ダンジョンでTSロリが不可抗力でヒロインにされるのは何かの間違い   作:ぴえん系紳士

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プロローグ

 突然ですが転生しました。

 

 俺は転生者A。名前はまだない。ある日普通に歩いていたらトラックに衝突して死亡、神様に「君転生ね」と転生させられた非常に美しい王道的転生を果たした、今や絶滅危惧種にも指定されそうな希少な存在である。

 

 死んだことに未練はない。毎日機会的に起きて仕事して飯食って寝ての繰り返しで、ぶっちゃけ何一つとして未練のない灰色の人生だった。両親は事故で亡くし、友人たちも大学卒業を境に会うことはめっきりなく。アニメや漫画も次第に面白く感じれなくなり、最後には無味無臭の乾燥した人生を過ごしてしまっていた。

 

 なんで、ぶっちゃけ今回の生では俺は楽しく、俺らしく生きてみたい。前世ではできなかった分を全部やって、色の濃い人生を送るつもりだ。

 

 そんなささやかな希望を胸に、俺は新たな世界に新たな命として転生させてもらったのだ。

 

 ジャンルは異世界ファンタジーもの。人生を十分に楽しめるように、若干若目な年齢からのスタートを許された。それから、才能を一つもらえることにもなった。

 

 至れり尽くせりとはまさにこのこと。文句なんてあるはずがない。目を覚ました場所が森で、加えて誰もいない一人ぼっちからのスタートも、まあ転生なんてこんなもんだろと割り切れる。近くに建築物…っていうか、めっちゃ背の高い塔がこれ見よがしに建ってるし、ひとまずの指針も準備してくれてるのを考えると、これ以上求めるのは甘えってもんだ。

 

 ただ。ただ一つだけ。言いたいことがある。

 

 あのさぁ、神様。

 

「どうして、俺を女の子に転生させたんですかねえ…(半ギレ)」

 

 そう、俺は女の子として転生していた。何を言っているのかわからないとは思うが、俺だって何をいっているのかわからない。

 

 年は13、4歳ほど。背は小さくて華奢、まだまだ未成熟な部分が多く、幼い印象だ。

 

 腰まで伸びた、柔らかくウェーブ掛かった眩い銀髪。美しい紫紺の瞳。陶磁器のように白い肌は、頬や肩などが柔らかい赤色で染まっていて可愛らしい。

 

 服は…シンプルなゴスロリ風のワンピース。

 

 下着は非常に可愛らしかったとだけ言っておこう。

 

「確かに、容姿能力は完全ランダムだとは聞いてたけどさあ…これはあまりにあんまりだろ」

 

 二十歳を超えたおっさんが、銀髪美少女へ。ビフォーアフターとしてもあまりの激変ぶりについていけないよパトラッシュ…。

 

 でも、そうか…そりゃそうだよな。容姿がランダムなら、性別もランダムか。それじゃあ二分の一を引けなかった俺の運の悪さが悪いと考えれば割り…割り…割り切れ…割り切れ…ろぉ!!!

 

 というか割り切れ。もう事実は変わらないんだから…はあ、どうしてこうなった。

 

「これ以上このことについて考えるのは後にしよう」

 

 なけなしのアイデンティティーを守るため、そして時間の浪費を防ぐために意識を無理やり切り替えて、俺は視線を空の色にかすれた巨大な塔へと向ける。

 

 まずはあの塔の足下を目指そう。早速湧いてきたドキドキに、ニンマリと顔が緩む。

 

 こうして俺の異世界生活は幕を開けた。この先に何が待っているのか、それはきっと、神様だって知らないはずだ。ここから、俺は俺らしく楽しい人生を送ってやる。森の爽やかな空気を吸い込みながら、これからの暮らしについて思いを馳せた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぜー…ぜー…」

 

 や、やっとついた…。息も絶え絶えの死に体の状態で、俺はなんとかあの塔の近くまでやってきていた。

 

 まさかあれから数時間歩くことになるなんてな…。流石異世界、俺の想像を軽々と超えてくる。ってか塔高すぎ。お陰で遠近感がボロボロだわ。

 

