カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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3話 譲渡

 夜の見張り番。

 先程まではアサシンも一緒に起きていたのだが、彼女は姿に精神年齢が釣られるところがあるため、眠気には勝てなかったようだ。

 胡座をかいている俺の膝の上で丸くなっている彼女は、すやすやと幸せそうな寝顔を見せてくれている。

 その白髪に手を乗せ、優しく撫で始めた。

 久しぶりの撫で心地の良さに感動していると、何やら彼女は寝言を呟く。

 

「……すたー……して、あげます、からね」

 

 何を言っているのか聞き取ることはできなかったが、嫌な夢を見ているわけではないらしい。

 サーヴァントは夢を見ない。

 それが常識らしい……しかし、記憶を思い出すことは、有るのだと。

 せめてそれが良いものであるように、と祈っておく。

 

 

 そして、気持ちを切り替えた。

 目下の問題に目を向けることにしたのだ。

 

 彼女が後悔しないで済む方法は、たった一つしかない。

 

 死ぬことを受け入れた上での……最後の望みを叶えてやる。

 

 

 何気なく向けた視線の先にあったのは、藤丸とマシュ、そして彼女が三人でくっついて眠る光景。

 そんな彼らの姿は、まるで仲の良い姉妹のようで、見ていて心が温まる。

 

 

「アーキマン……聞きたいことができた」

 

 だからこそ、俺は自分にできる最善の行動を取り続けるしかないのだろう。

 

 

 

 

 時間は経過し、数時間後。

 

 何故かついてきていたらしいフォウさんと戯れあっていたり、飽きることのなく心地の良さと温かさを、彼女から感じたりと、有意義な時間を過ごしていると邪魔が入った。

 

「……キャスターか。アサシンを起こさないでくれると嬉しいんだが?」

「悪い悪い、もちろん、そこは気を使いますって……にしても、へぇ……驚いた。お前さん……本職は戦士か?」

 

 背後から近づいて来た彼に、そのまま声をかけると興味深そうな声音でそう問われた。

 

「ノーコメント……少なくとも完全に魔術師ってわけじゃないよ」

「だろうな、どちらかといえば……アンタは()()()()()だ」

「……戦闘中毒者と一緒にされたくない」

 

 彼のクラスはキャスター。

 

 藤丸たちに協力していたサーヴァントであり、その真名は、クーフーリン。

 アイルランドの光の御子、超一流の英雄なのだが……

 

「そっちこそ、なんでランサーじゃないんだよ……」

「幸運はDに上がったんだけどな?」

「それで上がったとは、難儀なもんだな……」

 

 その代名詞ともいえる必殺の槍。

 魔槍ゲイ・ボルグを扱うのであれば、クラスはランサーであるはずなのだ。

 しかし、実際に現界しているのはキャスターの姿……生前に、ルーン魔術というものを叩き込まれたらしく、キャスターとしての適性を持ち合わせていたのが原因なのだと。

 

 俺の隣に座り込んだキャスターは、俺の腕の中で無防備な寝顔を見せるアサシンの姿を見て、ニヤリと笑う。

 

「愛されてるねぇ……坊主」

 

 

 その言葉に、思わず笑ってしまった。

 

 

「そんなこと、言われなくても知ってるよ」

 

 

 ポツリ、ポツリと会話を続ける。

 時々、竜牙兵やらゾンビだかが湧き出て来たが、その殆どはキャスターの使ったルーン魔術により、俺たちに気付くことなく去っていく。

 何かの間違いで、近付いて来てしまった相手はキャスターの手で焼き尽くされた。

 

 見張り番は交代制、なんて藤丸は言っていたが……そんな約束を守るつもりはなかった。

 キャスターも同じ考えだったようで、約束の時間を過ぎようとこの場を離れようとしない。

 

 結局、彼女らが気持ちよく目覚めるその時まで、俺とキャスターは雑談及びこれからの方針について話し続けていた。

 

◇◆◇

 

 

『さて、各自休憩も取れたようだからね……キャスター、これからの方針は決まっているかい?』

 

 ロマンの声に、キャスターが反応する。

 

「もちろん……俺たちがすべきことは、セイバーの撃破。これに限る」

 

「セイバー……何で?」

 

 俺と所長は何となく気がついていたので、藤丸が素直に質問しているのを見ると、なんだか微笑ましいものを見ている気分になる。

 

 

「セイバー以外の英霊は、既に聖杯戦争から退場してるからだ。シャドウサーヴァントになった奴らも、俺がランサー。俺と嬢ちゃんでアサシンとライダーに坊主達が、アーチャーを撃破。残りは動くことのない、バーサーカーだけだから……奴、セイバーの護衛はもういない」

 

 やはり、俺たちがレイシフトしてきたこの時代の冬木市では、聖杯戦争が行われていたのだ。

 ……それが、何かしらの影響を受けて変質した。

 

 よってセイバーを仕留める。

 ……この聖杯戦争を終わらせることで、今冬木に起きている異変は収束する。

 ロマン曰く、時代が安定したものになれば、安全な状態でのレイシフト帰還が可能になるのだとか。

 ついでに聖杯を持ち帰れば、カルデアに帰ってからの助けになること間違いなしである。

 なんてことを藤丸に説明する所長の姿を、キャスターと共に眺めながら、アイコンタクトをとる。

 

