「……ん、ここはーーーって眩しっ」
目を開く。
太陽を直視してしまい目がやられた。
チカチカする目を擦っていると、隣からテンションの高い立香たちの声が聞こえてくる。
『どうやら、無事にレイシフトできたようね……取り敢えず、そこは安心するべきところかしら』
脳内オルガさんが呟く中……目元を擦り、パチパチと瞬きを繰り返す。
そして……それが幻覚ではないことを確認してから言葉を漏らした。
「アレ……何?」
空に浮かぶは、巨大な光の輪。
その大きさは、とても肉眼で計測できるものじゃない。
暫くアサシンを含めた三人そろって、呆然としているとアサシンがポツリと言葉を漏らす。
「マスター……私、あなたが以前言った言葉を思い出しました」
「俺、なんか言ったっけ?」
「わからないことは、取り敢えず先送りにしておくのが楽でいい……と」
『……貴方、何教えてるのよ』
「ダメ人間に興味があるみたいだったので……」
少しずつだが、アサシンがオルガに慣れてきたようで嬉しい。
そのまま雑談を続けていると、ロマンから指示が入る。
どうやら立香たちが現地人であるフランス兵を発見したらしい。光の輪については、カルデアで解析を進めるとのことだ。
その間にオルガが、アサシンと俺に今の状況について説明を始める。
マシュがフランス兵たちに英語で話しかけに行ったのだが、大丈夫だろうか?
『フランス兵……結は特に調べてもなかっただろうから、知識を補填するわよ?この時代ではフランスとイングランドの戦争、百年戦争が起こっていたわ……1431年、今は戦争の休止期間になっている筈だから……すぐに敵対されることはない筈ーーーー』
「敵襲ー!敵襲ー!」
彼女の言葉を遮るようにして、フランス兵の叫び声が聞こえてきた。
「オルガ……フラグ立てるなよ」
「……見事な速度の回収ですね」
『……反論できないのが悲しい』
アサシンとため息を吐きながら、立香たちの方へ向かう。
どうやら立香とマシュを囲む兵達は、俺たちに気付いていないらしい。
「……アサシン、峰打ちな?」
「私の武器は弓なんですけど……」
「接近戦の時に、弓で相手殴ってるの知ってるからな」
「……はぁ。めんどくさいですねぇ」
その背後から接近して、手刀に弓、そして金剛杵によってフランス兵を気絶させていく。
クラス・アサシンの癖に……と言ったら怒るのだろうがアサシンは気配遮断のスキルを持っていないため、奇襲は得意な方ではないのだが問題なさそうだった。
背後からの接敵に気がついた彼らを、オルガが適切な威力の魔力弾で迎撃していく。
マシュが『ファイアー!』と叫びながら突貫しているのだが、大丈夫だよね?ね?
その盾から炎出てくるとか、ちょっとロマンあって惹かれるけど、同時に死人出るからやめてね。
しばらくして、フランス兵全員の無力化を達成する頃には、アサシンが弓での峰打ちのプロになっていた……大事に使って頂きたい。
取り敢えず満足げにしている彼女の頭に、ポンポンと手を乗せてから辺りの様子を見てみる。
「……こんなものか、段々と体は動くようになってきたな。俺は魔術を使えないから……オルガ、遠視系の魔術でフランス兵の砦とか探せる?」
『星が出ている時の方が、精度は高いけど……やれないことはないわ。ちょっと待ってて』
フランス兵の鎧などから、遠方から移動しているような兵隊達ではないことを予想していたので、そう頼む。
『……有った。ここから少し西に向かった場所に砦……にしてはボロボロだけど、大型の建造物を発見、立香たちを呼んで向かいましょう!』
「流石、頼りになる」
『結も魔術刻印が馴染んだ後は、特訓するわよ?星を降らせましょう!』
「ちょっと待って、何の話!?」
「星落とし……なんて大規模術式を、マスターが?……ふふっ、面白い冗談ですね」
とんでもない単語が聞こえた気がしたが、聞き間違いだと思い込んで立香たちの元へ向かう。
アサシンさん?その顔やめなさい。