 で、塔の足元まで着いた訳だけど…そこには、なんと街が広がっていた。左右に巨大な外壁が立ち塞がっており、ここから見える唯一の門では大勢の行商人で溢れかえっていた。

 

「これは可愛らしいお嬢さん。ようこそ、迷宮都市オラリオへ」

「あ、ど、どうも…」

 

 恐る恐る中に入ろうとしたら、門番に話しかけられる。お嬢さん、とか言われ慣れてたまるかな言葉に頬をひくつかせつつ、社会人生活時に培った作り笑顔を捻り出す。

 

「ここへは何をしに?とはいっても、若者がこの門を潜る理由なんて決まってるか。なりにきたんだろう?冒険者に!」

 

 冒険者。その魅惑の言葉に俺は顔を輝かせた。

 

「ぼ、冒険者、あるんですか!?」

「はは、あるもなにも、世界で唯一の迷宮都市、全てが集う冒険者の街、魅惑のオラリオだぜ?冒険者なんて履いて捨てるほどいるさ。かくいう俺も、元冒険者だしな!」

「お、おおおおお!」

 

 俺は今猛烈に感動していた。何せ異世界にきて初の冒険者との遭遇だ。まあ元らしいけど、俺にとっては関係ない。

 

「あ、あの!冒険者にはどうやってなればいいんですか!?」

「そりゃもちろん、ファミリアに入ることだな」

「ん?ファミリア?」

 

 あれ、予想してたのと違った。てっきり冒険者ギルドみたいなところに行って、手続きしてこいとか言われるのかとばかり。

 

「ふぁ、ふぁみりあってなんですか?」

「神様の作る眷属の集まりだよ。俺たち冒険者は、神様に特別な力…ステイタスを刻んでもらうことでダンジョンに潜れるだけの実力をもらってるんだからな」

「へー!神様かー!…ん?え…か、神様、ですか?」

「ああ。なんだ、お嬢さん、何も知らないんだな」

 

 「よっぽど田舎からきたんだな」と笑われるが、正直目が点状態で固まってる。神様って何それ。ワケワカメなんだが。

 

「神様って、比喩とかじゃなく?」

「何いってんだ。本物に決まってるだろう?」

「は、ははは…で、ですよねー。あはははは…」

 

 何を当たり前のことを、と言いたげに首を傾げる門番のおっさんに、俺はそれ以上何も聞けなかった。

 

 それから数時間後。俺はやっとおっさんが言っていたことの意味を知ることができた。

 

 まずこの世界では、普通に神様が地上で暮らしているらしい。特にここオラリオでは多くの神がそれぞれのファミリアを作って生活しており、遊んだり遊んだり遊んだりしているようだ。

 

 ステイタスっていうのは、ファミリアに入る見返りに神から送られる恩恵のこと。様々な経験を全て組み上げて反映してくれるらしく、ステイタスありとなしでは天と地ほどの差が生じるほどに効果があるらしい。最初はレベル1で、偉業を達成したり、限界を超えたりしてレベルが上がっていく。今最高レベルの冒険者は、レベル7だそうだ。

 

 ステイタスはファミリアによって効果が変わるという訳ではないが、待遇や環境が大きく違うため大手ファミリアから零細ファミリアまで様々。そしてその多くはダンジョンを探索する探索系ファミリアが占め、他には鍛冶、商業系など幅広いジャンルのファミリアが存在するらしい。

 

 以上、ギルドの職員、エイナさんからの情報だ。

 

 言葉の端端から、「まだ若いし…」とか「もうちょっと大人になってからの方が…」とか心配の言葉を挟んでくれる優しい職員だったんだけど…罪悪感がヤバイ。すんません。中身おっさんなんです。騙してごめんなさい…。

 

 まあ、見た目以上には年を取っていると言ったら、半信半疑っぽかったけど一応信じてくれたから問題なし。とりあえずその場は現在募集中のファミリアを紹介してもらったので、早速行ってみることにした。

 

 お金は転生神様からいくらか支給されてたようだけど、無限って訳じゃないしな。早いところ冒険者になって稼がないと食いっぱぐれてしまう。

 