「それじゃ、盾の嬢ちゃん、対セイバー用の特訓……宝具使用のために俺と模擬戦をしようか……マスターの嬢ちゃんも手伝えよ?」

 

 そう言って二人を引き摺って行ったキャスターを所長と二人で見送る。

 予め、アサシンには霊体化をしてもらっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらが二人で話したかったことを、彼女は察しているようで、所長は何も言わずにこちらを見る。

 

「……それで、気持ちの整理がついたか?」

 

「……ええ」

 

 小さく、しかし確かな音にして彼女はそう返答する。

 

「んじゃ……聞くよ。お前は、どうしたい?どう生きたい?そして……どう死にたい?」

 

 彼女の最後の願いに、全力で応える。

 それが、ロマンからこれまでの彼女の人生を聞いた時に、俺が決めたことだった。

 

 生存の未来はあり得ない。

 

 なぜなら、彼女は既に死んでいるのだから。

 

 レイシフト適性を持たない彼女が、この冬木にいる理由。

 それは身体を失い、残留思念として残った彼女の精神体だけがこちらに飛ばされてきたからである。

 皮肉にも身体を失ったことにより、彼女はずっと求め続けていたレイシフト適性を得たのだ。

 

 ここに存在している以上、彼女は既に死んでいなくてはならない。

 そこに矛盾が生じることにより、死との結びつきが余計に強まっていた。

 

 

「私は…………私は……まだ、死にたくない」

 

 

 所長が涙を流す。

 その悲痛な叫びに言葉が、出なかった。

 

 

「だけど……」

 

 しかし、『マシュを助けたい』そう言った藤丸と今の彼女は同じ目をしていた。

 

 

 

 彼女にも……

 

 

 名門に生まれ、期待に応えられず……プレッシャーに押しつぶされた。

 挙げ句の果てにレフ・ライノールに依存して、色々拗らせた結果……まともな友人の一人もいなかった。

 

 

 そんな彼女にも……

 

 

「そこはもう、()()()()()

 

 

 意志を貫く強さだけは残っていた。

 

 吹っ切れたのかもしれない、もう次はない。どうせ死ぬならば……そんな考えなのかもしれない。

 それでも……

 

 

「今まで、何も成し遂げられなかった。誰も認めてくれなかった。死に物狂いで努力しても……適性がなくて、責任に押し潰されて自棄になった……それでも、私は……」

 

 

 一人の少女が、自分だけの願いを口にする。

 

「形として、私のいた意味を……存在理由を残したい……今、認められなくても構わない、()()()()()()届くのならば、それでいい」

 

 

 

 だから、と少女は呟いて。

 

 

 

 

「私の持つ全魔術刻印を、あなたに譲渡する。それが、私の願いです」

  

 

 

 そう言った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 隣には魔術師としての能力を大幅に落とした、所長が眠っている。

 魔術刻印の証は、左腕に現れていた。

 しかし、肉眼で見えるものがそれ一つである、というだけで腕を回せば、体が軋むような感覚が全身に走る。

 彼女が俺に移植した魔術刻印の量は、少なくとも、俺の魔力三人分以上はありそうなほどで、しばらく慣れるまで魔術回路に魔力を通さない方が良さそうだった。

 

 慣れた後は、世界が変わるだろうけど。

 

 なんて、思っていたら

 

 

「……反吐が出ます。ただのバカじゃないですか、自分が努力したことを他人に押し付けて……いつか誰かの役に立ちますように、なんて偽善にも程があります。認められたい、家名に囚われず自分個人を見てほしい。そんな、悍しくて傲慢な考え方をする……さぞ、心地いいんでしょうね。そんな快楽主義にマスターが付き合う理由が、私には、わかりません……快楽を与えて堕落させるのが好きな私には、やり切ったような顔をして、満足したような表情で快楽を感じる、なんてものは気持ち悪い以外の何物でもないんですけど」

 

 

「久しぶりのダウナーモードじゃん。原点回帰でもやってんの?」

 

 

 うちの女神様が拗ねてた。

 胡座をかいて、こっちおいでと手招きすると定位置へとやってくる。

 

 

「マスターは、本当にペースを乱さないですよね……あの女の頼みをあっさり了承して、私が契約していたので、無理矢理捻じ込みましたけど……本来のマスターじゃ、耐えきれない量の魔術刻印を押し付けてきましたよ、彼女」

 

 

「もしかして、俺の中に異物が混ざった気がして、機嫌悪いとか?」

 

 

 瞬間、茹で蛸のように彼女の顔が真っ赤に染まった。

 

 

「……………………違います」

 

 

「冗談のつもりだったんだが……図星でしたか」

 

 

「違いますよ!」

 

 

「可愛いなぁ、お前は」

 

 

「ああ、もう!デレ期は昨日で終わりです!どうせ一緒にいられるなら、しばらくは愛の神らしい威厳を……って、撫でないでくださいよ!?」

 

 

「え、やめたほうがいい?」

 

 

「………………やりたいなら、勝手に続けてください」

 

 

「ほんとに可愛いなぁ、お前」

 

 

「うぐ……むぅ…………」

 

 

 文句を言えなくなってしまった彼女に、少し意地悪な質問をしてみることにする。

 

 

「でもさ……カーマ?」

 

 

「はい?」

 

 

「意志の強い女性って、嫌いじゃないでしょ?」

 

 

「…………煩いです」

 

 

 キャスターたちが特訓から帰ってくるまで、全力でイチャイチャしていたのはまた、別の話。

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