銀河英雄伝説 謀士策騙   作:ならない

5 / 6
第五話

 リップシュタット貴族連合が結成されてしばらくたった四月、事態が急変した。

 それまでガイエスブルク要塞に密かに結集しそこから枢軸陣営に決戦を挑む事を企図していたリップシュタット貴族連合であったが、ブラウンシュヴァイク公の麾下アントン・フェルナー大佐が独断でラインハルト暗殺計画を行おうとした。しかし、ラインハルトの居館の警備の厳重さに計画は中止され暗殺部隊は解散したが、その情報を入手したラインハルトはこれ幸いと、皇帝に貴族連合を反逆を企てた国賊として討伐の勅命を降すようにさせた上で、自身が帝国軍最高司令官の任に付きこの討伐の指揮を執った。

 多くの貴族にとって寝耳に水の事態でありオーディンに残留していた貴族連合全体の三分の一、一ニ四〇名に上る貴族は拘束されてしまった。

 何とか脱出した貴族達は這う這うの体でガイエスブルク要塞に辿り着き、安全な要塞内で金髪の孺子に対する悪態をついた。

 

 ガイエスブルク要塞は帝国第ニの規模を誇る宇宙要塞であった。イゼルローン要塞が同盟軍に奪われて以降は、帝国最大の要塞となった。全長約四十五キロメートル、表面は流体金属が覆い、七億四千万メガワットの高X線ビーム【ガイエスブルク・ハーケン】を主砲とし他多数の砲台を装備している。内部は一六〇〇〇隻を収容可能な宇宙港、整備ドック、工廠、食料生産施設、居住区画、病院、学校、娯楽施設などを有し最早一つの都市であり、補給無しでも長期戦が可能な要塞である。

 

 その堅牢な要塞内にあってもブラウンシュヴァイク公は落ち着かない。怒りで顔を赤く染めている。

 

「おのれ金髪の孺子め!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公はワインを一気に呷り、グラスを床に叩きつける。下級官吏の一月分の給金の価値があるグラスは粉々に砕け散る。

 怒りで周りに当たり散らすブラウンシュヴァイク公に周りの者達は恐れて近づくことも出来ずにいる。

 

「ブラウンシュヴァイク公、どうか気をお鎮めください」

 

 皆が怯える中、ブラウンシュヴァイク公の臣下アンスバッハ准将だけは何とか宥め落ち着かせようと試みていた。

 

「我が一門所縁の者が多く囚われたのだ!!落ち着いてなぞおられるか!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公の烈火の様な怒りの声を軽く受流しアンスバッハは言葉を続ける。

 

「なればこそ、当主たる公が範をお示しになり、動揺なさっている他の一門の方々を纏め上げるのです」

 

 その言にブラウンシュヴァイク公は息を吐くと椅子に深く座り直す。更に落ち着こうとグラスに手を伸ばすが先ほど叩き割ったのを思い出し舌打ちをする。

 

「そうだな、ワシは名門ブラウンシュヴァイク公爵家の当主。このままでは歴代当主に顔向け出来ぬ」

 

 アンスバッハが素早く差し出した代わりのグラスを受け取る。

 

「ご立派ですブラウンシュヴァイク公!」

 

「流石はブラウンシュヴァイク公だ!」

 

 ブラウンシュヴァイク公の怒りが引いたと見た取巻き連中はここぞとばかりにブラウンシュヴァイク公を持ち上げる。アンスバッハはその様子に内心呆れるがおくびにも出さすブラウンシュヴァイク公のグラスにワインを注ぐ。しかし、酒の入ったブラウンシュヴァイク公は分かりやすいお世辞に気を良くしたのか笑みを零しその場の雰囲気が和らぐ。

 

「しかし、ブラウンシュヴァイク公、此度の孺子の動き妙だと思いませんか?」

 

 そんな雰囲気に水を指す様にラインハルトの話題を出す男に皆の視線が集まる。皆の視線を受けメツガーはそれでも続ける。

 

「今回に囚われたのはブラウンシュヴァイク公の縁故の方々ばかり、しかも脱出経路を知っていたかの様な待伏せを受けて」

 

