僕が今、ここにいるのは間違っているだろうか   作:はいでが

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本当にお久しぶりです。
また更新していけたらいいなと思います。


勤労と感謝の日々

僕が出かける準備を終える頃にバタバタと朝食を取り始めた神様(「ベルくん!何でもっと早く起こしてくれなかったんだい!?」「五回くらい起こしましたよ神様」「なぬ!?」などのやり取りがあったけれど割愛)からの

 

「行ってらっしゃいベルくん!頑張りすぎずに頑張って、そして、たくさん稼いでくるんだぞォ!!!」

 

という大変熱い激励の言葉に苦笑しながら「行ってきます。」と挨拶し、僕は地下室をあとにした。

 

(それにしても、相変わらず凄い本拠(ホーム)だよなぁ……。)

 

年季の入った石造りの階段を登り、ボロボロの棚が乱立する小部屋を歩きながら思う。

僕らの【ファミリア】が本拠としているこの建物は、ヘスティア様曰く()()()()()で神友から譲ってもらった使われなくなった教会らしい。

それだけ聞くと、とても友神思いな慈悲深い神様によって与えられた本拠だと思うが、今にも崩れそうな壁や哀愁を漂わせる壊れかけの女神像を見ると、「譲ってもらったというよりかは押し付けられただけでは?」とどうしても邪推してしまいそうになる。

かろうじて建物としての形を留めているに過ぎないこの教会を見て、温情だと思えるのはその神友のことをよほど信頼しているのか、あるいはなにかそれほどまでに()()()()()()()でもしたのかと思うけれど……。

どちらにせよ本人に聞いてみないことには答えはわからない話だし、そもそも答えを知る気も特段ないのだが、なんとなく敬愛するあの女神の性格を考えれば、自ずと答えは分かる気がした。

そもそも、自分の暮らしぶりにそこまで執着しているわけではないし、なんだかんだ神様との質素な二人暮らしもひっそりと気に入っていたりする。

ただ、質素といっても最低限その日を生きていくだけのお金は必要になってくるわけで、だからこそあの神様の熱い激励に繋がってくるのだと思うと、我らが【ヘスティア・ファミリア】の零細っぷりに思わず涙が出そうになる。

自分の主神すらも働かせている現状に申し訳なさとか、恥ずかしさを感じつつ、今日も今日とて売店のマスコットにされるだろう小さな主神には心の中で大きく敬礼し、一方で、自分自身も仕事に対してやる気を漲らせ、僕は都市の喧騒へと足を向けた。

 

迷宮都市(オラリオ)の朝は早い。

日が昇るや否や、種族、年齢に関係なく、多種多様な人物が一斉に町へと繰り出す。

小人族の商人が。ドワーフの工夫が。犬人の町娘が。そして、人間の冒険者が。

世界の中心の名に恥じない、巨大な喧騒の渦を作り上げている。

故郷ではまず目にすることのないような雑踏は、この都市に来てもう()()()()経っているにも関わらず未だに慣れない。

とはいえ、昔のように街の活気に当てられ浮足立ってしまうようなことは流石に無い。

これが年を経て得た落ち着きなのか、それとももっと根本的な部分での変化なのかはイマイチわからないが、なんにせよ、ぱっと見で都会に来たばかりの田舎者と思われることはもう流石にないだろう。

 

(そっか…もう二年になるのか…)

 

二年。

わずかな路銀と身の丈に合わない夢だけを持ち、故郷を飛び出してからもう二年。

あの頃の僕は誰がどう見ても、ひ弱そうなお上りさんにしか見えなかったと思う。実際にそうだったわけだし、思い出すと僕自身ですら何をやっているんだとあきれ返るようなことばかりしていた。

それでも、夢を追い、出会いを求め、迷宮探索に明け暮れていたあの日々が輝かしいものであったのは間違いない。少なくとも、今よりは。

あの頃の夢はとうの昔に捨ててしまった。

それは別にそんなに珍しいことでもない。

夢を抱いたもの中で夢を叶える者と夢に破れる者、そのどちらの方が多いかなんて言わずとも知れたことだろう。特にこの都市は大きな夢を抱いた人間が、絶えず世界中から集まってくるからそれが顕著だ。

