ワイバーンどもを追い払った後、ジャンヌ・ダルクがフランス兵達に罵倒され始める。
助けてくれた相手に、その仕打ちはないだろ……なんて思いながらも事情が事情であるため、仕方ないと割り切ることにする。
「お前が、噂の竜の魔女……ってわけじゃなさそうだな」
「……っ、はい。私は
彼女はフランス兵達から罵倒を受け、少し悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに切り替え、こちらに目を合わせて事情を説明してきた。
『……英霊を違う側面から見た際に、同名のサーヴァントが同時召喚されることはごく稀にあるらしいけど……聖女ジャンヌ・ダルクに、暗黒面があるなんて話は聞いたことないわね』
「……今の声は?」
「んー、便利屋さん?……あ、待って脳内で叫ばないで!?ごめん、普通に友達ですって!」
「はぁ……?」
便利屋扱いされたことに、不満を持ったオルガへ謝っていると、ジャンヌから訝しむような視線を向けられる……説明めんどいなぁ。
後で説明するよ、と伝えると、彼女はパチパチと瞬きをした後、気を取り直したように言った。
「……一先ず、この場所を離れましょう。私がいては……きっと、彼らも落ち着けないでしょうから」
そう言ったジャンヌが視線を向けた先には、怒声を浴びせてくるフランス兵たちの姿……その姿すら、慈しむような表情を浮かべる彼女の様子を見て、アサシンが舌打ちをしていたが、気付かなかったことにしておこう。
「……マスター、しばらく霊体化してます」
「ん……膝枕は今度な」
「何があっても忘れないので大丈夫です」
アサシンがスッと消えていった後、立香とマシュがこちらへ向かってきた。
どうやら、対ワイバーン戦終了の報告をロマンにしていたようだった。
「それじゃ、移動するか……オルガ、霊脈の位置掴める?」
『本当に便利屋と勘違いしてない?……できるけど』
「流石、オルガ様。頼りになる」
『煽てても何も出てこないわよ?』
一家に一台欲しいレベルで万能なオルガさんに、指示されるがまま移動を開始する。
念話、索敵、魔力探知と、オルガが行う全ての魔術は、左腕の魔術刻印を通して使用されている……移植された魔術回路がジワジワと自分の中へと入り込んでくるような感覚を抱きながら呟くのだった。
「……少し早くなりそう、かな?」
『何か言ったかい、結くん?』
「……なんでもない。ロマン、お前左手に饅頭持つな。マジでいい加減にしろ」
『冷たいなぁ』
ロマンに話しかけられたが無視だ、無視。
早くアサシンの機嫌直してやらないとな……
◇◆◇
日も落ちて、夜の帳が下りた頃。
森林の中、一箇所だけ温かな光が灯る場所が存在した。
「召喚サークル展開しました。ドクター、不備がないかチェックをお願いします」
案内された霊脈ポイントにて、マシュが自身の持つ大楯を触媒として、召喚サークルを展開する。
どうやら大きな問題はなかったようで通信が安定し、ロマンの持つ饅頭も先程よりも綺麗に見ることができるようになっていた。
……お前、何個目だよ。
『わかった。ありがとう、マシュ。少し休んでいてくれ……少ししたら補給物資をそっちに送るよ』
「了解です」
「お疲れ、マシュ!」
恐らく気分だろうが……一仕事終え、汗を拭うような仕草を見せたマシュに、立香が駆け寄っていく。
俺はそんな彼女らの様子をジャンヌと共に、焚き火を囲みながら眺めていた。
「……あなたは、彼女たちと同じ立場なのですよね?」
「……そうだな。それが?」
「いえ、大したことではないのですが……見守っているような、温かい目をしていたので」
ジャンヌが不思議そうな顔でそう言う。
その言葉を俺は否定できなかった。
心のどこかしらで、彼女らを見守ることを自分の役割として認識していたのかもしれない。
「……間違ってない。自分で言うのも、本当にアレなんだが……俺は十分がんばったからな!アイツらが強くなるまで、見守るぐらいでいいかな?と」
ジャンヌは既に、俺たちが人理焼却を防ぐための旅をしていることを知っている。
一瞬、俺の言葉を咎めるような表情をしたのだが……笑いながらも、俺が冗談抜きで話をしているのが伝わったのだろう。
少し微笑んでから、そうですか、と呟いた。
『私は……最後までやり切るつもりよ?』
「……最後まで働くから安心しろって」
オルガが脳内で抗議してきたので、苦笑いしながら言い返しておく。
少し間が空いてから、ジャンヌがそういえば……というふうに、質問をしてきた。
「あなたのサーヴァント……アサシンは、今どこに?」
そこに触れて欲しくなかった。
裁定者権限が殆ど失われている、というジャンヌは真名看破やサーヴァントの探知……令呪の使用権限など、多くの能力を使うことができない。
そのため、こんな質問をしてきたのだろうが……
真っ直ぐとこちらを見てくる彼女から、目を逸らして答えた。
「…………多分、そこら辺にいるぞ?呼べばくるけど……話したい?」
俺の様子を見て、訳ありですか……と彼女が納得しかけた時だった。
「私に何か用ですか?」
「なんで来ちゃったの?」
アサシンが俺のすぐ隣に、姿を現した。
「なんでって、なんか言い方酷くないですか?」
「いや、お前機嫌悪かったんじゃないの?」
ぷく〜っと効果音がつきそうな程に、頬を膨らませたアサシンが拗ねたように言ってくる。
