(0とは言ってない)
「話はできたようだな?」
「お陰でね……そっちは?」
「上出来、上出来、真名開放までは至ってないけどな……今できる最善は尽くしたぜ」
「後はじゃあ……」
『うん……決戦だけってとこだね。準備は大丈夫かい?』
「あったりまえだろ」
「三週間程度は魔術を使えないけど、別に大丈夫だな」
「「それは大丈夫じゃない!?」」
野郎どもが輪になって、これからの話をしている横には……
「マシュ・キリエライト、マスター共々ただいま、帰還しました」
「相変わらずアサシンと仲良さげだなぁ、あの人……よしっ!マシュ、私たちもイチャイチャしよう!」
「ええ!?」
「ふじま……立香、何バカなこと言ってるのよ。マシュが困ってるじゃない」
「「所長がデレた(ました)!?」」
「そんなに驚くこと!?」
ゆる百合な空間が立ち込めている。
その誰もが分かっていた……決戦が近づいていることを。
そして、一部の者たちは知っていた。
彼女に、残された時間は僅かだということを。
「それじゃあ、手筈通り行きましょう。キャスター、セイバーは大空洞……大聖杯の前で私たちを待っている……それで間違いない?」
「ああ……アイツがあの場所から動くメリットがないからな……にしても、嬢ちゃん。良い顔で笑うようになったじゃねぇか」
所長が柔らかな表情で、指示を出していく。
最後の最後に吹っ切れることができたのだろう、重圧から開放された彼女からは、今までなかった余裕のようなものを感じられた。
「……一応、ありがとうと言っておくわ。マシュ、藤丸二人とも異常はない?ロマニ、二人のバイタルは大丈夫かしら?」
「所長が……生き生きとしてますね!」
「うん、流石所長って感じ!」
『……うん、そうだね。……コホン、異常なし、二人とも体調は良好なはずだ。君もいいね?』
「……ふぅ。問題ない」
だからこそ……俺やロマンの心には、確かな痛みが残っているのだろう。
漸く普通の少女のように、本心からの行動を取れるようになった彼女が、生存できないことを本当に悔しいと感じている。
「……もうお疲れ?」
視線を送っていたことに気がついたのか、所長が話しかけてきた。
アサシンはもちろん引っ込んでいる。
……協調性皆無なんだよなぁ、あの子。
「……な訳あるかよ。全身筋肉痛ぐらい全身がジンジンしてるだけだ」
「……それ、結構辛いわよね」
「誰のせいだと思ってる」
所長に軽口を返していると、彼女は楽しそうに笑って小声で言ってきた。
「大丈夫……やり残したことは、ないの。そのお陰か、ちょっと心に余裕ができたみたい」
「……そうか」
「だから……気にしないでね」
そう言って、彼女は藤丸たちの元へと戻っていった。
気にしないで、か。
「マスター……大丈夫ですか?」
珍しく、彼女が声をかけてくるぐらいだ。
俺も、気持ちを切り替えないといけない。
「……そんなに大丈夫じゃないけど」
「……?」
「お前が居れば、問題ない」
確信を持って言えることだけを口にする。
……気にしないで、なんて言われて、気にならないわけないだろ。
街中を抜け、山道を抜け、遂に大空洞の入り口へと到達する。
キャスターに藤丸、マシュ、そして所長のいう順に、その洞窟内に入っていく。
俺も行くか……そう思い洞窟へと足を踏み入れた瞬間のことだった。
『後方から、急速な魔力生命体の接近!この魔力量、この前のシャドウサーヴァントの比じゃない!?』
「マスター、どいてください!」
いつも通り慌てた様子のロマンと、本当に、珍しく余裕なしのアサシンの声が同時に聞こえて……
轟音。
気づいた時には、目の前に岩で出来たような大剣があって……鈍い痛みと共に、視界が暗転した。
◇◆◇
少女を守る。
誓いを立てたあの日から……ずっと、その森を徘徊し続ける、怪物がいた。
人が消えても
街が燃えても
黒き聖剣に、その身を滅ぼされようとも
蘇り、蘇り、蘇り、蘇り……
そして、また森を徘徊し続ける。
いつしか怪物は、冬木市郊外にある、かつての城跡に立っていた。
守るべきものが、既に存在しないと理解した怪物は、初めて怒りの声を上げる。
叫び、狂い、破壊を繰り返した末に一つの目的を見つけた。
森を離れ始める。
理性を失い、存在理由すら失った怪物は、
自分を殺せる存在に、飢えていたのだ。
◇◆◇
吹き飛ばされたマスターを見て、一瞬血の気が引いた。
しかし、相手の武器が斬れ味に特化したものではなかったこと、そしてキャスターの存在により彼の命は残っている。
防壁のルーンを展開していたあのキャスターには、一つ借りを作った形になってしまったが……マスターの胴体がプッツンしていないので、いくらでも我慢しよう。
気に食わないが、あの死人同然の女にマスターを回復させるように頼んでから呟いた。
「……はぁ、もう最悪です」
自分のことながら、呆れてしまう。
マスターだけを連れて、逃げ切ることなど容易だろう。
なのになぜ……
「どこの誰だか分かりませんが……目障りなので、消えてください」
私は態々、面倒な道を選ぼうとしているのだろうか?