そして僕もその例に漏れず、身の丈に合わない理想を掲げ、そして醜態を晒し続けた。

失敗よる挫折。どこにでもよくあるつまらない話だ。

 

大通りの雑踏の中で歩みを止める。

未だ太陽は随分と東に傾いているものの、人の勢いはとどまることを知らず、むしろその勢いを増すことで一日の始まりを手厚く歓迎する。

こうして、人々のざわめきの中に身を投げて見るとよく分かることがある。

世界は僕がいなくとも変わることなく回っていく。

例え僕が明日いなくなったとして、立ち止まる僕に目もくれずに歩みを進めていく人々の日常に何か変化をもたらすことは無い。

きっとそれは都市中の人に知られている第一級冒険者なんかでも同じだ。

どんなに名の知れた人間だって、世界中の大多数の人にとっては名前だけ知っている他人でしかない。

僕であろうと誰であろうと、他人がいなくなることで日常が劇的に変わる人というのはまずいない。

それでも尚、知らない誰かの日常に大きな変化をもたらす人物がいるとしたら、それはよほどの大悪党か英雄と呼ばれる類の人だろう。

そして、僕は巨悪として多くの人に疎まれているわけでも、誰からも認められる偉業を成した者として崇められているわけでもない。

僕はただの質素な暮らしを好む()()だ。

 

ふと、街の中心に聳え立つ白亜の巨塔へ闊歩する、若い数名の男女が目に留まった。

この街を象徴するかのように見事なほど異種混成の冒険者パーティ。

彼らは富を求め、名声を求め、そしてもしかしたら出会いを求め、この街の地下に広がる大迷宮へと足を運ぶのだろう。

そして時に彼らは冒険をする。逆境や不条理が否が応でも彼らのに命を賭した冒険を求める。

それは理不尽の巣窟たる迷宮に挑むものの避けられない定めであり、だからこそ彼らは冒険者なのだ。

彼らには彼らの冒険があって、それは僕のあずかり知らないところで進んでいく物語であって、つまるところ僕は人波の奥へと掻き消えた彼らのこの先を知る術を持たない。

たまたま同じ道を歩いただけの彼ら。たまたま僕の目に留まっただけの人たち。

彼らに至っては僕を認識さえしていない。このまま一生出会うこともないだろう他人。

だから僕の日常は、もしあの若い冒険者たちの誰かが迷宮のどこかで命を落としたとて、特に何が変わるということもない。

残酷なようだけれど、それは当然のことだ。

質素な暮らしを好む僕は、知らない誰かに花束を手向けるような伊達も酔狂も持ち合わせていない。

だから、僕が彼らにできることは、死んだ後の祈りについて考えることでは無く、今日も彼らが生き残れますようにと願うことだけだ。

 

この街には多種多様な存在がいる。

幼子。少女。青年。老人。

人間。亜人。神。

夢を見た者。夢を叶えた者。夢を諦めた者。

 

ベル・クラネル、16歳。

種族、人間。

職業、アルバイト。

捨てた夢の代わりに手にした今のため、今日も迷宮都市の片隅で働く。

 

◇◆◇

 

「おはようございます」

 

いつも通り就業開始の30分ほど前にバイト先にたどり着いた僕は、奥に人の気配を感じながら店の扉を開いた。

 

「おう、今日も早いなベル坊!」

 

店内で都市新聞を読みながら僕を出迎えたのは、アマゾネスもかくやというほど肌をこんがりと焼いた筋肉質な犬人(シアンスロープ)の男性、僕のバイト先の店長であった。

なぜか頭に「大漁」とやけに達筆な共通語(コイネー)で書かれた手拭いを巻いているが、あたりを草原で囲まれたオラリオにおいて漁師業が成り立つことはない。

この手拭いを選択したのはひとえにこの人の独特なセンスでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。

