたんだよ」
「はあ!?ちがうって!そんな事あるわけないだろ!」
図星だったのか顔を赤くし反発しながら近づいてきて、いきなり肩を組んで小声で聞いてきた。
「なんでお前があんな可愛い子たちと一緒にいるんだよ」
「え?ああ、1人は幼馴染で、もう1人はその友達だ」
「幼馴染とゲームに閉じ込められるって....どんなラノベの主人公だよ」
「いいだろ?ところでなんでお前は1人なんだよ?もしかして俺以外に友達いないのか?」
「あ、ああ」
いつもの鋭い返しを期待し、ニヤニヤしながら聞いたが、返ってきたのは気の抜けた返事だった。
まずい、キリトにとってこの話題は地雷だったかもしれない。焦った俺はとにかく話題を変えようとするが、遅かった。
先にキリトが話し出した。
「居たんだ、俺にも友達が。この世界に来てすぐ声をかけてくれたやつで、デスゲームになってもすぐ仲間のために動ける良い奴だった...。でも俺はそいつをはじまりの街に見捨ててきてしまったんだ。」
デスゲームになった初日の事だろう。ポツポツと語るキリトの表情からは、今でもそのことを悔やんでいるのか悔しさが滲み出ていた。
「お前はすごいよチハヤ。デスゲームになってからも、あの2人を守るために戦ってるんだろ?俺は許されちゃダメなんだ」
そう苦しそうに言うキリトだったが、俺は伝えてなければならないことがある。
「お前が言うならそうかもな。でもな、キリトがいなきゃ二人は死んでしまってて、俺は守れなかったことを一生後悔してたかもしれない。
たとえキリトが自分を許さなくても、俺がお前を許す。それにソイツだって案外恨んでないかもしれないだろ?」
ここで許されてもいいんだ。と伝えておかないと、キリトはこの先ずっと1人で抱え込んで1人しまうかもしれない。
相棒として助けたかった。
「そうだと...いいな。ありがとチハヤ」
「いいんだって相棒だろ?それより2人を紹介するよ」
放置したままにしてしまった2人に謝り紹介する。
「リズ、アスナ、こいつはキリト。俺にとって相棒で、2人にとっては命の恩人だな」
「「よろしくね、キリト(くん)」」
「で、キリト、美人な方がアスナで、素朴な方「ちょっと!」...えっと、.男らし「!!」....可愛らしい方がリズベットだ....」
「よ、よろしくな。アスナさん、リズベットさん」
あえてどちらがそうなのか言わないことでキリトを揶揄う作戦だったが、リズが反応したことによってバレてしまった。
「アスナでいいよキリトくん」
「あたしの事もリズでいいわ」
「そ、そうか...よろしく、アスナ、リズ」
お互いの紹介も終わり少しの間談笑を続けた。
数分後、舞台の上に鮮やかな青の長髪をもつ青年が上がってきた。
「はーい!それじゃ、少し遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!俺の名はディアベル!職業は……気持ち的にナイトやってまーす!」
ディアベルは巧みな話術と、容姿で場の空気を一瞬にして掴んでいた。
ボス部屋を見つけた彼らは、「ここにいる俺たちトッププレイヤーは、第1層をクリアし、デスゲームはクリアできると証明なければならない」と語った。
もちろん俺はそれに賛成だし、ボス部屋を見つけても行動を起こさなかった俺たちに比べ、会議を開き、フロアボスを倒すためこれだけのプレイヤーを集めた彼らは賞賛されるべきだ。
このまま平和に終わると思われた会議だったが男が突然立ち上がり言った。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
茶色のサボテンにしか見えない髪型の男は、ディアベルの透き通った声とは正反対のダミ声で続けた。
「わいはキバオウってもんや。こん中に、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び?誰にだい?」
「はっ、決まっとるやろ。今まで間に死んでった2000人に、や!
