カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

22 / 60
15話 ラ・シャリテ攻防戦 終

 

 

 

 ランサー……いや、折角真名が予想できたのだ。ヴラド3世……嫌がらせに吸血公と呼んでやろう。

 

 その吸血公の猛攻を致命傷だけに気を使い、その槍を受け流し続ける。

 その凄まじい槍の速度に、完全に目が慣れるまでは、迂闊にこちらから攻勢に出ることはできない。

 

「……ふっ、人の身でよくやるものだな!」

「お褒めに、預かり……光栄だよ!」

 

 吸血公は一度動きを止めた。

 こちらを見て、血が滾る……なんて呟いているが、さして血色の悪さは変わっていない気がする。

 

「では、そろそろ……血を頂くとしようか」

「…………ふぅ……っ!」

 

 その物騒な宣言に対して、警戒を強めた。

 技の初動を見逃さないよう、深く息を吐き集中を高める。

 

 次の瞬間、吸血公が繰り出してきたのは、彼が出せる最高の速度であろう神速の突き。

 

 シンプル故に生み出される爆発的な急加速は、慣らした筈の目でも残像が見えそうなレベルである。

 バックステップでは、回避しきれない。

 ……といっても、左右への回避は間に合わない。

 

 一瞬で、無傷でいられる可能性がゼロだと判断して、被害を最小限に抑えるための行動を選択する。

 

 今までは警棒で槍の軌道を変え、防御を行なっていたが、次にやろうとしていることはその逆。

 軌道を見切り、ダメージを一点へと集中させる。

 

 内心オルガに謝りながら、警棒を手放した。

 槍の切っ先を素手で迎えにいき、右腕が貫かれたのを確認すると同時に体を捻る。

 槍と吸血公の腕を巻き込むようにして抱え込み、その動きを固定させる。

 

 貫かれた右腕に激痛が走るが、今回は腕の一本で被害が収まった……そう考えるべきだろう。

 

「…………アマデウス!」

 

 武器を固定されて一瞬、驚愕の表情を浮かべた吸血公の顔面に魔力弾が放たれる。

 

「そんなに大きな声で呼ばなくとも、きちんと聞こえているさ」

「…………ぐっ」

 

 身動きできない相手に、容赦なく彼は連続で魔力弾による攻撃を行い続けた。

 一撃一撃は軽いのだろうが、そう何発も無防備な顔面へと攻撃を打ち込まれれば、吸血公もそれなりに疲弊する。

 

『結くん!?君って奴は……本当に!』

 

 なにやら外野の声が煩いが、吸血公の動きを止めること以外に意識を向ける余裕などない。

 このまま仕留められたら楽なんだけどなぁ……なんて思っていたら、吸血公が俺を突き飛ばすようにして距離を取った。

 ……俺の腕に、その槍を突き刺したまま。

 

「……余の一撃を、腕一本で抑えるとは……やはり、面白い」

 

 パッとアマデウスの攻撃で崩れた白髪を整えながら、こちらを見る吸血公の目には、まだまだ余裕が残っている。

 

「こりゃ勝てる気がしないわ……お前には」

 

 しかし、俺の目はその光景を捉えていた。

 アサシンが黒聖女を追い詰めた、その姿を。

 

「別に、勝つ必要もないけどね?」

 

 ニヤッと笑ってそういうと、吸血公は漸く主人の危機に気がついたらしい。

 

「っ、そういうことか!だが……余が加勢すればーーー」

 

 黒聖女の元へと向かおうとした吸血公を止めるつもりなどない。

 なぜなら……

 

「槍を置いて行ったまま、うちの女神様相手に時間稼ぎをできるとは思えないけど?」

「……っ、やってくれたな、貴様」

 

 彼の主武器は、現在俺が手にしているからだ。

 

「さて……これで、詰みだ」

 