 そういう訳で、しゅっぱーつ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ガキは帰れ!」

 

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな」

 

「大人しく諦めろ。子供の来るところじゃない」

 

「はあ…はあ…お、おじさんと良いことしてくれたら…い、入れてあげるよ…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 俺は無価値な人間だ…。

 

 時刻は夕方、人がまばらになってきたギルドで、俺は死んだ顔をしてソファに座り込んでいた。

 

 なぜって?もちろん、紹介されたファミリアが全滅だったからだ。面接すらしてくれない。顔を一眼みただけでため息をつかれるか怒られるかの二択。話すら聞いちゃくれない。就活の時のストレスを思い出させてくれる結果だった。

 

「あ、あのね…?きっともうちょっと大きくなったら、取ってくれるようになると思うんだ。だから、今は無理をしないで、他の職業を探した方がいいんじゃないかな…?」

 

 後ろでエイナさんが必死に慰めてくれてるけど、ダメージにしかならない。だから俺、もう大人だって言ってんじゃん。

 

「すいません、エイナさん…。紹介してくれたところ全部ダメで…私ができない奴ばっかりに…」

 

 ちなみに、今の私は女性的なアレではなく敬語的な私だ。

 

「そ、そんな!アリサちゃんはどこも悪くないよ!ただ、もうちょっと大人になってからの方が…ね?」

 

 アリサというのは俺がエイナさんに名乗った名前だ。流石に名無しのままだと不便だし、思いついた名前を適当に使わせてもらっている。

 

 それにしても、気のせいとは思うがなんかさっきから完全に子供扱いされてる気がする。

 

「…いや、もう大人なので…」

「そ、そうだよね。大人だもんね…あ!だったら、他のバイトとかはどうかな?飲食系とかだったら、ファミリアが経営してるところもあるから、紹介できるよ!そこでバイトとかしてみて、それから冒険者を目指すか決めてみたらどうかな?」

 

 ダメだ、この人全く信じてくれてない!なんか微笑ましいものみる感じでみてくるし、頭撫でてくるし、完全に子供扱いされてる!

 

「あの、本当に大人なんですってば。20超えてますから…」

「うんうん。だったら、あともう3、4年待てば十分だね!」

「それ三十路超えますからぁ!」

 

 くそっ、最初は優しい人だと思ってたけど、なんて頑固な人なんだ…!

 

「どーして信じてくれないの!?なんでなんでなんでなんでなんで!…はっ!?」

 

 な、なんだ!?い、今のは一体…!?

 

 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ…!俺は自分が大人だと思っていたら、気がついたら足をバタバタさせてなんでを連呼していた…な、何を言っているのかわからないとは思うが俺も何を言っているのかわからねえ…催眠術だとか気のせいだとかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ。現実…しかも衆目の中で、俺は今確かに自分から駄々をコネていた!!!!

 

 …え?マジで何が起こったの?

 

 もしかしてだけど、俺の精神、この体に引っ張られてる…?何それ怖い。あかんでしょこれは…。

 

 はっ…!え、エイナさんの瞳に深い慈愛の色が…。これはまさしく、子供のわがままを受け止める母親の眼差し…!?

 

「よしよし、大丈夫、私は信じてるよー」

「違うんです…本当なんです…ぐすっ…」

「ほら、冒険者になるんでしょう?泣いてちゃなれないよ?」

 

 涙がきらりとこぼれ落ちる。たまらずなでなでぎゅーっとしてくるエイナさん。違うんや、エイナさん…俺は嘘なんかついてないんや…。

 

「う」

「う?」

「うわああああああん!エイナさんのばかああああ!」

「あっ、アリサちゃん!待って!こんな時間に一人は危険だよ!」

 

 違うんやあああああ!俺は夕日に向けて、涙とともに走り去った。茜色の空の下、涙がキラキラと尾を引いて消えていったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふー…よし、落ち着いてきた」

 

 くそっ、なんて面倒な体なんだ。一気に感情が爆発してしまうっていうか、コントロールがまるでできない。これじゃ本当に子供みたいじゃないか。

 

