フレンが行方不明になった。
今のところ、ガルグ=マクを出た形跡がないことだけは確認されている。
セテスによると、フレンは行き先も告げないまま一人で勝手にどこかへ行くような子ではないという。
だが、大修道院の内部をいくら探っても見つからず、騎士団を動員して街の捜索も開始している。
それと同時に、このところ夜な夜な街を徘徊して人を襲う者がいるという噂がある。
騎士団の調査では、遺体が見つかるなどといったことは起こっていない。
『死神騎士が、その鎌で命を刈りに来る』などと騒ぎ立てる者も出ているという。
今節の課題は「フレンの捜索」。
街は騎士団が、ベレスとクロード達は大修道院の捜索に注力するようにとレアは告げた。
セテスから話を聞いたミティアは誰よりも必死にフレンを探していた。
先日、レアとセテスからフレンの行方について何か知らないか質問されたが正直に答え、ベレスとクロード達がミティアが犯人ではない証拠を二人に報告したため、ミティアの容疑は晴れた。
(フレン…!フレン…!!)
修道院中を駆け回り、その場にいた者から話を聞き、体力を消耗し、息を荒げながらもミティアはフレンを探した。
だが、修道院の至るところを探っても、フレンの姿は何処にもない。
何時間も走り続けて体力が尽きたミティアは足を止め、膝をついた。
ミティアはフレンと交わした約束を思い出す。
『…大丈夫。何かあったら、俺が必ず助けに行くから。フレンを傷付ける奴は、絶対に許さない』
『ミティアさん…ありがとうございます。…ふふ、あなたの手、とても温かいですね』
(あの時…約束したのに…必ず助けに行くからって…それなのに…何処を探しても見つからない……)
「……もっと、隈無く探さないと…!」
力を振り絞って立ち上がり、再びフレンの捜索を始めた。
もし、コナン塔の時、自分が大修道院に残っていれば、フレンを守れたんじゃないかと彼は考えた。
もし、コナン塔で気を失わなければ、フレンを___
頭の中で柔らかい笑顔を浮かべるフレンの姿が思い浮かぶ。
記憶を失い、名前すら思い出せない自分に『ミティア』という名前を与えてくれた。
震える自分の手を優しく握ってくれた。
彼女の笑顔を見ると、心が温かく感じた。
今、ミティアはフレンがいなくなってとても不安な気持ちになっていた。
(フレン…必ず…必ず助けに行くから…!)
ドンッ
と、ミティアは曲がり角で人にぶつかり、尻餅をついた。
「うわっ!?」
「すまない、怪我はしてないか?」
ミティアがぶつかった人物は、ファーガス神聖王国の第一王子であり
「ディミトリ…殿下。すみません、怪我はしてないです」
「ミティアか、こちらこそぶつかってすまない。立てるか?」
ディミトリが伸ばした手を握り立ち上がるミティア。
「顔色が悪いぞ?大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ディミトリ殿下はお怪我はございませんか?」
「大丈夫だ。あと、敬語は使わなくていい。俺とお前は同じ士官学校の生徒だろう?気軽に呼んでくれ」
「わ…わかった。じゃあ、急いでいるから…また…」
フレンの捜索を続けようと再び走り出そうとした時、ミティアはガクッとよろめいて膝をついた。
「ミティア!?」
ディミトリが駆け寄る。ミティアはフレンの捜索に必死すぎて疲労により息切れと貧血を起こしていた。
加えて何も食べずに走り回ったため空腹が襲う。
「はぁ、はぁ…だ、大丈夫だから…それよりも、フレンを……」
「! お前まさか…休まずにずっと走り回っていたのか?」
はぁ、はぁと息を切らすミティア。
だが、それでも彼は立ち上がろうとする。
(ここで休んでいる暇は無い、一刻も早くフレンを見つけないと…)
「……すまないミティア、担がせてもらうぞ」
疲労困憊のミティアを見て、ディミトリは彼を担ぎ、ある場所へ向かって走り出した。
「え!?ちょっ…ディミトリ!?俺は大丈夫だから!」
「そんな状態でまた走り回ったら余計体調を崩すぞ。フレンを助けたい気持ちはわかる…だが、今の状態で見つけ出した時に死にそうなお前をフレンが見たら悲しむぞ。」
「!」
「とにかく、今は少しでもいいから休んだほうがいい。」
食堂____
ディミトリに担がれて食堂に連れてこられたミティアは彼がミティアのために注文したパンと温かいスープを食べた。
「……ありがとう、ディミトリ。少し落ち着いたよ」
「そうか、それはよかった。だが、今日は休んだほうがいい。ベレス先生とクロードには俺が伝えておく。」
「すまない、迷惑をかけて…」
「気にするな。たとえ違う学級でも俺達は仲間だ。もしまた何かあったら手を貸そう。
……ミティア、大切な人を助けたい気持ちは俺もわかる。俺も、ドゥドゥーや
「ディミトリ……」
「…さて、俺はそろそろ戻らないと。ミティアは大丈夫か?良ければ教室まで送るが…」
「いや、大丈夫だよ。ごちそうさま、ディミトリ」
ミティアは改めてディミトリに礼を言って席を立ち、ディミトリは「そうか」と言って教室に戻る彼を見送った。
「…大切な人を失いたくない_か。」
その言葉を呟くとディミトリは食堂から去った。