ベータ上がりどもはわいらビギナーを見捨てて、自分らだけ楽して強くなりよったんや。そいつらに土下座させんとパーティーメンバーとして命は預けれんし、預かれん!」
この言葉は俺に深く突き刺さった。俺はあの時リズやアスナを優先し、その他大勢のビギナーを見捨てることを選んだからだ。
その事について後悔はしていない。友人や仲間よりも、その他の見知らぬ人を優先できる能力も、優しさも俺には持つ余裕がなかったから。
それでも右も左も分からないビギナー達を見捨てたことには変わりないのだ
キバオウの糾弾がとぎれても、声をあげようとするものはいなかった。
俺自身もベータテスターとして吊り上げられるのが怖いし、ここで反論することがプラスになるとも思わなかった。
魔女狩りに似たことが起こるかもしれないし、最悪新規とテスターでわかるれる可能性もあるからだ。
だがこのままでは、何も言わなくても亀裂が生まれて攻略が止まってしまう。
俺はここで吊るし上げられる覚悟を決め、手を挙げ発言を求めた。
「ちょっといいですか?俺の名前はチハヤです」
「なんやジブン、テスターかその仲間なんか?」
怖い。ここでの発言が今後のテスター達の運命を決めてしまうかもしれないのだ。スゥっと深く息を吸いもう一度落ち着く。
「はい、俺はあなたの言うテスターです」
「!!」「チハヤ!?」「なんでっ!?」
俺と同じく暗い顔をしていたキリトや、何か言いたげにしていたリズ、アスナが驚いた様子で止めようとしてくる。
反対にキバオウは俺を親の仇のように睨みつけた。
「なんや、卑怯もんが詫びる気になったんか」
「ああ、本当に申し訳ないと思っている。今この状況を生み出したのは俺の、俺たち責任なのかもしれない。俺は自分と、自分の大事な人達を生かすために、他の全てを切り捨てた」
「ほれみい!コイツ今自分らが悪いって認めたで!」
キバオウの声をきき会場にいた他のプレイヤーからも
「土下座しろよ!」「アイテムをよこせ!」
と非難があがりはじめた。
苦しい。それでも自分から話し始めたことなのだ、止まる訳にはいかない。
「ああ、だから本当にすまない。望むなら土下座だって、アイテムだって譲る。」
ここで一度頭を下げ、もう一度周囲を見渡す。
「でも俺たちだって完全に見捨てた訳じゃないんだ。情報だって無償で提供していたし、現実に帰るために戦ってる。みんなもそうなんだろ?
誰かのために、何かのためにここに集まった。それが俺は仲間だったんだ!
許してほしいわけじゃない。でも忘れないで欲しい。ベータテスターは敵じゃなくて、一緒に戦う仲間なんだって」
沈黙が訪れた、会場にいる一人一人の顔を見れば、納得している人も入れば、キバオウを含めまだ不満がありそうな人もいる。
ダメだったか....。「ごめん」と小声でキリト達に向けつぶやく。
キバオウが口を開き、再び反論を述べようとした。
「俺も発言いいか?」
しかし、キバオウが声を出すその瞬間、身長190cmほどで、スキンヘッドの巨漢が立ち上がった。
その巨漢に圧倒され、ざわめいていた会場は静まり返る。
「オレの名前はエギルだ。そのプレイヤーの言ってることは本当だろう」
エギルは腰の辺りにつけた大型のポーチから1冊の、丸い耳と左右3本ずつのヒゲを図案化した《鼠マーク》が描かれた、簡易な羊皮紙の本を取り出した。
「このガイドブックあんただって貰っただろう。道具屋で無料配布してるからな」
「もろたで。それがなんや」
「そのガイドブック新しい村や町に着くと必ず置いてあった。情報がはやすぎた。それに詳しすぎる。つまりこの情報を提供したのは元ベータテスター以外にはありえないってことだ」
プレイヤーたちが、一斉にざわめいた。先程とは反対にそこかしこでベータテスターに肯定的な声が上がり始めた。
キバオウは返す言葉が見つからないのかグッと閉じ黙っていた。
「いいか、情報はくれていたんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ責任を元テスターだけに追及するのは違うだろ。」
至極堂々とした態度に、キバオウは憎々しげに巨漢を睨みつけるだけだった。
「キバオウさんあなたの言いたいことも理解できる。でもチハヤくんも糾弾される事が分かってて出てきてくれたんだ。元テスターにもいい人はいるってわかった。今は一緒に戦ってくれることに感謝しよう!キバオウさんもそれでいいかな?」
「・・・ええわ、この場はそれで納得したる。だが小僧!ジブンは死ぬまでこき使ったるでな!覚悟しとけや!」
明らかに、まだ納得してない様子だが、このままでは話しが進まないと判断したのかディアベルが一旦この場を収めた。
会議のハイライトはこれくらいで、その後は特に何も起きず、そのまま解散した。作戦は偵察戦を行ったあと後日決めることとなった。
キリトに狩りに行こうと誘われたが今日は狩りに行く気分にはなれなかった。
キリトとはフレンド登録し、その場で別れた。
今回の件で元テスターと新規の間の蟠りがとけたわけではないが、それは今後少しづつでも解消していくしかないだろう。