ただひたすらにデュエる! 作:タカアシガニ
キーンコーンカーンコーンと古めかしいチャイムが鳴り響く。
「じゃあ、今日の授業はここまで。しっかりと復習するように」
そう教師が言って、教室を出て行った。
「おっしゃあ、昼休みだ!」
と、一人の男子生徒が声と立ち上がる。それに続くようにして、眼鏡の青年が鞄をガサる。
「今日は新デッキ持ってきたからね、シュートをボコボコにさせてもらうよ」
「ハッ、昨日はお前が負け越したんだっけか? 今日も同じにしてやんよ、マモル」
シュートと呼ばれた彼は金に染めた髪をかき上げ、好戦的な笑みを浮かべる。マモルは眼鏡をクイッとしてから不敵に笑った。
「悪い、今日も席借りるぜ」
シュートは最近学校に来ていないマモルの隣の席の女子の机に一応の許可を取り、ガッチャンと向かい合わせにする。
「んで? 対戦方式は?」
「カジュアル、マッチで」
「りょーかい!」
自身の机から持ってきたストレージ──真っ赤なソレを開けると、中にはスリーブに入れられたデッキが複数。その一つを取り出し、【デコード・トーカー】のプレイマットを敷いた上に置く。
対しマモルもカバンからアニメキャラのイラスト──かなり扇情的なものが描かれたストレージを取り出し、デッキを一つ机に。スリーブとプレイマットは【セラの蟲惑魔】だ。
「お、セラじゃんか。てことは【蟲惑魔】か?」
「さあ? どうだろうね」
お互い席に着き、相手のデッキをシャッフルする。このクラスでは見慣れた光景だ。
「またデュエル? そんなに楽しいの?」
「おう、サイッコーだぜ!」
クラスメイトの女子生徒の質問に、シュートは快活な笑顔で答えた。マモルも真っ赤なスリーブが付けられたデッキをシャッフルしながら微笑んでいる。
混ぜ終わったデッキをプレイマットに置き、マモルがストレージとは別のアニメキャラのセンターマーカーを置く。その間にシュートがスマートフォンを取り出し、アプリを起動。
「
「月」
これはデュエル用の電卓アプリの機能で、コイントスの結果を予想しているのだ。毎回シュートが太陽、マモルが月を選ぶのでこれはただのルーティーンになっているが。
「月! マモルが決めていいぜ!」
「じゃ、先攻貰うよ」
カードを五枚引き、宣言する。
「「デュエル!」」
マモルは手札を見るなりフッと笑うと、手札を持っていない右手で眼鏡を持ち上げた。
「完璧な手札だ」
「お前毎回それ言ってんな~」
これもまた、いつものやりとりだ。
「【トリオンの
「あいよ」
本来ならば手札誘発の有無を確認するのだが、今回彼らの対戦方式は『カジュアル』。誘発のないデッキ同士でのデュエルだ。
前の日に負け越した方が次の日の対戦方式を決める。彼らのデュエルのルールである。
「トリオン一体でリンク召喚、【セラの蟲惑魔】。そしてカードを一枚セットし、発動! 【
「げっ、マジで完璧な手札じゃねぇかオイ」
シェード・ブリガンダインは罠カードながら墓地に罠が無ければ伏せたターンにも発動できるという少々珍しいカードだ。発動後はレベル4、攻撃力0守備力300のモンスターとして守備表示で特殊召喚される。
「通常罠が発動したことで、セラの効果発動。デッキから【ランカの蟲惑魔】を特殊召喚。
そしてカードをセットしランカの効果発動! 今伏せたカードを手札に戻す」
一見意味のない効果。だが、【蟲惑魔】の効果が発動したことで【セラの蟲惑魔】の効果が発動できる。この世に無意味な効果なんてない、というのは誰の言葉だったか。
「セラの効果を発動! デッキから【奈落の落とし穴】をセット。ランカとブリガンダインでエクシーズ召喚、【フレシアの蟲惑魔】!