 アサシンの宝具解放の光を見て、そう宣言する。

 主人を討てば、コイツらも終わりだろう。

 いやぁ、特異点修復も意外と短時間で終わりそうで、何より。

 帰って暫くは、貫かれた右腕の療養に努めよう……

 

 

◇◆◇

 

 

 なんて、呑気に考えていた時期も有りましたよ、全く。

 

「ごめんなさい、ほんと調子乗ってすいませんでした、この野郎!…………って、ふざけんなゴラ!邪竜従える聖女がどこにいる、クソったれ!」

 

「あんまり泣き言を言わないで下さいよ!段々、私までやる気が無くなってくるじゃないですか!」

 

『二人ともいいから、さっさと逃げるわよ!アレは……現状で私たちがどうにかできる相手じゃない!』

 

 ラ・シャリテの街中を駆け抜けながら、大声でそんなことを言い合っていると、硝子製の馬に乗って、俺たちに並走している王妃様がニコニコと話しかけてくる。

 聞けば、彼女のクラスはライダーだったらしい。

 

「あら、お三人方はとっても仲良しみたいね!」

 

「マリー……僕もその馬に乗せてくれないかい?全力疾走なんて、生前でも滅多にしなかったのに!」

 

「ごめんなさい、アマデウス。残念だけど、この馬は一人乗りなのよ……それに、貴方は偶に運動もした方がいいと思うわ」

 

 ぜぇ、ぜぇと息を切らしながら全力疾走するキャスタークラスの音楽家に……

 

「ま、マシュ?わ、私だけこの運ばれ方は、ちょっと恥ずかしいかな〜、なんて」

 

「申し訳ないです。しかし、先輩の身体能力では、一人置いていかれて後続の飛竜にムシャムシャと食べられてしまうかと!」

 

『マシュ、なんてこと言うんだい!?……立香ちゃん、並走している結くんがおかしいだけだ!君はそのままマシュに抱えられてていいんだよ……』

 

「緊張感が、ないですね……」

 

 赤面しながら、どこか嬉しそうなマシュにお姫様抱っこをされている立香。

 更にその隣には、苦笑いを浮かべているジャンヌがいた。

 

 全員が仲良く一列に大通りを走っていく……その背後には

 

 

「……消し飛ばしなさい。ファヴニール!」

 

 

 邪竜ファヴニール……数多く存在する竜種の中でも、トップクラスの知名度を誇る巨大な黒竜の姿が存在するのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

『来なさい……ファヴニール』

 

 

 

 あの瞬間、アサシンは表情を変えて宝具解放を止めた。

 目に見えない何かを避けるかのように、その場から後方へと宙返りして、吸血公と向かい合っていた俺の元へ来て、言ってきた。

 

 

『マスター、ちょっと厄介なのが来るので、撤退しましょう』

 

『え、何……インド関係の英霊でも居た?』

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 あれから俺は、吸血公へ槍をぶん投げた後、アサシンに手を引かれるがままの状態で、全員に撤退の指示を送った。

 勿論、落とした警棒は回収済みだ。

 

 アサシン優勢に見えた状況での撤退という指示に、怪訝そうな表情を浮かべた者も何人かいたが、こちらの真剣な表情を見ると何も聞かずに頷いてくれた。

 

 詳しい理由も知らされず、全力で逃げ出した俺達の後ろに、空から邪竜ファヴニールが現れたという訳だ。

 

 竜の魔女はその黒竜の背に乗って、俺たちを追撃するように指示を出している。

 アサシンが撤退を推奨する相手に、正面からはぶつかりたくはないのだが……空を飛ぶその黒竜と俺達の距離は段々と詰まってきていた。

 

 

 逃げ始めてから数十秒……ファヴニールは移動を止めてブレスを放つ体勢へと移行する。

 痺れを切らした黒聖女が、街ごと消し飛ばす指示を送ったのだろう。

 

「間に合わないか……」

『マシュ、食い止めなさい!』

 

