記念すべき短編一本目です。
パールヴァティーの幕間ネタバレが入ってるので気をつけてください。
番外 レモネード製作裏話
「……パラケルスス、その栄養剤とって」
「貴方も悪い人ですね」
「……あの頼み方はアサシンがズルイだろ」
「仲がよろしいみたいで何よりです」
「今更すぎるが、ありがとさん」
割と珍しく、パラケルススと二人きりで会話を進める。
道具作成に関して言えば、スペシャリストである彼の協力を得られたのは大きかった。
ーーーー少し前
「マスター……お話があるんですけど」
「……ん、どした?」
「その……手伝って欲しいことが、有るんです」
「よし、やろう。今すぐやろう。何すればいい?」
「話が早くて助かります♪」
腕枕を要求してきた彼女が、その状態のまま、満面の笑みで頼み事があると言ってきたので、内容も聞かずに了承してしまった。
嘘をつけないことを利用するとは……中々やるじゃないか。
「で、何やりゃいいの?」
「ちょっと悪戯に協力してもらいたくてですね……」
ーーーーーーー
何を頼まれたか、その答えは俺の手元にある。
それを指で掬いとり、一口味見をした。
「悪くないけど……苦味が残るな。健康面を考えると、迂闊に使用できる素材も考えないといけないから……」
「ああ、それなら対ヒュドラ毒用の没案が合うと思いますよ?」
「それ、問題ないやつ?血清とか混ざってない?」
思ったよりもヘビーな薬を候補に挙げられたため、食い気味にツッコミを入れてしまう。
「はい……問題ありません。それにしても、貴方を見直しました。カーマさん一人に固執しすぎている、そんな印象を抱いていたのですが……休息日にも関わらず、皆のためを思い、簡単にエネルギー補給のできるドリンクを作ろうとしているとは……」
「ハハハハ……ソレホドデモナイサ」
(言えない。ラン……パールヴァティーに一泡吹かせるためだけに、アサシンからの依頼で超高カロリーレモネードを作ってるなんて……言えるわけない)
引きつった笑いを顔面に貼り付けながら、調合を試していく。
パラケルススからアドバイスを貰った効果はかなり大きく、味は申し分ないものになってった。
英霊にとってのカロリーの様なもの、霊体構成・燃焼魔力用のリソースをたっぷり山盛りに詰め込むことで、一杯で十……五食分は下らない、という鬼の様なカロリー量を確保したレモネードが完成したのである。
アサシンからの要求には応えられている一品に仕上がったのだが……それなりに手が込んだ作業だったので、ここまで来ると、さらに美味しいものを目指したくなってきた。
しかし……
「……味見で腹が膨れてきたな」
「私が手伝いますか?」
思わず、そう呟くと隣にいたパラケルススが協力を申し出てくれた。
……しかし、なんだろう。
ダ・ヴィンチちゃんにも渡そうと思っていたので、全くの嘘を言っているつもりはないのだが……罪悪感がすごい。
「いや、多分……うん。お腹を減らしたサーヴァントなら、幾らでもいるからな……適当に売り捌いてみることにするわ。感想を聞いたら、軽く弄る……これ繰り返して、レポートみたいに纏めてくるから、そんときに力借りると思う」
薬品を載せておいた三段式のワゴンを整理して、一段目に試験薬……いや、レモネード1号を載せ、二段目と三段目には調整に必要そうな薬品をパラケルススに見繕ってもらい、準備は万全だ。
「それでは、また」
「おう、行ってくる」
俺は適当な奴に声をかけて行こう……そう、軽く考えていたのだ。
「フハハハハ!面白い、よくぞ此処まで無駄な努力ができるものよ!無駄な一手間に全力をかけるその姿、我が好むものではないか!」
「……ちょっと、アンタ!?鬼カロリーって……そういうのは先に言いなさいよ、先に!燃やすわよ!?」