 メツガーの言う様に囚われた貴族の殆どはブラウンシュヴァイク派の者が大半を締めていた。

 

「メツガー男爵はなにが言いたい?まさか我らの中に裏切り者がいるとでも言うつもりか!!」

 

 フレーゲル男爵の怒りのままに吐いたこの言葉は真を突いていた。まさにラインハルト側に情報を売った者がメツガーだったのだから。囚われた貴族の多くがブラウンシュヴァイク派だったのもメツガーがブラウンシュヴァイク派の情報を入手しやすい立場にあったからだった。

 

「まさにその通り、フレーゲル男爵の仰言る通りです」

 

 にわかに騒ぎ出す場を制する。

 

「勘違い為さらぬよう。小官の言う我らとはブラウンシュヴァイク公の下に参集した方々のことでは無く、リップシュタット貴族連合全体のことです」

 

 ブラウンシュヴァイク派ばかり囚われた現状をメツガーは利用する。

 

「その様な者、我らリップシュタット貴族連合にいる訳が無い!!我らは誇り有る帝国貴族だぞ!!」

 

 若い貴族が怒りメツガーに詰め寄る。

 

「よさぬか!!」

 

「ブラウンシュヴァイク公、しかし!!」

 

「ワシの言うことを聞けぬと言うのか!?」

 

 ブラウンシュヴァイク公の一喝に若い貴族はすごすごと引き下がる。

 

「メツガー男爵、一体誰がワシを謀った?」

 

「まだ解りません。しかし、こう云う時は最も利益を得た者が真犯人だと言います」

 

ブラウンシュヴァイク公は顎を撫で考えを巡らせた後、重々しく口を開く。

 

「リッテンハイムか……」

 

 今度こそ、その場は騒然となる。

 

「まさかそんなリッテンハイム侯が!?」

 

「有り得ぬ!副盟主が裏切るなど」

 

「しかし、そう考えれば筋は通る!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は少し前まで敵対関係に有った。今は共通の敵の前に連合を組んでいるが、共通の敵が斃されれば再び敵対関係に戻るのは自明だった。故にブラウンシュヴァイク派とリッテンハイム派の二つの勢力は互いに牽制しあい、隙あらば相手側の失権を狙っていた。

 

「リッテンハイムめ!!奴がその気ならばワシも受けて立ってやる!!」

 

 再び怒りを顕わにするブラウンシュヴァイク公にメツガーは冷静に諭す様な声で話す。

 

「しかし、何の証拠も無く副盟主を裁く訳には行きません」

 

「ならばどうする!?泣き寝入りなど貴族に悖る!!」

 

 しかし、冷静な声は返ってブラウンシュヴァイク公の心を逆撫でより冷静さを失わせた。ここまでの流れでリッテンハイム侯の裏切りが確定した様な空気になった。

 

「先ずはブラウンシュヴァイク公の御身の安全を確保しなければなりませぬ。信頼する者を護衛として常に侍らせ私室より余り出ぬ様になさって下さい」

 

 ブラウンシュヴァイク公は首肯くと護衛としてアンスバッハを指名する。

 

「承知しました。御身を命に替えて御守します」

 

 アンスバッハは元よりブラウンシュヴァイク公の臣下、主を護るのに何の否も無かった。

 

「続いてリッテンハイム侯の周りを探ります。これには裏切りを卑怯として誇りが有り忠誠心厚き者を当てることです」

 

「ならば私が!!必ず叔父上の役に立って御覧にいれる!!」

 

 ここぞとばかりにフレーゲル男爵が立候補する。

 

「うむ、甥のフレーゲルならば安心して任せられる」

 

 フレーゲル男爵がリッテンハイム侯の周りを探る任に就く。

 

「以上が今出来る最上の策です。ブラウンシュヴァイク公、皆様方を鼓舞するために何か御言葉を頂ければ幸いなのですが」

 

「良かろう……卑劣な裏切り者に報いを受けさせることこそ、囚われた同胞たちの心を癒す唯一の道と心得よ。征くぞ同胞達よ!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公の力強く自信に満ち溢れた言葉にその場の者達は合わせ鬨の声を上げる。

 

 抗争の種は蒔かれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。