この人の独特なセンスは店名にもよく現れ出ている。

『黒猫』といういったいなにを請け負っているのか一切わからない店名は、改めて思うと過去の自分はよくこんな店で勤めようと思ったなと言わざるを得ない。

最も、この店名は近所に住まう、極東出身者で構成される小規模な【ファミリア】の主神に命名をお願いして───店名に限らず、子供の名前などを『神々』に頼むことは、冒険者に与えられる二つ名と同様、栄誉なことだと考えられているため『神時代』においてはよくあることだ───そうして与えられたいくつかの候補の中から選んで付けたとのことだ。

そうはいっても、最終的に選んだのは店長自身であることから、やっぱり独特なセンスを持っているのは確かである。

 

そんなことを考えつつももはや日課となりつつある店内の掃除をテキパキと進めていく。

最初の頃に比べて、随分無駄なく動けるようになったものだなぁとしみじみと思っていると、一通り読み終わったのか、羊皮紙をくるくる丸めながら僕に話しかけてきた。

 

「にしてもいつも(ワリ)ィなあ。なかなか掃除する時間が取れないからっていつも早く来て、掃除してもらって」

 

「アハハ……僕が好きでやってることなんで。それにその分のお給金は頂いてますしね!」

 

「あったりめぇだ!しっかり働いている奴にはその分の報酬を与える!経営者にとっちゃ常識よ!」

 

どこかの酒場の女主人が聞いたらその通りだと肩を組んで同意してきそうな言葉だなぁと思いつつ、「いつもありがとうございます」と感謝する。

実際、学も技術も人脈もなく、そしてその当時はおそらく人として最低限求められるような愛嬌すらも失くしていた僕を「こんな顔しながら働き口を探しているガキを見捨てて、今晩旨い酒が飲めるかってんだ!」と言いながら、雇ってくれたのは他でもないこの人なのだ。

感謝の気持ちは言葉でいくら伝えても伝えきれないほどだ。

 

「ㇸッ……感謝なら言葉よりも仕事で示してくれ!」

 

と言いつつも立ち上がり就業の準備を進める彼の見た目に似合わないふわふわの尻尾は嬉しそうにブンブンと振られていた。

それを見て思わず吹き出しそうになるが、彼と関わりだしてすぐ、彼は意外と恥ずかしがりなのだと知ったため、その気持ちは口元の綻びだけで留めておく。

 

そうこうしているうちに他の店員も集まりだし、掃除も一段落ついたところで、ちょうど就業開始の時刻を告げる都市の鐘が鳴り響いた。

 

「よし!オメェら今日も一日元気に張り切っていくぞ!!特に今日は依頼が多いからな気合入れてけよ!!じゃあいつも通り、各自担当ごとに順次配達していけ!!!解散!!!」

 

「「「うっす!!!!」」」

 

店長の朝礼に対して野太い声で返事する同僚たちに合わせて声を出し、制服であるエプロンを身に着けさっそく作業に取り掛かる。

そう。『黒猫』は様々な荷物の配達を請負う配達専門店である。

だからこそ、犬人の店長にしてなぜ店名が『黒猫』なのかは全く分からないのだが、神様たちには何故かどういう店なのか伝わるらしい。

ただ、その神様たちからしても「ギリアウト」な店名らしい。

しかし、事業自体は至って普通の運輸業、そしてかなり良心的な価格でのサービス提供を実現している店なこともあって近隣住民から好況を博している。

その結果、就業時間内に掃除などの雑務を終わらせることが出来なくなっているのだが、それは嬉しい悲鳴というやつだ。

なにはともあれ、配達請負店『黒猫』は「安い!ウマい!早い!」をモットーに(はたして何がウマいのかはこれまたわからないが)本日も人員フル稼働で営業中なのである。




前作をなんで消したのか質問があったので活動報告に載せておきました。
気になる方はそちらを参照してください。
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