カードを二枚伏せて、ターン終了!」
マモル
LP8000 手札2
■■■□□
□フ□□□
セ □
□□□□□
□□□□□
シュート
LP8000 手札5
セ:セラの蟲惑魔
フ:フレシアの蟲惑魔
■:伏せカード
「クッソ罠張りまくりかよ・・・・・・オレのターン、ドロー!」
バッ、と勢いよく引いたカードはスリーブを付けていることもあってか二枚くっついており、ドローの勢いで二枚目が飛んでいった。
「おわっ、気をつけろよ!」
「わ、悪ぃ・・・・・・つい」
落ちたカードを一人の男子生徒が拾い、裏向きのまま返してくれる。たまにあることなので、文句や嫌味は言われない。このクラスでは、二人のデュエルは恒例行事なのだ。
「気を取り直して、っと。お、いいカード」
二枚目のカードをデッキトップに戻してから、引いたカードを確認する。これがラッキーカードというヤツだろうか。
「いくぜ、【ハーピィの羽根箒】!」
「ふっざけんな【神の宣告】!」
マモル LP8000→4000
シュートが使ったのは相手の魔法・罠を全て破壊するカード。【蠱惑魔】を始め罠カードを多様するデッキの天敵だ。
「ちぇ、止められたか」
「クソ、なんでコイツこんなに引き運いいんだよ・・・・・・」
止められて不満げなシュートと、彼の強運に冷や汗をかくマモル。これでマモルの伏せカードは二枚になった。
「後は奈落と底なしだろ? 取り敢えず【ドラゴン・目覚めの旋律】、コストは【
サーチしたのは【
「つーわけでオルタナティブを特殊召喚するぜ」
「【奈落の落とし穴】だ。破壊して除外する」
【底なしの落とし穴】では先ほどサーチした【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】のリリース要因として残ってしまう。そのため【奈落の落とし穴】を使ったのだ。
「セラの効果でデッキから【アトラの蟲惑魔】を特殊召喚する」
アトラの効果は【落とし穴】【ホール】通常罠を手札から使える効果と、それらを無効にされない効果。これでマモルは妨害を通しやすくなった。
「手札の【星雲竜ネビュラ】の効果発動、手札の【青眼の白龍】と一緒に特殊召喚するぜ」
「フレシアの効果で【狡猾な落とし穴】を墓地へ送る。その二体は破壊だ!」
これで残った罠は【底なしの落とし穴】のみ。手札に他の罠があるかもしれないが、マモルはかなり堅実なデュエリストだとシュートは思っている。なので、罠を
「【復活の福音】だ、【青眼の白龍】を特殊召喚」
「手札から【電網の落とし穴】発動! 裏側で除外だ」
ほらやっぱりな、とシュートは笑った。残る手札は三枚、突破できるかどうか数秒考え、
「無理だな。【トレード・イン】を発動して【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】をコストに二枚ドロー・・・・・・」
ふう、とマモルは胸をなで下ろした。どうにか展開を止めることができた、と。
「やっぱ何でもねぇ。【妨げられた壊獣の眠り】」
「お前ぇぇ!」
「あっはははははは!」
【セラの蟲惑魔】【アトラの蟲惑魔】は【フレシアの蟲惑魔】の効果によって破壊されないが、フレシアの効果は自分以外を守る効果。彼女は尊い犠牲となり、シュートのフィールドには【怒炎壊獣ドゴラン】が、マモルのフィールドには【海亀壊獣ガメシエル】が置かれる。シュートのこだわりによってどちらもフィールドの
マモルの反応がよほど面白かったのか、数十秒笑い転げるシュート。どうにか息を整えると、デュエルに復帰した。これで彼も復帰勢の仲間入りだ。
「ふぅ、笑った笑った。
【妨げられた壊獣の眠り】で出たヤツは表示形式を変更できない。【底なしの落とし穴】は効かねぇな。
バトル、ドゴランでセラを攻撃」
「フレシアのみならずセラまでも・・・・・・」
マモル LP4000→1800
【神の宣告】を使ったこともあって、マモルのライフは風前の灯火だ。これだから油断できない、とマモルは思う。シュートは彼が気を抜いた瞬間にその強運を発揮するのだ。凌いだ、なんて安心したのが失敗だったのだ。
「んじゃあカードを伏せてターンエンドだな」
マモル
LP1800 手札1
■□□□□
□□海□ア
□ □
□□怒□□
□□□■□
シュート
LP8000 手札1
ア:アトラの蟲惑魔
海:海亀壊獣ガメシエル
怒:怒炎壊獣ドゴラン
「僕のターン、ドロー」
シュートのようにカードを飛ばしたくないため、そっとカードを引く。マモルはカードは一枚一枚大切にするタイプだ。スリーブもシュートが二重なのに対し三重にしているのである。
「ぃよし【ティオの蟲惑魔】を通常召喚! 効果で墓地の【トリオンの蟲惑魔】を特殊召喚!」
これでレベル4モンスターが三体。
「来るぞ、ユーマッ!」
「その前に、トリオンの強制効果でその伏せカードを破壊するよ」
ちぇっ、と軽く舌打ちしながら墓地に置かれたのは【聖なるバリア-ミラーフォース】。破壊しておいて本当によかったとマモルは安堵、するとまた強運が発動するので気を引き締めなおした。気にしすぎである。
「トリオンとティオでオーバーレイ、【No.39希望皇ホープ・ダブル】!
ダブルの効果で、素材を一つ使って【No.39希望皇ホープ】にエクシーズチェンジだ。【ダブル・アップ・チャンス】を手札に加えるよ」
この時点で自身の敗北を悟ったシュートは最後の手札を見る。【冥王竜ヴァンダルギオン】。好きだからと入れているが、今回は使いどころがなかった。
「バトル、ホープでドゴランに攻撃! そしてホープの効果で攻撃を無効にして、【ダブル・アップ・チャンス】! 相手は死ぬ!」
「勝手に殺すなアホッタレ!」
シュート LP8000→1000
そう、確かにライフはまだ残っている。だがしかし、マモルのフィールドには自ら与えてしまった
「ガメシエルでダイレクトアタック!」
シュート LP1000→0
「だぁー、負けたー! つーことでマッチ二本目だ!」
スマホでライフを0にしてから机に突っ伏し悔しがるシュート。しかしそれも一瞬、あっさり切り替えサイドデッキを取り出す。
「えぇー、もうちょっと勝利の余韻に浸らせてよ」
「ヤだね。すぐに巻き返してオレが勝つ」
少しだらけるマモルだが、真剣な表情でデッキを見直す彼に苦笑すると、自身もストレージからサイドデッキを取り出した。
「あ、一応訊くけど。先攻と後攻、どっち?」
「後攻にしとく。なんだ、もうやんのか?」
昼休みの時間は短い。急がねばマッチ戦が終わらなくなってしまうと彼らはデッキを組み替えていくのだった。