銀河英雄伝説 謀士策騙   作:ならない

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第二話

 首都星オーディンの一等地、そこに建つ広大で優雅な屋敷、その家主オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は一人の男を屋敷に招いていた。

 

 「良くぞ参ってくれた。メツガー男爵」

 

 「此度は小官の如き辺境の田舎者を屋敷へとお招き頂き有難うございます。ブラウンシュヴァイク公爵閣下」

 

 この客がブラウンシュヴァイクの屋敷を訪ねたのは帝国暦四八八年、一月終わりのことだった。先年の十月に皇帝フリードリッヒ四世が崩御して、忙しいこの時局に訪ねて来る者など本来断っていたが、相手が先のアスターテ会戦でラインハルトから理不尽な扱いを受け、恨みに思っているともっぱらの噂のメツガーであった為に取りあえず会ってみることとした。

 

 「何を仰言るのか、男爵の知謀は聞き及んでおる。そんな人物を屋敷に招くことはワシにとっても名誉なことよ」

 

 ブラウンシュヴァイクの言葉の端々に尊大さが滲み出ている。それに対して平身低頭で媚を売るメツガーはブラウンシュヴァイクの自尊心を大いに満足させた。

 

 「して今回はどの様な訳でワシを訪ねて参ったのか」

 

 しばらくの間、世間話という名の腹の探り合いをした後、ブラウンシュヴァイクは本題を切り出した。

 

 「此度の戦い、是非にブラウンシュヴァイク公のお味方をしたく参じました」

 

 ブラウンシュヴァイクの眉がピクッと動いた。

 

 「はて?戦いとは一体何のことか分かりかねるな」

 

 「誤魔化す必要は御座いません。ブラウンシュヴァイク公と金髪の孺子との対立は既に帝国では知らぬ者などおりません」

 

 ブラウンシュヴァイクは声を上げ笑った。

 

 「そう言われてしまっては、隠す必要は無いな……そうワシや志ある貴族はあの小生意気な金髪の孺子を征伐する軍を上げる気だ。男爵はそれに加わりたいと……そう申すのだな」

 

 「然り、小官の策を活かせるのはこの帝国にブラウンシュヴァイク公を置いて他におりませぬ。才ある人物は徳と格を備えた人物の下に集うと云います。どうかこの策士めに策略を献上するのをお許し頂きたい」

 

 メツガーの彩られた言葉に持ち上げられ、気を良くしたブラウンシュヴァイクはこの策士を気取る男に仕官を許した。

 

 「なるほど支配者としての徳と貴族としての格どちらもワシに並ぶ者は今の帝国にはおるまい。優れた才を持つ人物にとってそれを活かせぬのが最も辛いと聞く……よろしいその才、ワシの下で存分に奮うが良い」

 

 「有難き幸せ。このメツガー、ブラウンシュヴァイク公爵閣下の御恩情に感謝し命を賭して仕えることをルドルフ大帝と我が家の祖に誓います」

 

 地面に擦り付ける勢いで頭を下げるメツガーをブラウンシュヴァイクは宥める。落ち着いたメツガーは次の言葉を紡ぐ。

 

 「早速、我が策をブラウンシュヴァイク公に献じさせて頂きたい」

 

 「許す申してみよ」

 

 「有難うございます。……先ずは、こたび上げる軍の総指揮は誰がお取りになるのでしょうか?」

 

 「最初はワシ自ら指揮を取る積りであったがリッテンハイム侯が反対してな、メルカッツを総司令官に置くこと提案されておる」

 

 「なるほど、実績、人望ともに豊かなメルカッツ提督を総司令官に、と言う訳ですか……しかし、それは下策です」

 

 「なぜだ?貴官が言った通りメルカッツは実績も人望もある。なぜ下策なのだ」

 

 「小官とメルカッツ提督は先のアスターテ会戦に参加致しました。そのときの指揮官は件の孺子、この戦いでメルカッツ提督は上級大将に昇進しており、孺子の指揮を高く評価してもいます。これより敵となる者を褒め称える人物を指揮官に据えれば将兵は戸惑い、迷いが生じましょう。一瞬の判断が生死を分つ戦場に置いてこれは致命的です」

 

 「では貴官は誰が相応しいと思うのだ」

 

 「軍の総司令官とは一種の象徴、指揮能力よりむしろ勇猛で知られ、金髪の孺子に正面切って嫌悪を表す者こそ総司令官に相応しい」

 

 勇猛と孺子嫌い、そこまで言われたブラウンシュヴァイクは心当りを思い浮かべる。

 

 「……まて……それはつまり」

 

 「装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将その人です」

 

 思い浮かべた人物と同じ名を聞かされ、ブラウンシュヴァイクは思わず声を荒げる。

 

 「まてまて!オフレッサーだぞ!確かに武勇は認めよう。孺子嫌いもその通りだ。だが、宇宙艦隊の指揮なぞ奴にできるか!!」

 

 「先ほども申し上げた通り総司令官とは象徴であればよいのです。また勇猛果敢な指揮官に知略に優れた参謀を置くのは編成の成道であります」

 

 メツガーの冷静な声にブラウンシュヴァイクは冷静さを取り戻す。

 

 「……うむ、しかし、その参謀役を誰にする。貴官が参謀を務めるのか?」

 

 「いいえ、小官よりも艦隊運営に秀でた専門家がおります。しかも孺子嫌いな人物……戦術論の専門家シュターデン大将こそ参謀に相応しい」

 

 ブラウンシュヴァイクは考えを巡らす。勇猛果敢な将に知略に優れた参謀、そう言われればオフレッサーとシュターデンがこの任に相応しい様に思われる。

 

 「……よし!その策を承けることとしよう。しかし、先ずリッテンハイム侯を説伏せねばな。説得の際は貴官も同席せよ」

 

 「承知致しました」

 

 うやうやしく礼を取るメツガーを満足気に首肯き。この策士を配下に加えたブラウンシュヴァイクはラインハルト打倒の時は近いと確信した。

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