 呟きを聞き、オルガは俺が指示を送る前に、マシュへとファヴニールの攻撃を一度耐久することを伝えた。

 しかし……その指示を受ける前に、彼女らは体を反転させてファヴニールへ立ち向かう姿勢を見せている。

 

「本当に……心地いいほどの(純粋)さですね」

 

 立香達の行動を見たアサシンが、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた。

 なんだかんだ言って、彼女は面倒見が良く、優しい子なのだ……多分。

 

『ファヴニールの生体反応解析が完了した……っ!?なんだ、これは……魔力反応増大、規模は冬木のセイバーが放った宝具に匹敵するぞ!?』

 

「『怖がらせるようなことは、言わなくていいわよ!』……ってオルガがキレてるぞ、ロマン」

 

『それは今、わざわざ通訳してまで伝えることかい!?』

 

 ロマンの言葉にマシュと立香が不安げな表情を浮かべたのを見て、オルガが怒る。

 いつも通りな俺たちの様子を見て、少しは立香達も落ち着いたようだ。

 

 

 ファヴニールの魔力反応の上昇は止まる気配が見られない。

 街一つ消し飛ばす威力の攻撃だ……信用していないわけではないが、未完成なマシュの宝具だけだと少し不安が残る。

 

「私も手を貸しましょう。宝具解放が可能な程度には、魔力も残っていますので」

 

 そんなことを考えた時に、堂々たる態度でジャンヌがマシュの隣に立った。

 

「私も手伝った方が良いのかしら?」

「いや、マリー……それは流石に程が過ぎると思うよ。ただでさえ、僕らは魔力回復に難ありな状況なんだから」

 

 何やら、後ろで少し気になる会話が行われていたが、今は目の前の黒竜である。

 

「主の御業をここに……」

「真名、偽装登録……行けます!」

 

 それぞれ大旗と大楯を掲げ、激突の瞬間を待つ。

 ファヴニールもタメの時間は終了のようで、凄まじい音量の咆哮と同時にその莫大なエネルギーを解放した。

 

 極光が放たれる。

 

 地面を刳り、大気を震わせ迫ってきた破壊の衝撃に、彼女らは真っ向勝負を挑む。

 

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

 

 

 光り輝く二重の障壁が、黒龍の一撃と衝突する。

 轟音、そしてのしかかる重圧に二人の表情が歪む。

 

「……そのような守りで、このファヴニールの一撃を凌げると思うな!」

 

 竜の魔女が黒剣を振り下ろす。

 すると、何かしらの強化が行われたのか、衝撃の強さがまた一段上昇した。

 

「……っ、マスター!」

 

 想定外の出力に、アサシンが何とかしてください、という意を込めた視線を向けてきた。

 しかし、残念ながらここで踏ん張るのは俺の役目ではない。

 

「立香!」

「……っ、わかってる!」

 

 障壁にヒビが入り始める。

 大楯を掲げるマシュの腕が、段々と下がり始めた……その時に

 

「令呪を持って命ずる。マシュ、邪竜ファヴニールが放つその一撃を……押し返せ!」

 

 立香の右手から赤き閃光が迸り……視界が光に包まれた。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「…………気に入らないですね。どうして貴方達は、そうも醜く足掻くのでしょうか」

 

 上空の黒聖女様が、不機嫌な様子でそう述べる。

 

 限界まで力を振り絞ったマシュは、片膝をついていて、ジャンヌも肩で呼吸をしているが……それでも彼女らは、無傷で邪竜の一撃を凌ぎきっていた。

 

 

『立香ちゃん、結くん、撤退を!ファヴニールは、恐らくしばらくは動けない!』

 

「でも、こんな状態で……」

 

 ロマンの言う通りだ。

 アレだけの一撃を放ったファヴニールは、暫く動けない。

 撤退できるのは今しかない。

 

 しかし、ジャンヌはともかく、マシュの体力は底を尽きかけている。とてもではないが、敵方のサーヴァントから逃げ延びることなど出来ない。

 