「オルタ……今のは、説明する暇も与えず、レモネードを一気飲みした貴方が悪いですよ」
「わかってるわよ!」
「の、飲んじゃった……私、何も考えずに、全部飲んじゃったよ!?」
『イリヤさん、気をしっかり!』
「イリヤ、しっかり……よくも、イリヤを!」
「み、美遊!?落ち着きなさいよ!」
『美遊様、落ち着いてください』
「……ふむ、手間がかからず高カロリー、そして十分に美味しい。中々、実用的な飲み物ですね!」
「ジャンクフードの類にも似ている、か。結、それを寄越せ」
「な!ちょっとこのカロリー量おかしくないですか!?これでは、華奢で可愛い沖田さんはともかく、ただでさえ丸めのチビノブ達の体が!」
「ちょ、待つんじゃ!ワシは飲むつもりはーーー」
「「「ノブノブ!」」」
「ギャァァ!?」
愉悦王にWジャンヌにチーム魔法少女、Wトリアと来た後には、ぐだぐだ組まで大集合。
「誰が!ここまで!大事にしろと!」
『ん……?少し休んでいただけなのに……何してんのよ、結』
馬鹿騒ぎの中心で嘆いていると、昨日の夜から意識封鎖をして睡眠に近い状態だったオルガが話しかけてきた。
「知らねぇよ……俺は、悪くない」
『何かした人は、大抵そう言うのよね……』
◇◆◇
再び時を遡り、少し前。
「……さてと、誰に声をかけようか」
「……おや?人を探しているのかね、結?」
ポツリこぼれた独り言に、後ろから声をかけてきたのは、エミヤだ。
どうでもいいのだが、オルガが住み着いたことにより、無自覚独り言症候群が悪化している。
「急に後ろから声かけんなよ。ビックリしただろ……ま、料理もできる上に多少雑に扱われても問題なさそうな幸運E……丁度いいか」
「なんだか、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのだが……それは何だ?」
「……試作中のレモネード。味見してくれ、もうちょっと味に拘りたい」
「ほう……では、一口」
何も聞かずに、ゴクリと一杯飲み終えたエミヤは、少し考えた後、纏めた意見を口にした。
「味は確かに悪くない……ただ、作られた味である、ということが一番の問題かな?もう少し果実らしさを意識してみるといい……」
「サンキュー、流石頼りになる」
「ああ、完成したら教えてくれ。楽しみにしているよ」
最初からいい味見相手に巡り合えたものだ……そう思った矢先のことだった。
奴が
「おっと、コレは!レモネードの無料販売かにゃー?」
「無料の場合は、販売じゃねぇだろ……」
ジャガーマンが現れたのは……
そして、たったの3分後
つまり、現在。
『それは……気の毒ね』
「ジャガーはもうジャガーだからジャガーなんだよ……」
『言語能力が著しく低下してるわよ』
廊下を歩いてこちらに向かってきた愉悦王に気を取られていた……つまり、ジャガーマンから少し目を離したときには、時遅し。
大勢のサーヴァント(今いる方々)が集まってきていた。
さらに、何人かは、高カロリー摂取手段の実験中である、という事情を説明する間もなくレモネードを飲んでしまっていたのである。
流石ジャガーマン、歩く騒音の異名は伊達じゃない。
「ダイエット……ダイエット……」
「その歳で気にする必要はないと思うが……イリヤは今度、アサシンと一緒に運動にでも付き合ってやるから……オルタちゃんは適当に頑張って!」
「扱いが雑なのよ!?」
呆然とした様子の魔法少女に声をかけ、オルタちゃんを弄ってから、騒動の原因がいなくなっていることに気付く。
「おい、あのジャガーどこ行きやがった!?」
「あれれ〜、一応神様にゃんだけどなー!?」
「逃げるなら、味レポしてからにしろや。この珍獣サーヴァント!」
