後半 説明回
後半に関しては、型月設定に反してそうで怖いのですが……
(あまりの情報量で、把握しきれていないため)
お手柔らかに見て頂けると、幸いです。
「一応揺らさないよう気を付けたのですけど……起こしてしまいましたか、マスター?」
「……いや、アサシンのせいじゃない。オルガはまだ
騒ぎの元へと歩いていくと、そこには相手側のライダー、戦闘を行う立香達の姿とそれを傍観しているアサシンの姿があった。
少女姿のアサシンの隣に立ち、彼女と同じように戦闘の様子を見守ることにする。
『手助けは……しないつもりかい?』
「……悪いか?」
『いや、結くんがそう判断したのなら構わないけど……君って本当に成人してないんだよね?』
成長の機会を摘みとるつもりなど全くないので、話しかけてきたロマンにそう言い返す。
俺の意図を理解した彼は、こちらを訝しむような目で見た。
なんだ、コラ?
俺が老けてるとでも言いたいのか?
「マスター、相手が宝具を撃つようです……一応、援護の準備をしますね?」
モニター越しにガンを飛ばしていたが、アサシンの警告を聞いて、二歩ほど後ろに下がる。
「頼んだ……そういえばロマン、相手のライダーの真名の目処はついたのか?」
気を取り直してロマンに尋ねた。
彼は少しだけ自慢げに笑うと、その名を告げた。
『真名はマルタ……悪竜タラスクと対峙し、祈り一つで従えたとされる正真正銘の聖女だ。その後、タラスクは彼女の守護霊のようなものとして存在していたらしいから、恐らく宝具は……』
彼の解説を聞き終わる前に、それは姿を現した。
マルタが十字架を振り、声を張り上げる。
「……さあ、タラスク。太陽に等しく滾る熱を操り、今、ここに。滅びに抗わんとする気高き者に、試練の一撃を与えましょう……!」
宝具展開、詠唱開始と同時に召喚魔法陣を形成し、その悪竜を現界させる。
巨大な頭部には四本の角、鋭いトゲを生やした亀の甲羅に蠍のような長い尾……数々の勇者を屠った異形の竜種がそこにいた。
「……試練、か」
その言葉を聞いて、マルタが夜襲を仕掛けてきた理由が理解できた。
一瞬だけ、タラスクを召喚したマルタと目が合う。
そして、彼女は警棒に手をかけていた俺に対して首を横に振った。
立香達を試そうとしているのだ。
凶化の術に抗い、来訪した俺たちがこの特異点を修復できるかを見極めるために。
警棒から手を離してから、俺に向けられていたもう一つの視線に気付いた。
そこには俺とマルタのやり取りを見ていたアサシンが、頬を膨らませている。
「さてと……アサシンさん?」
「……なんですか」
不機嫌そうに答える彼女の様子が、いつもながらにたまらなく可愛らしかったので、躊躇うことなく言ったのだった。
「散歩でもしよっか?」
『え、ちょっ、結くん!?』
今、俺がここに居てもやることはない。
変に水を差すよりは、うちの女神様のご機嫌取りをした方がよっぽど有意義である。
ロマンの慌てた声を聞きながら、アサシンは表情を緩ませて……
「しょうがないから、付き合ってあげますよ……♪」
言葉とは裏腹に「早くして下さい」と言わんばかりに、手を引きながら、そう言った。
◇◆◇
この時代には、電灯やランプといった灯は存在しない。
現代と比べれば、空気も汚染されておらず、空気は澄み渡っている。
だから……なのだろうか?