 まあ、一度落ち着けば大人の余裕を思い出してすぐに落ち着けるから、かろうじてなんとかなったが…くそっ、こんなんじゃ冒険者になれない。せっかく異世界にきたのに、冒険者にならないなんてもったいなさすぎるぞ。

 

 でも、どうすりゃ良いんだこれ。八方塞がりな気がする。

 

 せっかく異世界に来たっていうのに、これじゃ前世の俺のまんまじゃないか…。

 

「君、そんなところで俯いて、どうかしたかい?」

「…今、ちょっと人生に絶望を感じてて…」

「本当に何があったんだい!?ほ、ほら、これでも食べて元気だしなよ」

 

 差し出されたものを受け取る。これは…コロッケ?

 

 むしゃりと食べてみると、サクサクの衣とじゃがいもの甘さが絶妙にマッチした旨味が口の中に広がる。

 

「なんこれ、おいひぃ…」

「そうだろうそうだろう。僕の店自慢のじゃが丸くんだからね!」

 

 その声で、俺はやっと目の前の人の顔を見た。

 

「…女の子?」

 

 そこにいたのは、ツインテールの少女だった。背は俺と同じくらい、艶やかな黒髪をツインテールにし、華奢で低身長な体に似つかわしくない凶暴な胸部装甲を、謎の紐で支えている。

 

 その少女は、笑顔のままこてりと首を傾げた。

 

「うん?まあ、女の子だけど…君もだろう?」

 

 あっはい。まあ体だけの紛い物ですけどね。

 

「で、元気は出たかい?」

「…はい、おかげさまで…あ、ありがとうございます」

「どういたしまして。それでだけど、何があったのか聞いても?悩みがあるんなら話してみてよ」

「はあ…」

 

 壁に背を預けてそういう少女に、俺もそれに倣って背をもたれさせる。そして、俺はこれまでの経緯をその少女に、なぜか素直に打ち明けていた。

 

 …と言っても、色々と改変はしている。例えば転生してきたこととか、元男なこととか。なんらかの事情で家に帰れなくなって、生計を立てるために冒険者になりにきたけど、見た目のせいで門前払いされて落ち込んでいる、という旨を話す。

 

「そっか…それは大変だったね。見た目で侮られるのは僕もよくあるからさ、気持ちはよくわかるよ」

「ほっ、本当?…ですか?」

「うん。ほら、僕も見ての通り、背えちっちゃいからさ」

 

 そう言って、俺の頭と自分の頭を手で比べててへへと笑う少女。

 

「ねっ?」

「…ふふっ」

「んふふー」

 

 なんだか、俺まで笑ってしまう。そうして一頻り笑い合うと、そのままの笑顔で少女が俺の手を掴んできた。

 

「ねえ…だったら、僕のところにくるかい?」

「へ?」

「僕、こう見えて神様なんだよ?」

 

 はい?え?神様?この子が?

 

「神ヘスティア。それが僕の名前さ。その、団員は今のところ一人だけだけど、君さえよければ」

「はっ、入るっ!ます!」

「だよねー…僕みたいなへっぽこ神様のところになんて…って、今なんて?」

「だ、だから、入りたいです」

「…ほ、本当かいっ!?」

 

 俺にとって、これは千載一遇のチャンスだ。もう十分みにしみたことだが、俺のような奴を入れてくれるファミリアなんて多分もうない。この出会いは奇跡のようなものなのだ。これを逃したら、もう後がない。

 

「ぃよっし!それじゃ早速拠点に行って、恩恵(ファルナ)を刻もうそうしよう!あ、その前に名前はなんていうんだい?」

「…あー、アリサ、です」

「よし、アリサ君!それじゃあ案内するから、しっかりついてくるんだよ!」

 

 そう言いながら、手を引いて歩き出すヘスティア様。柔こい手のひらの感触を感じながら、俺も歩き出したのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はい、これが君のステイタスだよ」

「お、おおおおお!」

 

 連れてこられた先にあったのは、廃れた教会跡地だった。

 

