銀河英雄伝説 謀士策騙   作:ならない

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第四話

 首都星オーディンにあるリップシュタットの森、ブラウンシュヴァイク公爵の別荘では園遊会と名画のオークションが開催され、貴族三七四〇名が集ったのは帝国暦四八八年二月初旬ことだった。しかし、園遊会やオークションなどは名目に過ぎず真の目的はリヒテンラーデとローエングラムの枢軸体制に反対する決起集会であった。

 

 先年の十月に先帝フリードリヒ四世が崩御して後、次代の皇帝に誰を選ぶか、と言う話になった。宮廷内の多くの人々はフリードリヒ四世の皇女を娶ったブラウンシュヴァイク公爵かリッテンハイム侯爵の令嬢、公爵令嬢エリザベート、侯爵令嬢ザビーネのいずれかが選ばれると予想されていた。そうしてブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は互いに自分の娘を次期皇帝に擁立せんと宮廷工作を行い牽制し合っていた……のだがその間隙を衝くかの様に国務尚書、帝国宰相代理の地位にあったクラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵は、下級貴族の出ながら軍務三長官を臨時とはいえ兼任し、軍部と民衆からの絶大な支持を持つラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵と組み、フリードリヒ四世の長子で早世した皇太子ルードヴィヒ大公の子、未だ五歳のエルウィン・ヨーゼフが擁立され政治力、軍事力、民衆からの支持、それらを持って即座にエルウィン・ヨーゼフ二世として即位が決定した。即位後はリヒテンラーデ侯爵自身は公爵になり摂政として政治の中枢を握っり、ローエングラム伯爵も正式な宇宙艦隊司令長官と侯爵の地位を得た。

 

 ことここに至ってブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は協力してリヒテンラーデ、ローエングラム枢軸体制に挑むこととなった。両家の親族一門、新体制に特権や利益を侵されるのを嫌った保守派貴族、お溢れにありつこうとする下級貴族、ローエングラム侯を相手に力を奮いたい貴族系軍人などがリップシュタットの森に集い〈愛国署名〉に記銘、この署名を〈リップシュタット盟約〉として盟主オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵、副盟主ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム侯爵とした軍事組織〈リップシュタット貴族連合〉が結成される運びとなった。

 

 「帝国の未来を憂う、心ある貴族が参集したことを嬉しく思う。真の貴族のなんたるかをあの成り上がり者に思い知らせ、帝国の秩序と伝統を回復するのだ!!」

 

 リップシュタット貴族連合の設立を宣言した後、グラスが配られ決起集会はパーティの体をなし始め貴族達は各々の有力者に挨拶や顔繋ぎを始めた。中でもブラウンシュヴァイク公の周りには多くの者が集まりブラウンシュヴァイク公は上機嫌で声高らかに謳い上げる。

 

 「我らが正義の軍を上げれば即ち、勝利以外の結果など無い!!」

 

 何の根拠があるのか、自信に満ち溢れた言葉に周りの者達は歓声を上げる。

 

 「我らに勝利を!!帝国万歳!!大帝陛下万歳!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公は拳を振り上げ叫び、一門や取巻きのブラウンシュヴァイク派の者達が合わせて声を上げる。

 

 「勝利を!!」

 

 「帝国万歳!!」

 

 「大帝陛下万歳!!」

 

 帝国開闢以来、ここまで貴族が一同に介するのは数える程度、そのことに酔いしれる彼等は一様に興奮気味に顔を高潮させている。気を良くしたブラウンシュヴァイク公は更に続けてまくしたてる。

 その様子を少し離れた所で眺める者達、リッテンハイム派の貴族が醒めた目でブラウンシュヴァイク派を眺めていた。

 

 「口ばかり、威勢の良いことですな」

 

 「まったく声を上げるだけで孺子を倒せれば我らが集う必要などないわ」

 

 協力体制になったとはいえ、少し前まで敵対関係にあった者同士、十数年間の敵意は利害の一致だけでは拭いきれぬモノだった。

 

 「そう言えば、お聞きになりましたか、軍の総司令官が、あのオフレッサー上級大将に決まった経緯を」

 

 「かの野蛮人をブラウンシュヴァイク公が推薦なされたと、聞きましたが?」

 

 「それが、ブラウンシュヴァイク公にオフレッサー上級大将を総司令官にと推した者がおるのですよ」

 

 「ほう、誰ですかな、その愚か者は?」

 

 「ほら、あそこにいるメツガー男爵です」

 

 会場の外れでグラスを傾けている地味な男を顎でしゃくる。

 

 「メツガー男爵か、田舎者の肉屋風情が……ブラウンシュヴァイク公に阿りおって」

 

 地方貴族のメツガー家は肉屋を意味する姓と領地の主な産業が畜産であることから他の貴族達から田舎者の肉屋と馬鹿にされて来た。

 

 当のメツガーは貴族達に陰口をたたかれいるとは露知らず。「今、兵士を突入させれば一網打尽だな」などと考えていた。しかし、それはラインハルトが望まないことであった。

 

 

 

 メツガーがラインハルトに忠誠を誓ったあの日、当面の敵となるであろう門閥貴族に取り入り内に入り込み敵の首魁を討ち取る策を奏上した。

 

 「天下を手にするに万の敵を殺す必要は有りません。ただ数人の有力者の首を上げれば事足ります」

 

 「合理的かつ理性的な策……だが足りぬ」

 

 「足りぬとはどういう意味でしょうか?」

 

 「その策は確かに門閥貴族に楔を打ち込むことは出来る。だが帝国内の汚濁を一掃するには足りぬ!!」

 

 メツガーはラインハルトの野心に続きラインハルトの本質の一端を知った。この人は、理を持って法を敷く為政者でも無ければ、徳を持って政を行う王者でも無い、烈しさを持って道を拓く覇者なのだと。ラインハルトは武力叛乱を起こさせることで、門閥貴族達だけでなく、長年帝国に堆積した澱みをも吹き飛ばす気なのだ。

 

 ならばと、取り入り内に入り込むまでは同じとして叛乱を敵側からコントロールする策を献策した。始めラインハルトはその策も渋っていたがキルヒアイスの「兵や民の犠牲者が少なくなるはずです」と言う一言が決定打となり、その策が受け入れられた。

 

 (やはり、この二人は良い……互いが互いの足りぬ部分を補っている……だが覇業を成すならば……)

 

 意を決して、続けてある人物の登用を進言する。メツガーの士官学校時代の同期であるあの男はラインハルトの人柄からは絶対に合わない人物だが__

 

 「私に合わぬ人物をあえて推薦する訳は何だ?」

 

 「キルヒアイス大佐同様に閣下に無いモノを持っていて、キルヒアイス大佐とは真逆のモノをも持っているのです」

 

__覇者であるのなら必ず使いこなせる。

 

 「パウル・フォン・オーベルシュタインは徹底的な冷徹さを持って閣下の覇業の一助となりましょう」

 

 覇業成す者はその内に毒を飼わねばならぬ、例えそれが猛毒だとしても。

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