宙を見上げれば、無限にも思える星々の姿。
そこには、現実から逸脱した幻想的な光景が存在していた。
天体魔術の名門であるオルガには悪いが、星の名前なんて殆ど知らない。
態々、観測なんてしたこともないし、調べようと思ったこともない。
星なんて遠すぎる存在がどうあろうと、俺には関係のないものにしか思えなかったからだ。
しかし……なんというべきか。
この光景は、中々に悪くない。
暫く、俺とアサシンの間に会話は生まれなかった。
生前はどうだか知らないが、神霊であるアサシンから見てもこの星空は合格点を満たしていたらしい。
ただただ阿呆のように、顔を空へ向ける。
無数の輝きを記憶の中に焼き付けるように、絶対に忘れたくないものとして保存する。
「……マスター、いつまで星を見ているんですか?」
お前もさっきまで、同じように見てただろ。
久しぶりに聞いた気がするアサシンの声に、そう言い返そうとした。
しかし、そんな普段通りの軽口なんて、発することができなかった。
繋いでいた手はいつのまにか解かれており、彼女は手を後ろに回して、腰あたりの高さで組んでいる。
少しあざとく、そして心からの笑みを恥ずかしそうに浮かべた彼女が、こちらに振り向いていた。
「…………別に、私はこんな景色よりももっと景観のいい場所を知ってますよ。それも、幾つもです」
ああ、コレはダメだ。
多分……今の彼女は、無意識に俺を落としにかかってきている。
微笑ましい浅知恵を駆使する普段の彼女と違い、この状態の彼女には一生勝てる気がしない。
だって
「……貴方と一緒に見る空だから、忘れたくないんです」
本心からの笑顔も台詞も、反則級だと思うのだ。
星空が綺麗に見えた一番の理由は、どうやらすぐ側にあったらしい。
◇◆◇
『……ん……二人とも、何、してるの?』
「……星を見ながら、アサシンを愛でてた」
「……星を見ながら、マスターに愛でられてました」
『あ、そう……要するにいつも通りね』
あれから二時間ほど、アサシンと二人で何をすることもなく周り続ける星空を眺め続けていた。
今は少し姿を成長させたアサシンが定位置へと座わり、俺が彼女の肩に頭を乗っけている状態である。
最もお互いが落ち着く姿勢のうちの一つだ。
オルガが目覚めたことにより、ほんの少しだけ会話量が増える。
アサシンがオルガの名前を呼び慣れる程度には雑談を続けた後、ふと思ったことを聞いてみる。
「なあ、オルガ……星は好きか?」
『……星、ね。私の扱う魔術は天体魔術……どちらかというと愛でるものというより、使うもの……と言った印象が大きいのは確かよ』
「……つまらない人ですねぇ」
『そこ、面白味の無い回答をした自覚はあるから黙ってなさい……でも……流れ星だけは、何故だかわからないけど、子供の頃から好きだった気がする』
その言葉を聞いて、納得した。
そして、覚悟を決める。
オルガとアサシンがワイワイ騒いでいるのを横目に、俺は魔術回路に魔力を通した。
『え、ちょっと、結?』
「何、バカなことをやってるんですか!?……って、え?」
元から存在したもの、オルガから魔術刻印同様に移植して貰ったもの、その両方に魔力を流していく。
当然、他人の魔術回路なんかにいきなり全力で魔力を流せばそれなりに反動は来るわけで……オルガとアサシンが焦った様子で声をかけてくるが、問題はなかった。
「やっぱり……適合が、完了してる。多分、さっき眠った時、オルガと一瞬だけ記憶の共有が行われたんだと思う。それで……移植済みだった刻印が馴染むための最後のピース……オルガマリー・アニムスフィア、という存在に関する情報が必要量手に入ったんだ」
『眠った、時……って、え、待って、待ちなさい……見たの?貴方、私の幼い頃の姿見たの?ねぇ!?』
「つまり……どういうことですか?」
オルガが何やら喧しいが、アサシンの為に気にせず状況を整理しようと思う。
……事の発端はあの日、炎上都市と化していた冬木での出来事まで遡る。
◇◆◇
「私の持つ全魔術刻印を、あなたに譲渡する。それが、私の願いです」
俺の目の前で、所長はそう言い放った。
真っ直ぐにこちらを見つめる金の双眸には、寸分の躊躇いも迷いも見られない。
彼女の覚悟は伝わった……ならば、俺はそれに応えるだけだ。
「わかった、所長の願いに協力する。普通なら、魔術刻印全部なんて、受け取りきれないだろうけど……そこは俺がなんとかする」
俺の言葉を聞いて、所長は笑顔を浮かべた後に首を傾げた。
"なんとか"できるものではないことを、魔術師として超一流であるはずの彼女は知っているのだろう。
「……まず、それなりの本数の魔術回路を頂くけど……本当にいい?」
「……ええ、もちろん……って、どうやって?」
所長の脳内に疑問符が積み重なっている様子が簡単に想像できるが、説明するより見てもらった方が楽でいい。