魔術師とは言えないような戦い方してる自覚はあるから。
「助かりました、結さんに所長!それと……アサシンさんも、ありがとうございます」
マシュが笑顔で俺たちに礼を言ってくる。
気にすんな、と笑顔で応じるも隣のアサシンは素直じゃないようで
「…………マスターの指示です。他意はありません」
可愛げなくスタスタと歩いて行ってしまう。
……パールヴァティーはともかく、他の子とは仲良くしてほしいんだけどなぁ。
「……あっ…………先輩、アサシンさんが行ってしまいました……気難しい方なんでしょうか?」
少し悲しそうな表情を浮かべたマシュが、その様子を見ていた立香にそう聞くが、そういう問題ではないことに、彼女は気付いているのだろう。
「……アレ、人見知りなだけじゃないのかなぁ」
「いえ、きっと過去に何かあったんですよ!小説とかでよく読んだことがあります……人間不信とか、なのでしょうか?」
立香、それが真理です。
マシュはいい子なんだけど、ちょっと天然ズレしてるんだよなぁ。
「おーい、アサシン!迷子になるから離れないでよ?……俺が」
「ああ、もう!本当に、空気壊すのが好きですね!?」
『呼ばれて帰ってくる辺り、良い子よね』
「マジそれ」
「何か言いましたか!この、お邪魔虫!」
ゆるゆるとした雰囲気の中、砦へと向かう。
働く時は全力で働き、それ以外では気を抜いていく……俺たちの中には、そんな良い雰囲気が既に生まれつつあった。
◇◆◇
「『ロマン……その手の饅頭は何?』だってさ」
『うぐ、流石、所長……目ざいとなぁ』
流石のオルガも、時空を超えた通信機越しに念話を行うことはできないようで(当たり前)オルガの言葉は、基本俺が伝えることになる。
さっきから
じーっと彼女の顔だけを見ていると、自分から要望した姫さま抱っこだったのに、早く下ろしてと駄々をこねられた。
顔真っ赤にしている彼女の姿は、何度見ても飽きない。
「オルガ、ストップ。頭痛くなってくる」
が、その癒し効果も頭の中で説教をし続けているアホ娘がいるのでは半減である。
ロマンに全力で説教をするのは、余裕のない彼女の八つ当たりではなく、純粋に気に入らないかららしい。
『いやぁ、結くんがいて助かったよ!もしゃ、もしゃ……帰ってきたら……もぐもぐ……今度こそ、男子会に誘ってあげるからね!』
「ドクター、それは私が作戦後の先輩や結さんの為に用意したもの何ですけど……」
「……へぇー、甘い物を食べながら高みの見物……良いご身分ですね?」
二箇所から放たれる殺気。
「お前が生きてたら考えてやるよ……」
「ま、マシュ?程々にね?」
マスター陣がサーヴァントの行動を止める気がなかったため、ロマンに救いはなかった。
そんなこんなで、オルガが見つけてくれた砦へと辿り着く。
しかし……そこは既にボロボロで、とても戦争休止中の様子とは思えない程、多くの怪我人が警備に回っていた。
「……っ、オルガ!軽く」
「マシュは拘束!話聞きたいから、峰打ちはなしで!」
「て、敵しーーーむぐ」
こちらを見つけたフランス兵が叫び声を上げようとしたので、加減のできるオルガに指示を出した。
むっとした顔でアサシンがこちらを見るが、適材適所というやつだ。
……最近こういうの多いから、今度甘やかしてやるか。
周りが聞いたら、今は甘やかしてるつもりないんだ!?と総ツッコミされるような考えを浮かべていた結だったのだが、幸運なことにその考えを知るものはいなかった。
冷静になったフランス兵に、敵ではないことを伝える。
そして、話を聞いた。
休戦条約はどうなったのだ?
シャルル7世は既に死んだ。
……誰の手によって?
蘇った"竜の魔女"ジャンヌ・ダルクの手によって。
その話を聞き流しながら、アサシンがジャンヌ・ダルクという女性についてオルガから説明を受けている。
そして、呟くのだった。
「聖女ジャンヌ・ダルク……パールヴァティー並みに、馬が合わない気がします」
その言葉を、アサシンをよく知る俺は全く否定出来なかった。