 ぶっちゃけ最初見たときは頬がひくついたが、実際に住んでいるのは教会に仕掛けられた隠し扉の先の地下だったらしく、俺的には断然アリだったので僥倖だった。秘密の隠れ家を見てテンション上がるのは男の子の性である。今女だけど。

 

 そして、早速ステイタスを刻んでもらった。「服を脱いでベッドに寝っ転がるんだ」と言われた時はなぜか胸を隠して後ずさってしまったが、話を聞くに恩恵…すなわちステイタスは背中に直接刻むものらしく。話を聞いて納得したので、今は大人しくベッドに寝転がっている状態だ。

 

 背中にはヘスティア様が馬乗りになっている。背中をツンツンされたりわざとコショコショされたりして一緒にはしゃぎつつ、作業はつつがなく終わっていった。

 

 そして差し出される紙。ここに、俺の能力が書かれているのだ。

 

 これだよこれ!やっぱ異世界はこうじゃなくちゃ!

 

 ワクワクしながら紙を受け取って、早速中身を確認する。

 

 

 

 

=========

アリサ

所属:ヘスティア・ファミリア

Lv.1

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

 

《魔法》

【人形召喚(オーダーマリオネット)】

・速攻召喚魔法

・人形にダメージが反映されるバリアを使用者の周りに展開

・人形には使用者のステータスが大幅に強化された状態で反映され、使用者はステイタスが大幅ダウンする

・人形を破壊された場合、“ロストマリオネット”状態になり、その間再召喚不可

《スキル》

【人形の姫】

・使役する人形に対し、持続回復付与

・人形の得た経験値を自分に返還する

外ナル神ノ玩具

早熟する

運命が躍動する

飽きられるまで持続する

=========

 

 

 

「…マリオネット」

 

 人形遣い、って奴か。多分、神様が言っていた才能とはこの魔法とスキルのことなのだろう。

 

 想像してたのとだいぶかけ離れているが、戦闘に特化している能力だ。これは大分当たりを引いたと言って間違い無いだろう。強いて気になるところを挙げるならば、この『ロストマリオネット状態』というのがどんな状態なのか文だけだとわからないことだろうか。確かめてみる必要がある。

 

 …ん?スキルの蘭、なんかインクが擦れた跡があるな。

 

「…あれ?神様、ここなんか消した跡ありませんか?」

「んぇっ?い、いや、文字を消した覚えはないよ?」

 

 なんだ。じゃあただの気のせいだな。

 

 それにしても、自分のステイタスを実際に見ることになるなんてなぁ。ウェブ小説やアニメなんかで登場した異世界ものの主人公が経験したことを、今まさに自分が経験していると考えると感慨深いものがある。

 

 この先、どんな異世界イベントが待ち構えているのだろう。今から考えるだけで期待で胸が膨らむ。

 

「ふえへへへ…」

「アリサ君、嬉しいのもわかるけど、そろそろ服着ないと体冷やすぜ?」

「はーい」

 

 それもそうだ、と腰を浮かせて、服を手に取った。次の瞬間。

 

 

「神様ー、今帰りましt…」

 

 

 その時、ウサギのように真っ赤な瞳と目があった。扉を開けた状態で、丸くした目をぱちくりとさせる細身の少年。

 

「…は、初めまして…」

「…こ、こちらこそ…その、あの…ぴぅ」

 

 少年が顔を赤くして崩れ去る。

 

 そして俺もまた、完全に固まっていた。顔がタコのように茹って思考がはっきりしない。あれ?子供に裸を見られたくらいでなんでこんなに動揺してるんだ?と、どこか客観的に思考する自分の意識を認識した瞬間、自分の頭がぼふんと音を立てて熱を放ち、視界がぐらりと落ちて天井を映し出したのを見た。ぴえん。

 

「し、しまった!二人目の眷属ゲットのあまりの嬉しさにベル君帰ってくるの忘れてたあ!?べっ、ベル君!?アリサ君!ふっ、二人とも、しっかりするんだああああああ!?」

 

 グルグルする視界のなか、騒ぐ神様の声だけが響いていた。




久しぶりに書きました。
リハビリ気味に書いていくので、拙い点がありましたらそっと優しくお教えください。
これからよろしくお願いします。
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