神への敬意ゼロである俺の怒号に、どこか遠くでジャガーマンが反応する、そんな様子を見ながら、一人のサーヴァントは呟いたのだった。
「本当に……無駄に真面目なんですから」
◇◆◇
「お疲れ様です。随分と……窶れましたか?」
「いや、気にしなくても大丈夫。色々聞いてきたよ……といっても、厨房サーヴァントとキンピカ坊ちゃんぐらいしか、真面目に答えてくれなかったけどな」
「十分です、メモは?」
「持ってる」
パラケルススの元へと戻り、最後の仕上げを終わらせる。
覚悟の上で、ほんの一口飲んだそのレモネードは確かに極上の物に仕上がっていた。
「いやぁ、満足……このレシピで量産するとして……うん。今残ってる分だけど、俺が持ち帰ってもいいか?やりたいことがあるんだが」
『……はぁ。本当に、アレをやるの?私、よくわからないわよ?』
『問題ないから、安心しろ』
そう許可を取ろうとした俺に、残ったレモネードで、何をしようと考えているか知っているオルガが確認をしてくるが、大丈夫。
いざとなれば誰かに手伝ってもらう。
「ええ、もちろん……それにしても、貴方は調合の才能を持っていますよ。暇があって気が向いたら、また私を訪ねてください」
パラケルススは笑顔で俺に許可を出すと、予想外のことを言ってきた。
……飄々とそういうことが言えるのは、少しズルイと思う。
「ん。助かった。それと、結構楽しかったよ」
「それは良かった……それでは」
「じゃあな」
『お邪魔したわ』
結がパラケルススの元から離れていく。
そして、しばらく経ってから……
「……?誰か来ましたかね……おや、貴方は」
◇◆◇
パールヴァティーに、アサシンがレモネードを飲ませることに成功したらしい。
……その後、結構滅多打ちにされたらしいが。
その騒動があったその日、俺はアサシンと共に夕食を食堂でとっていた。
「……大体、ほんのちょっとカロリーをとっただけで、怒るなんてーー」
未だにブツブツと隣で呟き続ける彼女に、軽くお灸を据えてやることは最初に頼みごとをされた際に決めていた。
そのため、一言断りを入れてから厨房に移動して、冷蔵庫を開く。
冷え切った飲み物の隣に、置いておいたその物は存在した。
「……ま、コレでも食って落ち着けって。ゼリー作ってたんだよ、少し前だけどな」
「……むぅ、仕方ないですね」
アサシンの前にそれ……作っておいたゼリーを置く。
少し驚いたような表情を浮かべた彼女だったが、笑顔を浮かべて俺にそう返答してきた。
ゼリーを口に運び、美味しそうな表情を見せる彼女に言う。
「……悪い、ちょっと便所。先に部屋戻ってるわ」
「わかりました。食べ終わったら、私も行きますね」
便所……というのは嘘であり、そんな嘘をついた理由は一つしかない。
騒がしくなるから、である。
ベッドに腰掛けて、読みかけだった本を開く。カルデアの図書館は結構利用尽くしたと思っていたのだが、最近になって地下図書館というクソデカ神施設があることが判明したので、暇つぶしには困らなそうで安心である。
因みに読む本はオルガと交代制で決めている。
数分の間、読書を続けているとオルガから連絡が入った。
『来たわよ、結』
それを聞いて、本を机に置いた。
心してその瞬間を待つ。
「ちょっっと、ますたぁぁぁあ!!?」
そして目の前でドガンっと音を立てて、自室のドアが吹き飛んだ。
その先に、顔を真っ赤に染めたアサシンの姿がある。
そんな、彼女に俺は言うのだった。
「お帰り、アサシン。レモネード五杯分を凝縮させて作ったゼリーは美味しかったか?」
「五杯は多過ぎですよ!?何してくれてんですか!……ま、私は問題なーー」
手を打たれる前に、次のステップに進むことにした。