 ……普通なら、だが。

 

 

「アマデウス、貴方の唯一の特技を生かす時が来たわ。機械みたいに、ウィーンってやっちゃいなさい!」

 

「残念だが、その言葉は否定できなさそうだ!……仕方ない、宝具解放といこうか」

 

 王妃の命を受け、音楽家が指揮棒を振る。

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

 それは魔曲、彼自身が死の直前に死神から葬送曲を作曲するよう依頼された、という逸話から生まれた宝具。

 曲を聞いた敵のステータスを問答無用で低下させ、行動に制限をかけさせるというものだ。

 

 事実、その効果を受けた敵方のサーヴァントは、その場に留まってこちらを追う様子は見せていない。

 

「り……藤丸立香、こちらに来てください。撤退するので、マシュ・キリエライトの代わりに抱えます」

「フルネーム!?……じゃなかった、あ、ありがとう」

 

 立香をアサシンが横抱きに抱えた。

 暗に彼女は俺に対して「気合入れて走れ」と言っているらしい……どうやら、マスターより、レディファーストの精神を大切にしたようだ。

 

「あらら、オルガは名前呼びできたのに」

『名前呼べただけで、上出来でしょう』

 

 マシュは立香を抱えなければ、多少ペースは落ちても自力で走れるらしいため、これで漸く撤退できる。

 オルガと緊張感なしの会話をしながら、全員の無事を確認した。

 そして、走り始める。

 

『……ナビは僕が行う。最寄りの霊脈まで案内するから、迷わないようにね』

「ですって、マスター?……オルガ、しっかり見張っていてくださいね」

『了解よ』

 

 失礼なことを話しているアサシンに、ジト目を向けると、その腕に抱えられている立香に笑われてしまった。

 

「…………取り敢えず、助かったか」

 

 後ろを見てから、そう呟く。

 竜の魔女が俺たちを追いかけてくる様子は見られない。

 

 三十分ほど走り続けて、森の中へ。

(十分ぐらい全速力で走ってバテたので、ジャンヌに姫様抱っこされてます)

 少し赤くなっているジャンヌを揶揄っていた俺の様子を、ニコニコと笑顔で見ているアサシンの目が笑ってなくて怖い。

 あとでキャラメルあげるから、許して下さい。

 

 

 霊脈に辿り着いてから、今日の野宿の拠点とするためにオルガが簡単な結界を張った。

 その作業に、文字通り体を貸した後に、漸く一息つくことができた。

 

 

「あ゛あ゛ぁぁ……疲れたぁぁ。……右腕、痛ぇ」

 

 木の幹を背に、胡座をかいて脱力する。

 漏れた言葉に1ミリたりとも偽りはない。

 

 王妃様の宝具とオルガに軽く処置はしてもらったので、穴は綺麗に塞がっていているのだが、痛覚は別だ。

 「傷跡が残るよりは、痛みが残った方がいいでしょ?」なんて当然のことのように彼女らは言ってきたのだが、女性はそう感じるのが普通なのだろうか?

 

 何はともあれ、今は睡眠だ。

 

 泥のように眠る。

 途中、アサシンが胡座の上に乗っかってきたが愛でる余裕もないので、軽く抱きしめたまま眠り続ける。

 

 そしてーーー"身に覚えのない"夢を見た。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 空に瞬く星々の姿。

 

 どこか懐かしい香りの本棚に、読み込んだのであろう何冊もの本。

 

 

 少女は空を見つめ、手を伸ばす。

 

 何を掴むこともなく、伸ばされた手からは力が抜けていく。

 

 

 そのとき、たった一筋の流星が視界に入った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 目が覚めた。

 辺りは夜の帳に包まれており、騒がしい様子からは夜襲をかけられているのだと予測できる。

 懐に残った熱を感じながら、体を起こして騒ぎの元へと向かう。

 

 

 ふと、思った。

 

 

 あの銀髪の少女は、星に何を願ったのだろうか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。