俺がジト目で言い返すと、彼女は胸を張って返事をしてきた。
「……少し人間性を観察していただけです!」
「ただのコミュ障かよ」
「……あははは」
思ったよりも元気そうなアサシンにそうツッコミを入れると、ジャンヌが苦笑いを浮かべていた。
「本人の前で言うのもなんだが……お前、ジャンヌみたいな聖人タイプ大っ嫌いじゃなかったか?」
「本当に遠慮なしですね!?」
『清々しいほど配慮ゼロね』
俺の言葉に、ジャンヌが驚くような声を上げ、オルガが諦めたような声音でツッコミを入れる。
オルガさん……諦めの判決には、まだ早いと思います。
「まあ、そうですね。わかっていてくれて嬉しいです」
『こっちも平常運転すぎる……』
俺の言葉をサラッと肯定したアサシンは、オルガの言葉など意にも介さず話を続ける。
「以前の私なら……多分、視界にも入れたくないようなタイプなんでしょうけど……少し、大人になりましたから」
「どこがだ、どこが」
「マスター、静かに」
「はい」
サーヴァントに黙らされるマスター。
うん、いつも通りだな。
「愛とかなんだとか、聖人とかなんだとか……
「成長したなぁ、お前。その配慮を、パールヴァティーにも向けてやれよ」
「死んでも無理です」
「だよね、知ってた」
「た、楽しそうですね……?」
俺たちの会話する様子を見ていたジャンヌが、首を傾げながらそう言ってきた。ごめんね?会話置いてっちゃって……
それはそうと、パールヴァティーには申し訳ないが、アサシンにしてはかなりの進歩だな。
人間不信+捻くれ者だった彼女が、友人との普段付き合いの方法を考えるまでに成長しているのだ……今日はお赤飯でも食べるべきかもしれない。
「ですが、あなたの英霊としての在り方……私の大っ嫌いなタイプのドストライクですので、そこに関する議論は一切無しってことで」
「ここまで真っ直ぐ嫌いと言われたことは、初めてですね……」
やっぱり、もうちょっと本音を隠す生き方を学んで頂きたい。
◇◆◇
送られてきた補給物資を簡単に物色していると、少し遠くから会話の声が聞こえてきた。
声から察するに立香とジャンヌ、そしてアサシンの三人……早速、アサシンは偏見ゼロで人に話しかけてみることにしたらしい。
……立香のコミュ力は高いので、適度にサポートしてくれるだろう。
どちらかといえば、こちら。
「「………………」」
俺とマシュの二人だけしかいない、こちらの方が気まずくて困る。
……オルガはさっきから、
というか、マシュがチラチラとこちらへ視線を送ってくるのが気になる。
なんだろう、特に悪いことはしてないはずなんだけど?
そんな俺たちの元へ……
「フォウ!」
「うわっ、ビックリした!?」
「フォウさん?どうかしましたか?」
描写忘れすぎじゃない?とのツッコミが入るレベルで存在感がゼロだった、フォウさんがやってきていた。
え、何?お前、居たの?
戦闘中はマシュの大楯に収納or立香の肩に乗るなどしていたらしく、俺たちが気付かなかったことも仕方ないらしい。
そんなトラブルのお陰が、少しずつ会話を続けられるようになった。
殆ど、マシュが知識としては知っているが、見たことはない……という風景や物などについて質問をする。
俺はそれについての説明、そして感想などを話す、なんてことをしていただけだったけど、彼女が楽しそうだったので良かったとしておく。
話を続けながら折角なので、物資を整理……そして食事用のレーションなどを適当に見繕い、立香たちの元へ向かう。
「いつか……向こうでも、青空を見られるといいな」
風景の話をしていたため、そう言って話を切り上げた。
そんな、俺に対して彼女は言うのだった。
「はい!その時は、先輩もドクターもアサシンさんも!ダ・ヴィンチちゃんに所長……勿論、結さんも一緒に、ですね!」
「……ん、そうだな」
その笑顔がとても眩しくみえたから……俺は小さく拳を握りしめた。
◇◆◇
「意外とイケるもんだな、最近のレーションって」
「ずっとコレだけじゃ、飽きそうだけどね〜」
立香と共にレーションを食す。
……軍に入隊した訳でもないのに、レーションを食べる機会があるとは思わなかった。
よくありがちな、様々な国の代表食をレーション化に押し込んだものである。
「……アサシンも食べる?」
俺が差し出したクラッカーのようなものを、アサシンは引き気味に見た。
どう見ても魅力的な食事にはみえなかったのだろう……それでも何かに気づいたようで、突然顔色を変え、ムシャッと一口食べていった。
「……そんなに欲しかった?お腹減ってる?」
「そういう意味じゃないですけど……」
顔を赤色に染めたアサシンがなにを考えていたのか気付くまでに、三分ほどかかった。
「満足、満足……ちゃちゃっと方針固めて、今日は眠るか?」
「はい……お二人は、サーヴァントではないので、睡眠は不可欠でしょうから……早めに明日の行動は決めておきましょう」
俺に賛同したジャンヌの言葉に、各々その場で姿勢を正す。
明日の方針を相談しようとした、そんな時だった。
『おっと、すまない……周囲に魔力反応有り』
そうロマンは前置きをいれてから、その言葉を放つ。
『話の途中だが、ワイバーンだ!』
この作品のカーマさんは、愛に関する考えをそこまで拗らせていませんので……ちょっと周囲に優しめだと思います。
大奥カーマとは考えられないチョロインっぷりですから……