「れーじゅを持ってめーずる」
『「……は?」』
「体重戻すまで、姿の変更禁止ね」
「ますたぁぁぁ!!!」
「いや、人にやられて嫌なことはしちゃダメって、身をもって知ってもらおうかと」
『親か、何かかしら……』
騒がしく賑やかに、平穏ではないが幸せな日々が過ぎていく。
これはその、ほんの1ページ分の物語。
後日談 その一
「ちょっと、結君?昨日、令呪一画分の魔力量がポンっと消費されていったんだけど、何か知らないかい?ねぇ?」
「いや、ちょっとノリで……ごめんね、ダ・ヴィンチちゃん?」
「そこに、正座!!」
「あ、代わりにカロリー補給用のレモネードができましたよ?」
「もう貰ったよ!」
「……仕事が早い」
しばらくダ・ヴィンチ工房でタダ働きしている結の姿があったのだとか。
後日談 その二
「よっ、パラケルスス」
「よっ、です。結……そして、カーマも久しぶりですね」
「……な、何のことですかね」
食堂にやってきたら、偶々パラケルススと同席することになった。
アレからボチボチの頻度で彼の元を訪れて、調合系統の技術や知識を蓄えさせてもらっている。
……オルガの方が筋がいいのは腹立つのだが。
軽く挨拶をしたところで、疑問を持った。
「アサシンと話したことはあったのか?」
「…………あぁ、そういう。いえ、全くありませんよ?」
「はぁ、そうか?」
少しアサシンの方向へ目を向けると、何やら顔を真っ赤に染めて首を振っていたので、醜態を晒したことがあるらしい。
子供サーヴァントと追いかけっこでもして、廊下で転倒したとか?
アサシンに疑問の意を込めた視線を向け続けていると、根負けしたようでため息を吐いた。
「はぁ……マスターが無駄なことしなければ、もっと前に渡す予定だったんですよ」
そして、トコトコと厨房へと歩いていく。
あっ、待ってエミヤ。その子入れてあげて!?
厨房前でエミヤとアサシンがわーわー騒いでいるのを見かねて、パラケルススが席を立つ……お前、そんなに面倒見良かったか?
暫くして、一本の飲み物を持ってアサシンが帰ってきた。
「…………ん」
『……そういうことね』
そして、何も言わずに彼女はそれを差し出してくる。オルガさんは、なんで今のでわかるんですかね?
「ん、って……これは?」
「その……偶々、アレです。……その、私だけがカロリー取るのもアレだと思ったので……仕返しに自作したレモネードです!」
「仕返しに力入れすぎてません!?」
「『……はぁ』」
パラケルススとオルガが同時にため息をつく。アサシンは"やってしまった"とでも言いたげな表情を浮かべた後
「ちょっと、適当に走り回ってきます!」
と謎行動に出て、走り去ってしまった。
渡された飲み物をどうしたものかと眺めていると、パラケルススが話し始める。
「ちょっと独り言を呟きたい気分なので……気にしないでくださいね」
「……?」
「鬼カロリーレモネードを作り終えた日から、三日ほど訪問者がいましたが……その人に調合の才能はありませんね。おっちょこちょいというか、ドジっ子というか。素直じゃないので、わからないことを聞くこともできない……そんな子が居たんですよ」
「……」
「お礼を言いたいと言ってましたね。誰かはわからないが、自分の悪戯に真剣になってくれる、そんな人のために疲れの取れる美味しいものを作りたい、そう言って頭まで下げてきたのでーーー」
暫く黙っていたが、そこまで聞いてから勢いよく立ち上がり、その飲み物を手に取った。
「……どうかしましたか?」
パラケルススの穏やかな表情をした問いに、ニヤッと笑いながら答える。
「ちょっと、適当に走り回ってくるわ」
速攻で確保されたアサシンの顔が真っ赤に染まるのだが……それはまた別の話。