正面で大声を上げる巨人の姿を横目に、自嘲の笑みを浮かべながら思考する、
カルデアとかいう彼らへ情が移ったから?
否
マスターのお人好しが感染したから?
否
スリル感満載の戦いに快楽を得られる戦闘中毒者だから?
もちろん否である。
もっと単純で、もっと子供らしい簡単な理由。
アーチャーを相手取った時には、無理矢理抑え込んだ……その感情の名は怒り。
ここまで彼に惚れ込んでいるとは、自分でも思っていなかったのだ。
誰だって、好意を寄せている相手を傷つけられれば、多少なりとも怒りの情が湧く。
要するに……それだけである。
「私のマスターに……何、手を出してくれてるんですか?」
『ま、待つんだ、アサシンのサーヴァント!いくら、神霊である君でも』
「マスター以外が、私に命令しないで欲しいんですけど?」
『ごめんなさい』
「……ドクター」
アサシンの一言で、発言を撤回して謝ってしまう情けないロマンの姿に、藤丸がジト目を向ける。
その様子を見ながら、勇敢にもマシュはアサシンの隣に立ち、言い放った。
「私が攻撃は受け持つので、アサシンさんはーー」
「死にますよ?そんな脆弱な守りでは」
「うぐっ……せ、先輩ぃぃ」
続き様にマシュも撃墜され、彼女は藤丸の元へと駆け戻っていく。
マシュをよしよし、と宥めながらも藤丸はキャスターへと視線を送ると、傍観していた彼は渋々と言った様子で腰を上げた。
「俺は、足手纏いにはならねぇよ」
「……じゃあ、巻き込まれて死なないように気をつけてくださいね?」
「……え?」
身体無き者としての属性を強めた彼女は、蒼の炎をその身に纏い、巨人の前に立ちはだかる。
「ちょっとぉ……っぶな!?」
そして、英霊の目にも、完全には捉えらないほどの速さで、金剛杵を操作。
途中キャスターにぶつけかけたが、ギリギリで避けているので気にしなくて良いだろう。
不規則な動きで巨人を殴打し続けていれば、巨人はアサシンの方向へと飛びかかってくる。
「全て
「ーーーーー!」
アサシンはそれを待っていた、と言わんばかりに練り上げられた高密度の蒼炎を、巨人へと叩きつける。
言語能力に問題があるらしく、獣の咆哮じみた雄叫びを上げる巨人は、全身の所々を灰へと変えつつも動きを止めない。
しかし、アサシンに慈悲はなく、既にボロボロの巨人へレーザーやら、金剛杵による連続殴打で追撃を続ける。
一方的に攻撃を放ち続けたアサシンは、巨人を近寄らせずにダメージを与え続けて……
「……チッ、無駄にしぶといですね……」
舌打ちをして、攻撃の手を休めた。
恐らく相手はバーサーカークラス、得意の魅了はかなり強めの狂化スキルに掻き消されているのか、宝具でも撃たなければ動きを封じられそうになかった。
マスターがダウンしている今、どれだけ相手の装甲を削り続けたとしても、決め手にかける。
アサシンに隙ができたことに気が付き、その巨人は急加速する。
「……はぁ……外さないでくださいね?」
敢えて隙を見せたアサシンがそう呟いたのを聞いて……
「抜かせ!このクーフーリンが、キメ技を外すかよ!灼き尽くせ木々の巨人『
キャスターが宝具を展開した。
それと同時に、巨人が飛びかかっていく先に、巨大な手が生成される。
アサシンへの攻撃に意識を回していた巨人の防御意識は極めて低下しており、巨人はその手の中に掴み取られた。
そして、細木の枝により構成されたその腕は、巨人を握り潰しながら燃え上がる。
抵抗し続けるも、アサシンに削られた装甲ではキャスターの宝具を耐え切ることなど出来ずに巨人は消滅していった。
「……なんだ、一回か?つまらねぇな」
その後放たれたキャスターの問題発言により、万全の巨人は十二回復活する上に今より強い、その情報を聞いた藤丸たちは、あまりの強さにドン引きすることになる。
◇◆◇
「……アサシン、これは?」
「何か?」
「いや……これ、膝ま」
「何か?」
「……何でもないです」
「あなた達、人が回復してる最中にイチャイチャしないでくれる!?」