「……ふぅ、それじゃあ……【
魔術回路に魔力を回し、その
代償 寿命1年
内容 魔術回路増強に合わせた肉体改造。
「連続詠唱【代償強化】」
代償 寿命1年
内容 十秒間、触れた対象の同意の下、魔術回路の受け渡しを可能とする。
所長の手を取った。
許可は貰っているので、時間切れにならない内に魔術回路をさっさと頂くことにする。
「…………っ、ふぅ。これで、よし」
所長の持つ魔術回路の本数はメインは45本 そしてサブに60本。
俺は魔術師一代目にしては多い方と言われたことがあるのだが、それでも30本しか持っていない。
更に言えば、質も俺なんかとは格が違う代物である。
これからの冬木での戦いを考えると、所長にも戦闘力は残しておいた方がいい……そう判断し、所長に20本魔術回路を残し、それ以外の計85本を頂いた。
いきなり倍以上に増えた魔術回路の影響で、ズキズキと痛みが全身に走るが、まだ軽い方だ。
魔術回路は俺も所持していたもの……事前に肉体改造を行ったこともあり、拒絶反応も見られない。
ただ、ここからは別だ。
魔術刻印という、俺には存在すらしなかったものを移植する……ある意味では、新たな臓器を体内にぶち込むともいえるだろう。
しかし、所長の思いに応えるためならば、多少の痛みなど我慢しなければならない。
「それじゃ、最後……行きます【代償ーー」
そう思い、邪道魔術を行使しようとした直前に
「ちょっと待って、さっきからその魔術は何!?」
師から「封印指定物だろ、それ……」とまでぼやかれた俺の便利魔術に目をつけられた。
「……俺の魔術属性は炎、空。二属性持ちだけど、魔術の才能があった訳じゃない……ただ、起源だけは普通じゃなかった」
「……それは?」
「……後天的に変質した起源は"代償"と名付けられたもの。もっと詳しく説明すると、何かを得るためには、何かを失わなければいけない……みたいな方向性を持つ起源なんだと思う」
ここまで言うと、彼女の顔色が"まさか"とでも言いたそうな物へと変わった。
「ご察しの通り……逆に言えば、
自慢げに話す俺を見て、段々と所長がプルプル、ワナワナと体を震わせてくる。
「なんなら結界だろうと、隠蔽魔術だろうと、基本は魔力の大量消費で即座に使用できる……な?便利だろ?」
そして……彼女の不満が爆発した。
「何、その全魔術師を敵に回すような手抜き魔術は!?」
邪道も邪道、俺の魔術知識が乏しくても結界やら隠蔽やらを使えたのは、全てこの【代償強化】が原因なのである。
我ながら、本当に強化とは名ばかりの魔術だが、気にせず行こう。
実際はそこまで便利でもない……もっと多くの制限は有るし、そもそも俺の魔力量が乏しい。
だから……本当にどうしようもない時は、先程のように命を削って使用する。
ギャーギャーと喚き散らす所長を見てから、少し考えて……三度目の魔術を行使した。
◇◆◇
「…………と、こんな具合に肉体改造でオルガに魔術面での能力を寄せてから、刻印を受け取ったんだが……人体の限界は超えられないみたいでな。刻印に、限りなくオルガに似ている別人として認識されてから、住み着いたオルガと一緒に、ゆっくりとそれを体に慣らしてたってわけだ」
「道理で、日に日にマスターの体に異物が紛れ込んでいくと思ってましたよ……あんまり、無茶しすぎないでくださいね?」
オルガの魔術属性が空だったのは、かなりの幸運だった。自身の持つ炎属性だけを代償で削り取れば、オルガと俺の魔術属性のカテゴリを、空の一つで揃えることができたのだ。
幸運だった……というのも、適性のある魔術属性を増やすことや起源の改変は、代償強化では行うことができないことの内の一つであるからだ。
『それが、私の大事な大事な幼少期の記憶を盗み見たことで適合しちゃった、と?なんか嬉しいんだか、悲しいんだか複雑なんだけど』
「気にすんなって……にしても、これは嬉しい誤算だな。後、二週間程はかかると思ってたが……」
『そうね。本格的にアサシンの援護が可能になる上、結もかなり戦えるはず……戦力の大幅な向上は間違いないわよ』
「……まあ、マスターが頼りになるのは、私が一番知ってますから」
『別に張り合ってないわよ……無駄に可愛いわね、貴方』
「アサシンが可愛いのはいつものことだぞ?」
『はいはい、そうですね……それじゃ、一区切りついたところで戻りましょうか?どうせ、一人じゃ帰れないでしょう?』
オルガの声を聞くと、集中砲火を食らったアサシンが顔を赤らめたまま俺の右手を握って歩き始める。
その様子に苦笑しながら、俺も歩き始める。
そうして、二人で歩いていると……
一瞬、左手が温かく柔らかい何かに覆われた気がした。
急いでそちらへ視線を向けるも、そこには誰もいない。
感触もすぐに消えてしまったが……
左腕の刻印が僅かに光を放っているのを見て、俺は小さく笑みを浮かべた。